5-1-8(第367話) キメルム
「・・・」
俺達は白の国に向けて進んでいく。
「・・・」
突如、ルリは牛車の外に飛び出し、前方を見る。
「どうしたんですか、ルリさん?」
モミジがルリに質問する。
「何か、見えない?」
「何か?」
俺もルリ同様、牛車の外に出て前方を確認する。
・・・。
(何も見えないのだが?)
ルリのやつ、嘘をついたのか?だが、ルリがこんな嘘をつくとは思わない。嘘をつく理由も思いつかないし。となると、俺の視力をもっと上げて、より遠方まで見られる状態にしないとな。
(【赤色装】)
俺は視力を強化する。
(・・・ん?)
そしたら、だいぶ遠くに何かあることが見えた。だが、その何かが分からない。何か・・・四角い?何かだと思う。本当に形状がよく分からん。
(【赤色気】を使った方が良さそうだな)
俺は【赤色装】を解除し、【赤色気】を発動させる。すると、さきほどより鮮明に見えた。さきほどぼやけて見えていた何かが分かってきた。
(あれは・・・門、か?)
さきほど【赤色装】で見えていた四角い何かは門だったのか。納得だな。
「確かに見えたな。あれがこのこの国の町なんだな」
「そうみたいだねー」
「…ルリとアヤトはどうして町が見えるの?」
「目、良過ぎません?」
「何も見えないのですが?」
イブ、リーフ、クリムが何か言っているが、もちろん言いたいことは分かる。俺の素の視力ではイブ達同様何も見えないのだから。【赤色気】を使用したからこそ見えたのである。そう言う意味では、ルリの視力が一体どれほどあるのかマジで知りたい。俺が【赤色気】を使用してようやく見える景色と同じ景色を見ているとか。ルリの体だけ、普通のつくりではない事間違いなしだな。まぁ、ルリは魔獣なので人との体のつくりが違く手当然なのかもしれないが。そう言う意味では、俺も普通の人間ではないので人の事は言えないのかもしれないが。
「流石はご主人様にルリ様です。素晴らしい眼をお持ちで」
「アヤトさんにルリさん、本当に凄いです」
「アルジンとルリ殿は相変わらず無茶苦茶ですね~」
クロミル、モミジ、レンカはイブ達に対し。俺を肯定?しているような返しをしてくれた。レンカの返しは本当に俺を肯定し、褒めているのかは不明だけどな。
「どうする?町まで一気に向かうか?それともここで一休憩するか?」
このまま行ったとすると、着いた頃には夜になりそうだ。宿を確保するにも時間がかかるだろうし、外泊の可能性もある。なら最初から町の外で外泊した方がいい・・・のか?いや、出来れば町の中で宿泊した方が安全だろうな。町の中なら周囲を警戒しなくてもよさそうだし。
(だからと言って、町の中が絶対安全とは言えないが)
地球でも、住居内に侵入してくる泥棒はいるし、緑の国で散々な目に遭ったし。そう考えると、安全な場所ってないんだな。
「私はご主人様の命に従います。私から提案してもよいのであれば、ゆとりをもって、休息するのがよいかと考えます。この旅が急ぎの旅でなければ、ですが。如何なさいますか?」
「そうだな。休息はとるとするか」
あの遠い門前まで急いで行きたいわけじゃないからな。ゆとりは持っておいて損ではないだろう。
「みんなもそれでいいか?」
「「「はい」」」
全員の返事が返ってきたので、俺は了承したと思い、余裕をもって休憩しながら向かう事にした。
余裕を持つこと2日。かなり余裕をもって移動したからか、移動の際に蓄積される疲労はかなりないと思う。これも、ゆとりをもって行動したからに他ならない。ホットケーキもこの際に生産しておいた。俺達にとって、ホットケーキはとても大切な食料なのである。大切なのでもう一度言うが、俺達にとってホットケーキはとても大切な食料なのである。
そしてついに、
「ここが白の国の町か」
「なんかきたなーい」
「こういうのは汚いじゃないですよ。ボロイ、と言うのです」
「…ルリとクリムも、そんな風に言わない。あれは年季が入っているとか、趣があるとか、そう言う風に言うべき」
「「へぇ」」
「・・・赤の国の将来、心配だわ」
「同感だな」
リーフの心配事項に俺も賛同した。確かに目の前の門はかなり傷が入っているし、色もかなりかすんでいる気がする。長年、同じところに設置し続けたせいだからか、雨風にさらされて風化していったのかもな。確証はないが。
(だが、ルリの発言も全否定は出来ないんだよな)
何故かと言うと、他の町に比べ、あきらかに汚いからである。まるで長年手入れされていないような、そんな雰囲気である。だからと言って、口に出して言うべきではないと思う。
(本当に人がいるのだろうか)
ちょっと調べてみるか。
(【魔力感知】)
俺は自身の魔力を周囲に広げ、人の気配を調べる。
(人、ほとんどいないな・・・。それに、これは人、なのか?)
町の割にはほとんど人がいなかった。いるにはいるが、かなり少ない。田舎の村でももう少しいるんじゃないかと思ってしまう。それに一つ、何か違う魔力の反応がある。この反応、本当に人間か?まさか、人間以外に魔力を持っているなんて・・・は!?
(まさか、魔道具か!?)
「アルジンも気付きましたか?」
「ああ。この町に魔道具があるらしいな。何の魔道具かまでは分からんが。レンカは分かるか?」
「いえ。私もそこまでは分かりません。ですが、この町に魔道具があることだけは分かります」
「そうか」
となると、俺の【魔力感知】も捨てたものではないな。
「この町、なんだか寂しい町です」
寂しい町、か。確かにモミジの言う通り、人の気配がほとんどないな。今俺達は町の門前に来ているが、誰もこの町の入り口にいないんだよな。何故だろうか。
(まさか、俺と同じボッチなのか!?)
・・・そんな訳ないか。それじゃあ何故この町の住人は俺達を歓迎しないのだろうか。それとも、これがこの国の歓迎の仕方なのだろうか。
(まぁいいか)
何か色々考えるのが面倒くさくなってきた。取り敢えずこの町に入ってから考えるとしよう。
「とにかく、この町に入ろう」
俺はみんなに宣言し、町に入るため、足を踏み入れようとする。
「!?アルジン、待ってください!」
「!!??」
俺はレンカの焦った言葉に俺も焦り、動きを止める。そして、踏み出そうとした足をゆっくり戻す。
「どうした、レンカ?」
「・・・何か仕掛けられています」
「仕掛けられている、だと?まさか、地面にか!?」
「ええ。おそらく、この町にある魔道具によって仕掛けられていると思います」
「魔道具、か」
そういえば、さっき【魔力感知】で魔力を広げたけど、横に魔力を広げたけど、地中にまで魔力を広げていなかったわ。完全に俺のミスだな。魔道具となると、さっき俺の【魔力感知】で見つけた魔道具によって地雷みたいな罠を設置したのだろうな。
(それにしても、なんだか不気味だな)
人気がほとんどなく、入り口に罠が設置されている町、か。なんかやましいことを隠しているような、この町に入ってほしくないような、そんな感じがするな。まるで、自分の領域に入ってほしくないボッチみたいだ。俺の考え過ぎか?
「…なんとも不気味」
「ですね。私達は歓迎されていないのかもしれません」
「あそこにいるのにね」
「え?」
クリムの発言にモミジは驚き、クリムが指差した方向を見る。すると、
「!!??」
「あ!逃げちゃいました・・・」
外套を深く被った何かがこっちを見ていた。モミジが何かを見ると、外套を深く被った何かはすぐに逃げていった。
(確実に、この町の住人だろうな)
だが、俺達のことを歓迎はしなさそうだ。さきほどの罠といい対応といい、なんなんだ?
「ご主人様、なにかおかしくないですか?」
「ああ。それは俺も思っている」
クロミルの言い分に俺は同意した。この町は色々とおかしい気がする。
「アルジン、この町に寄ります?それとも、別の町に行きます?」
「う~ん・・・」
レンカの言う通り、こんな廃村みたいな町で得られる情報も大したこと無さそうだし、別の町に行った方がいいかもしれないな。
「・・・」
「どうしたのですか、ルリさん?」
「凍れ」
ルリが手を空にかざしたかと思うと、俺達の頭上に氷が発生する。この氷は間違いなくルリが発生させたものだろう。その後、氷に何か当たったのか、少し高い音が響く。
(ん?何の音だ?)
そして、俺達の近くの地面に何かが落ちた。
(これは・・・矢か?)
黄の国でユユが使っていた矢に似ているな。まったく同じかは不明だが。この矢の存在で、俺は確信した。
(この町のやつらは、俺達を敵視しているな)
これはもう確信犯だ。この町の住人は俺達を敵視し、殺そうとした。ルリの氷が無ければ、俺達の誰かが死んでいたかもしれない。
「もう別の町に行こう」
苛立ちに任せてこの町を火の海にするのは難しくない。だが、本当にそんなことをしていいのかと考えてしまう。迷った挙句、俺は別の町に行くことを決めた。レンカの言葉の通りになったな。
「みんなもそれでいいか?」
なんか、俺の勝手で行動させてしまって申し訳ないな。
「「「・・・」」」
俺の提案に、全員何も答えなかった。それどころか、武器を町に向け始めた。
そして、
「クロミルちゃん、ルリちゃん、モミジちゃん、レンカちゃんは町の方を!クリムとイブは外を警戒!」
「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」
それぞれ向きを変えた。
(どういうことだ・・・?)
俺は分からず、冷静を失う。
(と、いけないいけない。俺もみんなのように落ち着かないとな)
俺は周囲の状況を冷静に判断出来るよう、【魔力感知】を発動し、魔力を広げる。今回は地面と水平方向だけでなく、直角方向も追加して3次元で見ている。
(確かに町の中の住人がこの町の入り口に向かっているな。後は・・・ん?この位置ってまさか・・・?)
俺は咄嗟に地面に視点を向け、地面に手を置く。
(【結界】!)
地面のある領域に【結界】を展開する。実はさきほど【魔力感知】で地中に反応があったのだ。地中に潜む魔獣・・・モグラみたいな魔獣がこの町付近にいるのか?だが、今はそんな疑問より、モグラみたいな魔獣の対処である。
「食べ物を全て置いて立ち去りなさい」
「「「「「「「「!!!!!!!!????????」」」」」」」」
ある声に驚き、声が聞こえた門の方角を見ると、黒い外套を身に着けた何かがいた。人の言葉を話したという事は人間か?もしくは、人の言葉を話すことが出来る魔獣かのどちらかだな。
「あなた達、食べ物をたくさん持っているのでしょう?その食べ物の全てを置いて立ち去りなさい」
さきほどと同じ、冷酷で残忍さを言葉で表したかのようだった。
「アヤトさん、あの人、なんだか怖いです・・・」
「そう、だな」
あんな人間、果たして日本にいるだろうか。殺人も平気でこなしそうな、そんな目をしている。地球にいた時の俺でも、あんな目をしていなかったな。きっと、俺以上に辛い出来事を体感したのだろう。
「悪いが、いきなり攻撃してきた相手に渡す食べ物などないな」
俺は宣言した。
あいつがどれほど辛い出来事を経験したのかは知らないが、いきなり攻撃をして食べ物をもらおうとするなんて、我が儘が過ぎやしないか?
「そうか。なら、ゴダムによって、死ね」
瞬間、再び空から複数の矢が飛んできた。
「何度やっても同じだよ!」
ルリはさきほどと同じように、氷で俺達の周囲を囲み、矢から護ってくれた。
「この程度でやられるルリじゃないよ!」
ルリは自身満々に宣言した。
だが、
「ん?なんだ、あれ?」
「え?」
俺達の前方、町の中に誰かいた。さきほど見た外套をまとった者とは違う誰かみたいだ。何せ、さきほど食べ物を寄越せと言っていた者が見えているのだから。
(そういえばさっき、ゴダムとか言っていたな)
あいつがそうなのか。だが、あいつらが俺達を殺せるのか?とてもそうは見えないのだが・・・。
「ご主人様。お気を付けください。あの者はただの人間ではありません」
「何?」
どういうことだ?だが、クロミルがこんなことで嘘をつくことはないはず。だとするなら、あいつはきっと、ただの人間じゃないな。
「てめぇらを殺して、糧を手に入れてやる」
そんな言葉が聞こえたかと思うと、
「「「「「「「「!!!!!!!!????????」」」」」」」」
ゴダムという者の腕が急激に大きくなった。イブみたいに魔力で腕を形成しているわけじゃない。まるで獣の腕のようだ。
「死ね!!!」
こっちに向かって拳を向けてきた。速度をつけて。
(あのゴダムの後ろから魔力を感じたな。ん?ゴダムの後ろに誰かいる)
まさか、ゴダムが急加速したのは、奴が何かしたのか?
「リーフ!イブ!」
「はい!」
「…ん!」
クリムが拳を構え、イブが魔力で形成した掌の上に乗る。
「行きますよ!」
「…ん!」
イブがクリムをゴダムめがけて投げる。
「まだです!」
クリムの背中に、強い追い風が発生する。その追い風により、クリムが急加速し、ゴダムに急接近する。
「【炎拳】!」
「死ねぇ!!!」
クリムの拳とゴダムの拳がぶつかり合う。ぶつかり合った拳は、磁石の同極同士が離れるように距離をとる。
「どうやらあの腕はただのお飾りではないようです」
クリムの腕が僅かに震えていた。なるほど。あいつもかなり鍛えているんだな。感心している場合ではないけど。
「ほぉ?あのゴダムの拳を受けてまだ生きているとは。ですが、これで終わりです」
外套を纏った者の周囲に、赤黒い槍が形成され始める。
「血の味を、その身をもってしれ。【血槍】」
赤黒い槍、【血槍】がルリ達に襲いかかる。
「ルリだって!」
赤黒い槍を、ルリは氷を発生させ、氷で受け止める。赤黒い槍は氷を貫通することが出来ず、途中で形が崩れてしまう。
「ち!もう一度・・・!」
「待て」
赤黒い槍を発生させた者の後ろから、さらに人が来る。その人もゴダム同様、外套を纏っている。
「親分!」
「ここは相手の戦力を分断させるぞ。分断させればどうってことない相手のはずだ」
「は!いくぞ、みんな!」
「「「おう!!!」」」
多くの者達が町から現れる。
「ここは全員で一度逃げて・・・、」
「遅い!」
俺が提案しようとみんなに話しかけると、突如、俺の景色が土煙に覆われる。
「ち!」
俺は土煙で目をやられないよう目を腕でガードする。少しの間土煙が巻き起こり、土煙が消えると、
「!?みんな!?」
俺以外の全員がいなくなっていた。
「【魔力感知】!」
俺はみんなを探すため、【魔力感知】を発動する。だが何の反応もなかった。
(どういうことだ?)
もしかして、周囲に誰もいないのか?そもそも、ここはどこなんだ?
見たところ、平野だな。さっきまで前に町が見えていたのに、どういうことだ?もしかして、俺は転移したのか?あの町の入り口からこの平野に、ということか?そもそもここは平野なのか?分からん。
「周囲に誰もいないことは確認したか?」
「!?」
俺の【魔力感知】に気づいていたのか!?
「それじゃあお前の食料を全て奪い、今後の糧にするとしよう。覚悟しろよ?」
「ち!」
相手がまったく分からない。これじゃあ対策のしようがないな。でもまぁ、やるしかないか。
「最強の【キメルム】である俺、ジャルベが相手をしてやるよ!」
こうして俺は突然、ジャベルと名乗る謎の者と一対一で戦うことになった。
それにしても、キメルムって一体なんだ?
次回予告
『5-1-9(第368話) キメルム達の奇襲~クロミルVSヴァーナ~』
複数人による奇襲で、彩人達は分断されてしまう。そんな中クロミルは、吸血鬼のキメルムであるヴァーナからキメルムについて聞いた後、戦いを始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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