5-1-13(第372話) キメルム達の奇襲~クリムVSゴダム~
場所は変わる。
「ここはどこでしょう?」
飛ばされた一人、クリムは周囲を見渡す。
「ここは、お前と俺が殴り合う場所よ」
「!?あなたはさきほどの・・・!?」
クリムは、声が聞こえた方角を見る。そこにはさきほど拳を合わせた者、ゴダムがいた。
「さぁ?さきほどの続きをしようか?」
ゴダムは外套を投げ捨て、自身の腕を露わにする。その腕は、人間の腕とは思えないほどごつく、獣のような腕である。
「この拳で何人もの騎士を殺してきたわ。あなたもその騎士達同様、殴り殺してあげる」
人間の体に似合わない獣のような腕を自身の体のように動かし、クリムに敵意を送る。
「そうですか。では私は殺されないよう足掻いてみせますよ」
クリムは軽く手足を動かし、体をほぐす。
「そう言った後、何度も命乞いをしてきた騎士を数多く見てきたわ。残さず全員殺してあげたけど」
「そう、ですか」
クリムは出来るだけ感情移入しないように注意し、
「そうだ。だから、死ね!」
ゴダムはクリムめがけて突進する。
「【赤色装】!」
クリムは【赤色装】を発動させ、ダゴムめがけて突進する。お互いがお互いに向かって突進し、拳をぶつけ合う。この拳のぶつけ合いが、クリムとゴダムとの戦いの始まりとなった。
クリムとゴダムが始めて拳を交わしてから数十分。二人はひたすら拳をぶつけ合っていた。その間、一切言葉は口から出てこなかった。口に出さずとも、二人は拳を交わす度、お互いの考えが自然と伝わっていくのである。
(こいつはこんなに充実した生活を今まで送って来たのか・・・!)
ゴダムはクリムの拳から、クリムの記憶を垣間見る。
クリムの生活は、他の人より裕福な生活を送っていた。それもそのはず。クリムは王族なのである。
(こいつも、俺達みたいな人間から搾取していたのか!?)
ゴダムは、クリムが王族であること苛立ちを覚える。だが、次に見た記憶は、王族とは思えない内容だった。
その内容とは、兵士達に混じって戦闘訓練を誰よりも真剣に取り組み、最前線で魔獣を討伐し、対人戦闘の経験値をためていたのだ。そして、普段の生活は、ゴダムが思っていたような豪勢な生活をせず、一国に所属している兵士のような生活だった。最低限の食事を済ませ、その後も戦闘訓練を一人で積んでいた。どうしてここまでして戦闘訓練しているのか謎なくらいに。
(これが本当に王族の生活なのか?まるで兵士じゃないか!?)
ゴダムは、王族はもっと華やかな生活を送り、国民達を見下していると思っていたからである。そんな王族の記憶を覗いてみたら、そんなことはまったくなかった。
王族なのにあそこまで体を鍛えていていいのかしら?
体を鍛えているのって、座学があまりにも出来ないかららしいですって。
勉強が出来ないのは父親譲りみたいですね。
そんな陰口を、クリムはものともせず、ずっと鍛錬し続けていた。
そしてある日、一人の少年とクリムが出会う。その少年こそ、さきほど見た少年だった。充実して幸せな旅を送っているのかと思ったら、幸せな出来事だけではなかった。
(こいつも苦労していたんだな・・・)
ゴダムが垣間見た記憶は、クリム達が緑の国にいた時の出来事である。詳細は省くが、女性の尊厳を貶めるような行為が行われていた。そして、少年が助けに来て、元凶を切り刻む。女性を助ける男の姿は、まるで王女を助ける王子様のようである。
(こいつの記憶からすると、白の国とは無関係、なのか?)
そんな思考を口に出さず、脳内で展開していく。
「!?」
思考を展開していると、クリムの拳がゴダムの肉体に直撃して吹っ飛ぶ。
「少し、考え過ぎですよ?」
数十分ぶりに、クリムはゴダムに向けて言葉を投げる。投げかけた言葉に返答は期待していないのか、クリムも思考し始める。
(それにしても、あのゴダムという子も、かなり悲運なようです)
クリムの記憶が二人の拳を通してゴダムに届いたように、ゴダムの記憶もまた二人の拳を通してクリムに届いたのである。
クリムは拳を通して、ゴダムの記憶を垣間見る。
ゴダムは、体を動かすことが大好きだった。勉強するより運動することを選択し、日中体を動かし続けた。そんな活発的な子供だった。
そんな子供を大きく変えたのは、ある騎士がゴダム達家族の自宅に突入した時である。ゴダム達家族の自宅に侵入した騎士は、ゴダムの家族を殺した。ゴダムにとって、家族はとても優しく、憧れの存在だった。そんな尊敬出来る人物が目の前で殺されたのだ。両親が殺人者だろうが罪人だろうが関係ない。目の前で肉親が殺されて黙っていられるほどゴダムの心はできた大人ではない。目の前で愛すべき両親を殺されたゴダムは、当時所有していた力全てを使って両親を殺した騎士達全員を漏れなく殺した。殺した当初、ゴダムの両腕は切り落とされていた。だが、ゴダムには後悔なんて無かった。後悔より殺された両親の仇をとることが出来た満足感の方が勝っていたのだ。両親の仇をとったゴダムはその後、表舞台から消えたかのように、裏路地で生活し始めた。
(なるほど。それでさきほどから騎士騎士と言っていたのですね)
クリムはゴダムの記憶の一部を垣間見て納得する。そして再びクリムはゴダムの記憶を閲覧する。
両腕を失ったゴダムが路地裏で生活し始めてから幾日経過。ゴダムは路地裏から別の場所に連れていかれた。地球では誘拐という犯罪なのだが、犯罪に気付く人も、身元を一切知らない人のために犯罪を告発しようとする人物なんていなかった。連れてこられたゴダムに待っていたのは、実験の日々だった。様々な魔法をかけられ、液体に浸けられ続けた。その結果、ゴダムの両腕にはいつの間にか腕がつけられていた。その腕は人間であるゴダムにはあまりにも大き過ぎて、獣のような腕だった。ゴダムは、両腕がついていた時の感覚で獣のような腕を振り回したことで、拘束具を無理矢理力だけで外すことに成功した。拘束具が外されたことに、研究員達は驚く。研究員達が驚いている隙をつき、ゴダムは研究員達を殴り殺し、研究所から逃げ出した。
それからのゴダムは、以前の路地裏生活よりも酷い生活を送っていた。カロリーを出来るだけ浪費しないように動かず、日々の生活を耐え凌いでいた。
ゴダムという人間はもう将来という希望を持たず、絶望の日々を過ごしていた。
(あの魔獣みたいな腕は、生まれた時からついていたものではなく、誰かにつけられたものだったのですね)
ただ死を待つだけの生活を送っていたある日、ゴダムの目の前にある人物が現れる。
「誰、だよ・・・」
ゴダムが力なく声を発すると、
「お前と同じ者だ。俺と一緒に来ないか?」
誰かが返事を返す。そして、記憶の彼方に封印されていた懐かしい香りがゴダムの鼻孔をくすぐり、食欲を刺激される。力が入らない体を動かし、首をあげてみると、目の前に食べ物が見えた。その食べ物は出来たてなのか、食べ物から湯気が立っていた。ゴダムはもう食べ物に釘付けになっていた。
「ああ。来ようが来まいが関係なしに、これはやるよ」
ある者から食べ物を奪取するかのようにゴダムは食べ物をとり、懸命にがぶりついた。その姿勢に、食事を礼儀正しく食べようという意識なんてなく、ただ自分の空腹を満たすためだけに、とった食物を胃の中に入れていった。そこからゴダムは、ある者の話を聞き、路地裏からある廃れた町へ向かった。その廃れた町に大人は住んでいなかった。
(この廃れた町が、今私達がいるこの町なのですね)
その廃れた町には、多くの子供がいた。だがその子供達全員、どこかおかしかった。ゴダムの魔獣みたいな腕のように、体の一部に魔獣みたいな獣の体を携えていた。
(もしかして、この町に住んでいる子達全員、この子みたいだと言うの?)
それからゴダムは、この町に住むようになった。この町には、自分と同じような境遇の人間が数多くいたこの場は、とても居心地がよかった。体がスライムのようになっていたり、尻尾が生えていたりと、どこか人間とかけ離れている部分があった。自分も魔獣みたいな腕になったからなのかゴダムの気持ちを察してからなのか、ある者からゴダムの話を聞いた子供達はゴダムに同情し、涙してくれた。この時、ゴダムはこの町のみんなのために戦おうと決めた。決意を固めたゴダムはみんなにお願いし、より力をつけようと特訓し始めた。
(なるほど)
クリムはゴダムの記憶から、おおよその事態を把握した。把握した直後、クリムの頬に何者かの拳が直撃し、吹っ飛ぶ。
「てめぇも考え過ぎじゃないのか?」
クリムをぶっ飛ばしたのはゴダムの拳だった。ぶっ飛ばされたクリムはすぐに立て直す。
「もしかしなくても、さっきのお返しですよね?」
クリムは自然と笑っていた。
「ああ。私はただでやられないからな」
そして、ゴダムも笑っていた。
二人は拳を交わし合ってから、互いの記憶を多少覗きこんだ。だが、二人はそんな過去の状況なんかどうでもよくなっていた。ただ、目の前の者に戦って勝ちたい。そんな意識が強くなっていく。
この二人は本来、体の鍛錬を好んでいる人種であり、戦いも好んでいる。そんな二人だからこそ、過去のしがらみなんてどうでもいいくらい、目の前の敵を倒したいと思ってしまった。その感情が笑みとなって顔に顕現したのである。
「やばいな」
ゴダムはだんだん、勝負を楽しみ始めていた。ゴダムと対等に戦ってきた人物が極僅かだったため、長期にわたる戦闘に興奮している。
「本当は、アヤト達を探さなくてはならないんですけど、今は後回しにしましょう」
クリムはにやけながら言う。
「今は目の前の者を、倒す」
クリムは自身の拳を握り直し、
「面白くなってきた」
ゴダムも、自身が笑っていることを認可する。
「【炎拳】」
クリムは再び拳に炎を纏わせ、戦闘意欲を高める。
「【熱拳】」
ゴダムの拳は熱を帯び、赤く変色し始める。
「「!!??」」
二人は戦闘を再開しようとするが、急な気配の異変を感じ取り、動きを止める。
「この気配は一体・・・!?」
クリムは【炎拳】を解除し、周囲の気配を窺う。
「まさか親分、【獣化】したんじゃ・・・?」
ゴダムは【熱拳】を解除し、クリムの前から去った。
「じゅう、か?よく分かりませんが、あの子なら何か知っているかも」
クリムは、急に移動し始めたゴダムの後を追いかけるように移動を始めた。そこでクリムとゴダムが目にしたものは・・・。
次回予告
『5-1-14(第373話) キメルム達の奇襲~アヤトVSジャルベ~』
複数人による奇襲で、彩人達は分断されてしまう。そんな中アヤトは、キメルム達をまとめるジャルベから奇襲を受ける。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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