5-2-25(第412話) 義妹に見られたくなかった景色
彩人達がルリ、モミジから離れて少し時間が経過。
「・・・ん~」
ルリは大きく背を伸ばしながら、ゆっくり目を開ける。
「あ、起きましたか?おはようございます、ルリさん」
モミジはルリの目覚めに合わせて声をかける。
「おはよう、モミジお姉ちゃん」
ルリは何かを探すように、周囲を見渡す。
「お兄ちゃん達は?」
ルリはさきほど探していた人達、彩人達の行方について問う。
「アヤトさん達は・・・、」
モミジは少し考えてから、
「今、冒険者ギルドで依頼を受けていますよ。なんでも、一晩かかる依頼のようみたいで、今日は帰ってこないみたいです」
「ふ~ん」
ルリは再び背を伸ばし、大きくあくびをする。
「ん?」
ルリは突如、周囲を見渡し始める。
「どうしました?クロミルさんとレンカさんなら、アヤトさんに付いて行きましたよ?」
モミジは、ルリがクロミルとレンカを探していると推測し、クロミルとレンカが彩人と共にいることを伝える。
「ん?」
ルリは再び周囲を見渡す。
「次はどうしたのです?もしかして、お腹が空きましたか?夜食の準備を始めましょうか?」
モミジはアイテムブレスレットからホットケーキと一緒にフォーク、ナイフを取り出す。
「・・・違う」
「え?」
モミジは、いつもと異なるルリの声質に驚く。
「・・・クロミルお姉ちゃん達が危ない」
「え?・・・ええ!?」
ルリはモミジの驚きを気にもせず、部屋から飛び出す。
「あ!?ちょっと待って!!」
モミジはさきほど取り出したホットケーキ、ナイフ、フォークをアイテムブレスレットに慌ててしまい、ルリを追いかける。
「あれ?いない?」
モミジはルリの後を追う。
「・・・いた!」
何度も見失いながら、ルリを懸命に追いかけ続ける。
そして、
(いた!よかった。ルリさんが止まっている)
モミジはルリに追いつく。
が、ルリの視線の先には、今のモミジには信じられない光景が広がっていた。
(嘘!?)
それは、血で赤く濡れながらも宙に浮いているクロミルと、驚きの表情を隠せない彩人とレンカだった。
(どうしてクロミルさんが血まみれに!?)
「クロミル、お姉ちゃん?」
こうして、ルリとモミジは、彩人、クロミル、レンカを発見する。
ルリの感情が、ルリ自身の魔力に闇の影が差し込み始めていく。
ルリが、見ていた、だと!!??
(一体どこまで・・・!?)
いや、この状況を見れば、大体の見当はつきそうだな。
「ルリ、大丈夫だか・・・、」
俺がルリに声をかけたのだが、
「クロミルお姉ちゃん、死んじゃった、の?」
「!?違う!!絶対に、死んでいない!死なせない!!」
「そうですルリ殿!クロミル殿が死ぬなんてわけありません!!」
俺とレンカが必死にルリを落ち着かせようとしたのだが、
「クロミルお姉ちゃんが、死・・・、」
ルリに声が届いていない。
「そんなの、嫌・・・、」
ルリの感情が周囲に圧を与え、
「いやーーー!!!」
莫大な魔力を生む。
そして、
「おおおぉぉぉーーー!!!」
「「!!??」」
「おやおや。これは一体何なのです?」
ルリに大きな変化をもたらす。
体は少女から怪獣のような容姿へ変化した。
(あの見た目、最初にルリを見た時に似ているな)
最初に会ったバカでかいサイズではないのだが、それでも大きい。それに、
(魔力量がさっきと段違いだ・・・)
まさかこんな場面でルリの成長を感じるとはな。
(というか、モミジはどこにいるんだ?)
モミジにルリの面倒を見るようお願いしたというのに・・・。
「ルリさん!?」
「モミジ!?」
「モミジ殿!?」
モミジが姿を見せた。息切れしているあたり、ルリを探して奔走していたのだろう。
「アヤトさん、レンカさん、ごめんなさい!ルリさんがいきなり飛び出して・・・!」
「今はそんなこと後だ」
ルリがいきなりモミジから離れたのならしょうがない。モミジを責めるわけにはいかないな。
「ルリが、暴走した」
「ルリさんが!?でもどうして・・・!?」
モミジは、血で赤く濡れてしまっているクロミルを目視し、驚きの感情を露出させる。
「そういうことだ」
「!?一体何が・・・!?」
「細かい話は後だ。今は、」
ルリが大きな遠吠えをしている。この遠吠えだけで気が飛びそうだ。
「ルリを、助けないと・・・!?」
瞬間、何者かが俺の目の前に現れ、俺が吹っ飛ぶ。
「!?アルジン!!??」
「!?アヤトさん!!??」
「!?なん、だ・・・!?」
俺は目の前の光景に驚きを隠せなかった。
何せ、俺を吹っ飛ばしたのがクロミルだったからだ。
(どうして・・・!?)
俺が驚きから目を覚ませずにいると、ブラグ教皇が笑いながら愉快に答えた。
「はっはっは!実に素晴らしい!これが【愚操】の効果ですか!まさかこれほどの可能性を秘めているとは!この魔道具を授けて下さったカラトムーア様に最高の感謝を!」
ブラグ教皇は、暴走しているルリの隙をつき、クロミルと同じ魔法、【愚操】を発動させた。
(ち!)
ブラグ教皇の魔法に気付かず、俺はさきほど攻撃してきた者、クロミルを見る。どうやらさきほどのブラグ教皇の言葉を聞く限り、さっきのクロミルの攻撃はブラグ教皇によるものだったか。
(確かあのブラグ教皇、【愚操】って言っていたよな?)
となると、ブラグ教皇がクロミルを操っている、ということなのか?そうじゃなかったとしても、クロミルが俺を攻撃するなんて普通じゃない。そして、普通じゃなくさせたのは、間違いなくブラグ教皇だ。
(なら、真っ先に倒すべき相手は・・・!)
俺は、クロミルに攻撃させるよう仕向けた張本人、ブラグ教皇に視線を向け、攻撃に移行する。
(まずはあの杖を破壊する!)
俺は咄嗟に魔銀製の剣を掴み、ブラグ教皇に突っ込む。
「おやおや、怖いですねぇ」
俺は杖に向けて思いっきり剣を振り下ろす。
が、
「ですので、防がせていただきますよ」
「!?クロミル、お前!!??」
「・・・」
俺の剣は、クロミルが防いだ。俺と同じ、魔銀製の剣を手に取って。というか、いつの間に魔銀製の剣を手に持っていたんだよ。
「牛人族によって、ねぇ?」
「!!??てめぇ!!」
俺はクロミルをどかすため、より力を込める。
だが、
(!!??まただ!さっきと同じ、横からかよ!!??)
「アルジン!」
「アヤトさん!横から・・・!」
モミジの声を聞くことが出来ず、俺は地面に衝突する。
(いった。一体誰が・・・ち!くそったれが!!)
俺は、攻撃してきた者を見た瞬間に、自身に悪態をつく。何せ、さっき見ていた光景を、出来事を忘れていたのだから。
「ルリ、お前もか・・・!!!」
「おや?もしかして、大切なお仲間をお忘れなのですか?」
「くそったれが・・・!!!」
さきほど、ルリもブラグ教皇の魔法、【愚操】によって操られているのだと。
(どうする!?)
ただでさえ一人でも相手にしたくないクロミルとルリが操られて敵になっているこの状況。そのうえ、未知の力を使い、まだ余裕を見せているブラグ教皇。
「本当、最悪な状況だ・・・」
思わず笑ってしまうくらいに。
「それでは、私の実験に付き合ってくださいね?まだ試したいことがあるのですから」
そして、ブラグ教皇も笑う。その笑みの黒さは、俺が今抱いている絶望の黒と酷似していた。
次回予告
『5-2-26(第413話) ブラグ教皇との戦い~分断~』
クロミルとルリがブラグ教皇の魔法、【愚操】によって敵対してしまう。3対3であるにも圧倒的に不利だと自覚した彩人は、ある行動を起こす。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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