5-1-11(第370話) キメルム達の奇襲~レンカVSスララカ~
場所は変わる。
「ここは、どこでしょうかね?」
独り飛ばされたレンカは、現状の把握を試みる。
「ここはあなたの墓沼よ。あなたはそこの沼に沈んで死ぬの」
「!?あなたは一体・・・!?」
レンカは、声が聞こえた方角を見る。すると、外套を纏った者が振り向いた方向にいた。
「私はスララカ。あなたを死の沼に沈ませる者よ」
「死の沼、ですか」
レンカは外見で獲得出来る情報を視認しようとする。だが、纏っている外套で詳細な外見が分からずにいる。
(少し、時間を稼ぎますか)
レンカは考えた末、目の前にいる者と話をすることにした。
(戦闘になった時の準備は欠かせないようにしましょう)
もちろん、戦闘になった時の準備を怠らないようにする。
「死の沼に沈ませるとは、一体どういう意味でしょうか?」
「こういう意味よ!」
スララカはレンカに向けて手をかざす。
「!?」
レンカは危険を察知し、その場から離れる。レンカが場を離れた直後、さきほどまでいたレンカがいた地面が急にぬかるむ。
「ち!」
スララカは分かりやすく舌打ちする。
(この沼・・・なるほど)
レンカは、目の前に発生した沼を見て、自身を殺しにきていることを確信する。
「どうしてそこまで私を殺そうとするのですか?」
「お前じゃないわ。あなた達全員を殺す気でいるわ!」
スララカは、全身から殺気を放出する。
(ものすごい殺気ですね。まるで野生の獣みたいです)
「私達があなた方に何かしたのですか?」
「何かしたのですか、ですって?」
レンカがそう聞いた瞬間、スララカからおまけと言わんばかりの殺気を放出する。
「ふざけんじゃないわよ。ふざけんじゃないわよ!!!」
スララカは先ほど以上に声を大きくし、怒りの矛先をレンカに向ける。
「あんたら人間が、私達に何をしたか分かったうえで言っているの!!??」
「いいえ?」
レンカは正直に答えた。
何せレンカは、これまでほとんどの人間と出会ったり、話したりしたことがないのである。そのうえ、レンカは人間ではなく魔道具。スララカの言葉にはまったく心当たりがないのである。
「ふざけんな!私に、私達にあれだけのことをしておいて、忘れたなんてふざけんな!!」
スララカは水を薄く伸ばし、レンカに向けて放つ。
「!?」
レンカは、スララカから放たれた薄く伸びた水を躱す。躱された水はまるで鋭利な刃物のように岩を切断する。
(水の刃のようですね。当たれば人間の体ぐらい、容易に切断出来そうです。これをさきほどの一瞬で放ったのでしょうか?だとすれば、かなり魔力制御が出来る方ですね)
レンカはスララカの攻撃を躱しながら、スララカの魔法を分析する。
「あなたほどの方が遅れをとるとは思えないのですが、一体誰にやられたのでしょう?」
「!!??白々しいことを言いやがって!!お前ら人間は、私達をキメルムにしておいて、殺そうとした!!!」
「?キメルムに、した??」
レンカは、自分に記録されている文献を片っ端から見直す。まるで、キメルムに関する本を図書館から探すかのよう。
「・・・もしや、あなた達キメルムは、元はイブ殿やクリム殿と同じ人間だった、ということですか?」
「そうよ!私達がキメルムになったのも、あのふざけた実験のせいなの!!そして私は、全てを失ったの!」
スララカは、口から大量の水を大砲のように撃ちだす。
「・・・」
レンカはスララカの攻撃を難なく避ける。避けた後、勢いが強い大量の水が地面に激突し、地面がえぐられる。
「あなた達は、昨日仲良くしていた親友から翌日、石を投げつけられたことがある!?」
スララカは、掌に大きな水の球を作り出す。その球から、レンカに向けて小石サイズの水の球が無数に発射された。
「【魔力障壁】」
レンカは【魔力障壁】を展開する。【魔力障壁】にぶつかった小石サイズの水の球は球の形を保てなくなり、はじけ飛ぶ。
「切り刻まれて死ね」
「!?」
スララカはどこから取り出したのか、水色の刃物のようなものをレンカに向けて振り下ろす。
「な!?」
レンカはスララカの刃物に対し、腕でくらった後、そのまま受け流す。本来、人間の腕は刃物を直撃し受け流すほど固く出来ていない。故にスララカは驚いたのである。
「貴様のその腕は一体、どうなっている!?」
「どうなっているもなに、も?」
レンカは、一部破れたスララカの外套から見えてしまった。
スララカの体が、他の人間みたいに肌色ではなく、水色であったことを。
「あなたこそ、その体はどういうことです?」
レンカはスララカの体を指差す。
「ち!見られたか。まぁいい。死人に見せても問題ないわね」
スララカは外套を投げ捨てる。そして、スララカの体が露わになった。
「!?」
レンカはスララカの体を見て驚く。
何せ、スララカの体が全身水色になっていたからである。
「どう?気持ち悪いでしょう?私もこの体のせいで何度殺されかけたことか・・・!!」
スララカは自身の体を嫌悪する。
(あの体の色。先ほど言っていたキメルム。もしかして、この方は・・・、)
レンカはある程度推測をたててから、推論をスララカにぶつける。
「もしかしてあなたは、スライムのキメルム、ですか?」
「!?」
スララカはレンカに対し怒りの感情をむき出しにする。その後、感情を抑え込んで答える。
「そうよ。私はスライムのキメルム。憎きあの、ね」
スララカは、感情を激しく変化させ、次は落ち込む。
「そのおかげで、元々肌色だった私の体がスライムみたいな水色になって、体もこんな風に形を変えられるようになったわ」
スララカは、自身の腕を剣、槍、弓、槌等、様々な武器の形状へ変化させる。
「この体のせいで、私は一生大事にしようと決めた親友から縁を切られ、石を投げられたわ」
さきほどまで俯きながら語っていたスララカは顔をあげる。
「そして家族にも見捨てられたわ。石を投げられ縁を切られ、散々な目に遭ったわ。自分の娘をキメルムの実験体にさせたくせに!」
「実験体に、させた?」
レンカはスララカの言葉に疑問を抱く。
「そんな私を救ってくれたのが親分よ。親分は、私の体を見て、一切嫌悪感をみせなかった。それどころか、私のために泣いてくれたのよ?あなたにそこまで出来る?」
スララカは自身の腕を剣に変える。
「出来るかって聞いてんのよ!」
剣状に形成した自身の腕を振り、レンカに突撃する。そして、レンカ腕をあげてから思いっきり振り下ろす。
「!?」
レンカは、自身の腕を盾に変え、スララカの剣を受け止める。スララカは、レンカがレンカ自身の腕の形状を変更したことに驚く。驚いた後、スララカはすぐレンカから距離を置き、隙を見せないように構え直す。
「あんたのその腕、どうなっているのよ?」
スララカがレンカに問う。
「あなたはさきほど、自身の体を嫌っているように言っていましたが、嫌わなくていいと思います。少なくとも私はあなたに親近感を抱いています」
「ふん!あんたこそ何を言っているのよ!それより私の質問に答えなさいよ!あんたの体、一体どうなっているのよ!?」
「この腕、ですか」
レンカは盾に変形した腕を人型の腕に戻す。
「私は人ではありません」
「!?」
レンカの発言にスララカは驚く。何せスララカは、レンカが人間だと思って殺そうと動いていたのだから。レンカが人間であるという前提が崩れた瞬間である。
「そ、そんなの信じないわ!あなたが人間でないとか信じないわ!」
「えぇ・・・」
レンカは魔道具であって人間ではない。それはレンカにとって不変の事実なのだが、スララカは信じなかった。
(どうやって証明しましょうか・・・?)
レンカは、どのようにして自分が魔道具であること、人間でないことを信じさせるか考える。そして、ある一つの案を思いつく。
(この人と同じことをしてみますか)
レンカはまず、自身の腕を剣の形に変化させる。
「!?」
スララカは、レンカの行動に驚く。
「これで、私が人間でないことを理解していただけましたか?」
「・・・」
スララカは驚いて、口を閉じる事すら忘れる。
「私は人間ではなく道具、魔道具のレンカです。訳あって、アルジン達と行動しています」
「・・・」
スララカは、レンカの正体に驚きを隠せず、まだ固まったままである。
「私はさきほどのように、自身の体を自由自在に変えられるのです。見たところ、あなたと似たような能力のようでしたので、私はあなたに親近感を抱いている、というわけです」
「・・・そ、それでも私は家族に、親友に裏切られたわ!私の方が上よ!」
(上って・・・。この方は一体何を競っているのでしょう?)
レンカは少し呆れながらも、ある出来事を話し始める。
「・・・私は創造主によって作られたのですが、私は嫌われていました」
「え?」
レンカは、自身の生い立ち、黄の国で出会った彩人達の事。その時に起きた出来事や戦い。それらを簡単に話した。
「あなたも、大切な人に裏切られていたのね・・・」
スララカはもう、レンカに殺意を抱いていなかった。それどころか、レンカに親近感を抱き始めていた。
体を自由自在に変形出来る者同士、大切な人に裏切られた者同士、どこか通ずる何かがあるのかもしれない。
「あなたには親分という大切な方がいるようですが、私にもアルジンという大切な方がいるのです」
「・・・」
スララカは、レンカの言葉を黙って聞く。
「そのアルジンという方は、私のために怒り、創造主と戦ってくれました。創造主はとても強かったのですが、アルジンはその強さに臆することなく立ち向かってくれました。」
レンカはある男性、彩人のことを想いながら話す。
「アルジンには別の思惑があったかもしれませんが、私には、私のために立ち向かってくれたのだと思ってしまい、とても嬉しく思いました。あなたも似たような経験、ありませんか?」
「・・・ある、わ」
「このまま私とあなたが戦い続けると、どちらかの経験が、記憶が無駄になります。そして、これから共に生きていけなくなります」
「!?」
レンカの言葉の意味を理解出来ないほど、スララカは馬鹿ではなかった。
「ですから、やめませんか?」
レンカの提案に、
「で、でも!人はまたこうやって裏切って・・・、」
「私は人ではありませんよ?」
「!?」
スララカは躊躇していた。だが、レンカの冷静な突っ込みで、自身の話がおかしいことに気付き、再び黙る。
「・・・」
「私達の今後のために休戦、しませんか?」
「・・・わ・・・!?」
スララカが返事しようとした時、ある変化が起こった。
「なにこれ!?」
スララカは周囲を見渡す。
(?どうしたのでしょう?それにこの気配は一体・・・?)
レンカはスララカの動揺に疑問を抱く。そして、おぞましい気配の出現に気づく。
「まさか・・・親分が【獣化】した!?」
「【獣化】?」
「まずい!」
スララカはある方向へ急行しようとする。が、直前で足を止める。
「・・・あなたのアルジン?だっけ?もしかしたら危ないかもしれないわ」
「何ですって!?」
スララカの言葉にレンカは驚く。
「それどころか、この町が一瞬で消えるかもしれないわ」
「どういうこと、です?」
「それは向かいながら話すわ。あなたももちろん来るわよね?」
「もちろんです!アルジンを助けたいですから」
「私も、暴走した親分を助けたいわ」
レンカとスララカは、お互いが慕っている人の者達の元へ向かう。
次回予告
『5-1-12(第371話) キメルム達の奇襲~ルリVSドーカリ―~』
複数人による奇襲で、彩人達は分断されてしまう。そんな中ルリは、竜のキメルムであるドーカリ―から食べ物を強奪されそうになる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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