5-1-16(第375話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその3~
「は?」
俺はジャルベの言葉に驚きを隠せなかった。何せ、俺からすればどうしてジャルベがこいつらを裏切ったと判断したのか分からなかったからだ。
「「「え???」」」
こいつらキメルム達も驚いていた。無理もないか。まさか信頼している相手から裏切った、なんて発言を聞いちまったんだもんな。自分の耳を疑うだろう。
「は?お前は何を言っているんだ?そんな訳ないだろう?」
俺はこいつらキメルム達の意志を代弁するかのように話す。
「こいつらは素直にお前の事を心配していたんだぞ?」
「ならどうしてこいつらはお前らと一緒にいる!?」
そう言い、俺とキメルム達を交互に指差す。
「それは、これからお前を交えて話をしようと・・・、」
「うるさい!そんな訳があるか!?」
そう言い、ジャルベは目の色を変える。そして、体もさきほどみたいな変化がおとずれた。
(・・・んん!!??)
さっきみたいな体の変化かと思ったら、それ以上だった。
なんとジャルベは宙に浮き、黒い翼が生えたのだ!
「なんだ、あれ?」
俺はジャルベの変化に驚くことしか出来なかった。ルリ達も驚いていたが、
「な、なにあれ!!??」
「あんな親分、初めて見た!」
「これから親分、どうなっちゃうのかな?死んじゃうのかな?」
「そんなの嫌だよ!でも、怖い・・・」
どうやらジャルベの背中から黒い翼が生えた事象の発生は、これが初めてらしい。
「・・・そうか。よく分かったよ」
「何が分かったって言うんだ?」
「俺には最初から、守りたいと思える仲間も、家族もいなかったんだな」
ジャルベはそう言いながら、自身の掌で黒い球のようなものを作っていく。
「俺は何もかも失って、独りになったんだな。なら、この世界にいても意味ねーな」
そしてジャルベは、黒く染まった球を俺達に向けて解き放った。
「!?」
俺は直感でやばいと判断し、【魔力障壁】を展開した。本当は【反射障壁】を展開したかったのだが、そこまでの時間はなかった。ジャルベの黒い球が俺の【魔力障壁】に触れた瞬間、俺の【魔力障壁】が壊れた。
(神色拳でいけるか!?)
俺は拳を握り直し、黒い球に向けて思いっきり殴りつける。黒い球は俺の拳を受けて霧散した。
(かなり重い技だったな)
いや、魔法か?この際、技とか魔法とかどうでもいい。それよりあの黒い球を後ろのキメルム達が直撃していたら死んでいたんじゃないか?そのことを分かっていてジャルベはあれを俺達に向けて放ったのか?
(つまり、殺す気で放ったってことなのか!?)
大切な仲間とか家族とか、そういう関係じゃないのか!?
「お前!今の攻撃、こいつらを殺すつもりで撃ちやがったな!!」
「ああ。俺を裏切った奴らに用はない。裏切り者は死あるのみ。慈悲はない」
そう言いながら、ジャルベはさきほどと同じような黒い球を複数用意し始める。
(どう考えてもやばい未来しか見えないだろうが!?)
俺は【反射障壁】の準備を始める。
「【黒滅球】」
そしてジャルベの【黒滅球】と言う技?魔法?もう魔法でいいや。それが複数俺達に襲い掛かる。
「【反射障壁】!!」
俺は複数の【反射障壁】を展開する。ジャルベの【黒滅球】と俺の【反射障壁】がぶつかり合う。
(ち!【反射障壁】だけじゃあ防ぎきれねぇ!)
俺は両手で【反射障壁】を制御しつつ、背中から魔力で形成した腕を複数本生やし、生やした腕でジャルベの【黒滅球】を殴り飛ばしていく。
「数が・・・!みんな!!」
俺は一人だけじゃあ対処しきれないと判断し、声をかけた。すると、
「行きます!」
リーフは魔銀製の細剣で【黒滅球】の中心を突き刺し、消滅させていく。
「私も暴れますよ!」
クリムは自身の拳に火を纏わせ、【黒滅球】を殴り飛ばしていく。
「…助太刀する」
イブは両手から【破滅光線】を撃ち、【黒滅球】を破滅させていく。
「氷れ」
ルリは氷の壁を作り、キメルム達から【黒滅球】の脅威から護る。
「牛術が一つ、【午閃】!」
クロミルは魔銀製の剣を携え、【午閃】で【黒滅球】を切り刻んでいく。
「この子達を助けます!【三樹爪撃】!」
モミジは【三樹爪撃】で【黒滅球】を切り裂き、散らせていく。
(俺も負けられないな)
俺もみんなと同じくらい活躍しようと、【反射障壁】をさらに展開しつつ、魔力で形成した腕で【黒滅球】で殴り飛ばしていく。
「お願いします!親分を助けて下さい!」
俺達が懸命にジャルベの【黒滅球】の攻撃を防いでいると、後ろから声が聞こえた。
「助ける?どういうことだ?」
俺は【反射障壁】を追加で展開しながらキメルムに質問する。
「親分はきっと、勘違いしているだけなんです!その勘違いを解けば、きっと・・・!だから、お願いします!!」
「「「お願いします!!!」」」
勘違いをしているだけ、か。確かにそうだろう。俺から見ても、おそらくジャルベは勘違いしている。そう判断は出来る。
だが、
「その勘違いで、お前らはその親分に殺されそうなんだぞ?それを分かって言っているのか?」
この攻撃には明確な殺意が込められている。この意味が理解出来ないほど、こいつらは馬鹿ではないだろう。それとも、この攻撃をくらっていないからジャルベの殺意に気づいていないのか?
「分かっています。それに、このまま親分を独りにさせない!させたくないんです!」
「だけど、私達だけじゃあ親分の暴走を止められない」
「悔しい・・・!」
どうやら、殺意を向けられていると自覚したうえで言っているらしい。
「つまり、あいつの暴走を止めろ、と言いたいのだな?」
「はい」
「どうやってだ?」
「・・・え?」
「あいつはおそらく、目の前にいるお前らを含めた全員を殺さない限り止まらないぞ」
今のジャルベの目は、かなりぶっ飛んでいる。どこか冷静さを装っているようにも見えるが、ぶっ飛んでいることは分かる。頭のネジが半分以上外れているんじゃないかと推測してしまうくらいだ。普段のジャルベをほとんど知らないので、正確なことは分からないのだが。
「「「・・・」」」
俺の言葉に思い当たる節があったのか、キメルム達は黙ってしまった。
(助ける方法は分からないが、助けてくれってか)
まるで全世界に現存するいじめ問題を抹消してくれ、と言わんばかりだな。俺自身のいじめ問題も解決出来なかったのに、こいつを助けるだと?
(あんな狂人を目の前にして、無理に決まって・・・、)
心の中で断言しようと思っていたが、俺は気づいてしまった。
俺の親は、俺がいじめを受けていると聞くと、俺と一緒にになっていじめ問題を解決しようと奮闘してくれていたこと。
(今の俺がそのまま親になったら・・・)
きっと、自分の子供のいじめ問題を見て見ぬふりしていただろう。今のジャルベのように。
(・・・はぁ。俺も屑だな)
いじめをする人間も、いじめを見てみぬふりする人間も等しく嫌っていたのに、おれが、いじめをされていた人間が、いじめを見てみぬふりする人間になっていたとは。
「アヤトさん」
「ん?なんだ?」
「この子達、助けませんか?」
このモミジの言葉を始めとし、
「ルリはこの子達、助けたい!」
「全てはご主人様の望みのままに」
「アルジンの行動、言葉を信じます」
「私はここで見捨てたくありません」
みんな・・・。
そうか。助ける方法とか、助けられるかどうかじゃなかったんだ。
助けたいか、助けたくないか。
たったそれだけだったんだ。
「それに、助けた方が後々いいかと思いますよ?」
「…ん。魔道具の事、聞くことが出来るかもしれない」
「そう、か」
元々、その魔道具の事を聞こうとしてこの町に寄ったんだっけ。まぁ、聞くために必要な労力と考えればいいか。
このように、リーフとイブは俺に助ける理由を与えてくれた。
これでもう、躊躇う事はないな。
(ありがとう、みんな)
さぁ、動こうか。
(その前に、一つだけ確認しよう)
俺は確認するため、あることをキメルム達に聞くことにした。
「お前らは、あいつを助けるためならなんでも出来るか?」
「「「も、もちろん!」」」
「例え死ぬことになっても、か?」
俺の言葉に、キメルム達は一瞬のためらいもなく、
「「「それで親分が助けられるのなら」」」
(!?)
俺が確かめたかったのは、こいつらの覚悟だ。変なタイミングでやる気を失われたり、裏切られたりしたら困るからな。
「そうか。ならいい」
覚悟が決まっているならいいか。俺もいい加減覚悟を決めるとしよう。
「分かった。助けよう」
俺の言葉に、俺以外の全員の顔に笑みが出現する。
「ただし、死ぬくらい辛い現実に直面するかもしれないが、覚悟しとけよ?」
俺は脅す形でキメルム達に宣告する。今の状態でジャルベと対面し、何を言われるか分かったものじゃないからな。
「「「・・・」」」
全員、既に覚悟を決めていたらしく、言葉で返事をしなかったのだが、頷きで意志を証明してくれた。
(試すようなことをして悪かったな)
口で言うつもりはないが、心の中だけ謝罪しておこう。俺も人の事をとやかく言える資格なんてないからな。
「分かった」
さて、これからどうしようか。
次回予告
『5-1-17(第376話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその4~』
キメルム達は、一度ジャルベから殺意を向けられたにも関わらず、ジャルベを助けたいと彩人達にお願いする。彩人はキメルム達の覚悟、ルリ達の言葉を聞き、ジャルベを、暴走し始めているジャルベを助けようと動き始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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