5-2-6(第393話) キメルム達が何も失わない方法
「それでは、作戦について大まかに説明する」
俺は気を取り直し、作戦について説明を始める。俺の言葉を聞いた瞬間、一斉にこっちを向いたな。なんか複数の視線を向けられて少し恥ずかしい気がする。やましいこと、一切していないのに変な感じだ。
「まず、騎士達を一人一人に分断し、個室に誘導する。その部屋で、死すら生ぬるい絶望を与え、無傷で町に帰す。そうすることで、やつらの体ではなく、心を殺す。それで上手くいく・・・はず」
簡潔に説明したつもりだが、これでうまく伝わっただろうか。次は詳細な説明を加えるとするか。
「…質問、してもいい?」
「そうですね。流石に今の説明だけですと、何が何やら分かりませんよ?」
「もちろん、これから詳細な説明をするつもりだ。さっきの説明だけで話を終わらせるつもりはない」
まさか、詳細な説明をしようとしたところでイブとリーフから質問をもらうとは思わなかったな。あの二人の事だ。おそらく、あの大雑把な説明だけで終わりかと思い、質問したのだろう。
「まず、騎士達を一人一人に分断し、個室へ誘導するところについて、詳細に説明する」
俺はこの場面でサキュバスのキメルムであるサキュラとサキュリを見る。
「この場面において、サキュラとサキュリに協力してもらいたいと考えている」
俺のこの言葉に、サキュラとサキュリはとても驚いた。まぁ、いきなり話をふられたのだから、驚くのも無理はないだろう。
「サキュラとサキュリには、サキュバスの特性を利用し、騎士達を魅了し、それぞれ個室へ誘導してほしい。出来るか?」
そう聞くと、
「「・・・」」
サキュラとサキュリは互いの顔を見つめ合った。もしかして、出来ないのか?出来ないのであれば別の方法を考えるしかないな。
「私達は、男性を魅了することは出来ますが、」
「女性を魅了することは出来ないです」
そう返答した。
女性を魅了出来ない、だと?
「魅了出来ないなら出来ないでいいんじゃないか?」
「それだと、騎士達全員を魅了することは不可能です。そうよね、サキュリ?」
「ええ、サキュラ」
・・・ん?どういうことだ?
まさか・・・?
「・・・もしかしてだけど、今回ここに来る騎士達の中に、女がいるのか?」
俺がそう聞くと、
「?ああ、いるが?」
ジャルベはこう返答した。
(まじか・・・)
俺の勝手な考えで、騎士達は全員男だと思っていたのだが、女も混じっていたのか。出来ればその女騎士もサキュラ、サキュリでなんとかしてほしかったが、出来ないのなら仕方がない。何か対策を考える必要があるな
「それなら、俺の【毒霧】で眠らせておくか。それが駄目なら、クロミルの【牛蜂突き】で気絶してもらえばいいか。それなら問題ないか?」
俺は確認の為、クロミルに聞く。これで駄目なら・・・正直、お手上げだな。
「お任せください。このクロミル、完璧に【牛蜂突き】を決めてみせます」
「おう。もしもの時は任せるぞ。それじゃあ、これで騎士達は分断出来るな。次は個室に誘導する件だ。話を続けてもいいか?」
俺はひとまずここで質問がないか全員に聞く。
「「「・・・」」」
・・・なんか質問がある、という視線を向けられているような気がするが、言葉にしないあたり、問題ないだろう。
「話を進めるぞ。次は個室の件だ」
誰かが唾液を飲む音が聞こえた・・・気がする。俺の気のせいか。
「個室については、これから作る」
俺のこの発言で、リーフ達が俺の事を、哀れな人を見るかのような視線で見てきた。俺だって、何も考えていないわけじゃないぞ?そのことをきちんと説明するか。
「まず、家の地下に個室を増設する。部屋の規模は、人が2人座って入れるくらいのスペースでいい。その個室を・・・ひとまず5部屋分、かな?」
ひとまず5人を一斉に隔離出来ればいけるかね。まぁ分からんが。
「…その個室って、どうやって作るの?」
イブが俺に質問してきた。そういえば話していなかったな。
「俺の緑魔法で増設するつもりだ。もしかしたら、緑魔法に適性を持つ他の奴らにも協力を要請するかもしれないが、その時はよろしく頼む」
「頼むって、部屋を作るほど魔力制御が上手い人なんてそうそういませんよ?」
俺が緑魔法で個室を作ると発言したら、リーフから呆れの感情が込められた鋭い指摘が飛んできた。
「そうなの?」
俺としては、魔法でちょいちょいと出来ると思っていたのだが、違ったのだろうか。魔法は色々と応用が効くから、個室作りも上手くいくと思っていたのだが、違ったのか?
「アルジン、普通は個室を作るのに莫大な魔力を必要とします。アルジンの魔力量ならなんとかなりますが、普通の人には到底出来ません。それに、半端な魔力制御では、個室なんて作れません。それを承知でアルジンは言っているのですか?」
「・・・最悪、俺一人で作るから問題ないさ」
個室の件に関しては、俺が独りで動くしかなさそうだ。まぁ最初から頼る気なんてなかったからいいけど。
(魔力量か・・・)
そういえば、こいつらキメルムの魔力量ってどれくらいなのだろうか?ちょっと気になるが、今は後回しだな。
「…大丈夫?一人で平気?」
「大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
「…ん♪」
心配してくれるなんて、イブは優しいな。地球でこんなに優しくしてくれたのは、俺の実の両親くらいだったな
・・・地球の思い出に浸っている場合ではなかったな。
「これで個室の件はおしまいだ。何か質問はないか?」
・・・なさそうだな。次の話をするか。
「それじゃあ次は、どうやって騎士達を拘束するか、だ。拘束する際、これを使用するつもりだ」
俺は自身のアテムブレスレットからある手錠を取り出す、みんなに見せる。
「…これって・・・、」
「あの手錠、ですよね?」
「ああ。あの時使った、あの手錠だ」
みんなに見せているこの手錠は、装着した相手の魔力制御を妨害し、魔法を発動させ辛くする魔道具だ。俺としては複雑な思いだが、この際有効活用させてもらうとしよう。
「この魔道具には、装着した相手の魔法を発動させ辛くするんだ」
「へぇー。その手錠にはそんな効果があるのですか」
俺の説明を聞いたレンカは近づき、手錠をマジマジと見始める。レンカは魔道具だから、同じ魔道具に興味があるのだろう。
「その手錠なんだが、その手錠を元とし、新たな機能を追加した新型の手錠をレンカに作って欲しいんだ」
「新たな機能を追加した新型の手錠、ですか?新たな機能とは、どんな機能なのですか?」
「相手の身体能力を下げる機能だ。そうすれば、その手錠を付けることで相手が肉体的に手錠を破壊しようとしても破壊出来ず、魔法も発動出来ない。そんな手錠をレンカに作って欲しいんだが、頼めるか?」
俺の頼みに、レンカは少し考えた。そして結論を出したのか、話し始める。
「・・・かなり無茶ぶりをしましたね、アルジン」
レンカは俺に対して、呆れの感情をぶつけてきた。レンカにとって、俺のオーダーはかなりの無茶ぶりだからなのだろう。
「そんな手錠、作るのに相当時間がかかるでしょうし、素材もかなりいいものを使用しないとアルジンの求める性能に届きません」
レンカが断言しているのだからそうなのだろう。俺は魔道具作りのことについてさっぱりだからな。
「具体的には、どのくらいいい素材を用意すればいい?」
「そうですね・・・、」
レンカは周囲を見ながら考えを巡らせているようだ。そして少し時間が経過。
「リーフ殿が携えている細剣。どうやら魔銀製のようですね」
「え?え、ええ。アヤトが作ってくれたのです」
「アルジンが?」
「ああ。俺が作ったぞ」
といっても、魔銀の塊をレイピアみたいな形状に変化させただけだ。詳しい作り方は知らん。他にもっと強度を高める錬成方法とかあるかもしれないが、あの時の俺には無理だった。
「この魔銀があれば、もしかしたら、アルジンが望む手錠を作ることが可能かもしれません」
「相手にかけることで、身体能力を下降させ、魔法を使えなくすることが出来るのか?」
「身体能力に関しては、手錠の完成度によりますね。魔法に関しては、完全に使えなくすることは出来ません。せいぜい使い辛くなる程度です。その認識でよければ、製作可能です」
俺はこのレンカの言葉を聞いて、口角が上がった。
「それで十分だ。それじゃあ手錠の製作に関して、レンカ、お願いしてもいいか?」
「ええ、了解しました、アルジン」
「分かった。何かあったら俺を呼べ。手伝える範囲で手伝うからな。」
「その時はしっかり頼らせてもらいますからね、アルジン?」
よし。これで手錠の件は解決だ。
後は、
「最後に、死すら生ぬるい絶望を与え、無傷で町に帰す件だ」
俺は呼吸を整え、自分の気持ちを落ち着ける。
「簡単に言うと、拘束した騎士達を拷問する。それも、死んだ方がマシだと思えるくらいにな」
俺の発言に、全員が息をのむ。
「俺はこの拷問で、白魔法を使うつもりだ。その理由が分かるか?」
俺はみんなに質問する。
「「「・・・」」」
いきなり質問されたことで戸惑っているのか、返答はない。俺は返答を期待して質問したわけじゃないからな。このまま返答を聞かずに答えるとするか。
「相手に絶望を与えるためだ。やっと死ねる、楽になれると思ったら、体は全快。だが、心は既に瀕死状態。そのうえでまた、相手を肉体的に追い詰めたらどうなると思う?」
「「「!!!???」」」
「相手の心が死ぬんだよ。時間が経てば回復するかもしれないが、そんな時間は与えない。相手に痛みを与え続け、心を壊す直前で情報を吐かせる。そしてから、壊す」
・・・みんな、俺の発言にドン引いているな。まぁ、自分でも自身の発言に若干驚いている。
「自分達の身を守るためとはいえ、かなりえげつないことをさせることになる。この場で言葉に出来ないようなこともさせてしまうだろう。だから、俺が独りでやってもいい」
拷問する時、グロ映像よりやばくなること間違いなしだろう。そんなことをこいつらにやらすのはまずいのではないか。俺はそう考え、先ほどの発言をした。まぁ俺だってグロ耐性があるわけでじゃあないが、他の奴らにやらせるよりはマシだと思う。
「…アヤト一人だけでって、正気?」
「ああ。拷問は、かなり負担がかかるからな」
幸い俺には、白魔法に適性があるからな。拷問するにはちょうどいい。
「具体的なことを言っていないのは、言う側も、聞く側も決して気分がよくないからだ。理由は、聞かなくても分かるだろう?」
「「「・・・」」」
これで拷問のことは解決だな。
(なんか俺に色々負担がかかっている気がするな)
まぁ、発案者が俺なのだから、俺の負担が大きくなるのも当然か。
「…色々分かった」
どうやら、イブはさきほどの俺の説明で理解出来たようだ。なら、これで人檻の説明は終わったかな。
「…私も、拷問する」
「え?いいのか?」
「…ん。むしろ、私に出来るのはこれくらいしかなくて申し訳ない」
「私もやります。こう見えて、色々見てきましたからね」
なんと、イブとリーフも拷問に協力してくれるらしい。これはありがたいな。
「俺もやる」
「・・・え?ジャルベ、お前もか?」
「ああ。こいつらをまとめる親分として、やらなきゃならねぇ気がする」
「そうか」
正直、拷問する人が増えるのはありがたい。何せ、俺一人で何人もの騎士を拷問するのはきついと考えていたからだ。
「それじゃあ頼むぞ」
「…ちなみに、拷問で何を聞くの?」
「何を聞く、か・・・」
「…もしかして、何も考えていなかったの?」
そのイブの発言で、リーフが哀れな者をみるような視線で、俺を見始めた。
お、俺だって何も考えていないわけじゃないぞ!
「も、もちろん考えているぞ!?まず、今回の経緯について聞くつもりだ!」
声が若干大きくなってしまったが、ちゃんと目的があって拷問する、ということは伝えたぞ!
「そ、そうですか。ただ単に憂さ晴らしをする、みたいな理由じゃなくて良かったです。変な疑いをしてしまってごめんなさい」
「べ、別にいいさ。俺の説明不足にも原因があったからな」
さて、これで大体話は終わったな。
「さて、これで俺の話、案について大体終了した。これまでのことを踏まえ、何か質問はないか?」
俺は改めて周囲を見渡す。
(質問は・・・あるのか)
なんと、俺以外の全員が手を挙げていた。さっきの説明では不十分というわけか。これは一人ずつ聞いていくか。
「まずは・・・ジャルベ。お前から聞こう」
「ああ。まず聞きたいんだが・・・大親分の負担だけでか過ぎないか?」
「!?」
俺はこのジャルベの質問に何も答える事が出来ず、思わず変な方向に視線を向けてしまう。
「・・・そっぽを向くという事は、図星なんだな」
ジャルベの指摘に、俺は何も言い返せなかった。
「俺にももっと手伝えることはないか?俺が手伝えなくても、もっと俺の仲間を、家族を頼ってほしい。俺の家族だって十分頼りになるんだからな!」
そう言い、ジャルベはサキュラ達に視線を送った。
「ええ。大親分の力になるため、家族を守るために、この力を存分に使わせてもらうわ。ねぇ、サキュリ?」
「ええ。私達の生活を守るために、ね。サキュラ」
「私、個室の増設に関しては力になれると思うわ。増設の件に関しては協力させて」
「拷問に関してですが、血を操作する私の能力が何か役に立つかもしれません。そのことを踏まえ、私も拷問にご協力出来ないでしょうか?」
サキュラ、サキュリ、ピクナミ、ヴァーナは俺に声をかけてくれた。
「ここにいる奴らだけじゃなく、他の奴らにも何が出来るか聞き、協力してもらうつもりだ。アヤトの大親分達に手伝ってもらうんだ。俺達に手伝って欲しいことがあるならなんでも言ってきて欲しい」
ジャルベの言葉に、この場にいた4人のキメルム達は頷いた。
(俺は頼っていたつもりだったんだが、そうじゃなかったんだな)
俺が反省していると、
「…私も、もっと協力する」
「ええ。個室増設の件に関して、私一人では個室を作るほど魔力は多くないのですが、助力することは出来るので、私の力を思う存分活用してください」
「ご主人様、私の推測ですが、拷問する際、白魔法をお使いになられますよね?なら、私の白魔法がお役に立つかと思います」
「アルジン、私、拷問に役立つ魔道具も、色々作ってみようと思います」
ジャルベ達の後、イブ、リーフ、クロミル、レンカがさらに手伝ってくれると言ってくれた。
「お、おぉ。みんな、ありがとうな」
俺の返事が若干変になってしまったが、しょうがないだろう。
「それじゃあみんな、騎士達の襲来に向けて、しっかり備えるぞ!みんな、よろしく頼む!」
「「「はい!!!」」」
騎士共、待っていろよ!お前達の思い通りになんかさせないからな!
次回予告
『5-2-7(第394話) 案の調整と前夜のご飯』
騎士達を迎え撃つための作戦を調整し、作戦決行を後日に控えた彩人達は、前夜の夕ご飯をいただく。そこで彩人は、明日も生きたいと思えるよう、ある行動をとる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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