5-1-26(第385話) キメルム達の奇襲後~その3~
ジャルベ達との戦いを終えて初めて迎えた夜。夜空を見ていると、所々に光る何かが多数見受けられた。
「夜空、綺麗だな」
地球にいた時は、夜空をのんびり見ている時間なんてなかったな。夜空を見ている暇があったらゲームしていたし。
「・・・なんだか、手を伸ばしたら届きそうだな」
もちろんそんなことはない。俺と星々との距離は測れないが、少なくとも腕を伸ばした程度では届かないことくらい分かる。だが、理屈では分かっていても、ついやってみたくなってしまうのだ。俺は試しに腕を夜空に向けて伸ばしてみる。
・・・やはりというか当然というか、星には届かなかった。この地上から一メートルない腕を伸ばしたところで星に届くわけがない。
(いや、まてよ?)
単純に腕を伸ばしたところで星々に届きはしない。だが、この世界には魔力がある。魔力を使えばいけるかもしれないな。魔力を棒状に形成し、それをひたすら伸ばしていけばいつかは・・・、
「・・・アルジン?」
「!?な、何者!!??」
俺は正体不明の声にとても驚き、思わず飛び退く。
「私ですよ、アルジン」
「・・・なんだ、レンカか」
ビックリした。いきなり声をかけないでくれよ。驚きのあまり、思わず魔法を発動させるところだったぞ。
「それでアルジン、一体腕を上に伸ばして何をしていたのですか?」
さっきのところを見ていたのか~。正直に言うのは恥ずかしいし、何か言い訳でも考えるか。
・・・これにするか。
「俺自身の手の甲を見ていたんだ」
これなら体のいい言い訳になるだろう。嘘は言っていないからな。
「・・・アルジン。流石にその嘘は無理過ぎかと」
どうやら俺の嘘はすぐ見抜かれてしまったらしい。俺、嘘をつくのは下手なのか?なら、これ以上嘘を重ねるのは無駄っぽいし、本当の事を言うか。
「空を見ていたんだ」
俺はレンカに向けていた視線を再び空に向ける。
「空、ですか?」
「ああ。手を伸ばしたら届くかな~。なんて考えていたんだ」
「なるほど。それで腕を空に伸ばしていたのですね」
レンカは俺の話を聴いて納得してくれた。
「・・・一応言っておきますが、手を伸ばしたところであの空に届きませんよ?」
「分かっているわ!!」
それくらい言われなくても分かっているっての!もしかして、手を伸ばしたところで空に手が届かない、なんてことも分からないほど残念な男、なんて思われていないよな?俺、そこまで残念な男じゃないよな?
「それで、本当は何をしていたのですか?」
レンカは唐突にこんな質問をしてきた。
(本当は、だと?どういう意味だ?)
俺はレンカの質問の意図が分からず、返答に困ってしまう。
「それでは、質問を変えさせていただきますね。今後、あの者達をどうするおつもりなのですか?」
「あの者達?」
一体誰のことを言っているのだろうか?
「ジャルベ殿達のことです」
「あ~」
俺はレンカの言葉に思わず声を漏らす。
確かにレンカの言う通り、ジャルベ達の事について少しは考えないとな。
これから何もせずに放置するか。
それとも、これから協力するか。
このことについては既に考えていたので、俺は自身の考えをレンカに伝える事にした。
「レンカがどう考えているか分からんが、少しは手伝うつもりだぞ?」
「どうしてです?」
「理由としては、この国の魔道具について確実に教えてもらうためだ。少しでも恩を感じてもらった方が、素直に教えてもらえると思っているからな」
「・・・さきほどのホットケーキの件も、恩を感じさせるための行動、ということですか?」
「ああ。あいつら、お腹が空いていたらしいからな。まずはお腹を満たしてやれば、少なくとも悪意を向けられることはないはずだ。それに、こちらにも目的があることを匂わせたからな」
素直に協力してくれると信じたいが、そこはジャルベ達を信じるしかないな。最悪、ジャルベ達を放置して別の奴らから話を聴けばいいだけだからな。
「後・・・、」
感情移入してしまったから、と言おうとしたが、それは辞めておいた。俺のこの感情移入は、俺が地球にいた時の境遇を詳細に把握していないと出来なさそうだし、そもそも把握していたとしても、感情移入するかどうか分からない。人によって価値観が違うから、助けたいと思う人もいれば、自業自得と思い、切り捨てる人もいるかもしれないからな。
「後、なんですか?」
俺が言葉に躊躇していると、レンカが再び俺に質問してくる。
「いや、なんでもない。とにかく、俺はこれからジャルベ達から魔道具に関する話を聴くまでここにいるつもりだ」
ここ、ボロ屋がほとんどだが、雨風を凌げるなら野宿より幾分かマシだと思う。野宿する時より気楽に夜を過ごせそうだし。
「なるほど。アルジンの意志について理解しました。魔道具、見つかるといいですね」
「そうだな」
あのデベロッパー・ヌルが作った魔道具。リーフの話によると、デベロッパーという魔獣は魔道具製作に長けている魔獣だと言う。そんな魔獣がヌル一族にいるんだ。単なる魔道具を製作したとは思えない。もしかしたら、スイッチ一つで国が一つ滅ぶような凶悪なモノを作っているかもしれない。そんな魔道具がこの国にあるのだ。出来るだけ早く見つけ、処分しないとな。だが、焦ってはいけない。焦ると見つからないからな。いつも通りの俺のまま、出来るだけ早急に見つけ出すとしよう。
「これでよかったか?」
「ええ。私の質問に答えていただきありがとうございます」
「いえいえ」
「・・・」
「・・・」
レンカの質問に答えたら、何も話すことがなくなり、お互いに黙ってしまった。こんな時、リア充だったら何か面白い話を出来るかもしれないが、俺はボッチだからな。どんな話題をふればいいのか分からん。
「アルジンは、あのデベロッパー・ヌルがどんな魔道具を作製したと思っているのですか?」
「あいつが作った魔道具か。俺は、スイッチ一つでこの国を滅ぼす凶悪な魔道具を作製していると思う」
「なるほど。それは確かに凶悪ですね。私はですね・・・、」
こうして、俺とレンカは、デベロッパー・ヌルがどのような魔道具を作製したのかという話題で話を続けた。
一時間くらい話したのか、俺はレンカに、睡眠をとらなくて大丈夫なのか聞いてみた。
「?私は道具ですので、睡眠は不要ですよ?まぁ、長期間の連続使用後はさすがに少し休ませてほしいですが」
そういえば、レンカは人間ではなく魔道具だったな。ということは、レンカは俺達人間とは異なり睡眠不要なのも納得だ。
え?お前は人間じゃないだろって?
確かに俺が人間かどうかは自分で断言出来ない。何せ俺は、モミジに寄生されて体の一部が植物だからな。だがまぁ、細かいことは気にしないで欲しい。俺の心は人間なのだから人間でいいじゃないか。
・・・俺は一体、誰に弁明しているんだ?
まぁいい。
「さて、と」
みんながそろそろ起きて来るし、朝ご飯の準備でもするか。
「・・・あの、アルジン?」
「なんだ?俺はこれから朝ご飯の準備をしようかと、」
「いえ、そうではなくてですね・・・」
レンカは俺を指差した。いや、俺というより、俺の後ろを指差しているのか?俺はレンカの指先を見ようと首を動かすと、
「!!!????」
なんか、いた。
(こいつって確か・・・)
ジャルベの近くにいた・・・誰かだ。名前までは覚えていないが、ジャルベの近くにいたことだけは覚えている。逆に言えば、それしか覚えていないのだが。
「あの、私にも何か手伝えること、ございませんか?」
そして、急に話しかけてきた。このタイミングで独り言を言うわけないだろうし、もしかしなくても、俺に話しかけているのだろうな。
「そ、それはありがたいが、お前は普段こんな時間から起きているのか?」
俺の体内時計的に、今の時刻は早朝。こんな朝早く起きているなんて、よほど朝活に力を入れているのだろう。
「いえ。私は夜行性です。何せ、私は吸血鬼のキメルムですから」
そういえば、吸血鬼って夜行性のイメージがあるな。だからと言って必ずしもすべての吸血鬼が夜行性だと断言出来ないんじゃないか?
「それじゃあ昨晩から今の今まで、お前はずっと起きていたのか?」
「はい。起きて周囲の警戒にあたっていました」
・・・こいつ、偉いな。わざわざしなくてもいい見張りを自ら行うとはな。というか、していたのであれば、俺がわざわざ一晩中起きて見張りをしなくてもよかったんじゃないか?なんか無駄に働いたような気がして少し損した気分だ。
「なら疲れているのではないか?疲れているならそのまま今日は休んだ方がよくないか?」
一晩中見張りで気を張っていたのだから、今はもう眠くて仕方がないはず。
「いえ、無問題ですので、お手伝いさせてください。お願いします」
と、目の前にいた奴が膝を地面につけ、手のひらを地面につけ・・・て、
(あれ、土下座の態勢じゃね?)
そんなことを考えていたら、次は額を地面につけていた。て、完全に土下座じゃないか!?
「いや、そこまでしなくていいから!ひとまず頭を上げろ!!」
俺は頭を上げるよう説得を始める。
「ですが昨日、私達はあなた様方にひどいことを・・・!」
もしかして、昨日の事を気にしているのか?まぁ確かに昨日の殺人未遂は決して簡単に許されない行為ではないが、反省の意志をもっているのであればいいか。
「とりあえず、お前らの意志は分かったから」
「それでは・・・!?」
「それじゃあ手伝ってもらうわ。あ、ちなみにレンカも手伝ってくれよ?」
「分かりました。アルジンが余計なことをしないようしっかり見張りますね」
「見張りだけじゃなくて、ちゃんと朝食の準備をしてくれよ?」
流石に一人で何十人もの朝食を用意するなんて・・・出来ないことはない。だが疲れるから、レンカだけでなく、目の前で土下座をかましていたこいつにも手伝ってもらうとしよう。
そして俺、レンカと・・・名前は知らん。見知らぬ者の協力を得て、朝食を作り始めた。ちなみに今日の朝食はというと、
「え?もちろんホットケーキ一択ですよ?この料理しか作り方を知りませんし」
と、レンカに断言されてしまい、ホットケーキになった。その際、吸血鬼のキメルムと話をした。
なんでも、こいつの名前はヴァーナ、というらしい。初めてこいつの名前を聞いた気がする。もしかしたら聞いていたかもしれないが、そんなことは忘れた。俺にとって都合の悪いことは忘れる主義なのだ。
(ひとまず、目の前にいるこの女はヴァーナ、と。覚えておこう)
忘れたら・・・その時にまた聞くとしよう。何回も聞けばその内に忘れなくなるかもしれないしな。
人の名前を覚える事の重要性を再認識した時間だった。朝食を作っている間も、俺はヴァーナから様々な者達の名前を聞いた。
(いっぺんに言われても全部は覚えられないが、出来るだけ覚えられるようにしよう)
俺、ヴァーナ、レンカ、そして、
「「私達にも手伝わせてください」」
サキュバスのキメルムである、サキュラとサキュリの計5人で朝食を作り、起きてきたみんなに朝食をふるまった。
連日、ホットケーキが続いていたのでみんな飽き飽きしているのかと思っていたのだが、
「「「美味しーーー♪♪♪」」」
みんな、幸せそうな顔で食べていた。幸せならいいか。俺は自身で作ったホットケーキを口内に投入する。
(・・・自分で作ったこれ、美味いな)
自画自賛するのはどうかと思うが、このホットケーキ、美味いな。焼き具合も完璧だし、フワフワで美味い。本当にこんな素晴らしい料理を俺が作ったのか疑いたくなってしまうな。
(いや、待てよ?)
もしかしたら、このホットケーキは俺が作ったホットケーキじゃないかもしれない。もしかしたらレンカかヴァーナ、サキュラ、サキュリの誰かが作ったホットケーキかもしれない。そう考えると、このホットケーキに神秘的な何かを感じてしまう。全部食べず神棚に飾ろうかな。
そんなことを考えていたら、いつの間にか朝食の時間が終わってしまった。
最初、片付けも俺がやろうとしていたのだが、
「私達がやるから、ね?」
「・・・え?ルリもお片付けするの?分かった~」
他のキメルム達や、ルリが片付けすることになった。そして俺に隙間時間が出来た。
(この隙間時間に、ジャルベに聞くとするか)
俺が少し呼吸を整えていると、
「なぁ?」
「!?な、なんだ?」
ジャルベがいきなり話しかけてきて、思わず俺はビクッと体を震わせてしまった。
「それで、聞きたい事ってなんだ?」
どうやら、俺が前に言った情報の事を言っているらしい。覚えてくれているなら話は早い。早速話に移させてもらうとするか。
次回予告
『5-1-27(第386話) キメルム達の奇襲後~その4~』
ジャルベが彩人に、聞きたいことは何だと聞いてくる。彩人は、この機会を好機と捉え、魔道具の事を話し始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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