5-2-20(第407話) 教会で保護された孤児、シーナリ
「私もナナちゃん同様、親に捨てられました。その後、何カ月も町の中を放浪し続けました。そんな時に手を差しのべてくれたのがブラグ教皇だったのです」
ブラグ教皇?・・・ああ、俺達が狙っている教皇の名前か。いつも教皇教皇言っていたから、名前まで覚えていなかったな。クロミル達との話でブラグなんて単語、出ていたっけ?まぁいいか。今はこのままシーナリの話を聞き続けるとしよう。
「最初、ブラグ教皇の優しさに感謝していました。ですが、ブラグ教皇が私を拾ったのにはある理由があったのです」
「ある理由?」
「はい。その理由は、私、神様の声を聞くことが出来るのです」
「・・・」
神様の声を聞くことが出来る、だぁ~~~???こいつ、一体何を言っているんだ?まさかこいつ、妄想と現実の区別がついていないのか?だとしたらこいつ、相当可哀そうなやつだな。
「・・・あの、決して嘘をついているわけではありませんので、そのような顔をなさらないでください」
「・・・いや、ちょっと驚いただけだ。他意はない」
本当は他意しかないのだが、黙っておこう。
「最初は戸惑いました。私を純粋な優しさで助けたのではないと。もしかしたら、私はまた捨てられてしまうのではないのかと」
「・・・」
俺は黙ってシーナリの話を聞き続ける。
「ですが、その悩みはすぐに晴れました。何せ、私のやるべきことは一つなのですから」
「一つ?」
「はい。それは・・・、」
シーナリは、さきほど子供、ナナちゃんと呼ばれた子供が出入りした扉を見る。
「昔の私のような、親に捨てられた子供を助けることです。今もナナちゃんみたいな子を助けて保護し続けています」
(確かにあの子供、幸せそうだったな)
さっき水を運んでくれた子供の詳しい事情なんて知らないが、少なくとも今は、この場にいて幸せそうだった。そういう意味では、シーナリのこの活動は、意志は正しいのだろう。俺には決して真似出来ないな。
(でも・・・、)
こいつが今、どんな理由で何をしているのか、大体分かったと思う。だが、どうして俺をここに留めたのか、その理由が分からない。
「そしてある日、私が親に捨てられた子供達の世話をしていた時、神様の声を聞いたのです」
「神様の声?」
あぁ。さっき言っていた、神様の声が聞こえる、という能力か。あれ、現実の話だったのか。夢物語でも語っているのかと思ったぞ。
「はい。その声を、ブラグ教皇に必ず伝えていたのですが、このお声は、必ず神色剣を持っているあなた様にお伝えすべきだと判断し、このように話をきいてもらっています」
「なるほど。そういう事か」
こいつは、神の声を聞いて、その声を俺に伝えるために、こうして話しかけてきたと。だとするなら、俺の記憶の中に、こいつに関する名前、顔がないのも頷ける。何せ、この女とは今日初めて会ったのだから。
(だが、それでもおかしな点があるな)
その点について聞いてみるか。
「いくつか聞いてもいいか?」
「ええ、いくらでも聞いてください」
「まず、俺がここに来ることが分かっていたのか?」
「はい。神様のお言葉で、近いうちにこの教会を訪れる、ということでしたので待っていました」
神からのお言葉、ねぇ。なんか見張られているようで少しやだな。
「この剣がどうして神色剣だと分かった?」
「それに関しては、神様からあなたが神色剣を持っていると告げられました。そして、あなたの性別、容姿を伺っておりましたので、さきほど教会で声をかけさていただきました」
・・・さっきから、俺の行き先と言い容姿と言い、神は俺をストーキングしているのか?色々知っていて怖いんだけど。
「それで、神は何を伝えたんだ?」
その言葉で、シーナリは目を少し瞑った後、目を開けて答える。
「神様はこう仰っていました」
“かの者は白の国で大きなことを成す。そなたはかの者に力を貸してほしい”
「と」
大きなことを成す、ねぇ・・・。
(もしかしてばれたのか?)
俺が教皇の家を襲撃し、魔道具を破壊しようとしている計画がどこからか漏れたというのか!?まさかこいつ、誰かに告げ口してねぇだろうな?
(それならその時は口を塞ぐしかないな)
最悪の状況を考えた俺は、魔法の準備を始める。殺すにしても、【空縛】でシーナリを拘束して、色々と話を聞いてから殺すとするか。出来れば殺したくないけどな。
「その大きなことの詳細は聞いたのか?」
俺は、はっきりゆっくり、相手に聞こえるように話す。この返答次第で俺は・・・。
「いいえ。ですが、あなた様の行動を見て確信しました。あなた様は必ず、この国のために何か大きなことを成そうとしているのだと。ですから私は、自分の意志であなた様に力をお貸しします」
・・・どうやら俺の杞憂だったみたいだな。それにしても俺、そんな行動をしていたのだろうか。ただ正月の初詣みたいなノリでお祈りしただけだと思うのだが・・・?
(この女を信じていいのか?)
こいつはきっと、まだ何か隠している。それも話してほしいと思うのは俺の我が儘だろうか?
(・・・我が儘、だな)
俺だって、この女に隠していることが山ほどある。
だから、俺だけ一方的に教えてもらうのは我が儘で、俺が言えたことではないだろう。
(なら、)
この女を信じよう。お互い、隠し事をしているとしても、信じるしかないんだ。
(それにきっと、リーフやイブ、クリムだって俺に隠し事をしているはずだ)
例えば・・・胸のサイズ?
・・・俺、例えがひどすぎるだろ・・・。
「・・・あの、どうかなさいましたか?」
「・・・いや、自分の想像力に絶望しているだけだ。気にしないでくれ」
「はぁ」
考えが逸れてしまったので正すとするか。
(力を貸してくれる、か)
これから俺は、人の家に侵入し、人の魔道具を壊すという、道徳に反する行為をしようとしている。そんな行為のために力を借りようなんて思わない。
「これでもしかしたら、ブラグ教皇を助けられるかもしれません」
「ん?どういうことだ?」
「!?い、いえ!!??なんでもありません!?」
「いや、なんでもないことはないだろう」
さっき、ブラグ教皇を助けられるとかなんとか言っていたじゃないか。
(まさか・・・、)
ここで俺は、ある可能性を思いついたので、その可能性をシーナリに話すことにした。
「お前が俺に力を貸す理由ってもしかして、ブラグ教皇に関係しているのか?」
「・・・最後まで隠し通そうとしていたのですが駄目でしたね」
シーナリは少し呆れたように笑うと、その笑みのまま俺に話しかける。
「ええ、そうです。私はこの機会にどうか、ブラグ教皇を助けてほしいのです」
・・・どうやら俺の目の前にいる女、シーナリは、神の声だけで俺に力を貸してくれるわけではないらしい。シーナリにはシーナリなりの理由が、想いがあって、俺に力を貸してくれるのか。
(ならそれも聞かせてもらうとするか)
そうすればきっと、シーナリの真意が分かるはずだから。
次回予告
『5-2-21(第408話) 真意を話し始める女、シーナリ』
彩人はシーナリから、教皇の魔道具の破壊に協力してくれると自ら進言する。
その話を聞いた彩人は、まだシーナリが何か隠していると考え、シーナリの言葉に迷っていると、シーナリがポロリと本音を漏らす。そこから、シーナリの真意を聞き始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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