5-2-26(第413話) ブラグ教皇との戦い~分断~
(さて、どうする?)
この状況で、3人いっぺんに相手出来るのか?
(とにかく、やってみるしかない!)
俺は【四色気・赤青黄緑】を発動させ、ブラグ教皇に剣を向ける。
「!?」
だが、操られているクロミルが、俺の行動を妨害してくる。あの突き、確か前に見たな。確か、【牛蜂突き】、だったか。
(これく、らい!)
俺はなんとかクロミルの【牛蜂突き】を躱し、そのままブラグ教皇に突撃しようとする。
(もらった!)
俺はブラグ教皇の首めがけて剣を振り下ろす。
「その程度の動きで、私を殺せるとでも?」
「!?ちぃ!!」
だが、クロミルとルリの攻撃を躱すことに集中していたため、剣の扱いが雑になっていたのだろう。ブラグ教皇は俺の剣を容易く読み、受け流されてしまう。
(やっぱ、あの二人をどうにかしないと駄目か!!)
でもどうする!?きっと、俺があの二人を相手にしている隙を狙って、ブラグ教皇が俺に向かって攻撃してくるだろう。そして、今と同じような感じで相手に攻撃を無効化され、受け流される。それどころか、カウンターをもらう可能性だってある。
「アルジン、手伝います!」
「アヤトさん!私にもルリさんを、クロミルさんを助けさせてください!!」
そうか。俺にはまだ、モミジとレンカがいるんだ。
(だが・・・、)
接近戦に強いルリとクロミルを相手に、モミジとレンカで対抗出来るのか?
(確か二人とも、遠距離の方が得意だったはず)
攻撃手段がないわけではないと思う。
確かモミジには、【三樹爪撃】という魔法があったはず。
レンカは、自身の腕を大砲の筒のような形状に変化させ、そこから魔力の塊を射出していた。
それらで攻撃することは出来ても、両方とも遠距離向けの攻撃だ。二人に、接近戦の心得があるのか不明なのだ。
(・・・仕方がない、か)
俺はある結論を導き出した。あの二人を助けるためだ。俺が人肌脱ぐとするか。
「モミジ!レンカ!」
俺は見向きもせずに、モミジとレンカに大声をかける。
「そいつを、任せるぞ!」
「え?あ、アヤトさん!?」
「アルジン?それは一体・・・!?」
俺は二人の声を聞かず、ある魔法を準備し、ルリとクロミルに展開する。
「【空縛】!」
俺はルリとクロミルを拘束する。あの二人だし、【空縛】で拘束出来る時間もそう長くないだろう。
(これで少しの間、二人は俺に攻撃出来ないはず。今の隙に・・・!)
【四色・赤青黄緑】を発動させ、魔力で形成した腕を使い、二人を持ち上げる。抵抗しているものの、【空縛】で拘束しているおかげで簡単に持ち上げる事が出来るな。そして俺は、そのまま二人を持ち上げ、この場から離れようと移動を開始する。
(まずはこの二人を、ブラグ教皇から引きはがす!)
そうすれば、ブラグ教皇からの命令が聞こえなくなり、動けなくなるだろう。動けなくなったところを思いっきり叩いて倒せば、すぐ二人に加勢出来る。
(待っていろ、モミジ、レンカ!)
それまで時間稼ぎを頼む!
「全力で目の前の敵を殺せ」
モミジ達から離れる際、ブラグ教皇が何か恐ろしいことを言っていた。
(敵を殺せ、だと!?)
この場合、ブラグ教皇が言う敵とは、間違いなく俺のことだろう。あいつ、去り際にとんでもない置き土産をしやがって。
「「・・・!?」」
ブラグ教皇の置き土産の言葉を聞いた直後、ルリとクロミルの抵抗が更に激しくなった。
(じょ、冗談だろ!?)
【空縛】で作った鎖がどんどん壊されていく!このままだと時間稼ぎにもならないじゃないか!?
(頼む!せめて町の外まで持ってくれ!)
俺は二人に【空縛】を追加で発動させ、二人を拘束する空気の鎖の数を増やしていく。
(駄目か・・・)
俺は二人を町の外に向かって思いっきり投げる。
(【空縛】)
俺は二人を空中に固定する為、【空縛】を再度発動させる。空気の鎖が二人を拘束する直前、
(!?ち!!)
二人は、俺の【空縛】を完全に抜け出し、町の外の地面に着地する。どうやら俺の即席の作戦は失敗だったらしい。まぁ、【空縛】で二人を長時間拘束出来るとは最初から思っていなかったからいいけどさ。
(二人とも、臨戦態勢だな)
本当、こういう状況で二人と戦うはめになるとはな。運命のいたずらが過ぎるんじゃないか?
「・・・げて」
ん?何か声が聞こえたな。この声、もしかして・・・!?
「クロミル、お前、平気なのか!?」
全然平気そうに見えないが、実は今まで正気を保っていたというのか!?
「早く、逃げて、ください。さもないと・・・、」
「さもないと?」
「殺して、しまいます。だから、逃げて・・・!」
俺には分かる。
今クロミルは懸命に戦っているのだと。あのブラグ教皇の魔法を受けたにも関わらず、正気を保ち、俺に出来る限りの情報を渡そうとしているのだと。
そんなクロミルの行動を、気持ちを無駄にしないために、今の俺に出来る事は一つ。
「俺は逃げない。お前らを助けて、また旅をするぞ」
ふと俺の脳内に、これまでクロミルと旅をしたい日々を思い出す。
よく料理を手伝ってくれ、よく俺達を気遣い、よく魔獣の警戒にあたってくれた。
ルリは、よく俺達に笑顔を見せてくれた。その笑顔に、俺は何度も救われた。
その二人が今、とても苦しんでいる。クロミルはなんとか俺に情報を提供してくれたが、ルリの方は・・・、
「だ・・・め・・・。に・・・し・・・、」
何が言いたいのか分からないが、俺を想って言っていることは分かる。
「安心しろ、ルリ。俺が必ず助ける。だから任せろ」
「おおおぉぉぉーーー!!!」
その言葉が聞こえたのかどうか分からないが、ルリは大きな雄叫びをあげた。
「ん?」
ここで俺は、クロミルの異変に気付く。
いつものクロミルとは違う、異様な気配。いつものクロミルとは異なる何かを感じる。
(これて・・・まさか!!??)
俺は、クロミルがある魔法を使おうとしていることが分かった。その魔法とは、俺が最近よく使用している魔法で、習得する際、多くの血を流したあの魔法だ。
(う、嘘だろ・・・!?)
俺だって、あんな危険な魔法を使用すると言うのか!?クロミルの奴、いつの間に練習をしたんだ!?
(あの目の色は間違いなく【色気】だ)
しかも、俺の見間違いでなければ、【白色気】と【黒色気】を同時に発動させているのか!?確かにクロミルには、白魔法と黒魔法に適性があるが、だからといって2種類の【色気】が扱える、というわけじゃないだぞ!?
(まさか、俺が普段から使っている【色気】を一目見て覚えたというのか!?)
あんな魔法、見ただけで覚えられるほど甘い魔法じゃないんだぞ!?今回ばかりは、クロミルの才能が恨めしい。
(!?)
さらに別の気配がある。この気配、クロミルから、だと?
(まさかクロミル、【色気】の他に別の魔法を使うと言うのか!?)
ほんと、規格外過ぎる・・・。だがこの気配、なんだろう。具体的に言えないが、よくない気がする。
(ていうか、隙だらけな今の内に拘束すべきだろうが!)
俺は、今までクロミルを見ていて棒立ちだったことに気付き、クロミルに向けて【空縛】を発動させる。
(な!?)
俺の【空縛】は、クロミルに触れる前に弾かれてしまう。一体どういうことだ!?俺の魔法は一体、何に弾かれたんだ!?
だが、これで一つ分かった事がある。
今は、下手に手を出さない方がいいということだ。ここは大人しく様子を見よう。
(・・・様子見して、いいのか?)
なんか、クロミルの様子がおかしい。下手に手を出せないし、一体どうすればいいのだろうか。
俺が何故、何もせず様子見しているのかというと、【空縛】が弾かれたから、何をしてくるのか分からず、何も出来ないのである。本当、何も出来ない自分が悔しい。
「!?」
自身を悔いていると、クロミルから莫大な魔力を感じた。この魔力、一体なんだ!?クロミルの周囲の魔力が可視化されていないか?
(!?なんだ、この悪寒は!?)
何が何でも止めなくてはならない。俺の直感がそう叫んでいた。
「【空縛】!」
俺は無意識のうちに【空縛】を発動させ、クロミルの四肢を拘束しようとする。だが、再び俺の【空縛】は何かに弾かれてしまった。
(やっぱり無理だったか!)
俺はただ見ている事しか出来ないのか!?
「クロミル!!」
俺の声が届いていないのか、呼びかけに応じない。
(止めたいのに。どうすればいいのか分からない・・・!)
クロミルは、自身の体を変化させている。
白と黒の斑点模様に赤が追加され、雰囲気に棘を帯びる。爪は伸び、心なしか、歯が牙のように伸び始めている。敵意が俺に対して剥き出し状態となり、手を地面につけ、四足歩行する動物のような構えをとり、腕や足から角のような形状の何かが伸び始めている。
(まるで、凶暴な獣じゃないか・・・)
今までが知性ある人間なら、今は見境なく襲い掛かろうとする獣、というところか。持っていた魔銀製の剣も、シンプルな形の剣から、柄の部分に蛇と牛の模様が追加され赤く染まる。
「【狂暴牛化】」
・・・詳しいことは分からないが、今まで以上に警戒しなくてはならないようだ。
(あの姿にこの威圧、ただごとじゃない!)
少なくとも俺はあんなクロミル、一度も見たことがない。もしかしたら、あの姿が、クロミルの全力なのかもしれない。
(まさかこんな形でクロミルの新たな一面を知ることになるとはな)
本当、あいつは絶対に許さない・・・!?
(なんだ、この気配!?この気配は・・・ルリか!)
ルリもこの場にいて、あのブラグ教皇によって操られているんだったよな?そして、クロミルはあのブラグ教皇の言葉で全力を出した、と。まぁ、今の状態がクロミルのっ全力でない可能性も考えられるが、全力だと仮定しよう。
なら、ほぼ同じタイミングで操られたルリも、クロミル同様全力をだすのではないか?
(だが、ルリの全力って・・・?)
瞬間、俺のある考えが脳内に浮かび、震え始める。震え始めた瞬間、ルリからある魔法の気配を感じ取る。その感覚は、さきほどクロミルから感じ取った気配と酷似しているものだった。
(まさか、ルリも仕えるというのか!?)
それは、今もクロミルが使っている魔法、【色気】だった。【色気】を使っているためか、ルリの目が青色に光っていた。
(青色ということは、ルリは【青色気】使っているのか?)
ルリ、いつの間に【色気】を使えるようになったんだ?そのことについて詳しく聞きたいところだが、今はそんなことどうでもいい。
(【色気】を使わなくても化物級に強い二人が手を組み、なおかつ【色気】を発動している、と)
クロミルに至っては、【色気】だけでなく別の魔法も併用していそうだ。
(俺がこの二人に勝てるかもしれない方法は、【色気】しかない)
けど、本当に【色気】で勝つことが出来るのか?【色気】をそこまで信用していいのか?
(やらなきゃ)
俺がやらなきゃ他に誰があの二人を抑えられる!?
モミジか!?
レンカか!?
二人とも、圧倒的に戦力不足だ!仮に二人が協力したとしても、ルリとクロミルには敵わないだろう。
なら、二人を分担させて、片方を二人に任せるか?
無理だ!それを実現させたとして、ブラグ教皇はどうする!?あいつだって何をしてくるか未知数なんだ!正直、俺が3人相手にするのが最もよかったのかもしれないが、俺にそれまでの力があるとは思えない。
(まぁ、俺がルリとクロミル二人を相手に善戦出来るとも思っていないのだが)
それでもあの二人を助けるためにしなきゃ駄目なんだ!
せめて、勝とうと思うな。モミジとレンカがあのブラグ教皇を倒してくれるまでの時間稼ぎをすればいい。
(そう思えば、幾分か気が楽だな)
勝てる気がしない相手二人に時間稼ぎ、か。出来るだけ戦う時間を減らすために、声をかけてみるか。もしかしたら何か変化が起きるかもしれないし。
「おいクロミル!その姿は一体何だ!?俺、一回も見たことがないぞ!?」
「・・・」
俺の言葉に対して、返ってきたのは強い警戒心だった。クロミルの奴、俺の事を本気で敵と認識しているのか!?
「らしくないな。それが仮にも、主に向けていい目なのか?」
「・・・」
クロミルの口から、一筋の赤い何かが地面に落ちた。
(分かるよ。嫌だよな。自身の体を好き勝手に操られて、気分がいいはずない!)
さて、次はルリだ。
「ルリ、お前もだぞ!仮にも俺はお前の兄なんだぞ!?兄に憎悪の感情を込めて睨みつけていいと思っているのか!?」
「おおおぉぉぉーーー!!!」
俺の言葉に反応し、大きな雄叫びをあげている。
(分かるよ、二人とも。辛いよな。本当に辛そうだ)
だから俺は助けるんだ!
(【四色気・赤青黄緑】!)
俺は【四色気・赤青黄緑】を発動させ、自身の身体能力を向上させる。
「お前ら二人に教えてやるよ。覚悟しておけよ」
俺は深呼吸し、二人を見る。
「お前らの主の、兄の力ってやつをな!」
俺は緑魔法で思いっきり風を起こし、砂埃を発生させる。
(この隙にある細工をして、と・・・)
俺は剣を構え、クロミルに突撃する。
「・・・!?」
「ふん!」
俺は、クロミルが明後日の方向に攻撃をしている間に、俺はクロミルの横っ腹に重い一撃をくらわす。
「どうだ、驚いたか?」
俺は、砂埃が舞っているうちに即興で俺と同じ体型の土人形を作成し、俺がもう独りいるように動かしたのである。つまりクロミルは、俺と土人形を間違えて攻撃したのである。
俺が追撃しようと突っ込んでいき、クロミルめがけて魔銀製の剣を振り下ろす。
(ち!やっぱ防がれるか!!)
俺の剣は、クロミルが持っている剣によって防がれた。
(さぁ、ここからだ!)
俺は、目の前で相対しているクロミルと、今も攻撃の準備をしているルリに、一切の気の緩みは許されない。
次回予告
『5-2-27(第414話) ブラグ教皇との戦い~VSブラグ教皇その1~』
彩人がルリ、クロミルとブラグ教皇を分断したことにより、モミジとレンカは、ブラグ教皇を相手することになる。ブラグ教皇は数的不利にも関わらず、魔道具、死への冒涜を発動させ、有利な状況へ持ち込もうとする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




