5-2-35(第422話) ブラグ教皇との戦い~VSクロミル&ルリその6~
「それにしても、ルリはまだ操られているのか」
やっと、ヴァーナの協力を得て気を失わせたというのに。ルリを何とかした後、次はモミジ達の加勢に行かなくてはな。
「ん?」
そういえばさっき、リーフに似た声をした奴がいたな。確かこの方向に・・・、
「って、いるうぅ!!??」
イブやクリムだけでなく、まさかリーフもいるなんて・・・!?というか、いつの間にかキメルム達もいるし!?一体どうなっているんだ!!??
「アヤト!ルリちゃんは一体・・・!?」
どうやらリーフは今の状況を理解出来ていないようだ。となると、ここに来たばかり、ということか?なら、出来るだけ簡単に説明した方がよさそうだな。
「ルリとクロミルがブラグ教皇によって操られている!そのうち、クロミルはなんとか出来たが、ルリは見ての通りだ。ブラグ教皇は、ルリをなんとかしてから行くつもりだ」
これで伝わっただろうか。例え伝わっていなくても、このまま加勢した方がよさそうだな。
「・・・もしかして、そのブラグ教皇?というのは、変な杖を持っていて死者を蘇らせて、モミジちゃんとレンカちゃんが戦っていた成人男性、ですか?」
「モミジとレンカが戦っていた、だと!!??」
そんな奴、ブラグ教皇しかいないな。となると、間違いなくリーフが見た男というのがブラグ教皇なのだろう。
「ええ。さっき、モミジちゃん、レンカちゃん、サキュラちゃん、サキュリちゃんの協力を得て、なんとか倒すことが出来ました。じきにモミジちゃん、レンカちゃんも・・・あ!来ました!!」
確かに、リーフが指差す方向に、モミジとレンカはいる。
(ということは本当に、あのブラグ教皇を倒したというのか!?)
それに、モミジとレンカがこっちに来ているという事は、二人が無事だった、ということだろう。
(よかった)
これで後はルリを・・・ルリを?
(ちょっと待て)
ルリは確か、ブラグ教皇の魔法によって操られているんだよな?だとしたら、その主が意識を失った今、魔法の効力が消え、正気に戻るんじゃないのか?それなのに、ルリは今も暴れている。
(どういうことだ?)
・・・なんだろう。かなりまずい事態な気がする。
「?どうしたのですか、アヤト?」
「ああ。実はな・・・、」
モミジとレンカが合流したので、俺は三人に状況を説明する。
「それはちょっとまずいかもですね・・・、」
最初に発言したのは、レンカだった。
「どういうことだ?」
「あの魔法の全貌を知らないのでなんとも言えないのですが、おそらくルリ殿は暴走しているのだと思われます」
「暴走、ですか?」
「どういう意味だ?」
「確かにアルジンの言う通り、ルリ殿にかかっていた魔法は効力を失っています。ですが、今のルリ殿を見るに、ルリ殿自身、操られているのか正気なのか分かっておらず、混乱しているのだと思われます」
「混乱、か。それを治すにはどうしたらいい?」
「・・・白魔法で回復させればいけるかもしれませんが、あくまで可能性の範囲です。もし失敗すれば、今以上に厄介なルリ殿を相手することになります」
「確実な方法は?」
「荒治療ですが、ルリ殿を気絶させるくらいの衝撃を与えれば確実かと」
「つまり、あれをぶん殴って正気に戻せ、と?」
「大方その通りです」
「そうか」
白魔法で回復させてもルリを正気に戻せるとは言っていたが、最悪の場合を考えると、ルリをぶん殴って正気に戻した方が確実そうだ。
「・・・なんだか、あの時に似ているな」
「あの時、ですか?」
「あの時って?」
俺の言葉に、レンカとモミジが質問する。
「あの時・・・あぁ、あの時ですか」
リーフは理解したらしい。
「ああ。あの時だ」
「なるほど。ということは、あの時に使った魔法を再度使う、ということなのですか?」
「そうだな。それでいこう」
「「??」」
俺とリーフの会話に、モミジとレンカは追いついていなさそうだ。無理もない。この話は、まだモミジとレンカがいなかった、赤の国にいた時の出来事だからな。
(であれば、【光風波】を使えばいけるのか?)
赤の国にいた時、これをくらわせたら、ルリは正気に戻った。なら、今回も同様にすればいける・・・のか?
(それでも、やるしかないか)
「それじゃあみんな、連戦で披露しているだろうが、時間稼ぎを頼む。その後は俺に任せて、ルリから離れてくれないか?」
俺はみんなにお願いする。本当は、俺一人で全部やらなくてはならないのだろうが、今の俺には無理だ。俺も連戦で疲労しているからな。
「・・・本当に、ルリ殿さんを助けられるのですか?」
モミジから、真剣な質問が来た。確かに大切なことだな。
「正直、助けられるかどうかは分からない」
この一言で、モミジの顔に影が差す。
「けど、助けるつもりだ。助けられるかどうかなんて関係ない。例え助けられないとしても助けるんだ」
「・・・アルジン、言っていること、おかしいですよ?」
俺の正直な気持ちを言ったら、レンカから指摘をもらってしまった。
「そうかもしれない。けど、これが今の俺の気持ちだ」
そうだ。
助けられるかどうかなんて考えない。
助けるんだ!
「・・・分かりました。助けましょう、ルリ殿を」
このレンカの言葉を皮切りに、
「もちろんです!」
「私はキメルム達、イブ、クリムに話してきますね」
モミジ、リーフは俺の案を快くのんでくれた。
(それじゃあ俺は、みんなの想いに応えなくちゃな)
「【六色気】」
俺はまず【六色気】を発動させる。
(この魔法を使うの久々だけど、上手く使えるよな?大丈夫、だよな?)
俺は若干心配しつつ、
「【光風波】」
魔法を発動させる。その魔法は、超振動させた腕をぶつけることで、相手も超振動させる魔法だ。もちろん、自身の腕も超振動しているので、それはもうひどい痛みだ。正直、もうこの魔法は使いたくなかったのだが、今回ばかりは仕方ない。
・・・ところで、前使った【光風波】より痛い気がするのは気のせいか?もしかして、【六色気】を使ったうえで【光風波】を発動しているから、振動数が増加しているのか?だとすれば、体にかかる負担が増えているのも納得だな。
(狙いはルリ!)
今もみんなが、
「大親分が今、ルリの姉御を助けるための準備をしている!それまでは俺達で大親分を死ぬ気で護るぞ!」
「「「はい!!!」」」
キメルム達が、
「イブ、クリム!もうばててしまったのですか!?あなた達の想いは、大切な人一人も救えないほど脆弱なのですか!?」
「…そんなわけ、ない!」
「私を、馬鹿にしないで!!」
リーフ、イブ、クリムが、
「ルリさん!どうか正気に戻ってください!」
「ルリ殿!もうしばらくの辛抱ですよ!」
モミジ、レンカが、必死に戦ってくれているんだ。期待を裏切る真似は、出来ない!
「みんなぁ!行くぞ!!」
俺は大声を張り上げ、ルリの元へ走る。
「ぐおおおぉぉぉーーー!!!」
俺の声に反応したのか、ルリが空中に巨大な氷をいくつも顕現させ、俺に向けて落としてくる。
「アヤトは気にしないで前に突き進んで!」
リーフの声で、俺はルリだけを見るようにする。
「…アヤトの邪魔は、させない!」
「例え溶かしきることが出来なくても、軌道くらいは余裕で変えられます、よ!」
「私だって、まだ、やれます!」
「ぐおおおぉぉぉーーー!!!」
今度は、地面から氷を突き立て始める。それでも俺は一切気にせず走り続ける。
だって、
「植物達、お願いします!地面から伸びてくる氷をおさえて!」
「モミジの姉御、私も加勢するわ!」
「俺達は、大親分の前にある氷をとにかくぶち壊す!いくぞ、ドーカリ―!」
「おお!」
みんなが、道を作ってくれたのだから。
(例え、この腕が吹っ飛んでも!)
俺は思いっきり腕を振りかぶり、
「【光風波】!」
ルリに【光風波】を直撃させる。
「ぐおおぉぉ!!??」
なんか、さっきと異なる叫びに聞こえる。今回の叫びはまるで、痛くて叫んでいるような、悲痛な叫びに聞こえた。
(まだ、倒れないか!)
これでも、前ルリにくらわせた【光風波】やり強力なんだぞ!?なにせ、あの時の俺は【六色気】なんて使っていなかったからな。それでも耐えたということは、
(まだ足りない、ということ。なら・・・!)
俺は、もう片方の腕にも【光風波】を発動させ、構える。
「もういっちょうーーー!!!」
そして、両腕をルリにぶつける。これで倒れてくれなきゃどうしようもないぞ。
「倒れろーーー!!!」
俺は、両腕の激痛に耐えながら、【光風波】をルリに当て続ける。
「ぐおおぉぉ!!??」
ルリも超振動に苦しんでいるようだ。どうかこのまま倒れてくれ!出来ればすぐに!!
(じゃないと、俺の両腕が吹っ飛ぶ!)
「「「アヤト!!!」」」
「アヤトさん!」
「アルジン!」
「「「大親分!!!」」」
みんなの声が聞こえる。みんな、俺を応援してくれているんだ。今ここで倒れるわけには、
(いかない!)
俺は拳に力を入れ、ルリを推し始める。
「これで、倒れろ!」
俺はルリを吹っ飛ばす。これで倒れてくれると嬉しいのだが・・・。
「!?」
【光風波】の後遺症なのか、両腕が動かない。無理にでも動かしたら、腕が引き千切れそうだ。
「ルリ・・・、」
俺が両腕に白魔法で回復させながらルリの様子を見ていると、
「おおおぉぉぉん!!」
「「「!!!???」」」
ルリがまた雄叫びをあげた。まさか、まだ暴走するというのか!!??
(もう【光風波】を使える余裕なんてないんだぞ!?)
最悪、今の両腕を自ら引き千切って生やせばいいか。そうすれば、また【光風波】を使えるかもしれないな。
(でもなんか・・・、)
さっきとは異なる雄叫びをあげていた気がする。詳しいことは分からないが、なんか辛そうだ。楽にさせてあげたいのだが、どうすれば楽に出来るのか、まったく見当がつかない。
(追撃して、ルリにさらなるダメージを与えるべきか?)
そう考えた俺は、自身の腕を無理矢理引き千切ろうと手にかける。
(出来れば痛い思いはしたくないのだが、ルリを助けるためなら、躊躇っちゃ駄目だ!)
そして力をかけ始めたところ、
「ルリの姉御!」
どこからか声が聞こえた。この声、さっきまで俺と一緒にいたヴァーナか?
「こちらを見て下さい!」
ん?ヴァーナ、誰かを担いでいないか?というか、クロミルを見るようお願いしていたのだが、クロミルのことはどうなったんだ?
「・・・ルリ、さま。私、です。クロミル、です・・・」
「「「!!!???」」」
く、クロミル、だと!!!???起きて大丈夫なのか!!??というか、正気に戻ったのか!!??
「わたしはこのとおり、げんき、です。ですから・・・、」
クロミルはゆっくり、ゆっくりルリに近づき、ルリの顔を撫で始める。
(あ、危ないぞ!!??)
俺は構えたのだが、ルリはクロミルを攻撃しようとしなかった。
「もう、大丈夫、です。ですから、しょう、き、に・・・、」
クロミルはまだ本調子じゃないのか、上手く話すことが出来ていない。
(危ない!?)
俺はクロミルを支えようと、腕にかけていた手を即座に放し、クロミルの元へ駆けつけようとした。だが、その行動は無駄に終わる。
「「「!?」」」
クロミルの近くにヴァーナがいたこともそうだが、青い蛇と、人化したルリがクロミルを支えていたからだ。そのことに全員驚いているもよう。
「もう、嫌なの。誰かが傷つく姿なんて見たくない。見たく、ないよぅ・・・、」
ルリはクロミルを支えながら泣きだす。ボロボロなクロミルな、泣き始めたルリの頭を撫で、
「だい、じょうぶ、です。もうだれも、きずつき、ません。それより、わたし、の、ために、おこってくれて、ありがとう、ございます。うれし、かった、です・・・」
つたなくも言い終えたクロミルは、そのまま意識を失う。
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい・・・!」
ルリは、意識を失ったクロミルに支えながら泣き続ける。
(・・・どうやら、【光風波】はもう必要なさそうだな)
俺は、ルリ達の元へ更に近づき、ルリの頭を撫でつつ、白魔法で回復させる。
「大丈夫だ。ルリも、クロミルも、誰一人傷つかない。後は俺達に任せて、今はゆっくり休め」
「お兄ちゃんにも、みんなにも、色々しちゃった。いっぱい、傷つけちゃった。ごめん、なさ、い・・・、」
ルリは言い終える前に倒れてしまった。無理もないか、俺、クリムやキメルム達と連戦してきたからな。体に相当なダメージや疲労が蓄積しているのだろう。むしろ、今までの攻撃でよく死ななかったなと褒めてやりたいくらいさ。
(さて、まずは引き続きルリに白魔法で回復をかけて、その後は・・・!?)
やば!急?にどっと疲れが・・・!?まだやらなきゃいけないことがあるというのに!
(そういえば、デベロッパー作の魔道具はどうなったんだ?)
ブラグ教皇も倒したと言っていたが、その姿を見ていないような気がする。あいつの処遇についても考えないとだし・・・。
(もう、何も考えられ、ない・・・、)
「!!??あ、アヤト!!!???」
「アヤトさん、大丈夫ですか!!??」
「アルジン、しっかりしてください!!」
「「「大親分!!!???」」」
こうして俺は、先のことを考える前に、意識を手放してしまった。
次回予告
『5-2-36(第423話) リーフから聞いた言葉、カラトムーガ』
ブラグ教皇との戦いを終えた彩人は、怪我の治療に数日を要した後、リーフから、ブラグ教皇と話した内容を聞かされる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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