5-2-14(第401話) 依頼しながらの情報収集
俺達が白の国の首都、シロネリに向かい始めて数十年。俺は成人し、酒をたらふく飲むように・・・、
(なっていないな)
日をまたいだものの、一日経たずに、シロネリに到着した。俺達が住んでいた町とこのシロネリ、結構近かったんだな。それとも、レンカの進行スピードが速かったのか。まぁどっちでもいいか。
「この町には、何しに来た?」
首都に入ろうとしたら、町の兵士が何か聞いてきた。この兵士、町に入る目的を毎回聞いているのだろうか。全ての人に毎回聞いていたら大変だろうに。
(いや、俺が初めてこの町に来たから聞いているのかもな)
であるなら納得だ。俺、この町に来たの初めてだからな。見知らぬ顔の奴が町に入ろうとしたら、何用で町に来たのか聞きたくなるのも必然だろう。
「冒険者として、この首都で依頼をこなそうと思ってね。黄の国で依頼をこなしていたのだが、白の国にどんな依頼があるのかと思ってな」
まさかボッチの俺がこんな口からでまかせをペラペラ話せるなんてな。俺の前世、口がまわる詐欺師、じゃないだろうな。ちょっと心配だ。
「ふ~ん」
なんか疑われている気がするな。一応、冒険者の証明書みたいなものを見せているのだが、信じてもらえるだろうか。
結論、通してもらえました。クロミル達の事を聞かれたが、クロミルは俺の冒険者仲間だとか、ルリは俺の妹とか、そんなところを話したら信用してくれた。この町に入りたいが為に、俺達の個人情報が一部漏れてしまった。
(でもまぁ、今更か)
少し前に拷問した騎士共が俺達の情報をこの首都の上層部に伝えているかもしれないからな。その情報が伝播してこの兵士に伝わっている可能性があるな。まぁ、可能性で済んだのでよかったとしよう。こうして白の国の首都、シロネリの中に入ることが出来たのだから。
「さて、まずはこの町を色々見ていくぞ」
「「「はい」」」
一体、教皇を名乗る者はどこにいるのかね。
数分後、
「ここが冒険者ギルドか」
俺達は冒険者ギルドの前に立っていた。理由は、冒険者ギルドなら色々知ることが出来るのでは?と、考えたからである。決して、見知らぬ無数の人達から教皇について精神的に辛いから、一人から冒険者ギルドについて聞いた方が精神的に楽だから、なんて理由はない。絶対だからな!
(あ。だったら俺が聞くんじゃなくて、クロミルやルリに聞いてもらうようお願いしたらよかったんじゃ・・・?)
・・・いや、俺は冒険者だ。だから俺は冒険者ギルドの場所を聞き、ここで依頼をこなしつつ、教皇の情報を色々聞いていくんだ。これでいいんだ。そう思う事にしよう。
俺達は冒険者ギルドに入り、どんな依頼があるか聞いてみた。
「冒険者カードを見せて下さい。・・・なるほど、青ランクの冒険者様でしたか。それでしたら、この依頼を受けてみませんか?」
紹介されたのは、賢猿の討伐依頼だった。
(賢猿、ねぇ~)
デベロッパー・ヌルのことが俺の頭によぎったが、そんなことは関係ないとギルドの受付嬢から話が続いていく。
「何でも、このあたりに出没して、低ランクの冒険者や行商人を襲い、荷物を奪っていきます」
ということらしいので、この際に森周辺、ついでにこの町周辺の情報も聞いてみた。依頼遂行のためだ。きっと何か教えてくれるだろう。教えてくれる情報が役に立てばいいのだが。
「変わった事ですか?そうですね~・・・最近、信仰心をより一層強化しようという取り組みがある、くらいですかね」
「信仰心の、強化?」
なんかとんでもないことを言っている気がする。俺は詳細に聞く必要があると直感的に判断し、詳細な説明を要求した。
「知らないのですか?」
受付嬢は俺に近づき、小声で話を続ける。
「なんでも、信仰心の強化と称して、定期的にお祈りさせているみたいです。私達みたいな冒険者、元冒険者からすればきなくさいんですけどね」
「きなくさい?」
「はい。どうやらお祈りと称して多くの民から魔力を吸い取っているみたいなんです。吸い取っている魔力の量が少ない上、確証もないので噂止まりなのですが、冒険者達はよく思っていません」
なるほど。その噂が騎士共、そして俺達まで流れたってところか。
「分かった。貴重な情報をありがとう」
「いえ。これくらいお安い御用です。それに、」
受付嬢は、俺の冒険者カードを指差す。
「専属受付嬢がいる冒険者なのですからね。例え専属契約を結べなくても、あなた様みたいな強い冒険者と関係を持つことが出来て、私は大歓迎ですよ」
どうやら俺がリーフと専属契約を結んでいることによって、目の前の受付嬢にいい印象を受けているようだ。リーフと専属契約を結んでおいてよかったわ。俺は受付嬢に感謝の言葉を言い、ギルドを去った。
(あの受付嬢の打算もあったかもな)
でもまぁ、今はあの受付嬢に対して、素直に感謝するとしよう。
「それじゃあ行くぞ」
俺のこの言葉に、
「「「はい」」」
みんな賛同して、俺に付いてきてくれた。
あれから俺達は簡単に準備を済ませ、目的地に向かった。
「ここらへん~?」
「ああ。ここらへんにいるはずだ。よーく、よ~く用心してくれ」
ここで改めて賢猿について説明しよう。あのデベロッパーも元は賢猿だからな。
賢猿はとても弱く、強さだけなら初心者の冒険者でも倒せるくらいだ。だが、他の魔獣にはない特徴がある。
その特徴は、魔道具を作ることが出来る、というものだ。魔獣の中で唯一魔道具を作ることが出来るらしい。らしいというのは、俺がこの世界の魔獣事情についてあまり知らないからである。そして、魔道具を作るほどの知能を用いて、俺達冒険者相手に、落とし穴やトラップを使用してくるとの事だ。
(その割にあのデベロッパーは俺相手に対して落とし穴やトラップの類は使ってこなかったな)
・・・もしかして、落とし穴代わりにレンカみたいなゴーレムを作っていた、ということなのか?
今はデベロッパーに関する考察は後にしよう。とにかく、賢猿と戦う際は、罠や不意打ちに注意すればなんてことない相手なのである。逆に言えば、賢猿だからといって油断していると不意打ちで死んだり罠にかかって死んだりするかな。
(この位置、木の枝の上に何かいるな)
俺は【魔力感知】である魔獣が木の枝の上にいることを知る。
(目の前に落とし穴があるあたり、この魔力は賢猿だな)
きっと、俺達が落とし穴に落ちるのを今か今かと待っているのだろうな。
だが、そう上手くはいかないぜ。
「クロミル」
「承知しております」
するとクロミルは拳を構える。
「それでは失礼します。牛術が一つ、【牛象槌】!」
クロミルは自身の拳を地面に叩きつける。すると、賢猿達が木の上から落ちてきた。中には、落とし穴に落ちていった賢猿もいた。自分で仕掛けた落とし穴に落ちるとは・・・。無理もないか。いきなりクロミルが地面を通して木を大きく揺らしたのだからな。
(落ちていない賢猿達は、俺が植物達で拘束して動けなくするか)
俺は地面に手を当て、未だ木の上にいる賢猿を拘束する。
「クロミル・・・、」
「既に討伐完了でございます。後は、ご主人様が拘束している賢猿だけでございます」
「お、おぉ。そうか」
流石はクロミル。仕事が早いな。
(俺もやるか)
俺は【空気の刃(エアカッタ―)】で賢猿の首をはねた。拘束していたから、用意に首を狙う事が出来たな。
「終わったー?」
ここでルリが呑気に声をかけてきた。
「ああ」
ルリの質問に、俺はそっけなく返す。これくらい、俺一人でも余裕だったな。まぁクロミルの力を借りたわけだが。
「アヤトさん、周辺に魔獣の気配はありません。そう植物が教えてくれました。これで安全に帰ることが出来ますよ」
「ありがとう、モミジ」
さて、討伐したことを証明するために必要な部位を刈り取るか。
(ついでに、賢猿達が製作したという魔道具を回収しておくか)
そのために、賢猿の拠点もおさえておきたい。一体どこに賢猿の拠点が・・・?
「もしかして、さきほど討伐した賢猿の住処を探そうとしているのですか?」
「・・・ああ」
驚いてはいけない。どうして俺の考えが手に取るように分かったのか驚いてはいけない。出来るだけ冷静に言葉を返そう。
「それならルリ分かるよー」
「それ、本当か?」
さっきから周囲を見渡していたが、もしかして賢猿の住処に関する手がかりを探していたのか。さっき、そっけない返事をしてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。
「うん!あっちだよ。付いてきて」
そう言うと、ルリは俺達の前に出て、どこかに向けて歩き始めた。それにしてもルリはいつの間にそんなことをしていたんだ?てっきり俺はただ呆けていただけかと思っていたんだが、違ったんだな。
ルリが歩き始めてからおよそ十分。
(ん?)
急に森の雰囲気が変わったな。何かあったのか?
「ここらへんだよ―」
ルリ曰く、ここが賢猿の住処らしい。確かに誰かの居住スペースが出来ているようだが・・・、
(まさかこの居住スペース全て、賢猿が作ったというのか!?)
あの竪穴住居、教科書で見たことあるな。あいつらまさか、家族とかいるのか!?
(・・・いても不思議ではないか)
牛人族のクロミル、魔獣のルリだって、こうして俺達という家族と共に行動しているのだからな。
(出来ればやつらの家の中から、いくつか魔道具を盗むことが出来ればいいのだが、)
果たしてどうやって盗ったものか・・・。もしかしたら、怪盗もこうやって宝を盗み出す方法について考えているのかもしれないな。
「私が囮となって暴れて、その間にご主人様達が魔道具を取る、という案はどうでしょう?」
・・・本当にこの子は優秀というか超人というかなんというか、俺の心、読み過ぎない?はたから見れば、こいつ、急に何を言っているんだ、という状態だが、俺からすれば俺の心を余すことなく晒していくエスパーである。
「いや、俺が囮をやる。だから他のみんなはその隙に賢猿が作った魔道具の回収。もしくは俺が討伐し損ねた賢猿の討伐を頼む」
「「「はい」」」
さて、俺は俺で撃ち漏らさないように頑張らないとな。クロミル達には出来るだけ安全に魔道具を回収してもらいたいからな。
(俺は囮だし、ド派手にいくか)
【毒霧】を思いっきり散布するか?いや、それだとクロミル達に被害が及ぶかもしれないな。となると、俺が使う魔法は・・・。
(せっかくだから、火遊び、してみるか)
俺は茂みを出て、賢猿の住処に姿を現す。
「「「・・・」」」
賢猿達は、いきなり出てきた俺に視線を集中させていく。中には、よく分からない道具を手に取っている賢猿もいる。あれは一体なんだ?三角錐みたいな形状をしているが、まさかあれが武器なのか?まぁいい。俺は出来る事をするだけだ。
(【蒼炎】)
俺は自身の掌に蒼い炎を出現させる。突如蒼い炎が出現したことで賢猿達が警戒し始める。
(これで俺に視線が釘付けになったな)
もう少し工夫するか。俺は掌の【蒼炎】を情報に移動させ、形状を変化させていく。
「賢猿共、隠れていないで出てこいよ」
俺の言葉に反応したのか、住居内から続々と賢猿達が湧いて出てきた。こいつら、こんなに隠れていたのか。
「俺とこいつが相手してやるよ」
俺は瞬時に【蒼炎】の形状を変化させる。どのように変化させたかというと、
(よし。これで、竜の口を開けると同時に、緑魔法で空気を振動させて音を出せば・・・!)
俺は疑似的に、炎の竜が咆哮したような、そんな体験を賢猿にさせる。緑魔法を応用させれば、音を出すことも出来るんだな、ぶっつけ本番だったが、上手くいったな。
「この、炎竜がな!」
竜の恐ろしさが本能的に埋め込まれているのか、賢猿達が後退し始めている。中には、この場から逃げようとする賢猿もいた。
「!?」
「この俺と炎竜が、お前らを逃がすと思うのか?」
なので俺は、緑魔法で植土壁を形成し、賢猿の住処からの逃げ道を断った。これで賢猿達は逃げられないはずだ。まぁ俺達も賢猿達から逃げられなくなったのだが、それは問題ないな。
「これでお前らは、俺達に背中を見せて死ぬか、俺達に抗って死ぬか、その二択だ。さぁ、お前らはどっちの死を選ぶ?」
すると、賢猿達はさきほどから持っていた三角錐形の何かを地面に叩きつけた。その直後、俺達を砂煙が覆い、視界が頼りにならなくなった。
(いや、これは砂じゃないな)
もしかして、魔力を粒状にし、可視化しているのか?まさか、あの三角錐形魔道具は、俺達の視覚を奪う魔道具なのか?この可視化されている粒状の魔力のせいで【魔力感知】も上手く出来ないな。だが、賢猿達も同じ状況のはず。
(!?)
何故か賢猿達は、俺と炎竜を的確に狙えていた。この状況で視界が頼りにならないのは俺も賢猿達も同じはず。それなのにどうして・・・?
(俺はともかく、この炎竜に矢は一切効かぬがな)
何せ、俺がさきほど炎竜と言ったのは、俺が作った魔法であり、生き物ではないのだ。なのでいくら攻撃しても無意味なのである。とはいえ、こちらから下手に攻撃すると、クロミル達に攻撃が当たるかもしれない。
(いや、それ以前にこの状況では、クロミル達は下手に動けないな)
となると、この砂煙みたいに舞い上がっているこれをなんとかする必要があるな。
・・・緑魔法で風を巻き起こして吹き飛ばすか。吹き飛ばせるかどうか分からんが、やってみるか。
(意外とやってみるもんだな)
どういう理屈かは不明だが、可視化された粒状の魔力は風で吹き飛ばせた。これで視界は確保出来たな。
(おそらく、俺達の視界を一瞬でも奪い、その隙に・・・というところだろうな)
相手の一瞬の隙をついて殺す。着眼点は悪くないな。だが、相手が悪かったな。
「【空気の刃(エアカッタ―)】」
俺は容赦なく賢猿に魔法を放ち、首を切断する。
「そんな一瞬の目くらまし如きでは、俺とこいつは止められないぞ」
俺は赤魔法で炎竜を操作し、賢猿を燃やしていく。
(さて、これでクロミル達も楽になるだろう)
魔道具の回収はクロミル達に任せて、俺は賢猿の討伐に勤しむとしよう。
(さて、これで一通り倒したかね)
あの三角錐形の魔道具の効力がほとんどなくなったのか、【魔力感知】がこれまで通りに出来るようになった。【魔力感知】で賢猿の魔力を探してみたところ、魔力反応がどこにもなかった。俺の【魔力感知】が完璧な魔法であること前提だけどな。これで俺の【魔力感知】に引っかからないよう、上手く魔力を隠蔽してくる賢猿とかいたら間違いなく不意打ちをくらうだろうな。念のために警戒しておくか。常時【魔力感知】は使っておくか。
(クロミル達の魔力は・・・一個所に固まっているな)
さきほどの魔道具の影響で三人ともバラバラになった、なんてことはなさそうだな。こっちは片付いたし、様子でも見てみるか。
「クロミル、そっちはどうだ?」
「今、全魔道具の回収を終え、レンカ様に鑑定していただいているところです」
「そうか」
相変わらず仕事が早いな。
「それで、みんな無事か?」
「はい。みなさまに傷一つありません」
「へいきだよ~」
「だ、大丈夫です」
「クロミル殿やルリ殿、モミジ殿が守ってくれましたからね」
「それはよかった」
どうやらさっきの状況でも無傷だったらしい。みんな流石だな。
「それじゃあ俺は、さっき賢猿の討伐部位をとり忘れていたからちょっととってくるわ」
「いってらっしゃいませ」
「がんばって~」
「あ、アヤトさん!私も手伝います」
「こっちは引き続き鑑定していきますね」
「おう。そっちは任せた」
その後、俺とモミジは、さきほど討伐した賢猿の討伐部位をとった。
「・・・これから討伐部位、とれるのですか?」
「とれないな。これは諦めよう」
ちなみに、炎竜で燃やした賢猿から、討伐部位をとることが出来なかった。炎竜で燃やし尽くしたためである。真っ黒でどこがどこだか判別が難しいな。判別出来ない、というわけではないが、こんな炭化間近の死体を受付嬢に見せたところで困るだけだよな。次からはもっと手加減するか他の色魔法を駆使して、焼死体を量産しないようにしよう。
討伐部位をとったので、ついでにこの賢猿の肉は食べられるのか聞いてみた。
「え?これを食べる、ですか?私には分からないです。ごめんなさい・・・」
ということだった。地球にいた時の俺なら、絶対に猿の肉を食べよう、なんて考えていなかったからな。
(一応、賢猿の死体はアイテムブレスレットにいれておくか)
食用とはいかなくても、賢猿の皮が鎧や服に利用できる可能性があるからな。そこまで調べていないから分からんが。
(・・・もしかしてだけど、賢猿の肉が食べられたら、デベロッパーも食べられる、という事になるのでは・・・?)
・・・深く考えないでおくか。今は依頼完遂の報告をしないと。
「それじゃあみんな、戻るぞ」
「「「はい」」」
さて、あの受付嬢に報告するか。
次回予告
『5-2-15(第402話) 賢猿の巣に突撃』
彩人達は、白の国の首都、シロネリで情報収集をしつつ、冒険者ギルドで依頼をこなしていく。その依頼の一つとして、賢猿達の討伐に向かう。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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