5-2-2(第389話) 親分の親分で大親分
俺はまず、モミジ、そしてピクシークイーンのピクナミと共に、このゴーストタウンのある地に向かっている。その地は昔畑だったそうだが、何も作物が育てられていないな。この地を中心に、緑を増やしていくつもりだったのだろう。数日前に見に行ったところ、土を掘り返した痕跡が見られた。
「あ!?」
そんな土地に再び俺達は向かっていたのだが、ピクナミが急に足を急がせて向かって行った。そんなに急いでどうしたのだろうか。
(もしかして、何かあったのか?)
この町に襲撃しようと企んでいる奴らの仕業か?だとしたら要警戒だ。
「やっぱり!モミジさん!大親分!これを見て!!!」
ピクナミは大声でモミジと俺を呼ぶ。それにしても、相変わらず俺の事、大親分って呼ぶのな。もういいけど。
「何かあったのでしょうか?」
「とりあえず、少し急ぎ目に行くか」
「はい」
俺とモミジは少し急いでピクナミのところへ向かう。
ピクナミの近くに到着した。
「これを見て、これ!」
ピクナミの奴、さっきから同じことばかり言っているな。それほど興奮しているということか。
(それにしても、やけに下を指差しているな)
もし誰かが襲撃したとするなら、もっと上を指差すんじゃないかと考えてしまう。もしかして、誰か襲撃したわけではないのか?
「一体何が・・・うわぁ。アヤトさん、見えていますか?」
「・・・ああ、ちゃんと見えているさ」
ピクナミが指差した先には、小さな芽があった。
「すごい・・・ほんっとうに凄いわ!」
「この芽から始まっていくんですよね、アヤトさん」
「そうだな」
おそらく、あの魔道具が無くなったことで、この土地から養分等が吸われなくなり、植物を発芽させる分にまわすことが出来たのだろう。
(少しとはいえ、土を入れ替えたことも効果があったのかね)
数日前、俺達はこのゴーストタウンから少し離れ、栄養豊富そうな土をありったけ持ち運び、この畑だった土と入れ替えた。その効果もでているのかもしれない。
「ここから、どのくらいで大きくなり、身を結ぶのか、だな」
「それならちょっと待って」
ピクナミは発芽した芽を観察し始める。ピクナミは葉や茎、地面周辺を少しの間見続ける。
「・・・これならおそらく、実を結ぶまで十日くらい、ですかね」
「え?そんなに早く実って出来るの!?」
俺が知っているので、桃栗3年柿8年と聞くが、これは僅か10日なのか?かなりどころか早過ぎじゃないか?そんなに早く出来ると、実の大きさとか、実に詰まっている栄養とか、色々心配だ。
「はい。10日ほどで、地中にごろごろ出来るわ」
「地中に、か」
地中に出来る食べ物と言えば、確かゴボウとか自然薯とかあったな。でもゴボウや自然薯って地中にごろごろ出来たっけ?
「昔、町の人達はこれをふかしたり、簡単につぶしてパンにはさんで食べたりしていた気がするわ」
「へぇー」
ふかしたりつぶしたりして食べる・・・?
(ゴボウとか自然薯って、そんな食べ方だったっけ?)
自然薯は食べたことないから分からんが、ゴボウは確か、きんぴらごぼうで食べていた気がする。きんぴらごぼうの調理工程にふかすとかつぶすの調理工程なんてなかったはず。そもそも、ゴボウや自然薯じゃない可能性もあるな。
「なんだか美味しそうですね」
「まぁ、お金がなくて買えず、食べられなかったけどね」
「・・・近いうち、みなさんで作って食べましょう?ね、アヤトさん」
「そうだな。どんな料理なのか俺も食ってみたいしな」
一体ピクナミはどんな料理のことを説明しているのか気になるしな。
「他にもこの芽が発芽しているかもしれないわ。探しに行くわよ」
「はい!」
「おう」
他の地でこの芽が地表に出ているかもしれないからな。出来るだけ発芽している場所を把握しておかないとな。
他にも芽がないか探した結果、俺達が見つけた一つしかなかった。まぁ、一つしかないのであれば仕方がないな。
「うぅ。まさかこれしかないなんて・・・」
「で、ですが、この芽は凄いですよ。この芽から始まるんです」
「・・・そうね。ありがとう」
モミジとピクナミが話している間、俺は今後のことを考えていた。
(とはいえ、いずれはこの芽を、緑を増やさないとな)
なにかいい方法がないだろうか。こんな時、この芽と直接話が出来たらいいのに。そしたら何かアドバイスとかもらえたのにな・・・ん?
(あああ!!!???)
俺、モミジほどじゃないけど、植物と会話出来るんだった!自分の体の事なのにすっかり忘れていたぜ。試しに話しかけてみるか。
「・・・あぁ、聞こえているか?」
「?アヤトさん、何をしているのですか?」
「???」
俺が植物に話しかけ始めたことで、二人の俺に対する視線が冷たく感じる。俺はちゃんと考えて行動しているのだから、頭のおかしな子を見るような視線で見ないで欲しい。
「もしかしたら、植物なら何か聞けないかなと思ったんだ」
俺は決して、奇行に走ったわけではないと説明する。
「え?植物と会話出来るの?なんで?」
まぁ、普通の人間は植物と会話なんて出来ないからな。当然の疑問か。
「アヤトさん、私が寄生した影響で、植物と会話出来るようになったんです」
「ええ!?私だって出来ないのに!凄くない!?」
「いや、会話出来るって言っても、モミジほど意思疎通出来るわけじゃないから、別に凄くはないさ」
モミジの方が自然と会話出来ていると思う。モミジと植物が会話、聞いたことがないけど。
(というか、この能力で目の前で芽を出している植物と会話して、他の芽がどこにあるのか聞けばよかったじゃん!)
色々あっちこっちまわったの無駄だったわ~。まぁ、たまにはこういう日もあるさ。気持ちを切り替えるとしよう。
(それじゃあ聞いてみるか)
俺は早速芽を出している植物に、他に植物が生えているのかどうか聞いた。
「ま・・・りょく・・・」
・・・これはもしかしなくても、目の前にいる植物の声・・・なのか?何回か試したけど、植物の声なんて初めて聴いたかもしれない。今まで聴こえていたのに無視していた可能性もあるけど。ひとまずその件は置いておくとして、目の前の植物は魔力、と言ったのか?ということは、目の前の植物は魔力を欲している、ということなのか?俺の質問に答えていない気がするが、今は植物が欲していると思われる魔力を供給してみるか。
俺は、どこから魔力を注げばいいのか植物に聞いた。すると植物は一枚の小さな葉を俺に向けてきた。
「これに触れて注げばいいのか?」
俺が聞くと、芽は小さく上下した。おそらく、肯定の意味を込めて上下に動いたのだろう。俺はその小さな葉に触れて魔力を注ぎ始める。
「・・・これでいいか?」
俺がこう話しかけると、植物は再び上下に動く。どうやらこれでいいみたいだな。
そして、
「なか・・・いる・・・」
何か言ってきた。多分だけど俺に言っているのだろう。
「いるというのは、お前と同じ植物がいるってことなのか?」
俺の言葉に、
「いる・・・ここ・・・」
植物が返事してくれた。それにしてもここ、だと?ここには目の前の植物しかいないはずだ。そういえばさっき、なか、と言っていたな。どこのなかなんだ?ここのなか・・・。
(ここ?)
俺は今も触れている地面に視線移動する。そして、閃いた。
「!?地面の中・・・地中か!!??」
そうか!地表に出ていないだけで、今も地中で存在しているんだ!
「そうなんだな!?」
俺は気持ち焦り目に質問する。
「いる・・・なかま・・・」
と、返事がきた。相変わらず返事は聞こえ辛いが、ここにこいつの仲間、植物が存在している事は分かった。まさか目の前で発芽している植物だけでなく、地中にも芽を出そうと頑張っている植物がいるとはな。本当、あの魔道具を壊して正解だったと思うぜ。あの魔道具、こいつらに害しか与えていなかったようだしな。
(このまま時の流れに沿って成長していくのも悪くないが、出来るだけ早く成長してもらい、実を結んでもらいたいが、どうすればいいんだ?)
成長速度を速め過ぎるとよくないとか聞いたことあるが、本当かどうか分からん。一体どうすれば・・・直接聞いてみるか。せっかく少しだけでも話が出来るんだしな。
俺は、どうすれば出来るだけ早く実を結んでくれるのか質問をした。
「まりょく・・・ちょうだい・・・。それで・・・なんとか・・・」
相変わらず話は聞き取り辛いが、魔力を与えればなんとなる、と言っているように聞こえた・・・気がする。言い切れないのは、完全に俺の能力不足だな。俺がもっと植物の言葉を理解出来るようにしないと。・・・植物の言語って、どうやって勉強すればいいのだろうか?
植物の言語理解はひとまず置いておいて、まずは魔力だ。さっき出していたこの葉に魔力を注げばいいんだな。俺は再び魔力を注いだ。
(そういえばどのくらい注げばいいんだ?)
さっきも適当に注いでいたが、今回も適当でいいのか?分からんから適当でいいや。文句があったら何か言ってくるだろ。という事で俺は、程よく魔力を注ぐ。
・・・。
「もう・・・いい・・・」
植物からもう十分とのお達しが来たので、俺は魔力注入を中断する。
「これでどうだ?」
魔力も十分注いだことだし、他に必要なものはねぇだろ。あったらこの段階で何か言うはず。
「だいじょうぶ・・・まかせて・・・」
すると、地面が光り始めた。その光り方は、地面全体が光るのではなく、ところどころ光っていた。すると、光っていた場所に芽が出た。
「「うわぁ・・・!!」」
モミジとピクナミは、新たに発芽した複数の芽に驚き、口を開けていた。
(すげぇな。これほど地中に隠れていたんだな)
芽の数は十も満たないが、凄いな。何かもう、言葉に出来ないな。
「・・・あと・・・じかん・・・いる・・・」
・・・そりゃあそうだ。実を一瞬で作って提供する、なんて出来るわけないよな。どのくらい時間が必要か聞いてみるか。
「どのくらいで実が出来るんだ?」
俺が聞いてから少しの間が開く。
「・・・ごかい・・・ひがのぼったら・・・できる・・・たぶん・・・。そのために・・・もっとまりょく・・・ひつよう・・・」
そして、植物が答えてくれた。五回日が昇ったらってことは、五日後って認識でいいのか?発芽してから五日後で実を結ぶってことか?
成長スピード、やばくね?植物ってそんな早熟だったっけ?地球にいた時、もっと成長スピードは遅かった気がする。やはり、この世界は地球とどこか違うみたいだ。
そして、五日で実を結ぶためにはもっと魔力が必要、と。俺としては別に問題ない。さきほどから魔力を渡しているが、そこまで減っている感覚はない。おそらく、俺自身が保有している魔力量が依然と比べて増加したからだろう。
「できれば・・・なんかいかにわけて・・・ま・・・あけて・・・まりょく・・・ほしい・・・」
植物の言葉によると、どうやら今多量の魔力は欲してなく、何回か時間を空けて魔力が欲しいらしい。俺の会話の解釈が間違っていなければ、だけどな。ちょっと注文が多い気もするが、まぁ植物の成長のためだ。仕方がないだろう。水やりと思えばなんてことはないはず。
「分かった。毎朝している水やりと一緒で魔力をやる。それでいいか?」
俺の言葉に、植物達は自身を上下に揺らした。
(これで一応自給自足の問題は解決・・・したか?)
自給自足するのに、一種類の植物だけで事足りるのか?毎日毎日同じものを食べ続けるって、かなり難しいというか、不可能に近いと思う。好きな食べ物を食べ続けるとか、栄養面を無視するならまだいい方だろう。だが、普通の場合は同じものを毎日食べ続けるのは苦痛だろう。
(なんとかならないものか)
ちょっと聞いてみるか。
俺は、他の種類の植物が生えているかどうか聞いてみた。
「・・・ない・・・わたしたち・・・みんなおなじ・・・」
どうやら目の前で芽をだしている植物達はみな、同じ種類らしい。芽しか見ていないので俺にはさっぱりだが。芽のみを見て同じ種類かどうか判断出来るのだろうか?少なくとも今の俺には出来ないな。
俺は、どうしたら他の植物達がここに根を生やしてくれるのか聞いた。
「・・・たね・・・ひつよう・・・ないと・・・できない・・・」
どうやら、種がないと発芽出来ず、実も結べないらしい。当然といえば当然か。何もしていない地面から突如発芽するわけなんてないよな。
(それにしても種、か・・・)
俺、種なんて持っていたか?
ふっふっふ。こんなこともあろうかと、黄の国で種を・・・買っていたら良かったんだけどな。そこまで用意周到なわけじゃないからな。種なんて俺、持ってねぇぞ。
(何か買っていたか・・・?)
俺は自身の記憶を引っ張り出す。
・・・。
(あれ?)
そういえば赤の国か青の国かで、ルリかイブが果物を大量購入していたな。
(て、だからなんだよ)
果物の中に種が入っているわけでも・・・、
(入っているじゃん!!)
リンゴやブドウの中に種、入っているじゃん!なんで俺、今の今まで気付かなかったんだ!?その種を使えば、リンゴやブドウが作れるじゃん!!
え?種なしブドウの場合はどうするんだって?そんな便利な食べ物は食べた覚えないから知らん。なんなら、種無しリンゴも見たことないから気にする必要なし!
(種、持っていたかね)
捨てた記憶はないのだが、種子をわざわざとっておくか?俺は諦め半分でアイテムボックスから種を探す。
(あったかなー)
あ、見つけた。
・・・見つけて取り出して俺自身の目で見てみたけど、なんの種かまでは分からねぇな。ひとまず種はこれで確保したし、この種でいけるか聞いてみるか。
俺は、さきほどアイテムボックスから取り出した種を植物に見せながら、この種でも問題ないか聞いてみた。
「・・・もんだいなさそう・・・だいじょうぶ・・・いいなかま、ふえる・・・」
どうやら問題ないらしい。これで食糧問題の方は、現時点では解決だな。後は植物の生長具合等を観察し、今後に期待、というところだ。
「・・・ねぇねぇ、さっきからずっと何を話しているの?」
ピクナミが俺とモミジに質問してきた。そういえばピクナミ、植物と会話できないんだっけか。モミジは先ほどの俺と植物との会話内容を理解出来ているだろうから、モミジにさっきの話を伝えてもらうとしよう。
「モミジ、さっきの話、全部聞いていたな?」
「はい」
「ピクナミに話しの内容を教えてやってくれ」
「・・・あ、そうですね。分かりました。アヤトさんは?」
「俺か?」
俺が次にやるべきことは・・・、
「俺はイブ達のところへ行って、様子を見てくるとするよ」
と、後一つやり残したことがあったな。
「後はこれ、頼む」
俺はさきほど取り出した種をモミジに渡す。
「この種を、お前らの裁量で好きなように植えておいてくれ」
「はい!」
「分かったわ!」
これでやり残したことも終わったし、イブのところへ向かうとしよう。
さて、イブの方は上手くっているだろうか。
次回予告
『5-2-3(第390話) どんな世界でも勉強は大事』
植物達の様子を見た彩人は、イブの様子を見に行く。見に行くと、学校のような光景が広がっていた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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