5-1-28(第387話) キメルム達の奇襲後~その5~
俺の返答にみんな驚いていた。
だって、元々この白の国に来た目的は、あのデベロッパー・ヌルが作った魔道具を壊すことだからな。あのデベロッパー・ヌルが作る魔道具、どれもやばかったからな。まぁ、目の前にあるこの魔道具がデベロッパー作の魔道具だと確定したわけじゃないけどな。目の前にある魔道具だって十分危険なはずだ。危険なものは壊しておくに越したことはない。
「お、俺達の事はどうでもいいってことか!?」
なんかジャルベが俺に威嚇し始めてきた。
「どうでもいいわけじゃない。ただ・・・、」
「嘘だ!!どうでもいいから、俺達の事がどうでもいいから、そんな事が言えるんだろう!!??」
「そんなこと?そんなことってなんだ?」
俺はジャルベの言い分が分からず、ジャルベに質問する。
「俺達を見殺しにすることだ!俺達の事なんてどうでもいいから、見殺しにして・・・!」
「なら言うが、お前らはこのまま死んでいくのか?」
「・・・どういうことだ?」
「どういう事も何も、お前らはこのまま、シロネリの住人から搾取され続け、悔いしか残らないまま死んでいくのか?」
かつての俺はそうだった。
かつての俺は、同級生から金を搾取され、そのまま泣き寝入りするしかなかった。
けど、そうじゃない。
今の俺は、この世界の俺は、搾取されることを良しとしない。反撃する為の力を手に入れた。考え方は物騒になったかもしれないが、泣き寝入りされるよりよっぽどマシだ。
「俺はお前らの心情なんて知らない。お前らの考えなんて関係なしに、その魔道具はぶっ壊す。これは決定事項だ」
「!?」
「だから選べよ。このまま搾取され続けて無様に死んでいくのか。それか、お前らだけでなんとか抗うか。それか、」
俺はルリ達を見る。色々察してくれたのか、頷いてくれた。心なしか、モミジの頷きに心強く感じた。
「俺達の力を借りて、共にシロネリの奴らに抗うか」
シロネリの奴らがどんな奴らなのかは知らん。だが、少なくとも腐っている奴がこの現状を作り出し、ジャルベ達を苦しめていることは確かだ。そいつらをぶっ飛ばせば、きっとこいつらも変わっていくはずだ。
「私はピクナミさん達の事を・・・!」
「モミジ。俺は今、こいつらに聞いているんだ。それに、こいつらに意志がなければ、俺達が何をしたって無駄だ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「・・・いや、俺も言い方が悪くなっちまった。悪い」
本当、俺がこんな上から目線でものを言える立場でないことは重々承知だ。何も成し遂げていない、いじめられっ子だった俺に何が出来るかなんて分からない。今のこいつらの状況が好転する可能性なんてないかもしれない。
(いじめられっ子・・・?)
そうか。
こいつら、中学時代の俺に似ている。さっき俺が中学時代の事を思い出したのは、こいつらが今、あの時の俺のように搾取されてきたからだったのか。
(だったら今の俺はどうすべきなんだ?)
そんなの、自問しなくても分かっているはずだ。
あの時の俺がもう生まれないよう、こいつらに手を貸す事。あの時の俺なんか、もう見たくない。
・・・さっき、俺は自身でこいつらを見捨てるような発言をしちまったな。自分で発言の修正はせず、このまま放置だな。もしかしたら、俺達の力を借りなくてもなんとか出来るかもしれないし。まぁ、今まで現状維持に努めていたこいつらが、急に現状打破出来るとは思えんが。俺もそうだったし。
「それで、どうする?」
俺はジャルベの目を見る。
「お、俺は・・・、」
どうやら、ジャルベは困っているみたいだ。なら、聞く相手を変えるか。
「お前らはどうだ?」
俺は周囲の奴らに聞く。
「このまま満足に飯も食えず、飢え死になるか。それとも、自分達だけでなんとかしようと動くか。それか、俺達の力を借りてなんとかしようと動くか。どれだ?」
「「「・・・」」」
また沈黙が続く。これなら誰に聞いても一緒だったな。まぁ、あの魔道具を壊すことは決定事項だし、先にあの魔道具を壊しておくか。
(【赤色気】)
俺は【赤色気】を発動し、ゆっくりあの魔道具に近づいていく。
「ちょっと待って」
「ん?どうかしたか?」
こいつはヴァーナだな。何の用だ?
「その魔道具、破壊するの?」
「ん?あ、ああ。元よりそのつもりだ」
この魔道具は百害あって一利なしだからな。壊しても何の問題もないだろう。シロネリの奴らがここに乗り込んでくるかもしれないが、まぁ返り討ちにすればいいだけだし、別に問題ないな。
「駄目!」
ヴァーナは俺と魔道具の間に、立ちふさがる様な構図を作り上げた。
「・・・一体何のつもりだ?」
「何のつもりも何も、この魔道具は壊させない!あれは大切な物なの!」
大切な物、か。確かに大切な物なら守りたくもなるな。
「なら、どうしてさっき言わなかった?言える場面はいつだってあったはずだ」
「・・・」
ヴァーナが黙ってしまった。仕方ない。俺から話を広げていくか。
「どうしてそんなに大切なんだ?」
「あれは、私達が長年守り続け、大切にしてきたものなんだ!!あれを壊すという事は、私達が長年大切してきた想い、祈りを無駄にするってことだ!!そんなの、させない!!」
ヴァーナは血で槍を形成し始めた。
俺は、ヴァーナがあの魔道具をどれほど大切にしているのかなんて分からない。けど、
(これ以上敵対するなら、俺もやるしかないか)
俺が拳に力を入れ始めると、後ろから誰かが俺の肩に手を置く。
「ご主人様、ここは私にお任せを」
「クロミル」
クロミルの目から、いつも以上に真剣さを感じた。ここは信じて任せるか。
「頼んだ」
「は」
俺は拳の力を緩め、少し右にずれる。
(頼んだぞ、クロミル)
クロミルは俺より前に出て、ヴァーナと話を始める。
「あなたには、何も見えていないのですね。それでは、主に仕える従者失格ですよ」
「なんだと!!??」
クロミルの言葉に、ヴァーナが敵意をむき出しにし始める。
(だ、大丈夫か?)
クロミルに一任したのだが、ちょっと心配になってしまう。
「あなたには、ご主人様が大切にすべきものについて、何も見えていません。だから私は、あなたが従者失格だと言ったのです」
「ご主人様が大切にすべきもの?」
「ええ。ヴァーナ様で言うジャルベ様、でしょうか?あなたは、ジャルベ様にとって大切なものが見えていないのです」
「だから、大切なものって何よ!?」
「あなた様方です」
「「「!!!???」」」
クロミルの言葉に、ヴァーナ達が目を見開く。
「ジャルベ様はとてもヴァーナ様達を大切にしています。それだけ分かれば、ヴァーナ様がとるべき行動なんておのずと分かるはずです」
「私がとるべき行動?」
「ええ。今までヴァーナ様方がどのように生活してきたのか、どれほど苦しんできたのか。そして、これからどのような人生を歩みたいのか。まだまだありますが、それらのことを前向きに考えてください。そうすれば、私のご主人様と同じ考えになります」
・・・なんか、俺の考えが絶対、みたいな言い方になってないか?俺の気のせいかね。
「・・・私達はずっと、食べ物に困って来たわ。その飢えで何人も死んだ」
「その飢えは、この土地で食物を育てれば幾分か解消できたはずです。何故それをしなかったのですか?」
「そんなの、何度も何度も試したわよ!でも、駄目だった。駄目だったのよ・・・」
ヴァーナは泣き出し始める。
「それはどうして駄目だったのですか?」
「ピクナミが言うには、土地に問題があるって。だから、この土地で食物を育てるのは無理だって」
「その土地に問題があるのは、あの魔道具が原因です。この土地で食物を育て、皆様を飢えから救うには何をすればよろしいのか、もう、分かりますよね?」
「・・・」
「あの魔道具は、あなた様の大切な方達よりも大切な物なのですか?」
「それはない。私は親分のことが大事だし、みんなのことも・・・!」
「そうであれば、ヴァーナ様が言うみな様を傷つけるあの魔道具も、壊したくないほど大切なものなのですか?」
「!!!???」
ヴァーナは驚いた顔でクロミルを見る。その後、みんなの顔を見始めた。
ジャルベの顔、みんなの顔、そして、俺達の顔。
「・・・そうか。私、何も見えていなかったんだ」
最後にボロボロ泣き始めた。そこまで悲観しなくていいと思うけどな。モノを大切にする気持ちは大事だし。
「大丈夫です。何せこれからですから。これから始まっていくのです」
ヴァーナ様方の幸せな生活は。
そんな事を言われたヴァーナは、
「ごめん、なさい・・・、」
謝りながらさらに泣き続けた。別に謝りながら泣く必要なんてないと思う。誰しも間違える事はあるし、俺自身、別に怒っていないんだけどな。
「みんなも、いいか?」
おそらく、ヴァーナはこの魔道具を壊してもいいと考えているだろう。他にもヴァーナみたいな考えを持っているかもしれないから、確認してみた。周囲を見渡したものの、誰も否定的な意見は言ってこなさそうだな。
「・・・最後に一つだけ、確かめさせて欲しい」
「ん?」
ジャルベがまた話しかけてきた。もうこの魔道具を壊したいのだが、一体なんなのだろうか。これで、
“今日の晩御飯の献立について聞いてもいい?”
とか聞いてきたらぶっ飛ばそうかな。そんな訳ないだろうけど。
「俺達がアヤト達に助けを求めたら、助けてくれるか?」
その発言を、申し訳なさそうに聞いてきた。
(まぁ、色々教えてもらうわけだし、この町を拠点として色々情報収集するつもりだし、住まわせてもらう手間賃くらいは支払うつもりだ)
いや、違うな。色々自分の中で理由をこじつけているが、そんな理由はいらない。必要な言葉はたった一つだ。
「もちろん、助けますよ!」
(!?)
最初に声を挙げたのは、クリムだった。
「知っていますか?王族は、国を豊かに、平和にするためにいるんですよ?ですから王族の私はこれを見逃すなんて出来ません!」
(クリム・・・)
「…クリムにしてはいい言葉だった。私もクリムの気持ちと同じ」
(イブ・・・)
「私は王族じゃないですけど、こんな場面見せられて素通り出来るほど、無情な女じゃありませんよ」
(リーフ・・・)
「この土地を、自然豊かな土地にしましょう!」
(モミジ・・・)
「もっともっと、美味しいものを食べて、ニコーってしようよ!」
(ルリ・・・)
「みな様をお助けしましょう、ご主人様」
(クロミル・・・)
「私はやります。後はアルジンの言葉のみです」
(レンカ・・・)
俺の言葉、か。そんなの、決まっている。
「・・・覚悟は、いいな?」
俺は魔道具を持って、最終確認をする。
「「「・・・」」」
言葉での返事は聞こえなかったが、首を振って返事してくれた。返事を見た俺は、
(ふん!)
思いっきり問題の魔道具を踏みつけ、粉々にした。ついでに、チューブみたいなものは俺の神色剣で切り刻んでおいた。
「さて、これでいずれ、シロネリの奴らがこの町に乗り込んでくるな。だが、恐れる事はない」
俺は拳を握りしめる。
「それに、この町で自給自足出来るくらい、緑を増やしていくぞ!」
「「「はい!!!」」」
さて、これから色々大変だな。
「やることてんこ盛りですね」
「…ん。シロネリの人達がどんな対応してきてもいいように準備しないと」
「ですね。いざという時に応戦出来るよう、少しでも戦力を増やしていきませんと」
「私は、この土地にもっともっと緑を増やして、緑豊かな町にしたいです」
「ここでもっともっと美味しいもの、食べられるようにしたい!」
「ご主人様達が平和に暮らせるようにいたしませんとね」
「アルジン、無茶はしないでくださいね?」
さぁ、これから頑張ろう―!
次回予告
『5-2-1(第388話) シロネリに住む者』
彩人達が魔道具を壊してから、白の国の首都、シロネリである会議が行われた。その会議は、ある魔道具から魔道具の供給が途絶えた事だった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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