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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
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5-2-41(第428話) 周囲の言葉とやめる勇気

「もうこんなこと、やめてください!」

 シーナリはいきなり意味不明なことを言ってきた。

「こんなことってなんだ?」

 俺は、シーナリの言葉の意味が分からず、聞き返す。

「これです!ミンゴ枢機卿達を殺すことです!!」

 やけに声が大きいな。

「屑は殺す。その行為に何か問題があるのか?」

 いや、確かに問題はあるな。地球で人を殺したら殺人の罪に問われるな。

 だが、ここは地球じゃない。だから、無問題だ。

「問題だらけです!人を殺してはなりません!それに・・・、」

「こいつらは人じゃない。こいつらは人の皮を被った屑だ。子供を脅迫の材料にし、俺に殺意を向けてきた。だから、こんな屑はこの世界からいなくなった方がいいし、殺されても文句は言えないはずだ。違うか?」

 そうだ。

 俺はこの黒い者達に殺意を向けられ、危うく殺されかけた。だから俺は、こいつらから自身の命を守るために正当防衛をした。うん、何も問題はないな。

「それは・・・ですが!人を殺すのは駄目です!アヤトさんが手を血で染める必要はないはずです!」

「だからといって、こいつらが今も生を謳歌しているのは絶対に許さない。子供を盾としたこと。何より、俺の大切な家族の・・・!」

 言葉に出来ないほど、こいつら醜い豚共に怒りが湧いてくる。

「悪いが俺は、大切な人を傷つけられて何もしないほど善人じゃねぇ。お前がこいつらの味方をするというのなら、」

 俺は新たに、魔力で腕を形成し、腕の先端を鋭利な刃物状にして、シーナリに向ける。

「お前でも殺す」

 俺の本気が伝わったのか、シーナリは一歩、後ろに下がる。

(これで何もしないな)

 俺が思い残すことなく、無遠慮にこの豚共を殺そうとすると、

「私がアヤトさん達の代わりに、ミンゴ枢機卿達を裁くとしても駄目ですか?」

 俺はシーナリの言葉に耳を傾けてしまい、動きを止めてしまう。

「お前がこいつらを裁く、だと?」

「はい。アヤトさん達の想いを今一度、私に預けてくれませんか?私が必ず、アヤトさん達の想いを晴らしてみせます。だから・・・!」

「無理だな」

 俺がそう言うと、

「どうしてですか!?たいして話も聞いていないのに…!?」

 何故かシーナリが激昂してきた。

「ここまでこいつらを野放しにしてきたのはお前らだろう?今更何か出来ると思うか?預けろと言われたところで、素直に預けると思うか?」

「・・・」

 ここでシーナリが黙った。

(沈黙は無言の肯定、だな)

 これでようやく殺せるな。

「・・・アヤト、もういいのではないですか?」

 ここでなんと、リーフが俺に話しかけてきた。

「・・・どうしてリーフが?」

 リーフが一番の被害者なのに、どうしてこれで辞めようなんて言えるんだ?

「幸い、結果的に私は未遂で済みましたし、そちらの方々には十分苦しんだと思います。それに、アヤトがこれ以上苦しむ姿なんて見ていられません。お願いですから、もう、やめにしませんか?」

「リーフ・・・、」

 まさかリーフからこんな提案を受けるなんてな。

「私も、リーフ殿の案に賛成です。アルジンは自身の体、ちゃんと把握出来ていますか?」

「・・・俺自身の体、だと?」

 どういうことだ?

「はい。アルジン自身、気づいていないでしょうが、傷から血が・・・、」

 俺は、レンカが指差した個所を見る。すると、確かに傷から血が流れていた。

(なんで俺の体から血が流れているんだ?)

 俺はこいつらから一切攻撃を受けていないはず。それなのに血が流れているということは・・・?

(なるほど。クロミルやルリから受けた傷が完全に癒えていなかった、ということか)

 てっきり完治したものだと思っていたのだが、そうではなかったらしい。

 だけど、悪いな、レンカ。

「俺の体なんて後で治せばいい。今はそれより・・・、」

「もう動いちゃ駄目!」

 言い終える前に、俺にしがみつく者がいた。

「お前は・・・、」

 それはナナだった。

「お兄ちゃん、ボロボロじゃん!?だからもうやめて!」

 俺はナナの言葉を聞き、自身の体を再度見る。

(確かに今も流血していて、ボロボロな様だな)

 それでも俺がやらなきゃ。俺がやらないと、リーフが、俺の大切な仲間がやられてしまう!

「大丈夫だ。お前は俺のことなんて考えなくていい。これは、大人の領分だ」

 ナナやルリみたいな子供に殺人行為をさせるわけにも見せるわけにもいかない。この行為は、俺みたいな大人がやればいい。

(なにせ俺は既に、人を殺したからな)

 こんな時、イブの兄、ペルセウスの面が脳内をよぎってしまう。

 本当に殺していいのか?

 そんな疑問を抱いてしまう。

 本当は殺すべきだ。その考えは変わらないはずなのに、もしかしたら大層な理由があり、やむを得ずこんな発言をしていたのでは?なんて考えてしまう。そんなこと、あるわけないのにな。

「ならこの一件は、我々に任せてくれないか?」

 ここでさらに聖域の扉から、神官っぽい服装をした男が出てきた。この男は、いままで見た醜い豚より痩せていて、華美な装飾品がついていなかった。

「・・・誰だ、お前?」

 俺は扉から入ってきた男に見覚えがなく、思わず素で聞いてしまった。

「私はグード。司教をさせてもらっている者だ」

 つまり、この豚共と同じ立場、ということだな。

「お前も、こいつら同様俺を殺しに来たのか?」

 俺はグードと名乗った男に剣先を向ける。

 俺のこの行動に対し、グードは首を横に振る。

「まさか。私はただ、妹のように大切にしてきたシーナリが血相を変えて走っていたので、何事かと来てみたのですよ」

 ・・・少なくとも、俺を殺す目的で来たわけではなさそうだ。殺人を目的とした時、あまりにも軽装過ぎる。見たところ、武器になりそうなものを持っていなさそうだ。

「それで、この惨状を見て、俺を殺すつもりか?」

 おそらく客観的に見れば、俺は生粋の悪人に見えること間違いなしだろう。なにせ今の俺は、醜い豚共に対して刃を向け、憎悪にまみれた殺意を向けているのだから。

「・・・いえ。誠に勝手ながら、扉の隙間から覗かせていただきましたので、事情は把握しております。なので、あなた様方を殺すなど、神のごいこうに背いてしまいます。それに・・・、」

 グードは、命の危機に晒されている醜い豚を一目見る。

「何の罪もない子供を、自身の意見を通すための人質として用いた事、おなじ聖職者・・・いえ。同じ人間として、とてもかんか出来ません」

「だから、内々で処理すると?何も起こっていないと、ここだけで箝口令でも敷くのか?それとも、俺達全員の口を物理的に潰すのか?」

「「「!!!???」」」

 俺の言葉に、全員が驚きを隠せない。

 何せ、俺の質問内容は、口封じのために今この場にいる全員を殺すのか、ということなのだ。自らの命が危機に瀕しているのだ。感情が動いてしまうのも無理はない。

「そんなこと、絶対にしません。させません。内々に処理するつもりもありません。余罪も含め、神の前で裁きを下すつもりです」

「余罪?」

 ・・・ああ。聖職者でありながら、豪華そうな装飾品を複数身につけている上に、この黒い者達もかなり使い慣れている。

(金銭の私的利用に、殺しに手を染めているのか)

 随分な聖職者だな。俺は聖職者じゃないが、殺しに手を染めているから、人のことは言えないのだが。

「はい。時期を見て告発するつもりでしたが、どうやら今がその時期のようです。ですので、再度、言わせてもらいます」

 グードは俺の目を、顔を見て、はっきりと断言する。

「この一件、私に預けて下さいませんか?絶対に、あなた方の不利になるような事態にはさせません。ですので、その矛をしまっていただけますか?」

 ・・・。

「・・・一方的な押しつけを、信用しろと?」

 俺にとって、こいつらがさっき言った余罪について何も知らない。なので、グードが俺に嘘を言っている、という可能性があるのだ。その可能性を一切考慮せず、初対面の男を信頼するなんて、今の俺には出来ない。

「なら、私のこの地位と・・・命をかけます。これでも不満でしょうか?」

「!!!???」

 このグードの発言に、俺は驚きを隠せなかった。まさかここまで体を張るなんて思わなかったな。

「・・・」

 俺は今、迷っている。

 命をかけると言っているのだ。その言葉を信じなくて、一体何を信じるというのだろうか。

 だが、ここまで来たからには、俺の手で決着をつけなくてはならない、手を血に染めるのは俺だけで十分なのだ。

「アヤト」

 俺が迷っていると、リーフが手をとる。

「迷っているのであれば、任せてみては?これ以上、アヤトが傷つく必要なんてありません」

 傷?ああ、完治したと思っていた傷が開いたことか。

「この傷程度なら気にしなくていい。俺は・・・、」

「体の傷もそうですが、リーフ殿が言っているのは、心の傷のことです」

「心の傷、だと?」

 どういう意味だ?

「アルジン、人を殺すというのは、肉体だけでなく、精神的にも疲労が伴うのですよ?」

 精神的?

 ・・・もしかして、俺のメンタルを心配してくれているのか?

(俺的には大丈夫、なんだけどな)

 リーフやレンカが心配しているなら、これ以上俺が何かする必要はない、のか?

「・・・任せても、いいと思うか?」

 俺はふと、リーフとレンカに質問する。

「大丈夫かと思います。それに駄目だったら、私達がいます」

「そうです!アルジンには私達がいます!」

 ・・・。

「・・・おい」

 俺はグードに話しかける。その際、視線だけでなく剣先もグードに向ける。

「な、なんでしょうか?」

 心なしか、グードは俺に怯えている気がする。まぁ、命の危険を感じれば怯えるのも当然か。

「・・・もしくだらないことをしたら、楽に死ねないことをゆめゆめ忘れるなよ」

 俺は剣先を下ろす。

 それと同時に魔法を解除した。そのことにより、醜い豚共は自由となる。

「・・・この、薄汚い屑共が―!!!」

 薄汚い豚の一人が何か叫び始め、どこかに隠していた包丁のような刃物をとりだし、俺に向かってくる。

(!?くそったれが!!)

 だが、原因不明の痛みが俺を襲い、目の前の男の行動に対して動けない。この痛み、さっきから流血している個所からか!?

「させませんよ!」

「アルジンに剣を向けたこと、後悔させてさしあげますよ?」

 俺の前に、リーフとレンカが身を乗り出してきた。まるで、俺を前方の豚から護るように。

「ふん!」

「あぐえぇ!!??」

 だが、リーフとレンカより先に、あの豚を制してくれた者がいた。

「もう、この者達に手はださせません」

 それは、さっきまで扉の前にいたグードだった。

「・・・いいのか?」

 俺は確認で聞く。

「ええ」

 短い返答だった。

 俺はグードの返答に満足した。

「リーフ、レンカ。ちょっと肩を貸してくれないか?」

「分かりました。アヤト、戻ったら開いた傷口をまた閉じないと、ですね」

「しばらくアルジンは絶対安静ですからね。絶対、安静、です!」

 この際、リーフの胸が俺と接触する。・・・この感触、至福だなぁ。

 ちなみにレンカは、胸はあっても人工だからな。別に興奮は・・・ちょっとだけしてしまうだろう。流石に今は襲う気など毛頭ないが。

「お前がもし、話が通じるなら、俺の怪我の完治後、話をしよう」

 去り際、俺はグードに約束を取り付ける。

「分かりました。それまでに、この者達の処遇を決めてしまいますので」

 この言葉を聞いて安心したのか、

「すまん。後は、任せる」

 俺は疲れたのか、少し眠ることにした。

 あ~あ。こんなことなら、完治した後も、しばらく静養しておけばよかったな。

次回予告

『5-2-42(第429話) 従者の謝罪、主の困惑』

 グードと話をする約束をしてから、彩人は寝ていた。

 目覚めた時、彩人の近くにクロミルがいて、クロミルが彩人に謝罪をする。

 その謝罪は言葉だけでなく、ある行動として誠意を伝えようとした。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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