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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
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5-2-38(第425話) 聖域へ

 日はさらに経過。

(いよいよ今日が話し合いの日、かぁ・・・)

 まだ病み上りなのだからもっと安静にしていたというのが正直な気持ちなのだが、少し動きたいという気持ちもある。

(魔法も使ってみるか)

 俺は試しに【火球】を発動させる。

(どうやら、魔法は発動出来るみたいだな)

 満足した俺は、【火球】を消し、話し合いの準備を始める。

(といっても、一体何を準備すればいいのだろうか)

 服か?でも俺、インターンに着て行っても問題ないようなスーツなんて持っていないぞ?いや、ここはタキシードか?

 ・・・今、アイテムブレスレットの中を軽く確認したところ、トレーナーみたいな長袖とか、魔獣の一部を使った装備しかなかった。俺、偉い人とか滅多に会わないからな。そういう服は持っていないのだ。

 え?クリムやイブ、それに他の国々の王族に会っているんじゃないかって?

 ・・・そんなことは忘れた。俺は、自分にとって都合の悪いことは忘れる男なのである。実にひどい男だ。自分で言っていて悲しくなる。

(とりあえず、今の俺に出来る最低限のことはしておくか)

 顔を洗って、朝食食って・・・て、

「みんなは?」

 そういえば今は俺独りだな。他のみんなはどこにいったのだろうか?

(久々に、俺独りだなぁ)

 このまま一生独りだったらどうしよう?地球にいた時は、独りでいることが当たり前だったのに、今では違う。

 今は、みんながいることが当たり前になった。

(だから今、こんなにも悲しいのかね)

 何をしようにも、どこか無気力になってしまう。みんながいれば、心境が少しでも変わるのかもしれない。

 そんなセンチメンタルなことを考えてしまう俺であった。


 軽く朝の身支度を終えた俺は、さきほどまで寝ていた部屋を出る。

「お待ちしておりました、アルジン。それではこれから私が指定の場所まで案内いたします」

「お、おう」

 どうしてレンカが部屋の前で待機していたんだ?

 あ。さっき自分で言っていたな。俺を指定の場所に案内する為、か。指定の場所というのは、おそらくこれから話し合いの場所だろう。

(それにしても、わざわざ部屋の外で待たなくてよかったのにな)

 昨日は室内で俺の事を見ていたのだから、室内で待っていても文句なんて言わなかったんだけどな。まぁ、レンカなりに気を遣ってくれたと考えるべきだろう。

「それにしても、みんなはどうしているんだ?」

 ここ数日、レンカとリーフしか見ていない気がする。もちろん、俺が寝ている間に、お見舞いに来てくれた可能性もあるが、俺はこの二人しか見ていないし、近況もほとんど聞いていないんだよな。なんとなく聞かないようにしていたのだが、今なら聞いてもいいだろう。

「・・・今、周辺にいるのは私とアルジンの二人だけですか?」

 ふと、そんなことを急に聞かれた。なんでそんなことを聞いたのかは不明だが、効かれたからには答えるか。

(その前に、【気配察知】をして、周辺に人がいないか確認しよう)

 ・・・確認してみた結果、周辺に人がいなかった。そのことをレンカに報告するか。

「ああ。今この場にいるのは俺とレンカの二人だけだ」

「・・・今から話すことは、出来るだけ他の人に知られたくないので、聞いた後も内密に願います」

「・・・分かった」

 一体、今からどんな話をするのだろうか?二人じゃないと話せない内容、ねぇ。なんか聞くのが怖いな。

「これから行くのは、聖域、と呼ばれる場所です。聖域でこれから話し合いを行います。私は先日、その聖域の下見をしてきました」

 ふ~ん。

「教会の者達は、単に話し合いを行う場所として説明していましたが、私の目は誤魔化されません。聖域には、ある魔道具が使用されています」

「その魔道具って?」

「名称は分かりませんが、効果はある程度分かりました。どうやら、人族にのみ、あらゆる能力が上昇するよう細工が施されているようですね」

「・・・なに?」

 いったいどういうことだ?

「その代わり、人族以外は、あらゆる能力が下降するように施されているようです。人族にのみ優しい、なんとも皮肉な効果です」

「ちょっと待て。人族と人族以外って、何を基準に分けているんだ?」

 俺の今までの経験から、クリムは人族。

 それに対し、リーフ、イブ、ルリ、クロミル、モミジ、レンカは違う。

 イブは確か、リーフはエルフで、背中に黒い翼を生やしていた気がするし、ルリは魔獣、クロミルは牛人族で、モミジはフォレード、レンカは魔道具。

 要するに、俺の旅の仲間は、クリム以外人族ではないということだ。その自身の考えをレンカに伝えたところ、

「その通りです。さらに言うと、あの聖域内では魔法が一切使用出来ません」

「なるほど」

 俺に関しては、十八番である【毒霧】も使えないと。俺達、かなり不利じゃないか?

「・・・あれ?でもお前は、その聖域内に入ることが出来たんだよな?」

「ええ。なので、聖域内では、魔法を使用することが出来なくても、魔道具を使用することが可能、ということです」

「魔道具が使える、か。魔道具を使った暗殺も出来る、ということだな?」

「ええ。相手がどんな手段を用いるのか分かりません。もしかしたら、既にあちら側で雇った暗殺者が聖域内に潜んでいるのかもしれません」

「魔道具を使って身を隠して、か」

「・・・出来ればこのようなことは考えたくないのですが、可能性はあるかと」

「そうか」

 ならこちらも魔道具で対抗をしたい・・・のだが、そんな時間はなさそうだ。

(何せ、今から聖域に行かなきゃいけないわけだからな)

 これから寄り道して、どのような魔道具を作るか構想を練り、魔道具を作製する。そんな時間は今、ここにはない。せいぜい、これから聖域に向かう途中で、どのような魔道具を作るか構想を練るぐらいしか出来ないだろう。

(くそ!こんなことなら、惰眠を貪らず、せっせと魔道具を作っておくべきだった!)

 先日使用した魔力池の補填もしていないし・・・!まったく、こんな日にわざわざ話し合いさせるなよ!

 ・・・まぁ、既に決まったことに対していつまでも文句を言うわけにはいかない。言ったところで状況は変わらないのだからな。

「つまり俺達は、もし聖域内で戦闘になる場合、魔法無しであのクソ男共・・・教皇みたいなやつと相手にしなくちゃいけないわけか」

「・・・アルジン、本音が出ておりますよ?それに、相手側が雇った暗殺者達も相手するかもしれないことを念頭に入れておくように」

「・・・だな」

 かなり不利な状況だが、この不利な状況は、あくまで戦闘になった場合。つまり、戦闘にならなければ問題ないのである。話し合いで上手く戦闘を回避出来ればいいのだが・・・、

(そんな話術、俺にあったか?)

 人を上手く丸め込めるような話術があれば、地球ではボッチにならなかっただろう。そして、今の俺の話術は、地球にいた時とほとんど変わらない。つまりどういうことかというと・・・、

「どうしても、話し合いの場で戦闘になる未来しか見えない・・・、」

「え?話し合いですので、普通は戦闘になるわけないと思うのですが・・・?」

「俺が、ほとんど人と話したことのないこの俺が、そんな芸当、出来ると思うか?人の怒りを買って、殺し合いになること間違いなしだぞ?」

「・・・どうして自身を卑下しているのに、そこまで自信満々に言う事が出来るのですか・・・」

 なんかレンカに呆れられてしまった。

だってしょうがないじゃないか。地球では万年ボッチだったからな。その原因の一つとして、俺の対話レベルの低さがあげられる。俺、地球では人の目を見て話すことがほとんどなかったし、返事も上手く出来ていなかった。それらが、俺に対する印象を悪くさせたのだろう。

(・・・ああ、なんか思い出したくない思い出が蘇ってきた・・・)

 このまま聖域に行かないですっぽかしてやろうかと考えてしまう。

「・・・アルジン、一応言っておきますが、これからの話し合い、さぼろうとか考えないでくださいね?」

「!?も、もちろんそんなこと、考えるわけないじゃないか!?」

 何故俺の考えを読むことが出来たんだ!!??

「・・・まぁいいです。ですが、今からは真剣に聞いてくださいね?」

 レンカに怒られた後、説明を再開する。

「話し合いに参加するのは、私、リーフ殿、そしてアルジンの三人です。それに対して、相手は五人参加すると言っていました」

「・・・相手の方が多くないか?」

 俺達が三人参加するのは別にいい。正直、当事者のクロミル、ルリは参加させなくてもいいのか、なんて考えてしまうが、まぁいないならいないでいい。そこは別に重要ではない。重要なのは人数である。

 人数差があれば、当然、少ない方が不利になる。そう考えると、俺達が不利ということなのである。何故自分達から不利な状況に追い込んでいるのか?その理由を聞きたい。

「確かに相手の方が多いですが、これは作戦でもあります」

「作戦?」

「はい。これはあくまでみなさんで考えた事なのですが、事前に、相手側より少ない人数で話し合いに参加します。すると、相手はどう感じると思いますか?」

「どう感じる・・・あいつら、俺達を舐めているな!とかか?それとも、力で黙らせやすい!とかか?」

「まさにその通りです。私達があちら側に対して挑発し、力で脅させるように動かします。そこを叩きます」

「・・・上手くいくのか?ただでさえ人数に差があって不利なのに、そんなこと出来るのか?」

「出来ます。何せ、あの聖域内では魔道具を使うことが出来るのですから」

「そうか!?相手が使うなら、こっちも姿を隠せるような、そんな魔道具を使うってことだな!?」

「ええ。相手が奇襲してきたところを、奇襲で返します」

「・・・そうか。分かった」

 大体、レンカの作戦は分かった。

 まず、話し合いが始まったら、どうにかして相手側を怒らせて、こちらに攻撃させるよう挑発する。

 そして、相手が俺達を奇襲してきたら、聖域内で潜んでいる俺達の仲間が、返り討ちにする、と。

(いくつか気になる点はあるが、大丈夫そうだな)

 現時点で気になる点は主に二つ。

 まず一つ目は、姿を隠す魔道具を手に入れたのか、だ。この作戦の要は、奇襲返しする人達だ。なので、奇襲返しするまで、その人達は聖域内で身を潜め続けなくてはならない。そのための魔道具が手元にあるのかどうかだ。

 二つ目は、奇襲返しする人のせん別だ。

 奇襲返しするわけだが、奇襲してくる相手はかなりの手練れのはず。そいつらを完封出来るほどの実力者じゃなければ、奇襲返しなんて出来ないだろう。

「それじゃあ俺は、何も知らないふりをして、相手を煽り続ければいい。そういうことだな?」

 俺はいくつか確認したい点もあったが、それらを全て自身の胸に秘め、レンカに確認する。

「・・・出来れば、話し合いだけで済むのが最善なんですけどね」

 それはごもっともだ。

「それじゃあ、任せたぞ、レンカ」

「はい!お任せくださいませ!!」

 それじゃあ俺は、心置きなく相手を煽っていくとするか。

 ・・・ところで、話し合いなのに戦闘になることを想定して動くって・・・。なんだか釈然としないなぁ。何事も起きなければいいのだけど。

次回予告

『5-2-39(第426話) 話し合いにならない近い話し合い』

 彩人とレンカは、聖域に通じる扉の前に到着して少し経った後、リーフが合流し、レンカ、リーフと共に聖域の中に入る。その後、白の国の者達が入室し、話し合いが始まったのだが、相手側は既に結論をだしており、彩人達の話を聞こうともしなかった。そして、白の国の者達は彩人達にある要求をする。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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