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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
393/546

5-2-5(第392話) 動き始めるシロネリの者達

 白の国の首都、シロネリ内にある会議室。その会議室では、あることが決定した。

「これで騎士達の遠征準備が完了したな」

「ああ。これでようやく、あのにっくき魔獣もどきのところへ行かせられるな」

「行かせて、どうするつもりですかな?」

「決まっている。そんなの、あの魔獣もどきを監禁し、私達人間の生活の糧になってもらおう」

 それは、現在彩人達がいる町に騎士達を派遣し、キメルム達を捕らえ、キメルム達から魔力を吸収しようと画策していた。

「ただでさえ、あの町とも言えないボロイ町に放置するだけでも酷いのに、それ以上にひどくなる場合があるなんてな」

「ああ。それも今回は、きちんと場所を用意し、完全に反旗を翻されないよう管理しないとな」

「場所を用意したと言っても、牢屋、なのだろう?実質囚人じゃないか」

「囚人である事実は変わらないさ。何せ奴らは、私達に献上する魔力を献上せず、今もノウノウと過ごしているのだから」

 そう話し、この場にいる男達は笑う。

 この場にいる男達は、キメルム達を飼い殺そうとしていた。最低限の経費だけで、最大限の利益を生み出そうとしていた。その考えは、キメルム達を人間と捉えているのではなく、魔力を生み出す装置のように扱っていた。

「静粛に」

「「「!!!???」」」

 ある男の発言で、周囲の男達は一斉に黙る。黙らせた男は、周囲の男達も装飾が綺麗な服を身にまとい、自身が座っている席近くの杖をとる。

「これから、魔獣もどき共を拘束し、この町に活気を取り戻す」

 男は杖を掲げる。

「この戦いは、我ら人間の生活を守る聖戦でもある。場合によっては私達も赴く必要がある。心せよ」

 掲げた杖にはまっている紫色の宝珠が妖しく光を灯す。

「「「は!!!」」」

 こうして、彩人達の知らない場所で、大きな戦いの開戦が宣言された。

(・・・)

 そして、その宣言がされた後、部屋の外で聞き耳を立てていた黒き者は、自身がたずさえている黒い翼を静かに広げ、会議室から離れていった。

 そして長時間飛行の後、黒き者はある者を見つけ、下降していく。そして、その者の中に入るように消える。

「・・・そうか。分かった。ありがとう」

 その者、ヴァーナは一人納得し、黒き者、自身の眷属に対してお礼の言葉を述べ、自身が慕う者のもとへ向かう。

(親分のとこへ行って知らせないと!)

 ヴァーナは、今聞いた情報をどのように伝えればいいのか考えながら、気持ち早歩きでジャルベの元へ向かって行った。



「・・・急に集まってもらって申し訳ない」

 俺達は急遽、ジャルベの集合で集められた。何か深刻そうな理由があるのか、真剣な眼差しで言われた。だから俺は、何も言わずにジャルベの言葉に従った。

「…ん。それで何用?」

「ですね。あそこまで真剣に言われると気になります」

「ご主人様はなにかご存知なのですか?」

「いや、俺は知らん。レンカは?」

「もちろん知りません。魔道具関連であれば少しは力になると思うのですが・・・、」

 ここに集まったのは、イブ、リーフ、クロミル、俺、レンカだ。クリム、ルリ、モミジは外にいるキメルム達と何かしている。詳しいことは知らん。遊んでいるかもしれないし、勉強・・・はしていなさそうだ。何せ、勉強嫌いなクリムがいるからな。きっと大人しくしているだろう。

 そして、ここにいるのは俺達5人だけではない。

「さて、これから話を始めるか。ヴァーナ、後は任せていいか?」

「はっ!」

「頑張って、ヴァーナ」

「私達も出来る事はするわ。そうよね、サキュリ?」

「ええ、サキュラ」

 ジャルベ、ヴァーナ、ピクナミ、サキュラ、サキュリの5人もいる。

 ちなみに、サキュラとサキュリは双子の姉妹で、サキュバスのキメルム、だそうだ。最近知ったわ。そもそも、この町に住んでいるキメルム全員の顔とか覚えられないわ。覚えられるやつら、本当に凄いと思う。俺なんて、この場に奴らしか覚えていないぞ。

(あ、ゴダムは覚えているから違うわ)

 ・・・まぁ細かいことはいいや。それより今はこの事態に集中しよう。

「まず、私が眷属をこの国の首都、シロネリに飛ばしたところ、とある会議室である話を傍受しました」

「ある話?ある話ってなんだ?」

 俺は、ヴァーナのある話という発言が気になり質問する。

「・・・私達を、キメルムを監禁するという話です」

「「「!!!???」」」

 このヴァーナの発言に、ヴァーナ以外の全員が驚く。ヴァーナも。自身の発言に震えていた。

(それにしても、監禁してどうする・・・そうか!)

 おそらく、つい最近まで、こいつらキメルム達から魔力を吸い取っていた。その魔力分が無くなったのだ。ならどうするか。

 また魔力を吸収出来るようにすればいい。今度は魔道具を壊されないよう、確実に。

(だから監禁、てわけか)

 ・・・ん?監禁するにしても、一体どこに監禁するつもりなんだ?監禁という言葉自体耳障りは悪いが、監禁される場所によっては、監禁されるのもいいんじゃないか?ちょっと聞いてみるか。

「監禁される場所はどこか分かっているのか?」

「ええ。牢屋です。ある人が囚人扱いではないか、という発言をした時、全員笑っていました」

「・・・悪い」

 俺は、僅かな希望に縋らせようとしてしまい、申し訳なくて謝罪をした。結局、監禁というのは言葉通りだった、というわけか。

(糞野郎が!)

 もしかしたら監禁というのは言葉の綾で、実は幸せな生活が送れる、なんて可能性も考えていたんだが、そんな考えをよぎってしまった俺が馬鹿だった、というわけか。

「…それで、どうするつもりなの?」

 俺がさきほどの自分の発言に憤りを感じていると、イブがジャルベ達に質問してきた。

「どうするって・・・?」

「…今後の事」

「「「!?」」」

 イブの言葉に、ジャルベは再び驚く。いや、ジャルベだけでないな。ヴァーナ、ピクナミ、サキュラ、サキュリも驚いているな。

(無理もないか)

 今後の事なんて、すぐに考えつかないだろうし、動揺してそれどころじゃないだろう。

「・・・俺達は、どうしたらいい?」

 ジャルベはこっちを見ながら言ってきた。

(あれ?俺の後ろに誰かいたっけ?)

 俺は後ろを向く。

 ・・・誰もいないな。もしかして、俺に聞いている?確認してみるか。

「・・・もしかして、俺に聞いている、のか?」

 これで、

“は?何言ってんの?お前なんかに聞くわけないじゃん!思い上がりも甚だしいわ、ボケェ!!!”

 とか言われたら泣くな。確実に心の中で泣いて、数日は引きこもるな。

「ああ。俺達はもう、アヤトの親分に頼るほかないんだ」

 と、ジャルベが言う。

(俺に頼るって言われてもな・・・)

 それじゃあこいつらは以前、どのように追い払ったのだろうか?聞いてみるか。話しはそれからだ。

「まず聞きたいが、以前、お前らはどうやって対処してきたんだ?」

 俺がジャルベ達に聞くと、ジャルベ達は分かりやすく落ち込む。

(あれ?もしかして地雷踏んだか?)

 踏まないよう出来るだけ配慮していたつもりだったが、どうしても地雷は踏んでしまうな。俺も地雷を踏まれたくないから、色々頑張ったのにな。

「・・・殺してきた。俺達に襲い掛かってきた奴ら、全員。引いたか?」

 そして、ジャルベ達は震えていた。ジャルベ達を見ていると、ふと初期微動、という言葉を思い出したわ。ジャルベ達の震えが、初期微動みたいな振動に似ていたからかね。

 て、そんなことはどうでもいいか。

(引く、ねぇ・・・)

 何をもって俺が引くか分からん。俺の感性で言っていいなら言ってみるか。

「俺も、人を殺した経験がある」

 その経験は忘れもしない、赤の国での出来事だ。赤の国で俺は、初めて人を殺した。そして、殺した人物は、イブの、カナの実の兄だ。

 それだけじゃない。

 青の国ではカオーガ。

 黄の国ではマーハン。

 計3人も殺しをしている。地球でやっていたらニュースでとりあげられること間違いなしだな。

「だから、お前らが人殺しをしたことに引く、なんてことはないさ。そっちこそ、俺が人殺しをしていたことに引いたか?」

 俺の質問に、ジャルベ達は思いっきり首を横に振る。

「そんなことない!俺は、アヤトの親分に助けてくれた!だから引かない!引くわけない!」

 ジャルベは大きく宣言した。

「でも、前も、この前も、多くの同胞が死んでいった。だから、もう、戦いたくない。失いたくないんだ」

 ジャルベは強く拳を握る。ジャルベの言葉に影響されたのか、他のキメルム達は真正面を向かず、別の方向を向いた。

(失いたく、ないのか・・・)

 ジャルベだけじゃない。ここにいるキメルム達も、ここにいないキメルム達も、みんな誰一人失いたくない。そう願っているのか。

「だから、教えて欲しい。これ以上俺の大切な仲間を、家族を守れる手段を、方法を!」

「「「お願いします!!!」」」

 ジャルベ達は俺達に向けて大きく頭を下げた。

 俺にとって、もう覚悟は決まっていた。その覚悟を決めた理由は、今までのこいつらの行動で十分だ。

「もちろんだ。そのための話し合い、なんだろう?」

 俺のこの言葉で、ジャルベ達は顔をあげた。

(やっぱ、辛い顔を見るより、喜んでいる顔を見た方がいいな)

 さて、この笑顔を守るために力を貸し、知恵を出すとするか。

 まずだすのは知恵だな。

 何せ、近いうちに、この町に騎士が来るのだからな。なんとかそいつらを追い返す方法を考えないと。

(それも、無傷で、か)

 ジャルベの言葉を聞く限り、キメルム達全員を無傷の状態で勝たないと意味が無さそうだ。

(・・・とりあえず、3つ、といったところか)

「ひとまず3つ、案があるが聞くか?」

 俺はさっき思いついた案を自身の脳で話し言葉に変換しながらジャルベに質問する。

「聞く!何でも聞く!!」

「!?お、おぉ」

 思った以上にジャルベがくいついて驚いてしまった。思わず考えていたことが忘れちゃいそうになったぜ。

「まず1つ。このままあいつらに捕まる。もしかしたら何もされず、無傷で、魔力を吸われるだけの生活が送れるかもしれない」

「そんな生活、あいつらが保証するわけがない!あいつらは、俺達を使い潰し、殺す気なんだ!」

 一理ある。というか、俺が騎士達側なら、間違いなくこいつらの言い分、話を無視してモノ扱いするだろう。なら2つ目だ。

「そして2つ。みんな一斉にこの町から逃げ出し、別の町、国に逃亡する」

「俺達を受け入れてくれる、そんな都合のいい町、国が近辺にあると思うか?あったとしても、その町、国に辿り着くのに何日、何年かかる?そんな不確かなことで危険をおかしたくない」

 ・・・まぁ、そんな町、国が都合よく近くにあるわけないよな。あったら、地球での俺はきっとボッチではなかっただろう。なら最後だ。

「最後だ。みんなで迎え撃つ」

「でも、そしたら誰かが・・・、」

 こいつ、さっきから俺の案に文句ばかり言ってくるな。まぁ、理想を口にするのは大切だし、ジャルベの言いたいこと、伝えたいことは十分分かるからいいけどさ。なんか我が儘な気がする。その我が儘を全部叶えたいと思っている俺も十分我が儘な気がするけど。

「死なせない。そのための策は既に考えてある」

「「「!!!???」」」

 俺の言葉に、ジャルベ達は希望を顔に表す。

「だが、この策を実現するには、お前らの協力が必須だ」

 俺はここで席を立ちあがり、ジャルベに近づく。

「選べよ、ジャルベ」

 俺は改めてジャルベを見る。その目は・・・どんな目だ?駄目だ、分からん。やはりボッチというのは、人の心が読めない人種なのだろうか。

「このままあいつらの思う通りに動くか。それとも、奴らに勝って生きる幸せを掴むか」

 まぁ、俺達とともに騎士と戦うことで、生きる幸せを掴めるかなんて分からないけどな。

「お前は、お前らはどっちを選ぶ?」

 ジャルベは、俺のこの問いを聞いた直後、俺の手をとる。

「そんなの、決まっている!」

 ジャルベは、俺の手を強く握る。

「俺は、俺達は勝って、生きる幸せを掴んでみせる!」

 俺は改めてジャルベの覚悟を聞いた。

(ほんと、改めて聞く必要なんてなかったな)

 俺はジャルベの答えを聞き、リーフ達を見る。ここでリーフ達が、

“は?私達は嫌なので降りまーす。これまでありがとうございましたー”

 なんて言われてしまったらちょっとショックだ。

 ・・・そんなことを考えていたのだが、どうやら杞憂だったみたいだ。リーフ達は、俺の視線を感じたのか、俺の方を向いて頷いてくれた。

(さて、)

「それじゃあやるぞ!勝利条件は、全員無傷で勝利する事!勝って、みんなで祝勝会やるぞ!!」

「「「おお!!!」」」

 さて、みんなの、ジャルベ達の意志を聞いたことだし、まずは作戦の説明からだな。

 ・・・ところで、さっきの俺って結構上から目線で話していなかったよな?大丈夫だよな?上から目線で話してキモイ奴、とか思われていないよな?

 そんな事を考え、脳内でひよっている俺であった。つくづく声にださなくてよかったと思う。

次回予告

『5-2-6(第393話) キメルム達が何も失わない方法』

 ヴァーナからシロネリに住んでいる者達の動向、ジャルベから気持ちを聞いた彩人は、ジャルベ達キメルムが助かると考えた案を話し始め、みんなの意見を組み込んでいく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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