5-1-22(第381話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその9~
偶然なのか意図的なのかは不明だが、ジャルベが落ちた先に誰も人はいなかった。俺は人間同士の衝突を懸念していたのだが、その懸念は無用だったみたいだ。
(ジャルベ、死んでいないかね)
あの高さから落ちていたら、普通の人間は死んでしまうが、ジャルベは日本人みたいに体がやわくない。多分、死んではいないだろう。骨は何本か折れているかもしれないが。
(あいつら、すぐジャルベの元に向かって行ったな)
確か、出会った当初、ジャルベの近くにいた奴らだったな。ジャルベの事が心配だったんだろうな。
(それにしても・・・、)
なんか近くに分厚い氷があるのだが?この氷、もしかしなくとも、ルリの仕業、だよな。ルリの奴、相変わらず凄いな。
(と、今は氷に見惚れている場合じゃないか)
出来るだけ早くジャルベの元へ行き、この金色の魔力みたいなものを渡さないとな。
俺が安心安全を最優先にして、【結界】を複数展開し、地上に戻る。
「「「親分!!!」」」
ジャルベの近くにいた奴らは、ジャルベに声をかけていた。
「ころ、す・・・!」
「!?」
だが、こいつらの声は未だ、ジャルベの心に届いていなかったらしい。ジャルベの目は依然として、憎悪の目を自身以外の全てに向けていた。
(もうだめなのか?)
俺がジャルベを殺す覚悟を決め始めていると、
「私は、親分を一生裏切らない!」
「今までずっと一緒だったじゃん!俺達はこれからも一生一緒だよ!」
「また一緒にあの時みたいに・・・!」
そんな言葉が聞こえてきた。
(ジャルベ、今までこいつらと一緒だったんだ)
俺はジャルベの近くにいた奴らの話を聴いていた。その話から、ジャルベとこいつらはずっと一緒にいたことが分かった。相当仲良しじゃないと一緒にい続けるなんて出来ないよな。家族くらい仲良くないと難しいと思う。
「うる、さい!」
「「「!!!???」」」
みんなの説得がジャルベの心に響かなかったのだろう。ジャルベはさっきより強い殺気を周囲にまき散らす。そして、黒い魔力がナイフのような鋭利な形状を模っていく。
(!?やべぇ!)
俺は、このままだとジャルベが無作為に人を殺すのだと直感した。
「みんな!頼む!!」
俺は出来るだけ大声で聞こえるように、叫んでいるかのように声をあげる。
俺が声を発した直後、ジャルベは自身の黒い魔力を俺達に向けた。
(あの黒い刃みたいなやつをなんとかしないと!)
俺は急いで【結界】を展開し、黒い魔力の進行を妨げる。
「任せて下さい!」
リーフの声がした直後、リーフがレイピアで黒い魔力を切り刻んでいた。
「…ん!」
イブは魔力で剣を形成し、黒い魔力を切り刻む。
「【炎拳】!」
クリムは【炎拳】を発動させ、炎を纏った拳で黒い魔力を殴り飛ばす。
「氷れ」
ルリは黒い魔力を氷らせる。
「牛術が一つ、【午閃】」
クロミルは剣で黒い魔力を切り刻む。
「【三樹爪撃】!」
モミジは自ら作り出した爪で黒い魔力を貫通する。
「はぁ!」
レンカは、自身の腕を筒状に変形させ、魔力の塊を黒い魔力に向けて放つ。
(まったく!ふざけやがって!)
下手したら人が死んでいたんだぞ!?それを分かっていて殺そうとしたのか?本当、本当にふざけていやがる。
「ありがとう、みんな」
俺の代わりにみんなを守ってくれた事に関してお礼を言い、ジャルベの元へ歩き始める。何故かは分からないが、みんな、俺とジャルベの道を作ってくれた。
「さてと、」
俺は改めてジャルベを見る。ジャルベの目は変わらず、自身以外に憎悪を向けていた。つまり、今まで一緒に過ごしてきたこいつらにも憎悪を向けているというわけか。
「いつまでこんなことをしていやがる」
俺はジャルベを正面から見つめる。そういえば、人の顔を正面から見たこと、家族以外なかったかも。
「!?」
「【空縛】!」
ジャルベが何かしようとしたので、俺はすかさず【空縛】でジャルベの動きに制限をかける。これでジャルベは下手に動けないはずだ。
「お前の仲間は、お前が正気に戻ることを信じて待ち続けているぞ?」
「うぅ・・・」
ジャルベは苦しそうだ。もしかして迷っているのか?
本当は分かっているのかもしれない。自分を信じてくれる仲間がいることを。そして、自分がこんなことをしても無駄なのだと。
そして、誰かに止めて欲しい。もしくは、助けて欲しい。
(きっかけくらいは、俺が作ろう)
かつて、俺の両親が俺にしてくれたように!
「そんなことにも気づけない馬鹿なお前に一つ、プレゼントしてやるよ」
俺は【黒色気】を発動させ、一瞬でジャルベの懐へ飛び込み、俺はさきほどからずっと持っている金色の魔力のようなものを体内に送る。
「!?」
送った直後、ジャルベの様子の変化が一目で分かった。
「間違っていなければ、これは、お前と、お前が大切にしていた者達の大切な記憶だ。どうだ、思い出したか?」
「・・・」
何も言わないな。なら、もう少し言わせてもらうか。
「第一、お前らが言う関係は、初対面の俺らが崩せるほど柔いはずないだろう?そのことを一番知っていなくちゃいけないのはジャルベ、お前じゃないのか?それと、」
俺は周囲を見渡す。その視線の後、ジャルベは俺の視線の先を窺うように視線を移動させた。その視線の先には、
「ジャルベと決して消えない関係を築いていったこいつら、だろう?」
俺の言葉の後に、
「そうだよ、親分!」
「私達は何があっても一生一緒だよ!」
「どんな時も、例え死ぬときだって一緒だ!」
「私達から離れないで!」
「「「親分!!!」」」
続々と、ジャルベを必要としている言葉が放たれる。それらの言葉の中に、ジャルベを非難する言葉は一つもない。
「・・・」
ジャルベは数々の言葉に対し、何の反応も示さない。
(これでも駄目か・・・)
最悪、本当に殺す覚悟をする必要があるな。俺は心の内でしっかり気持ちを整える。
「・・・こんな俺でも、ついてきて、くれるのか?」
弱々しく、途絶え途絶えのジャルベの声が聞こえた。そのジャルベの声が聞こえたのか、
「「「うん!!!」」」
ジャルベの周囲にいた奴ら全員が返事をし、抱きついた。
「・・・ごめんな。本当に、ごめん・・・」
ジャルベは泣きながら、他の人達の頭を撫で始めた。
(あの様子だと、思い出したんだな)
俺やジャルベみたいに、どうしようもない理不尽にみまわれる時がある。だからといって、その理不尽に心を折り、命を絶とうとしないで欲しい。
それは何故か?
「親分・・・」
「よかったよ~」
「これでまた、親分と一緒だ~」
絶対に支えてくれる誰かがいるからだ。
俺の場合は両親。
ジャルベの場合はいわずもがな。
(まぁ俺の場合、もういないけどな)
この世界に俺の両親はいない。つまり、俺を支えてくれる誰かがいないということだ。俺はこの世界でボッチだからな!
・・・。
内心で思ったこととはいえ、辛いな・・・。
「おにーちゃーん!」
ん?
「アヤトさーん」
「アルジ―ン」
俺を呼ぶような声が続々聞こえてくる。この独特な呼び方、もしかしなくてもレンカだな。
「「「アヤト」」」
「どうやら成功したみたいでなによりです。流石はご主人様です」
イブ、クリム、リーフ、クロミルも近寄ってくれた。
(そうか)
俺にもいたんだな。この世界にも俺を支えてくれる人が。
(大切にしないとな)
俺はこの絆を、俺を支えてくれる人達を大切にしようと心に決めた。
(さて、もう少し経ったら聞くとするか)
そんな考えと同時に、俺は別の事を考えていた。
次回予告
『5-1-23(第382話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその10~』
彩人達は、未だ殺意をぶつけてくるジャルベを救おうと、説得を続けていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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