5-2-4(第391話) 彩人とゴダムの模擬戦
俺とゴダムは少し離れ、両者ともに体をほぐし始める。
(ゴダムのやつ、さっきまでクリムと模擬戦していたのに大丈夫なのだろうか?)
主に体力面。連戦で疲れていると思うのだが、平気なのか?
「大丈夫か?」
俺は少し心配だったので、質問してみる事にした。
「お、おう!これくらい平気だ!」
・・・なんか、平気じゃなさそうだな。一応白魔法で回復させておくか。
「これでいけるか?」
「大親分、ありがとうっす!」
・・・なんか照れるな。感謝の言葉は無視しておくか。無視しておいても問題ないだろう。引き続き入念に体をほぐしておくか。
「今の内に軽く確認しておきますね」
ここでクリムが説明を始めた。一体何の説明をこれから始めるのだろうか。
「これからする模擬戦において、死に至らしめるような攻撃、魔法は禁止しますね。それ以外はなんでもありとします。これは一応、実戦を想定した模擬戦ですからね」
・・・なるほど。ようするに、ゴダムを殺すような毒を吸わせてはならない。つまり、【毒霧】の使用禁止、というわけか。
(・・・いや、待てよ?)
死なせなければいいのであればなんでもいいと言ったよな?てことは、ゴダムを死なせないような毒であれば、【毒霧】を使ってもいい、という認識でいいよな?
(なら、ゴダムにばれないようコッソリと【毒霧】を発動させれば・・・、)
俺の勝利が確定するな。ふっふっふ。
「ちなみにアヤトは、【毒霧】、【色気】は使用禁止です」
「え!?」
クリムの奴、俺の考えが読めるとでもいうのか!!??俺の勝利プランが早々に崩れてしまったではないか!?それにしても、【色気】まで私用禁止にしたのは何故だ?
「あの魔法を使用すると、即アヤトさんが勝ってしまいますからね」
まぁ仕方がないか。
それにこれは模擬戦。実践を想定しているとはいえ、【毒霧】で圧勝しても何の役にも立たないだろうな。見ている人達の経験値になるような戦いをしないとな。同様の理由で【色気】の使用も禁止にしたのだろう。
(あれ?)
ゴダムが【色気】を使えるのなら、禁止にしなくても問題なかったんじゃないか?
・・・あ。ゴダムのやつ、【色気】が使えないのか。だから出来るだけ対等になるよう俺の【色気】を使用禁止にしたのか。ということは、キメルム達の中で【色気】を使えるのはジャルベだけ、ということか?いや、もしかしたら、ゴダムが使えないだけで他のキメルム達、ヴァーナ達が使える可能性も残っているな。
「それでは双方、準備は出来ましたか?」
「あ、おぉ」
別の事を考え、クリムの発言に少し驚いたため、返事をする際、変な声を出してしまった。
「もちろんだ!」
ゴダムはやる気満々のようだ。
(そういえば・・・、)
【毒霧】や【色気】を使用禁止にしたのは、対等に戦うためだと考えている。対等に戦うのであれば、神色剣も使わない方がよさそうだな。あの剣、原理は知らんが色々な武器に変形出来るからな。
「・・・剣は使わないのか?」
俺が神色剣を持たないことに対して不思議に思ったのか、ゴダムは俺に質問してきた。
「使わないさ。俺はこれで十分戦えるからな」
俺は自身の拳をゴダムに見せつける。
「・・・そうか。なら、遠慮はいらねぇってことだな」
(!?)
ゴダムからそう聞いた瞬間、ゴダムの雰囲気が一瞬にして変化した。
「それでは・・・始め!」
クリムから模擬戦開始の合図が発せられた。
その瞬間、ゴダムが俺に向かって一直線に向かってくる。
(一直線に向かってくるなんて、随分素直だな)
そして、獣のような拳で俺を殴ってくると。魔法を設置している様子もなさそうだな。
俺はそう分析してから、ゴダムの腕の真横に触れ、進行方向をずらす。その後、最低限の動きで、ゴダムの拳を完全にいなす。
(!?)
ゴダムの拳は完全に躱したのだが、ゴダムの攻撃は拳一つではなかったようだ。まるで、拳による攻撃が防がれることを予知していたかのように、足に勢いをつけ、蹴り飛ばそうとしていた。
(やば!)
俺は咄嗟にゴダムの腕を掴む。
(・・・あれ?)
俺は、ゴダムの足を平気で掴むことが出来たことに疑問を抱いた。だが、そんな疑問はすぐに捨て、俺はゴダム自身についている勢いを利用して投げる。意外と遠くに投げられたな。
「くそ!」
ゴダムはすぐに態勢を立て直し、俺のところに向かってくる。
(動かれ続けると厄介だな。その動き、封じさせてもらうか)
俺はまず、【空縛】でゴダムの動きを封じようとした。
だが、
(え?)
ゴダムが俺の【空縛】を躱した。まるで、事前に俺が【空縛】を仕掛ける場所が分かっていたかのように、だ。
(いや、まさかな)
俺は気のせいだと思い、再びゴダムに魔法を仕掛ける。何の魔法を仕掛けるか・・・【水縛】でゴダムの動きを封じるとするか。
(【水縛】)
俺はゴダムに向けて【水縛】を発動する。
(!?嘘だろ!!??これも躱すのか!!??)
この魔法、ゴダムからすれば初見のはず!まさか、ジャルベと戦った時に見せたっけ?そんなはずは・・・。
(まずそうだな)
俺は、このゴダムの攻撃をくらったら不味いと判断する。幸い、ゴダムはさっきと同じような、直線的な攻撃をしかけてくるらしく、今も真っすぐ俺に向かってくる。
(このまま距離を保ち、ゴダムの隙を作るか)
俺はゴダムの直線的な攻撃を避けるために動こうとすると、
「・・・我が相手を拘束し、炎の牢に閉じ込めよ」
何か聞こえた。この声は・・・ゴダムか?そういえばさっきからゴダムの口が動いていたような・・・?
(まさか・・・!!??)
嫌な予感がし、俺はすぐその場から動こうとする。
「【炎牢】!」
だが、俺は既に動けなくなっていた。俺の周囲にゴダムの魔法、【炎牢】が現れ、俺の進路を塞ぐ。一方向だけ【炎牢】の牢が開いていた。だが、その開いていた方向の先に、今も向かってきているゴダムの姿。
(これで俺の逃げ道が断たれたな)
唯一の逃げ道の先にゴダムがいるからな。それ以外の逃げ道は、今も【炎牢】で塞がれている。まぁ、下に【炎牢】は発動していないようだが、穴を掘っていけば逃げられるか?
(・・・それでいくか)
ただ穴を掘ると意図がすぐにばれそうだな。何かゴダムの目をくらます方法を考えないと。
・・・これでいくか。
「これで、終わりだ!」
どうやらゆっくりしている時間はないとようだ。早急に魔法を発動しないとな。
(まずは、俺の周囲に砂埃を起こさせる!)
俺は緑魔法で周囲の砂を巻き上げ、ゴダムの視界を潰す。
(これだと、影でお互いの姿が確認出来るな。その影の偽装もしつつ、地面に穴を開けて移動するとしよう)
俺は緑魔法で地面に穴を開け、簡易的なトンネルを作製する。そして、土で俺の形を模した土人形も作製した。この土人形を、俺がさっきまでいた位置に配置しておけば、ゴダムはこの土人形の影を認識し、攻撃してくれるだろう。
(土人形はこれで完了だ。後は、俺が移動するだけだ)
俺は緑魔法で自身を宙に浮かしつつ、簡易トンネルを通っていく。トンネルの開通先は、ゴダムの背後である。
(・・・どうやら上手く通ったみたいだな)
ゴダムの奴、砂煙に紛れて詳細は不明だが、まだ土人形に意識を向けているのだろうか。
「!?こいつ、大親分じゃねぇ!」
どうやらゴダムは気づいたみたいだ。だが、遅いな。俺は念のため、【魔力感知】でゴダムの詳細な位置を把握する。土煙の先から影が見えているとはいえ、見えている影がゴダムの影なのかどうかまでは分からないからな。もしかしたら、今俺が見えている影がゴダムの影でない可能性もあるし。
(・・・どうやら【魔力感知】の反応からして、今見えている影がゴダムの影で間違いなさそうだな)
俺はゴダムの位置を確認してから、ある魔法を発動する。
(【空縛】、【水縛】)
俺はゴダムの四肢を【空縛】と【水縛】で拘束する。
(拘束するなら、十字架に括り付ける形にするか)
俺は咄嗟に十字架のイメージが浮かんだので、即興で土製の十字架を作製し、その十字架にゴダムを括り付ける。これでゴダムお自慢の腕を封じたことだろう。
「な、なんだぁ!?」
土煙が少しずつ晴れ、ゴダムが十字架に張られている様子を確認出来た。
・・・今思ったのだが、知り合いを十字架に張り付けるって、結構鬼畜じゃね?地球でも、十字架に張りつける行為なんて、教科書でしか見たことないぞ?つまり俺は、昔やっていた鬼畜なことをこの場で再現した、ということになる。
・・・これ以上深く考えると、自己嫌悪で押しつぶされそうな気がするので辞めた。自分に都合のいい事は忘れる主義なのだ。断じて、俺は鬼畜ではない!
「う、動けねぇ!」
ゴダムは十字架から体をはがそうと色々体を動かしているみたいだが、無駄だ。腕や足を徹底的に拘束し、動かせないように魔法をかけたからな。
「さて、これで決着はついたな。だから、負けを認めてくれ」
俺はゴダムに、敗北の意志を宣言するよう促す。
だが、
「お、俺は諦めねぇ!まだ俺は、諦めちゃいねぇ!!」
ゴダムはこの状況から勝つつもりらしい。今も必死に抗おうとしている。多分だけど、その拘束は今のお前じゃ解けないぞ?
(諦めないのなら、追い打ちをかけるとするか)
俺は地面に手を当て、次の魔法の準備を始める。
「【地棘】」
土が棘上に盛り上がり、ゴダムに向けて猛烈な勢いで近づいていき、ゴダムの目前で止まる。このままゴダムの体を貫通すれば、ゴダムは間違いなく死ぬだろうな。ま、今更殺しはしないが。
「これでもまだ、負けを認めないのか?」
流石のゴダムも、この状況のやばさを理解してくれると嬉しい。危機察知能力が高くないとこの先生き残れないからな。
え?俺はどうなのかって?
俺は・・・まぁ、気にしないでくれ。俺の場合、危機察知能力が皆無だからな。皆無だから、俺は地球でいじめられたんだろうな。
・・・なんか、急に悲しくなってきた。ゴダムと戦っている最中だけど、泣いていい?
「・・・俺の、負けだ」
・・・俺が過去の自分に対して嫌悪していたら、ゴダムが自身の敗北を公言してくれた。なら、ゴダムを縛り付けている【空縛】、【水縛】もだが、ゴダムを張り付けているこの十字架も不要だな。俺は魔法を解除し、ゴダムを自由にする。
「これで満足か?」
俺はゴダムに質問する。正直、もっと俺と戦いたい、とか言われても、さっきと同じ戦法だと通じなさそうだから、戦法を一から練り直さないとな。後は・・・ゴダムに通じそうな魔法を考えておかないと。
「あ、あぁ。俺にはまだ早過ぎて、大き過ぎる壁であることが分かった。流石は大親分」
なんか、俺の株が若干上がったような気がする。俺の勘違いか?
(まぁ、目標が出来たのはいいことだと思う)
俺を目標にするのはどうかと思うが、目標が出来る事で、生きる意味を見出してくれたらと思う。俺が地球にいた時、一時期プロゲーマーを目標にしていたな。まぁすぐに無理だと分かり、人生の難しさを実感したな。その後は・・・特に目標なんて作らず、ただ毎日毎日を生きていた気がする。そう考えると、ゴダムの方がよっぽどすごいし、目標にすべき人物じゃないかと思ってしまう。
「みんなも、そう思うよな?」
「うんうん!」
「大親分は私達にとって大きな目標だよ!」
ゴダムのこの掛け声で、みんな一斉に首を振った。どうやら俺はキメルム達にとって目標らしい。まぁ、絶望されないくらいには頑張るか。何を頑張ればいいのか分からんが。
「みんなも引き続き頑張ってくれ。みんなの頑張りが、この町の安全を保障してくれるからな」
この世界は、自分の事は自分で守るしかない。地球なら警察とか周囲の人間に頼ることも出来るが、この世界に警察なんて組織はない。まして、見ず知らずの人を助けてくれる親切な人なんてほとんどいない。
(まぁあ、地球でも俺のことを助けてくれる親切な人なんていなかったんだけどな)
・・・俺のことはいいや。
「「「はい!!!」」」
俺がこの世界と地球の違いについて考えている間、キメルム達は俺の言葉に返事する。その返事の言葉で俺は我に返り、その場を後にした。
(この調子ならきっと・・・、)
こいつらが強くなれば、おのずとこの町の防衛能力も高まることだろう。
そして、この町の植物が順調に育てば、この町の食糧問題も解決するだろう。
これら二つの問題の解決に時間が必要だ。
(出来れば、この国の奴らが来るまでに解決しておきたいものだ)
あの魔道具の破壊はきっと、この国の首都、シロネリの奴らに知られているだろう。そいつらがこの町に騎士を派遣するまでになんとかなってもらいたいものだ。
次回予告
『5-2-5(第392話) 動き始めるシロネリの者達』
魔道具の破壊により、シロネリに住んでいる者達が動き始める。その動向をいちはやく察知したヴァーナは、彩人達に話を始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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