5-1-10(第369話) キメルム達の奇襲~モミジVSピクナミ~
場所は変わる。
「ここはどこ、でしょう?」
「ここはあなたの墓場よ」
モミジもクロミル同様どこかに転移させられていた。そして、だれかが待ち受けていた。
「!?あなたは一体・・・!?」
「私?私はピクナミ。ピクシークイーンのキメルムよ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします?」
モミジは突然の状況に理解が追い付いていないなか、ピクナミと名乗った者に挨拶をする。
「そしてさようなら!」
ピクナミは指をモミジめがけて振り下ろす。すると、植物達がモミジに襲い掛かる。
「!?植物さん達、お願い!」
モミジも、ピクナミ同様植物達に頼み、壁になってもらう。それにより、植物の攻撃を植物で防ぐ結果となる。
「ち!そのまま死ねばいいものを!」
ピクナミの攻撃を防いだモミジは、自身が発生させた植物達を見て一言。
「この植物達、かわいそうです」
植物達に同情するかのような眼差しで見ていた。その目にはもう、ピクナミの姿が映っていない。
「どうして?」
モミジは、植物達の根元の地面を見る。そして触る。
「なるほど」
モミジは見て触るだけで、植物がかわいそうな理由を推測する。
「私を、無視するなー!」
ピクナミは、球状に形成した風の塊をモミジめがけて撃つ。
「!?危ない!?」
モミジは、植物達を庇うように動く。そのことで、モミジの体に風の塊をくらう。
「大丈夫みたい、ですね。よかった~」
モミジは、自分の体のことより、目の前の植物達の心配をした。
「後で私の養分を分けますから、今はこれで我慢してね?」
モミジは自身に蓄えられている養分の一部を植物達に分け与える。心なしか、モミジの養分を受け取った植物達が元気になっている気がする。
「こんな環境の中、わざわざ呼んじゃってごめんね?またね」
植物達はモミジに挨拶するかのように、器用に自身のからどぉ折り曲げた後、地中に潜っていった。
「さて」
モミジはここでようやくピクナミに焦点を合わせる。ピクナミは散々モミジに無視されたからか、既に沸点を超えていた。
「お前みたいな人間がいるから、この土地で植物達が育てられず、実りが得られないんだ!」
「確かに、この土地は異常なくらいやせ細っていますね」
モミジは、ピクナミの言葉に納得する。何せ、さきほどモミジ自身で見て触り、土地の状態を確認したのだから。
「ですが、この土地にはまだ可能性があります」
「何故そんなことが分かる!?ピクシーの上位種であるピクシークイーンのキメルムの私でさえ、この土地の回復は不可能だったのよ!?それもこれも、」
ピクナミは、目に見えるほど空気を高圧縮する。
「全部、お前らみたいな人間のせいだろーがー!!!」
ピクナミはさきほどより大きな空気の塊を撃つ。
「は!これで死んだわね♪ざまーないわ!」
モミジの死を悟ったピクナミは、モミジの死を自業自得のように嘲笑う。
だが、ピクナミの悟りは間違いとなった。
「は!?なんで生きているんだよ!?」
モミジは生きていた。自身の体の一部を地面に入れ、その場から離れないようにしていた。だが、直撃していたのか、体に傷が出来ていた。
「あなたにあることを教えるためです」
「は!一体私に何を教えると言うの!?この世界の生き辛さとか、理不尽な仕打ちの数々とか、私達キメルムは既に体験しているのよ!そんなことを教えられたくらいで・・・、」
「そのようなことではありません」
モミジはピクナミの言葉を中断し、否定する。
「は?それじゃあ何よ?もしかして、私達キメルムを責める気?」
「いいえ。ここの植物達は今も生きている、ということです」
「!?そんなわけあるか!?」
「それでは何故さきほど、あなたの呼びかけに植物達は答えてくれたのですか?」
「それはもちろん、私の緑魔法によって・・・、」
「もちろんそれもあると思います。ですが、それだけではありません」
「・・・なんだと?」
「植物達がここで生きていきたいと願ったから、やせ細ったこの土地でも懸命に生きようとしながらあなたの緑魔法に、意志に応えたのではありませんか?」
「・・・」
「ならあなたは植物達の願いをかなえる必要があるのではないですか?まだこの土地は死んでいません。何せこのやせ細った土地でも、植物達はこうして生きているのですから」
モミジがそう答えると、植物達が勝手に生えてきた。
「!?」
ピクナミは、植物達が勝手に生えてきたことに驚く。
「あ、ありがとう♪」
植物達はモミジに甘えるみたいに、自身の体をモミジにこすりつける。
「そ、そんな言葉だけで私達が信じられると思う!?所詮、言葉だけよ!そういった騙してきた人間を無数に見てきたわ!あなたもその無数の人間の一人なんでしょう!!??」
「・・・そうですか」
モミジはピクナミの言葉を静かに受け止め、目を閉じる。
「このあたりにしますか」
「お、おい!一体何をするつもりよ!?」
モミジはピクナミの言葉を聞かず、地面に手を当てる。
「【養分譲渡】!」
地面に自身の養分の一部を譲渡する。譲渡しているからか、モミジ自身の体の一部が枯れ始めていく。
「・・・これくらい、でいいですかね」
モミジは地面から手を離す。そして、少し時間が経過。モミジが手を置いた個所から植物が生え、モミジと同程度までに成長した。
「!?」
ピクナミは目の前の現象に驚く。何せ、もう植物は生えないものとばかり思っていたのだから。
(いや、これも魔法だな)
ピクナミは、モミジが魔法の類を使い、植物をここに生やしたのだと考える。そう考え、ピクナミはモミジを問い詰める。
「貴様も、魔法を使って無理矢理植物を生やしたんだろう!?違いない!」
「確かに魔法は使いましたが、無理矢理生やしたわけではありません」
モミジは生えてきた植物を優しく撫でる。
「この子が自らの意志で生えてくれたのです」
「!?そんなわけあるか!?こんな痩せて、何もないこの土地にどうして根を張ろうとする!?」
「それはきっと、この土地に、生まれてきた土地に愛着があるからだと思いますよ?」
「え?」
「あなた達人間はもちろん、植物達にだって感情はあります。どんなに辛くても、この土地で頑張っていたいと、ここに自生している植物達は思っているのではありませんか?あなた達と同じように」
「!?私達と、同じ?」
「はい。見たところ、あなた達はこの土地の現状に不満を抱いているように見えます。不満があるのであれば、移住すればいいのではないですか?何故、移住しないのですか?」
モミジはおだやかに、落ち着いてピクナミに問う。
「そ、それは・・・親分の言葉に従っているから・・・、」
ピクナミは動揺しながらも、モミジの質問に答える。
「それはあなたの本心ではないのではありませんか?私は、あなたの本心を聞きたいです。」
「そ、そんなわけない!俺は本心で親分の言葉に従い・・・、」
「あなたも私のように、この土地はまだ死んでいない、この土地に緑を増やしたいと思っているのではありませんか?」
「!?そんな夢物語、誰が信じるものか!?」
ピクナミの言葉の後、さきほどモミジが生やした植物にある変化が訪れる。それは、
「馬鹿な!?何故実っている!!??」
それは、さきほどまでなかった実りが存在している事である。
「え?これって・・・」
モミジは植物と会話する。
「そうなの。ありがとう♪」
植物は蔦を器用に伸ばし、撫でて撫でてー♪と言わんばかりにモミジの前に体を曲げる。モミジは笑顔で植物を撫でる。
「な、なによ?」
ピクナミは笑顔でいるモミジから話を聞こうとする。
「これは、先ほど私が養分をあげたお礼に、ですって。それでもう一つが、」
モミジは言い終える前に、ピクナミの両手の上に実、果物を置く。
「あなたに、だそうです。」
「私に、だと?私は何もしていないはずだが?」
「いいえ。この植物達が教えてくれました。あなたは普段、種を蒔いたり、植えた種のお世話をしたりしているそうですね」
「!!??」
ピクナミは、モミジに言っていないことを言い当てられ、激しく動揺する。
「そのお礼、だそうです」
「お礼・・・」
ピクナミは、先ほど受け取った実を一口小さくかじる。
「甘くて、美味しい」
「どれどれ・・・これ、ものすごく美味しいです!」
ピクナミの味の感想を聞き、モミジも手にしている実を頬張る。
「やっぱり、この土地でもこのようにとても美味しい実りを作ることが可能なんです!だから一緒に、」
モミジはピクナミに手をのばす。
「この町に緑を溢れさせて、一緒に美味しいものを食べませんか?」
「・・・」
モミジの言葉を聞いたピクナミは、モミジの手、顔を見た後、再び自ら手にしている実をかじる。味をかみしめた後、
「こんな実が、いつでも食べられるようになるというの?私独りじゃあとてもできないわよ?」
「なら、私達も手伝います。アヤトさん、こういうことに詳しそうですから、お願いすればきっと協力してくれますよ!」
モミジは彩人を褒める。
「でも私達・・・、」
ピクナミはモミジの提案を素直にのむことが出来ない。
「?・・・あ、なるほど。そういうことですか」
モミジは、ピクナミがどうして言い淀んでいるのか理解する。
「大丈夫です。私からアヤトさん達にお願いしてみます」
「でも・・・、」
「もしかしたら・・・いえ、大丈夫です!なんとかします!駄目だったら・・・ごめんなさい」
「え!!??」
ピクナミはモミジの発言に驚く。驚きの後、覚悟を決めたかのような顔に変化し、
「そ、それじゃあ、協力してもらってもいい、かしら?」
ピクナミの言葉に、モミジは笑顔になり、ピクナミの手をとる。
「はい!」
モミジの笑顔を見たピクナミは、モミジの笑顔に引き寄せられたかのように笑顔になる。
「そ、それであの~」
「ん?なんでしょう?」
「あなたのことをこれから・・・!?」
「!?」
ピクナミがモミジに何か話そうとしたところ、ピクナミとモミジの二人は歪な気配を感じ取る。
「この気配は一体・・・!?」
モミジは驚きながら周囲を見渡す。
「まさか、親分が【獣化】した・・・?だとしたら、やばい!?」
「?どうしました?それにさきほど【獣化】と・・・?」
「お願い!事情は後で話すから、とにかく私についてきて!!」
「え!?でも・・・、」
「お願い」
ピクナミの真剣な眼差しを見たモミジは、
「分かりました。それではよろしくお願いします」
「ええ、任されたわ!」
ピクナミは先導し、ある場所へと向かう。
「ところで、一体どうなっているのか分かる範囲で教えてくれませんか?」
「簡単に言えば、親分が暴走した?」
「え?」
「もしかしたらアヤト達全員、この町ごと消し飛ぶかもしれないんだ」
次回予告
『5-1-11(第370話) キメルム達の奇襲~レンカVSスララカ~』
複数人による奇襲で、彩人達は分断されてしまう。そんな中レンカは、スライムのキメルムであるスララカから自身の体に関する話を聴く。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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