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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
389/546

5-2-1(第388話) シロネリに住む者

 白の国の首都、シロネリのとある室内にて、ある会議が行われ始める。その会議の議題は、シロネリから南西約10キロメートルにあるゴーストタウンから突如、魔力等が届かなくなったのだ。

「どういうことかね?」

「はい!何でも、送信していた魔道具に何か問題が起きたのだと思われます」

「そうか。あのキメルム共が何かしたのかもしれないな」

「あの魔道具から送られてくる魔力は貴重な資源だったのにな。実に惜しい」

 そんな男達の会議の話し声が室内に響き始める。

「なに、であればもう一度設置し直せばいいだけのことだ。あの魔道具の仕様は、まだキメルム共にばれていないからな」

「それで、如何なさいますか?」

 男達は、ある男を見る。見られている男は少し唸ってから答えを絞り出す。

「騎士を送ろう。そしてもしキメルム共に反抗の意志が見えたら、」

 男は一呼吸置く。

「全員、みな殺しだ」

 こうして、男達の会議が終わり、騎士達が少しずつ動き始める。



 あれから俺達は、ジャルベ達と協力して戦力を増強している。それだけではない。緑を増やそうと、色々試行錯誤している。

 戦力については、ジャルベ達は自身の能力を上手く活かし、強みをさらに伸ばしていった。なかでも、

「うおおぉぉぉーーー!」

「まだです!腕だけに力を込めているようじゃ駄目ですよ!」

 ゴダムがよくクリムと模擬戦を何度も行っていた。

 ゴダムもキメルムなのだが、リーフが言うには、【力猿】という魔獣の腕と酷似しているらしい。

 力猿と言うのは、力に特化した猿で、前に聞いた賢猿とはだいぶ異なる魔獣のようだ。その魔獣の見た目はリーフから聞き、俺なりにイメージしたところ、ある動物に多度r着いた。

 その動物とは、ゴリラである。

 力猿がゴリラなら、賢猿はさしずめチンパンジーかな。そんなイメージが脳内に浮かんだ。それくらい太い腕に見えた。ちなみにゴダムは女の子、だそうだ。女の子に、

「君のその腕、とっても太いね。一体何をどうしたらそのようになるんだい?」

 なんて言ったら、デリカシーが微塵もない糞野郎と罵られること間違いなしだな。ゴダムについては、極力腕のことは触れないようにしよう。

 ちなみに、みんなの動き、顔色は、俺達が最初に出会った頃より良くなっている。おそらく、あの魔道具がこいつらの魔力やら生気やらを吸収していたからだろうな。

 戦力についてはひとまず置いておこう。

 次は食糧だ。食糧についてはとても重要なので、戦力増強より食料確保の方に人材を割いている。そして、積極的に動いているのは、

「ここの土地、植物が育つにはまだ不十分みたいです」

「まだ、なのね。ここまでしたのに・・・」

「大丈夫です。後もう少しでこの土地でも植物を育てる事が出来るようになりますよ」

「ええ。一緒に、頑張りましょう」

「はい!」

 モミジと、ピクシークイーンのキメルムであるピクナミだ。この二人が積極的に動いているおかげで、後もう少しでこの町で自給自足の基盤が出来つつある。まぁ、植物が育ったからといって、すぐに実るわけじゃないから、自給自足が可能になるのは当分先になるだろう。それでも、随分好転したと思う。

 ちなみに、この土地で植物が育たなかった原因として、あの魔道具が大きく関わっていた。あの魔道具がこの土地から莫大な量の養分を吸い取っていたから、この土地には雑草一本自生していなかったそう。と、モミジが教えてくれた。

(前まで生気がなく、枯れ果てた町だったが、今は違うな)

 町の風景はほとんど変わっていないが、目がまるっきり変わった。俺にはそう見える。

(その目に宿った希望を、いつまでも忘れないで欲しいものだ)

 例え、人より不幸な目に、キメルムという枷を背負ってしまったとしても、それだけで絶望し、人生を投げ出して欲しくない。頑張り次第で人は、生き物はどうにでもなるのだから。

(そういえば)

 キメルムについて色々教えてもらったから、この際にまとめておくことにしよう。

 簡単に言うと、キメルムとは、人と魔獣が混ざった生物のことだ。人と魔獣の混ざり方には様々な種類がある。例えば、ゴダムは腕の部分が魔獣になっているが、ピクナミは、ピクシーの様な羽が背中に生えている。

(それじゃあジャルベは、どの魔獣のキメルムなんだ?)

 俺は気になり、ジャルベ本人に聞いてみた。

「分からねぇ。俺も色々考えてみたんだが、それでも分からないんだ」

 と、言われた。

 分からない、か。俺は改めてジャルベの体を見る。

 ジャルベは女性で、女の様なしなやかな体つきをしていて、胸も女性特有の膨らみを・・・、

(じゃなくて!)

 間違えてしまった。

 腕はゴダムほどではないにしろ、普通の人間にしてはかなり太いな。

足は逆に、普通の人間にしてはかなり細いな。チーターぐらいか?背中にはピクナミみたいな小さな羽があるな。もしかして俺と戦っていた時、宙に浮いていたのはこの羽のおかげなのか?

(あれ?)

 耳、普通の人間にしては長くないか?耳が長い種族といえばエルフを思い浮かべるが、リーフはエルフだったな。リーフも耳が長かったし、耳の長さはエルフ遺伝なのか?ということは、ジャルベはエルフなのか?上半身の方は結構毛深いらしい。寒さには強そうだが、暑さには弱そうだ。

 え?どうして俺がジャルベの上半身の毛事情について知っているのかって?そんなの、たまたま耳にしたからに決まっているだろう?決して、ジャルベの着替えシーンを覗いて、ジャルベの上半身を直視したとか、そんなゲスイ理由ではない。

(まぁ、そんなデリケートな話を聞いてしまった時点でどうかと思うが)

 この件については言い訳させてほしい。俺だって聞こうと思って聞いたわけではない。たまたま、偶然聞こえてしまったのだ。だから俺は悪くない。そう、悪くないんだ!

 ・・・俺は一体、誰に言い訳しているんだ?

 まぁいい。

 ジャルベからキメルムの話を聞いたところ、ある質問が出来たので質問してみることにした。

 その質問は俺に関する扱いだ。俺は普通の人間ではなく、地球ではボッチを決めた孤高の人間だった・・・て、間違えた。生きるため、モミジが俺に寄生し、なんとか生きる事が出来ているこの状況。そのことをジャルベに伝えると、

「・・・まさか、お前は俺達と同じキメルムだと言うのか!?ありえない・・・そんなこと、絶対にあり得ない!」

 ジャルベの叫び声が周囲に響き、何事かと周囲の者達が集まっていく。

「そんなに言うなら、お前がキメルムである証明をしてみろよ!」

 と、ジャルベに大声で言われてしまった。俺、自分がキメルムなのかどうか怪しくて聞いたのに、もう俺がキメルムなのは決定事項なのか。

(さて、どうするか・・・)

 俺がキメルムかどうかはひとまずおいといて、まず俺が普通の人間でないことを証明しないとな。普通の人が出来ない事をすれば認めてくれるのか?普通の人が出来ない事、か。なんだろうか。

 ・・・。

 ひとまず、地面から植物を生やしてみるか。

 俺は地面に手を当て、生えて欲しいと願いながら魔力を送る。

(おお!)

 すると、地面から芽が出てきた。これなら、俺が普通の人間でないことを信じてくれただろうか。

「これでどうだ?」

 俺はジャルベに聞く。

「・・・これくらい、緑魔法で出来るだろう!?これぐらいで信じない、信じないぞ!」

 そんなことを言われてしまった。確かに、地面から芽を出すことくらい緑魔法で再現出来るかもしれないな。緑魔法、色々と出来る範囲が広いからな。

(う~ん・・・)

 それじゃあ一体何を見せればいいのだろうか?

 ・・・

 あ。

 そういえば俺、自分の体から植物を生やす事が出来るんだったな。なら、それを見せれば納得するんじゃないか?

(どのように体から植物を生やすか、だな)

 ・・・いい方法を思いついてしまったが、ちょっとやりたくないというか、斬新な方法なんだよな。人によっては心配されると思う。けどまぁ、やってみるか。痛くないといいなぁ。

「じゃあいくぞ」

 俺は左腕を露出させる。

「「「???」」」

 さて、やってみるか。俺はまず、左腕に意識を集中させる。

(もし俺の体が植物と似ている、もしくは同じ性質を持っているなら出来るはず。多分)

 そして、左腕の養分、水分等を全部他の部位に移動させる。すると、俺の左腕はみるみる細くなり、茶色く変色し始める。変色していく様子は、枯れていく木を見ている感じだな。

(どうやら上手くいったみたいだな)

 俺の体、やはり植物に近くなっているみたいだな。もしかしたら、俺の体に養分を通している師管があるかもしれないな。さしずめ、水が流れている管は道管かな。

(この枯れた腕はちぎって・・・燃やすか)

 俺は腕に切れ目をいれてから赤魔法で腕を燃やし始める。腕に切れ目を入れた時、血が一滴も出なかったな。俺の体には血が流れていない、ということなのか?俺自身の腕が燃えているところを見ると、なんか色々複雑だな。儚いというか切ないというか・・・むなしい。

「お兄ちゃん!!!」

 俺が自身の腕を燃やしていると、ルリが血相を変えて近づいてきた。一体何をそんなに急いでいるんだ?

「大丈夫!!??お兄ちゃん、腕・・・うでぇ!」

 ・・・ああ。そう言えば俺、自身の腕を燃やしたのか。この世界に来てものの見方、価値観が色々変わったからな。地球にいたら絶対に経験しない死闘を何度も経験していたからか、腕の一本くらいならいいかと無意識に思ってしまった。なにより、腕を一本失っても痛くなかったし、白魔法で回復出来るからな。そういう考えを持っていたとしても、周囲の人間からすれば、腕を自分の体から切断するなんて相当やばいよな。・・・地球での生活を思い出していたら、自分が怖くなってきた。でも、今このことについて考えるのは控えるとして、第一に優先すべきは腕の再生だな。

「大丈夫だ。すぐになんとかするからな」

 そういえば、白魔法でも腕って再生出来たな。確か青の国で誰かの腕を再生させていた気がする。誰だったか・・・忘れちった、てへぺろ♪

 ・・・可愛くな。さて、白魔法で回復・・・させるのではなく、今回は違う方法で腕を再生させるとしよう。

(俺の腕に養分、水分を集中させて、と)

 イメージイメージ、と。

 ・・・。

 すると、腕の切断面から芽が出てきた。その芽は、地球でよく見る小さな芽だった。その芽は少しずつ太く、大きくなり、やがて腕の形に形成されていく。

(腕の色は木の茶色だが、それ以外は遜色ない、かな?)

 俺は成長し切った腕を見る。その腕は紛れもなく腕で、色だけ凄い違和感だ。土色という色は、こういう色なのかもしれないな。

「「「!!!???」」」

 ・・・なんかみんな、ものすごく驚いた表情で俺を見ているな。俺も出来たことに驚いているよ。そういえば初めての試みだったのに、不思議と恐怖は出来なかったな。無意識に出来ると思っていたのだろうか。

 そんな考察をしていたら、モミジがルリを巻き込んで抱きついてきた。

「アヤトさんの馬鹿!!!」

「!!??」

 俺を罵るモミジの言葉に驚愕する。

「急にあんな、自分を傷つけるようなこと、しないでください!!」

 その声は涙声で、俺を心配してくれている感情は認識出来た。

「アヤトさんが死んじゃうんじゃないかと、思うじゃないですかぁ・・・」

「・・・別に腕一本失ったぐらいで死ぬことはないんじゃないか?」

「そんなわけないじゃないですか!!??腕一本失う事がどれほど痛いかのか分からないのですか!!??」

 俺が少し反論したら、モミジが凄い勢いで反論を返してきた。これ以上俺が反論するのは悪手だろうから黙っておこう。

「そこまで考えていなかった。悪いな」

「ほ、本当ですよぉ・・・」

 モミジはメソメソと泣き続ける。ルリもつられたのか、泣き始めてしまった。他のみんな俺の事を心配してくれているのか、近くに来て声をかけてくれた。

 そんな中、ジャルベ達はというと、

「「「・・・」」」

 ・・・とても驚いている表情をしていた。やはり、特殊な方法で腕を再生させたから驚いているのだろうな。俺も驚いたし。

「・・・いたんだ。本当にいたんだ」

「え?」

 ジャルベの言葉が聞き取れず、俺は聞き返す。

「俺達と同じキメルムでありながら、外の世界を生き続けた人間が・・・!」

 え?俺、キメルムなの?キメルム確定なの?俺はただ、俺自身がキメルムなのかどうか質問し、俺の能力を実演しただけなのにな。それ以上に、どうしてジャルベ達は感動しているように驚いているんだ?

「お前、凄いな」

「え?あ、ありが、とう?」

 なんか褒められてしまった。急に褒められると恐怖を覚えるのは俺だけだろうか。

「凄いよ。だって、俺達キメルムは一生他の人間と分かり合えないと思っていた。けど、違ったんだ」

 ジャルベは俺とリーフ達を見る。

「お前はキメルムにも関わらず、外で信頼出来る仲間を作った。それも、キメルムでない普通の者達と。だから凄い思ったんだ」

「・・・そう、なのか?」

 俺としては実感が湧かない。キメルムとキメルムでない者がこうして一緒にいることがそんなに凄いのか?俺風に言うなら、陰キャと陽キャが友達になる・・・みたいなものなのか?

「俺としては、俺よりジャルベ、お前の方が凄いと思うぞ?」

 俺はジャルベに正直な感想を送る。

「俺の方が凄い、だと?」

「ああ。だって、」

 俺はジャルベの周囲にいるキメルム達、ヴァーナ達を見る。

ヴァーナ達の境遇は俺より不幸なものだと思う。少なくともこの数日間、こいつらキメルムの話を聞いて思った。

 だが、そんな境遇の中でも、ジャルベを信じて行動していることは分かった。つまり、どれほど不幸になっても嫌な事があっても、ジャルベという人物を信頼している、ということだ。少なくとも今の俺に、これほど絶大な信頼なんてよせられていない。だから俺は、ジャルベの方が凄いと思っている。

(まぁ、俺に信頼をよせている人なんて、今も地球にいる実の両親くらいだけどな!)

 ・・・なんか悲しくなってきた。俺にも早く、両親みたいな人が出来たらいいのにな。

 ・・・て、今は俺のことはどうでもいいな。早く話を再開するか。

「こんなにもお前のことを信頼している者が数多くいるんだ。それだけ信頼を得るなんて凄い。少なくとも俺には出来ない」

 俺は地球では実の両親の二人だけ。この世界では・・・何人だろう?俺のこの旅に付いてきてくれたルリ達くらいかな。

「・・・親分だ」

「え?」

 ジャルベの奴、俺の耳がおかしくなければ、俺の事を親分と言わなかったか?そ、そんなわけないか。俺の第六感が何か感じ取っているが、それは気のせい、だよな?気のせいだと信じたい。

「俺、今日からアヤトのこと、大親分って呼ぶ!いいよな!?」

「え~・・・」

 一体、どういう心境の変化があったんだよ・・・。

 俺が大親分、か。呼ばれて恥ずかしいという思いと、ジャルベの意志を創刊単位否定出来ないもどかしさが交錯して、どう返事すればいいのか分からねぇ。

「返事がないってことはいいってことだよな、大親分!」

「え・・・あ」

 返事しないことをいい意味で捉えたジャルベは、既に大親分を板につけてくる。

「親分が大親分って呼んでいるな」

「こりゃあ私達も大親分って呼ばないと失礼よね?」

「そうね・・・私達に色々してくれたんだもの。それくらい呼ばないと失礼よね」

「親分の親分だから大親分・・・いい!」

 ・・・あれ?もしかして決定事項?

「わーい♪」

「よかったですね、アヤトさん」

「流石はご主人様です」

 ルリ、モミジ、クロミルの言葉を皮切りに、イブ、クリム、リーフの3人が俺に暖かい視線を送ってくる。・・・なんか3人が、息子の成長を見守る母親に見えてきた。俺はそんなに不出来か?・・・不出来だな。俺、地球ではボッチだったし。

 その後、ジャルベ達キメルムは俺を慕い、ルリ達とはさらに仲良くなったみたいだが・・・。

(これで・・・いいのか?)

 俺、慕われるような人間ではないのだが?あ、俺、人間じゃなくてキメルムだったわ。

 ・・・さて、自虐はこれくらいにして、このゴーストタウンの食糧問題を解決するとしよう。この地に緑を増やさなければ。

次回予告

『5-2-2(第389話) 親分の親分で大親分』

 彩人達は、これからジャルベ達に力を貸すことに決めた。そして、彩人は、自身がキメルムなのかどうか判断してもらうために話をする。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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