5-2-43(第430話) イブ、リーフ、クリムとの関係、クロミルとの関係
翌朝。
「・・・ふぅ」
とてもいい朝だ。すがすがしくて気持ちよくて、今なら全裸で町を散歩・・・は出来ないな。とにかく、とても気分がいいのだ。
「今なら何が出来るだろうか・・・」
見知らぬ人に会釈とか挨拶とか会話とか、色々だ。・・・俺って、未だに初対面の人と会釈とか挨拶とか会話出来ないんだな。すがすがしい気分が一瞬で冷めてしまった。おかしい。
(ん?)
自分に自己嫌悪し始めた時、不意に扉の方から音が聞こえる。この音、扉を叩いているな。
(あれ?ちょっと待てよ・・・?)
この状況、誰かに見られたらやばくないか?
俺は今、全裸なんだぞ?
クロミルも・・・あれ?クロミルはどうなんだ?
(いや、俺と違ってしっかり者のクロミルだ)
きっと、服を着て就寝しているに違いない!
そう、想っていたのだが・・・、
(なん、だと!?)
まさかの全裸だった。
つまり、昨晩の出来事は決して、俺の夢なんかではなく、現実に起きた事。
そして、
「クロミルちゃん、アヤトの様子はどうですか?」
「クロミルちゃんにお願いしたけど、心配だから結局今日も来ちゃったわ」
「…アヤトは無事?」
リーフ、クリム、イブの三人が入ってきてしまった。
(!!??)
俺は咄嗟に、さきほど出た毛布の中に入り、横になって目を閉じる。
「「「・・・」」」
三人の視線が俺の心臓を突きさしているような気がするが、気にしてはならない!
今はこの場を乗り切ることが最優先だ!
(どうかこのまま、何も見なかったことにして去ってくれ!)
俺は藁にもすがる思いで祈る。
「・・・何、しているのですか?」
「・・・クロミルちゃん?あなたは確か、アヤトの様子を見にいっただけ、ですよね?」
「…何故に全裸?」
・・・まぁ、何も見なかったことになんて出来なかったか。
でもどうする?
どうすればこの状況を乗り越える事が出来る!?
(・・・狸寝入りでもするか)
考えた結果、俺は狸寝入りでこの場を乗り越えることにした。
これで三人が何も言わずに去ってくれると嬉しいのだが・・・?
「もしかしてアヤト、寝ている?」
「いや、これは前にも見たあれじゃん」
「…ん。アヤト、寝ているふりをしている」
「!?」
何!?俺の狸寝入りがばれた、だと!?
(こうなったら・・・!)
俺の本気の狸寝入りを・・・!?
「ご主人様は悪くありません」
俺の横で、クロミルが起きてきた。
クロミルの全裸・・・。ちょっと見てみたいが、今は狸寝入りをしているので見るわけにはいかない。
「・・・なら、どうしてクロミルちゃんは裸なの?」
「・・・私がご主人様の寝込みを襲い、肉体関係を迫りました」
「「「!!!???」」」
あ~あ。クロミル、自供しちゃった。
顔を見ていないから分からないが、あの三人、とても怒っているのだろうな。
「・・・その言葉の意味がどういう意味か分からないほど、私達は子供じゃないのよ?」
「…ん。クロミル、一体どういう意味?」
「今回の件で、最もご主人様に迷惑をかけてしまいました。なので、今回のお詫びとして、私を召し上がっていただきました」
「「「!!!???」」」
クロミル、あの三人を前に話すなんて、凄い度胸だ。
「なので、ご主人様はまったく悪くありません。全ては、未だ完治していないご主人様の寝込みを襲った私に非があります」
・・・なんだろう。すごく罪悪感を覚えるのだが?悪いことはまったく・・・していないわけではないな。つい先日、クロミルと肉体関係を持ってしまったことか。
「ですので、今回の件は全て、能動的にご主人様を性的に襲った私を責めるべきかと思います。そして・・・、」
「「「!!!???」」」
ん?なんか雰囲気が変わったか?
「この度、お三方の許可もとらず、ご主人様と肉体関係を持ってしまい、申し訳ありませんでした」
・・・別に、クロミルがリーフ達に謝罪する必要なんてないと思うのだが・・・。それじゃあ誰が悪いのかというと・・・、
(間違いなく俺、だな)
俺がクロミルの誘いを強引に断ればこういう事態にならなかったな。まぁ、過ぎたことは仕方ない。今はこの事態をどう収拾するか、だな。
(それじゃあ俺が話しに割り込むか?)
それだと、事態がややこしくなりそうだな。となるとどうする?
・・・ひとまず静観だな。やばそうになったら話に参加すればいいか。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
・・・なんか、かなり重々しいのだが?狸寝入りをしている俺が言える立場ではないが、誰かこの空気をなんとかしてほしい。
「…ひとまず、状況は理解した」
この声はイブだな。
「…それで、クロミルはアヤトのことをどう思っている?」
「・・・私は、ご主人様のことを尊敬しており・・・、」
なんか、クロミルが言葉を濁らせているな。
「・・・あそこまで私のために行動してくださったご主人様を、心から愛しております」
「「「!!!???」」」
・・・まさかクロミルの奴、俺が起きていると分かって、俺をからかうために言っているのか?
それとも、クロミル自身の本心?
というか、あそこまではおそらく、クロミルと戦ったことを指し示していると思うが、あの行為で惚れられる要素なんてなかったと思うのだが?俺、クロミルのことを思いっきりぶん殴ったし。褒められるどころか嫌われてもおかしくないレベルだ。
「・・・クリムにイブ、今のクロミルちゃんの言葉、どう感じましたか?」
「・・・私は、本心だと思う。イブは?」
「…クリムに同じ」
「私も、クリムとイブと同じ考えです」
三人の声からして、さっきの告白はクロミルの本心、ということか。
(・・・)
なんか、意図せずにクロミルの告白を聞いてしまったな。は、恥ずかしい。俺、明日からクロミルとどんな顔をして会えばいいのだろうか?
・・・常にクロミルの胸を見て、ニヤニヤしていればいいだろうか?
・・・いや、それはただの変態だ。絶対に関わってはいけない人間がとりそうな行動じゃないか!?赤の他人がそんなことをしていたら、警察に通報案件だぞ!?
「・・・クロミルちゃんの言葉、気持ちは分かりました。では今後のことを、私達と話し合いましょうか?ね、二人とも?」
「です、ね」
「…ん。同じ人を愛する者同士、きちんと話し合いをしなくてはならない」
「で、ですが・・・!?」
・・・なんか、こっちを見ている気がする。もしかして、俺の心配をしているのか?
(だとしたら、今は見ないでほしいな)
俺の体は今、ちょっと熱くなっているからな。今はどっかに行ってもらい、冷静になれる時間がほしい。
「アヤトのことなら大丈夫です。代わりを連れてきましたので」
「代わり、ですか?」
「ええ。モミジちゃんです」
「モミジ様・・・分かりました」
なんか、足音が遠くなっていくような気がする。これでようやく独りになれるな。
「・・・分かっていると思いますが、念のために言っておきますね」
ん?リーフは一体誰に向かって言っているんだ?声が聞こえてくる方角からして、俺の方に向けて言っている気がする。もしかして、俺に言っている、のか?
(そんなわけないか)
今の俺は寝ているんだ。寝ている人に向けて何か言うなんて、おやすみの挨拶くらいしかないはず。まぁ、俺の両親以外の人からおやすみの挨拶なんてされたことないのだが。
「クロミルちゃんとの話し合いが終わったら、次はアヤトと話し合いですからね?」
「そうです。話し合い、楽しみにしていてくださいね?」
「…心して待つといい」
この言葉を聞いた後、足音がだんだん遠くなっていった。
(・・・行ったか?)
気配的には、俺の周囲には誰もいない・・・いや、一人いるな。
(もしかして、さっき言っていたモミジか?)
う~ん・・・。モミジなのか直接見ないと分からないな。
(ちょっとだけ、目を開けて見てみるか)
ちらり。
「あれ?アヤトさん、起きていたのですか?」
モミジが近くにいた。やはりモミジだったか。
「あ、ああ。ついさっき、な」
俺は咄嗟に嘘をつく。随分前から起きていたとか言ったら、話がややこしくなりそうだ。
「そうでしたか」
ん?なんか、モミジの顔、少し困惑していないか?
「どうかしたのか?」
「いえ。私の気のせいかもしれないのですが・・・、」
「?」
「部屋を出られたリーフさん達が言っていたのです」
アヤト、また寝たふりなんてして!
まったくです!あんなに分かりやすく!
・・・後でそのこともたっぷり話さないと。
「・・・というような話をされていたのですが、さきほど起きたのであれば、一体どういうことなのかなって・・・、」
「・・・」
俺の狸寝入りがばれていた、だと!!!???
(しかも、長時間のお説教コース確定だと!!!???)
話し合いは説教の隠語に聞こえてしまった。
く!こうなったらやむをえん!
「・・・アヤトさん、急に部屋を出ようとして、どうかしたのですか?」
「・・・モミジ、俺はしばらく旅にでる。どうか探さないでくれ」
「アヤトさん、駄目です!アヤトさん、まだ怪我が完治していないのですから!!」
「放すんだ、モミジ!俺は叱られたくないんだ!」
説教は嫌だーーー!!!
こうして俺は、モミジの制止によってベッドの上に戻り、モミジに監視されることとなった。
はぁ、説教は嫌だなぁ。
次回予告
『5-2-44(第431話) 義妹からの謝罪と、ある提案』
モミジとの話の途中、彩人の義妹であるルリが部屋に入ってくる。
ルリは彩人に話があるらしくも、黙ってしまう。
気まずい空気の時間を超え、ルリはある言葉を口にする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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