5-1-15(第374話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその2~
全員に話を聞こうとし、顔を見たところ、ひどく痩せこけていた。その様子だけで、これまでの生活の一端を見ることが出来た。
(話をするだけじゃあ何も話してくれないかもしれないな)
俺は話をするだけじゃあ正直に話してくれないと思い、食事をしながら話すのはどうかと提案してみる。
「「「全員食べられるの!!!???」」」
なんか目を輝かせていた。食事することがそんなに感動ものなのか?それほど過酷な環境下で生活していた、ということなのだろうな。痩せこけた様子も納得だ。
さて、どんなものが食べたいだろうか。肉料理だと、胃に負担がかかり過ぎるかもしれないな。それじゃあ果物?果物だとちょっと物足りない気がする。
・・・ホットケーキでいいか。これが最善じゃないかもしれないが、ホットケーキなら腐るほどあるし、問題ないだろう。
「ご主人様、人数分の食器でしたらこちらに」
「!!??お、おお。あ、ありがと、クロミル」
「いえ。ご主人様の意向を予測したまでです」
相変わらずクロミルは、俺の思考を覗き見しているのではないかと疑いたくなってしまうくらい鋭いな。
(だが、地面に直接座る、というのもな)
俺は少し考え、即席のテーブルと椅子を用意することにした。
まず、緑魔法で土を盛り上げ、テーブルを作成した。そのテーブルの上に皿を置き、皿の上に食べ物を置くので、出来るだけ清潔にしなくてはならない。なので俺は、即席で作ったテーブルを消毒し、食中毒が起きないように配慮した。後、色は土色のままも味気ないと思ったので、テーブルの色を白に変更しておいた。椅子も同様の加工を施し、それなりの見た目にしておいた。
「見た目もご配慮するとは。流石はご主人様です」
「お、おぉ・・・」
クロミルのいきなりの称賛に俺は驚いた。俺はただ味気ない食事にしないよう気を遣っただけなんだけどな。
「クロミル、悪いが、」
「人数分の食器を並べさせていただきます」
「・・・うん。ありがとう」
「ルリも手伝うー」
ルリだけでなく、リーフ達も手伝ってくれたおかげか、すぐに準備が終わった。
(それじゃあ出すか)
俺はアイテムブレスレットからホットケーキを取り出す。俺がホットケーキを取り出している様子を見て、多くの人の視線が俺に突き刺さる。こういう状況、どう乗り切ればいいのだろうか。軽くジョークでも挟んでみるとしよう。
「そういえば、クロミルも妊娠して3カ月か。子供の名前は決まったか?」
「「「「・・・え????」」」」
「え?」
・・・この空気は一体なんだ?俺のジョーク、笑えないのか?
「ご主人様は私を妊娠させたのですか?」
「「「・・・」」」
やばい。3人の視線がものすごく痛い。主にリーフとかクリムとかイブとか。
「じょ、冗談だ」
もうこんな冗談、二度と言わない。俺の心に悪いからな。みんなも笑ってくれないし。
「えと・・・いいことですよね、妊娠?」
「?妊娠ってな~に?美味しいの?」
モミジは俺のフォローをしているつもりなのだろう。ありがとうモミジ。お願いだからあの3人をこれ以上刺激しないで欲しい。
あとルリ。少しは一般常識を学びなさい。少なくとも妊娠は食べ物ではない。まぁ、男が女を食べたからそうなったのかもしれないが。・・・ちょっと言葉が下品だったな。
「さ、用意出来たぞ」
みんなの協力の元、ホットケーキの用意が完了した。みんな、食べたそうに見ていたり、ホットケーキを不思議そうに見ていたりする。ふっふっふ。この美味しいホットケーキを食べて、ホットケーキの虜になるがいい!
「「「・・・」」」
「さ、召し上がれ。近くのフォークを使って食べてくれよ」
「「「・・・」」」
俺が食事を促したにも関わらず、フォークを持って食べようとしない。何人かは、
「これって・・・?」
「さっき食べたよ。とっても美味しいやつ!」
と言っていた。え?ホットケーキってこの世界にもあったの?イブ達はホットケーキの存在を知らなかったのに。もしかしたら、白の国にはホットケーキという食べ物があるのかもしれないな。
(それにしてもみんな、最初はゆっくり食べていたが、少し経ってからもの凄い勢いで食べ始めたな)
お腹が空いていたのだろう。ホットケーキが美味しい食べ物だと舌で分かった瞬間、がっつき始めていた。
「あの」
「ん?どうした?」
「これ、他の者達にも食べさせたいのですが、よろしいでしょうか?」
「まぁ、いいよ。ちょっと待ってくれ・・・」
俺は追加でホットケーキを出して、食器の上に並べていった。
「「「え!!!???」」」
すると、何故か驚かれた。な~ぜ~?まぁいいや。俺は気にせず並べていこうとしたのだが、ふと気になった事があった。
(そういえば、他の者達って何人いるのだろうか?)
他の者達の人数を把握していなかったのだ。聞いておくか。
「そういえば、他の者達って何人いるんだ?」
「え?・・・後十人以上います、けど・・・、」
「十人か」
なら十枚・・・いや、念のために十五枚出すか。俺は追加でホットケーキを十五枚だし、全て食器に出す。
「これで足りるか?」
「えと・・・本当によろしいのですか?」
「え?いいけど?」
なんでそんなに不安そうなんだろうか?
「ありがとう、ございます・・・」
何故か他の人々も涙し始めた。そんなに感動するほど美味しかったのだろうか。まぁ、この世界の人間からすれば、とても美味しいのかもしれないな。リーフ達もとても美味しそうに食べていたからな。
そして、受け取った一人が町に向けて目をやり・・・コウモリ!?え!?体からコウモリが出てきたんだけど!?どういうこと!?
(そっか。目の前にいるのはただの人間じゃないのか)
おそらく、目の前にいる者はコウモリを出現させることが出来る魔獣の体の一部を移植されたキメルムなのだろう。コウモリが町の方へ飛んで行ってから少し経過し、十人近くの子供?が町から俺達を見た後、こちらに来た。コウモリを出現させたキメルムの後ろから手をこまねいていた。まるで招き猫みたいだ。猫じゃなくてキメルムなので、招きキメルム、といったところか。集まった十人近くの子供?達は、俺がホットケーキを差し出すと、俺の顔を見た後、キメルム達を見た。
「「「・・・」」」
キメルム達が一度頷くと、ゆっくりと子供?達が食べ始めた。
「「「!!!???」」」
子供達は、このホットケーキの美味しさを実感したのか、一口食べた後、みんなで慌てて食べ始める。
「そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。まだたくさんありますからね」
リーフはそう言い、追加のホットケーキを取り出した後、子供?達に渡した。この子供?達も、本当にただの子供なのか怪しいな。もしかしたらこいつらもキメルムなのかも。まぁ、キメルムだろうといじめられっ子だろうと関係ないことだ。リーフの後に続いて、クリムやイブもホットケーキを出していた。クリムはともかく、まさかイブまでホットケーキをキメルム達にやるとはな。イブは確か、ホットケーキが大好物だったはず。それなのに・・・イブ、いつの間にか大人になったんだな。
(まぁ、性的には既に大人だけどな。大人にした原因が何言っているのやら)
・・・急に下ネタ関連の事を考えてしまった。反省しよう。それにしてもみんな、食事に夢中なせいで話が出来ないな。まぁ、少しくらい食事風景を眺めているのも悪くないか。
(それにしても幸せそうに食べているからか、作った甲斐を感じるな)
作ったものを、涙を流すくらい美味しそうに食べてくれて、作り甲斐を感じてしまう。その食事風景を見ていると、とても盗みをはたらく盗人には見えないな。もしかして、地球で窃盗は犯罪だが、この世界だと窃盗は犯罪じゃないのか?
(それは後で聞けばいいか)
今は、どうしてこいつらが俺達のものを盗もうとしたのか聞こう。それだけ聞けば十分だ。
(話を聞くとなると、ジャルベを起こした方がいいかもな)
さきほどの状況から、ジャルベはみんなから親分と呼ばれて慕われている。であれば、話を聞くにはジャルベから聞いた方が最適だろう。出来れば目の前にいるキメルム達からも話を聞きたかったのだが、食事中だし、待つか。ジャルベを起こすのも、みんなの食事を終えてからにしよう。俺はそう決め、みんなで食事風景を見ていることにした。
途中、ルリやイブ達もホットケーキを食べ始め、ハチミツまでかけ始め、どんどん食が進んでいった。
(なんだかとても和やかだなぁ)
こういう光景がいつまでも続けばいいなぁと思ってしまう。それに付け加え、どうしてこいつらがひもじぃ思いをしているのだろうか。もしかして、非難されているのか?
(ジャルベも似たようなことを言っていたな)
非難されるような理由なんてどこにも・・・もしかしなくても、キメルムが原因か。人と体のつくりが違うから嫌悪された、というところかね。
(はぁ)
まったく、どうしてどの世界にもいじめは存在するのだろうか。俺の座右の銘はいじめっ子撲滅にしてやろうかと真剣に考えてしまうぞ。
「?アルジン?どうかされたのですか?」
レンカの言葉で、周囲の視線が俺に集まる。
(うお!!??どうしてみんなこっち見るんだよ!?)
俺は周囲の視線に内心驚きながらも、レンカの質問に答える。
「ん?いや・・・どこにでもいるんだなって」
俺はいじめられた過去を思い出しながら、あの時の感情をふつふつと思い出す。本当にあの時は辛かった。今思い出すだけでも辛いな。
「どこにでもいるって、なにがですか?」
なにが、か。正直にいじめっ子と言っても伝わり辛いかもしれないな。いじめという言葉は学校で多く聞く機会はあった。だがこの世界の学校は見たことがない。従って、いじめという単語が浸透していないのではと考えたのだ。まぁ、いじめが起きる場はなにも学校だけではないのだが。それにしても、どういう風に言えばいじめが伝わるだろうか・・・。
「人を見た目だけで判断し、暴力行為をしたり、暴言を吐いたりするやつだよ」
俺がそう言うと、キメルム達がとても苦い顔をした。
(カカオ98%のチョコレートでも食ったのか?)
あれ、初めに食べた時、とても苦く感じたんだよな。他にも初めてコーヒーを飲んだ時とか・・・て、そんなわけないか。十中八九、俺の発言のせいだろう。
「そういう奴らのせいで、本来傷つかなくてもいい奴らが傷つく。中には、死にたくなくても死んでいった奴もいる」
地球ではよく見たな。主にテレビでいじめに関する自殺のニュースは頻繁だった。俺も自殺しようかと何度も何度も考えさせられたものだ。本当に、本当に人をいじめる奴らは許せない。
「…もしかして、アヤトもサキュラ、サキュリ達みたいに?」
「?あ、ああ」
俺はイブの言うサキュラとサキュリに心当たりがなかったが、取り敢えず頷いておいた。すると、
「アヤトさんも、辛かったんですね・・・」
モミジが俺を自身の胸に引き寄せてくれた。
そして、
(!?これって・・・!?)
モミジが涙を流していた。理由は、察しの悪い俺でも理解出来た。涙を流した理由はきっと、俺の先ほどの言葉だろうな。
そういえば、モミジも以前、フォレードにいじめ行為をされていたな。あれがいじめじゃなければ・・・殺人未遂?いじめだろうが殺人未遂だろうが、理不尽なことをされて喜ぶ者はいないだろう。
「ありがとう、モミジ。もう大丈夫だ」
俺はゆっくりモミジから離れる。
「俺の話は後でするよ。それより今はジャルベを起こしたい。構わないか?」
自分で話しておいて、なんて思わないで欲しい。俺だって話を振られなければするつもりなんて無かったんだからな。みんな、俺の言葉に賛成してくれたので、俺はジャルベを起こすことにした。
(それじゃあ、どうやってジャルベをどうやって起こすか?)
【毒霧】で無理矢理起こすか?それとも、ビンタして起こすか?
(少なくともビンタは辞めるか)
こいつらの目の前でビンタすると、俺がジャルベをいじめるいじめっ子に見えかねない。となると、まずは声をかけて起きるかどうか試してみるか。
「おーい。起きろー」
・・・。起きる気配は無さそうだ。俺の【毒霧】、強過ぎじゃね?声をかけて起きないとなると・・・どうするか?俺が悩んでいると、ルリが助け舟を出してくれた。
「起きないなら、美味しいご飯の匂いでも嗅がせれば?」
そのルリの提案を受け、俺は美味しい料理の匂いをジャルベに嗅がせる事にした。
(美味しい料理の匂いって、どの料理の匂いを嗅がせればいいかね・・・)
俺は少し考え、カレーの匂いを嗅がせることにした。あのスパイシーな香りを嗅げば、ジャルベも起きてくれることだろう。多分だけど。
俺はカレーをアイテムブレスレットから取り出し、ジャルベに近づける。
「「「!!!???」」」
周囲の人間はカレーの香りに釘付けだったようだが、今の俺は気にせず、ジャルベの鼻に近づける。
「こーんなに美味しい料理を食べてもいいのかな~?お前抜きで食べちゃうぞ~?」
ちなみに、今のジャルベは拘束していない。なので、決してジャルベを匂い拷問しているわけではないので、勘違いしないように!
「ほらほら~。起きないと食べちゃうぞ~?」
俺はカレー入りの容器を上下左右に振り、香り成分をジャルベに漂わせる。
「う、う~ん・・・」
お?ようやくジャルベが起きるか。
「おい。起きたらまず・・・飯食うぞ」
本当は話を聞きたかったが、ジャルベだけ何も食べさせないわけにはいかないだろう。ジャルベにも何か食べさせてやらないとな。話はそれからでも問題ないだろう。
「ここ、は?」
「俺とお前が戦っていた場所だ」
そういえば町の名前は知らないな。ここ、どこなんだろうな?白の国にいるとは思うんだけどな。
「・・・」
ジャルベは周囲を見渡し、俺だけでなく、ルリやキメルム達がいることを目視したらしい。
「お、お前ら・・・」
「親分・・・」
ジャルベとキメルム達が見つめ合った後、ジャルベは目を見開き、衝撃の言葉を発した。
「お前ら、俺を裏切ったな」
と。
次回予告
『5-1-16(第375話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベその3~』
ジャルベは、彩人達とキメルム達が話している様子を見て、キメルム達が裏切ったと判断し、行動に移す。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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