5-2-19(第406話) 教会に属している初対面の女
「さぁ、どうぞ」
教会の裏側の扉前に着いたところで、女は俺に声をかけた。
(警戒を怠らないようにしつつ、中に入るか)
俺は軽く会釈して、女の案内の元、教会の中へ入る。
(中は普通の民家みたいだな)
木造建築で、特に変わったところはないな。
(奥にある多くの魔力反応を除いては、な)
俺に何か隠していることは確定だな。だが、今目の前の女に聞いたところで教えてくれるわけないから、警戒は引き続きしていくか。
「何もなく、汚いところですが、どうぞ」
女は部屋の中にある椅子を一つひき、俺に座るよう促してきた。俺はその椅子に腰を下ろす。その様子を見た女は、俺と向かい合うように椅子の位置を調整し、座る。
「さ・・・、」
女が話し始めようとしたところで、突如、俺が使用した扉とは異なる扉から音が聞こえた。
(もしかしなくても、俺を殺しに来たな!)
俺は魔法の準備をし、神色剣に手をかけたところで、扉は開かれた。
「お水、どーぞ」
扉を開けた者は、小さな子供だった。
(・・・子供?だが・・・、)
子供を暗殺に利用する話はよく目にしていたな。目にしていたといっても、本の中の話だが。
(子供が今持ってきた水の中に毒が入っていそうだな。【毒感知】)
・・・あれ?毒の反応がない、だと?俺の魔法が失敗したか?それとも、子供が持ってきた水に毒が入っていない、ということなのか?
子供は俺の前に、水が入った木製のコップを置き、女の前にも同様のコップを置く。
「ありがとう、ナナちゃん。もうお部屋に戻っていてね」
「うん♪」
ナナちゃん、と呼ばれた小さな子供は機嫌をよくしたまま、この部屋から出て行った。
(この女の娘か?それにしてもこの女、若過ぎないか?)
そもそも、血が繋がっているのか?あまりにも似ていなかったように見えたからだ。だが、赤の他人が同じ家の中で過ごすことなんてあまりないんじゃ・・・?
(まさか・・・?)
俺はこの状況に既視感を覚えた。この感覚、確か前にも見たことがある。
(そうか)
なんとなくだが、あの子供は、ジャルベ達と同じ境遇なのかもしれない。まぁ、あくまで俺の主観なので何とも言えないのだが。
「・・・あの子はとてもいい子なのですが、親には恵まれなかったのです」
「そうか」
俺は、女のこの言葉であの子供のことが大体分かった。
あの子は親に捨てられた孤児で、この女が保護をしているのだと。
(本当、ジャルベ達みたいだな)
そんなことが脳内によぎったが、今は目の前の事に集中しよう。もしかしたらこの女は俺を殺そうとしているのかもしれないし。
「さて、本題に入りますか」
女は水を一口飲んでから話し始める。
「あなた様が今手にかけているその剣、もしかしなくても神色剣、ですよね?」
女は、俺が持っている神色剣を指差してきた。
「・・・いや、違う。これはどこにでも売っている普通の剣だ」
俺は咄嗟に嘘をついてしまう。
「・・・そう、ですか。ではそういうことにしておきます」
どうやら、俺が今嘘をついたことはお見通しらしい。俺って嘘、下手じゃね?
「・・・私、元はこの教会に拾われたのですよ。それでここまで育てていただき、本当に感謝しています」
「・・・世間話がしたいのなら、さっきの子供とすればいいんじゃないか?」
少なくとも、初対面の異性とするような話じゃないと思う。
(こいつの目的って何だ?)
分からない事だらけだが、ここで時間を潰すより、みんなと計画について話し合い、作戦の成功率を上げた方が得策だろう。そう思い、俺は席を立とうとしたのだが、
「・・・ここで私の話を聞いておいた方がよろしいと仰っておりますよ?」
俺はこの女の声で再び座る。
「・・・どういう意味だ?」
俺がそう聞くと、
「そのことも踏まえて説明いたしますので、私のお話、聞いてくれますか?」
確かに、この女のさっきの発言は引っかかる。
(仰っております、ねぇ・・・)
自分で思っているなら、こんな堅苦しい言葉は使わないはずだ。それなのに使ったとなると、誰かがこの女に言った、ということになる。
(一体誰が・・・?)
気になる。
・・・。
「分かった」
俺は諦めて、目の前の女の話を聞こうとする。
(そういえば、この女の名前、何?)
どうして俺、この女の名前を知らないまま話をしていたのだろうか。人の名前を覚えることが苦手で、そのことを察した女が気を効かせた、ということなのか?・・・そんなわけないか。そこまで気が効く人なんてそうそういるわけないか。
「あ、申し遅れました。私、シーナリ、と申します」
ここで、シーナリと自称した女が席を立って頭を下げ、また席に座る。
「それで、説明、してくれるんだよな?」
「はい、もちろんです。順番にお話しいたしますね。まずはそうですね・・・、」
シーナリは自身の顎に軽く指を当てて考え事をし始める。
「やはり、私の生い立ちから話しますね」
生い立ち、か。
「もしかして、さっきの子供と同様・・・、」
「ええ。私もこの教会に拾われた孤児なのです」
こうして俺は、教会に所属している女、シーナリと話をすることになった。
次回予告
『5-2-20(第407話) 教会で保護された孤児、シーナリ』
彩人を教会内に招き入れたシーナリは、自身にある能力があることを話しながら、自身が伝えたいことを話していく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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