5-1-21(第380話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその8~
「それにしても、リーフが展開してくれたこれ、凄いな」
俺は今、【隕黒滅】の内部にいる。この魔法の内部は、とにかく黒い。この世界は黒色しかないのかというくらい黒い。そして、リーフに展開してもらっているこの・・・なんて言えばいいんだ?風のバリア?それのおかげで、【隕黒滅】から伸びている黒い何かから俺の身の安全が保障されていた。
「さて」
俺は【隕黒滅】内部を観察し、目的のものを捜し始める。
「この中のどこかに、金色の何かがあるはずだ」
俺は、ジャルベがこの【隕黒滅】を大きくしていた時、この【隕黒滅】の中に黒色でない、金色の魔力みたいな何かが入っていったのを見た。俺の見間違いかもしれないが、一目見て確認しておきたい。間違いかもしれないが、どうしても一目見ておきたいのだ。
「それにしても、どうやって見つけるか・・・」
もしあの金色の魔力みたいな何かが本当に魔力だとしたら、俺の【魔力感知】で見つけられるかもしれない。試しに【魔力感知】してみるか。
(!!??)
【魔力感知】したところ、反応が大き過ぎてビックリした。少し考えたらそれもそのはず。何せ俺の現在地は、【隕黒滅】という、魔力の塊の内部にいるのだ。【魔力感知】で反応が大きくて当たり前か。
(だが、次は油断しない!)
俺は諦めず、もう一度【魔力感知】する。さきほどと同じ大き過ぎる反応があったが、その中に一つ、別の反応があった。大き過ぎる反応の中に混じっているためか、さっきは気付かなかったわ。
(この反応がもし、さっき俺が見た金色の魔力だとすれば・・・)
俺は移動を開始することにした。
(さて、)
この【隕黒滅】内部に陸地なんてない。だから俺は移動手段として、緑魔法を使う事にした。
(まずは足に空気を集めて、噴射する!)
俺は【隕黒滅】内部を移動し始めた。
(さっきの小さい反応はここからのはず・・・)
俺は小さな反応があった近辺まで移動を終え、再び周囲を見渡す。
「これか?」
俺は、リーフが展開してくれた膜の一部を切り、【隕黒滅】に触れる。
憎い!!!
「!!!???」
俺は急に流れ込んできた感情に驚き、【隕黒滅】から手を離す。
(今の感情は一体・・・?)
憎いと感情が俺の中に流れ込んできた。だが、それだけではなかった。一瞬で俺の中に憎いという感情だけでなく、何故憎いと感じるようになったのか、その経緯が脳内に動画として表示された。その動画の内容は、日本で行われていれば暴行罪等の罪に該当すること間違いなしの非人道的行為が行われていた。
ある小さな子供が街中で非難され続けている光景が脳内に浮かんでくる。
石を投げつけ、ぶつけられることは日常的であった。視線を向けるだけで、成人男性が拳で殴る光景も浮かんできた。大人が子供を殴るという異質な光景が目の前に広がっているにも関わらず、周囲の人間達は、殴られている子供を嘲笑っていた。
(今見えた子供、まさか・・・!?)
さっき脳内に見えた子供、俺の見間違いでなければ、ジャルベだよな?まさか、さきほどいじめられていた子供は、ジャルベが昔実体験した記憶の一部か?
(・・・ほんと、魔法がある分、異世界のいじめは強烈だな)
聞いていても見ていても嫌になる。俺もいじめをされたからこそ、その辛さが分かる。けど、おそらくジャルベは、俺が受けたいじめ以上にひどいいじめを受けたのだろう。というかこれ、本当にいじめか?虐待とか暴行とか、罪に問われるんじゃないのか?裁く人は一体何をしているんだ?
「・・・今は目的のものを見つけよう」
もっとこの世のいじめに関して考察し、理不尽を全て殴り飛ばしたい衝動に駆られたが、今はそんなことを考えるのは後回しだ。
俺はまた【魔力感知】を行い、魔力の反応場所を確認する。
(まじかよ)
より詳細な位置を掴もうとしたところ、金色の魔力はどうやら近くにある事が分かった。だが、周囲の状況を確認してみると、黒い何かの中に埋もれていることが分かった。つまり、あの【隕黒滅】に触れながら突き進む必要がある、ということだ。
(神色剣で【隕黒滅】を切りながら進むのも悪くないが、金色の魔力に傷でもつけたらやばそうだからな)
俺が手で【隕黒滅】をかきわけるしかない、ということだ。
(覚悟を、決めるか・・・)
俺は呼吸を整えてから、【隕黒滅】を素手で触る。
なんで俺がこんな目に遭うんだ!!!???
「!!??」
俺の中にジャルベの憎悪が流れ込んできた。
ジャルベの憎悪は、ジャルベ以外の全てを対象に向けられていた。つまり、俺にも憎悪が向けられているわけなのである。
(思い、だしちまうな・・・)
俺は地球にいた時の出来事を思い出し始めた。
それは、小学校に通い始めた小学一年生の時。
俺は登校早々、他の子供達からいじめられ始めた。成長した今の俺でさえ、いじめられる理由が分からないのだ。当時の俺はもっと考え、苦しんだことだろう。
いじめの対処法として、俺はまず、いじめている張本人達に直接、いじめを辞めてくれと懇願することにした。
その結果、いじめは悪化した。
次にとった行動として、俺は先生にいじめの報告をした。
だが、
「何を言っているんだ?成績優秀なあの子達がそんな貧相下劣な事をするわけないじゃないか。さては君、あの子達に嫉妬して嘘を言っているな!?最低だぞ!!??」
と、先生からは非難の声を浴びせられた。そのおかげで、学校から俺の居場所はなくなった。さらに、俺のいじめは先生も黙認することになった。まるで、
「こいつならいじめても大丈夫」
「こいつはいじめられて当然の人間なんだ」
そんなことを言われているような、そんな理不尽を食らい続けていた。
その結果、俺は不登校になった。
最初、親には言いたくて、登校するふりをして、近くの公園等で時間を稼いでいたのだが、あっさりばれた。
「彩人、どうしてこんなところにいるの!?」
母親からそんなことを聞かれ、最初は誤魔化そうとしていたのだが、
「お願い?」
母親の辛そうな顔、言葉に根気負けし、俺は不登校になった理由を話した。
理由を話して1時間も経たないうちに、
「彩人!!」
父親が帰ってきて、
「おとう・・・!?」
無言で俺を抱きしめていた。
「ごめんな。気付かないで本当にごめんな・・・。」
そして、泣いていた。父親の今まで見たことない泣きっ面に、俺の涙腺は崩壊した。涙腺の崩壊は母親にもうつり、家族3人で泣き始めた。
泣き続けた後、俺は誰に言われるでもなく、自分からいじめられた経緯を話した。
「そうか・・・」
「辛かったわね・・・」
俺が一通り話し終えると、俺の両親は俺を抱きしめてくれた。抱きしめたまま数分過ぎ、
「彩人、あの学校にまだ、通いたいか?」
俺はその時、正直に言った。
通いたくない、と。
「そうか。なら、引っ越すか。」
「え?」
俺はこの時、素直に喜んでいいのか分からなかった。小さいながらに、引っ越しをするのは大変だと聞いていたからである。当時子供だった俺は、自分の荷物をまとめるだけでも大変だったが、大人は自分の荷物をまとめるだけでなく、物件や引っ越し先の手配、家具家電等、色々決める事があると思う。その苦労の全てを理解しているわけではないが、自分の知らない苦労があるのだと知っていた。だから、父親が引っ越し発言をした時、本当に驚いたのだ。
「た、大変、じゃないの?」
俺は子供なりに得た知識から判断し、引っ越しが大変だと思い、父親に聞く。
「ああ。子供が大変な時に動けない親なんて、親じゃないからな。」
そう言い、父親は俺の頭を優しく撫でてくれた。
その後、当時の俺には分からない諸々な手続きを経て、俺達は無事引っ越しを終えた。その後、俺をいじめていた人達と会う事が永遠になかった。
その時、俺は幸せ者だと自覚した。
例え、周囲の者達が俺の事を信じずいじめたとしても、こうして俺を慰め、信じてくれる人達がいるのだ。それだけで心が軽くなり、明日を生きる活力へと繋がった。
(俺も、この世界ではジャルベのように苦しいんだよな・・・)
ジャルベの【隕黒滅】に触れ、俺はこの世界で孤独な存在なのだと自覚した。
(俺を助けてくれる人間なんて、誰もいないんだ・・・)
地球では両親がいてくれたが、この世界に俺の両親はいない。だから、俺はこの世界では孤独だと認識した。
(もう俺には、助けてくれる大切な人なんていないんだ・・・)
もう全てがどうでもよくなりかけていたその時、
「頑張れー、お兄ちゃん!」
ある声が聞こえた。
「私達がついていますよー」
「・・・アヤトは、一人じゃない」
「アヤト、信じているからね!」
「ご主人様、私、信じております」
「アヤトさん、どうか戻ってきてください」
「アルジン、命大事に、ですよ」
その声は、これまでこの世界で出会ってきた者達の声だった。
(・・・俺、馬鹿だな)
さっきまで、この世界で俺は孤独だと、ボッチだと思っていた。
だが、違っていたんだな。
この世界に俺の両親はいない。
けど、俺の事を想い、信じてくれる仲間がいるんだ!
(いくぞ!)
俺は【隕黒滅】をかきわけ、探していた金色の何かを見つける。
(これだ!)
俺は金色の何かに触れる。
ありがとう、親分!!!
「!!??」
すると、温かい気持ちが俺の中に流れ込んできた。
(この記憶は・・・?)
この姿は・・・ジャルベか?ジャルベの周りにいる人達は・・・もしかして、さっきまでルリ達と一緒にいた奴らか?ジャルベの奴、こんな笑顔が出来るんだな。
(・・・そうか)
この記憶は多分、ジャルベの記憶だ。だが、【隕黒滅】に触れたような、嫌な記憶なんかじゃないな。とても温かく、幸せな記憶だ。
(この記憶がどうしてこんなところにあるんだ?)
まさか、この記憶が今、ジャルベから無くなっているのか?そう考えるとやばそうだな。
(あいつ、かつて地球でいじめられていた俺と同じ状況か?)
学校でいじめられ、孤独だと思っていた時期の俺と同じ認識なら、全てを敵と認識していてもおかしくないな。
(少なくともジャルベには味方がいるはずだ!)
あの時の俺に両親という味方がいたように、ジャルベには味方がいるんだ!
(その事をジャルベ本人に気付かせるためには・・・、)
俺の推測だが、この魔力をジャルベ本人に渡せば思い出すんじゃないか?この仮説が正しいとすると、この金色の何かをジャルベ本人に渡すために、早くこの【隕黒滅】から外にでないとな。
(入ってきた場所から外に出るか)
俺は入ってきた場所を目で確認してから、【隕黒滅】から出ようと動き始める。
(!?ち!)
俺が【隕黒滅】の外へ出ようとすると、【隕黒滅】から黒い触手みたいな何かが俺に向けて伸びてきた。俺はその触手のような何かから逃げるように体を動かし、なんとか【隕黒滅】から外に出てきた。
「みんな!【隕黒滅】から離れてくれ!」
俺は【隕黒滅】から出てきて早々、みんなに【隕黒滅】から離れるよう大声で伝える。そして、みんなの返事をきかないまま、俺はある魔法の準備を始める。
「「「!!!???はい!!!」」」
どうやら、俺のいきなりの登場に驚いたものの、俺の言葉に従い、みんな【隕黒滅】から離れていく。俺の言葉を信じてくれてありがたいな。
(ルリ達が【隕黒滅】を足止めしてくれたこの時間を、無駄にさせない!)
「【結界】!」
俺は【隕黒滅】を丸ごと【結界】で包み込む。
(よし!)
これなら、【隕黒滅】が地上とぶつかることはないだろう。
(ついでに、あの【隕黒滅】を小さくしておくか。【転移門・吸収】!)
・・・よし。【転移門・吸収】が【隕黒滅】を少しずつ吸収し、【隕黒滅】を小さくしているな。これで【隕黒滅】に関する問題は解決かな。
「さて、」
俺はここでジャルベを見る。
「てめぇ・・・!!!」
ジャルベは、俺をとても憎たらしい目で見ていた。
(あの時見た目だな・・・)
それは地球で俺がいじめられていた時、ふと鏡を見た時の顔とよく似ていた。それほどまでに、自分以外の全てを憎んでいるのだろう。あの時の俺もそうだったからな。
(でも、その後気付いたんだよな)
いじめられている俺でも、俺の言葉を信じてくれる人がいるということ。その人たちの存在が、思い出が、自分を支えてくれる。
(そんな大切なモノを、忘れているんだろうな)
ジャルベを見ていると、なんだか過去の俺を見ているようで、少し同情してしまう。
「思い出させてやるよ」
俺はジャルベの懐に行くため、【黒色気】を使用し、展開した【結界】を足場にし、思いっきりジャンプする。
(ひとまず、この金色の何かをジャルベにぶつけてみるか)
投げてもいいが、もし外れてどっか行ったら不味いからな。直接体に触れて体内に送り込む形で行くか。
「死ねぇ!!!」
ジャルベは黒い魔力の塊を複数個作り、俺めがけて撃ってきた。
(神色剣を神色拳に!)
俺が拳の形をイメージすると、神色剣が俺の拳に纏わりはじめ、拳の形になった。
(これで、あの黒い球を殴り落とす!)
俺は、俺めがけて撃ってきた黒い球を神色拳で殴りつけ、俺の体に直撃しないようにしつつ、ジャルベとの距離を詰める。
「落ちろ!」
俺はジャルベめがけて拳をぶつけようと、拳を思いっきり振り下ろす。
「!?」
ジャルベに拳が直撃したと思ったのだが、俺とジャルベの間に黒い何かが発生し、俺の拳の進行を妨げる。
「死ねぇ!」
「!?ぐ!??」
ジャルベから黒い何かが伸び、俺の体を貫く。貫かれた個所から、ジャルベの負の感情が俺の体全身に流れ込んでいく。
殺せ!殺せ!!殺せ!!!
自分以外を信じるな!!
全て、敵だ!!!
(その気持ちは痛いほど、本当に分かる。けど、)
俺は歯をくいしばり、力を振り絞る。
そして、
「落ち、ろ!!」
俺は今持てる力の限りを使い、ジャルベを地面にたたき落とす。ジャルベは俺の拳をくらい、地面に追突した。かなり手荒になってしまったが許して欲しい。今の俺に余裕なんてないからな。
「後は、あいつら次第だな」
俺は、ジャルベの元へ駆け寄る形を目で確認する。
「俺も、ジャルベの元に行かないとな」
この金色の何かをジャルベに渡す必要があるからな。
だが、要はあいつらだ。あいつらの言葉や心次第で、ジャルベの今後が決まる。
(頼んだぞ)
俺は【黒色気】を解除し、貫かれた部分を白魔法で回復しながら、【結界】を複数展開し、地上へ戻り始めた。
次回予告
『5-1-22(第381話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその9~』
ジャルベの黒魔法、【隕黒滅】の内部から脱出した彩人は地上に戻り、ジャルベを改めて見る。ジャルベは未だ殺意を己自身に宿らせていた。そんなジャルベを、みんなで助けようと説得していく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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