5-1-6(第365話) コウモリの処遇
夜が明け、時刻的には朝だろうか。クロミル、モミジと共に朝食を作り始めていた。
「それにしても、ホットケーキをこのようにするなんて。流石はアヤトさんです」
「ご主人様は、いつも私の考えを容易く超えていくのですね。本当に流石です」
二人は俺を称えてくれた。俺はホットケーキをサンドイッチのパンみたいにしているだけなのだが、そんなにすごいことなのだろうか。料理名はサンドイッチを少しもじって、ホットケーキサンド、にでもしておくか。・・・もじるとか言いながらそのままの様な気がする。ホットケーキでサンドするからホットケーキサンド。もう名前については深く考えないようにしよう。
ホットケーキでサンドしているものは色々ある。甘味好きな俺はリンゴやミカン等を出来るだけ同じ大きさに切り、ハチミツを軽くかけてサンドしている。甘党にはたまらない甘さと上手さだろう。これ食ったら虫歯にならないよう歯磨き必須だな。
おかず用に作られたホットケーキサンドもあった。これは・・・肉ジャガか?肉ジャガみたいな料理をホットケーキでサンドしていた。これは食べ応えありそうだ。肉ジャガみたいな料理に汁気があった気がするので、水分がホットケーキから滴り落ちないといいのだが、そのことも織り込んで作っている事だろう。
野菜を摂取するために、色々な葉や茸をサンドしたホットケーキサンドもあった。ホットケーキも葉の緑に影響されてなのか、若干緑色に見えるのは気のせいか?まさか、ホットケーキに葉でも混ぜたか?
(なんか、ホットケーキって無限の可能性を秘めているんだなぁ・・・)
こうして色々なものを挟んでいるホットケーキを見ると、改めてホットケーキって偉大な食べ物なんだなぁと感じた。地球にいた時の俺なら、ただ甘い食べ物の一種としか捉えていなかったのに、この世界に来てから、地球で培った考えが崩壊していくな。これがいい意味ならいいのだが、悪い意味で崩壊させたくないな。
(にしても、クリムって挑戦者だよなぁ・・・)
クリムが手にしているホットケーキサンドには、赤い何かが挟んでいた。その赤い何かからは強めの刺激臭が漂ってくる。この刺激臭で寝ぼけ眼も開眼することだろう。一体どれだけ辛いのだろうか。俺は絶対に食いたくないな。
「「「いただきます」」」
そして俺達は、何事もなく朝食を召し上がり始める。
(あ)
そういえばあのコウモリのこと、すっかり忘れていたわ。まぁ俺の感覚からして、俺が壊れていないから、あのコウモリは今も逃げ出さずに檻の中にいることだろう。みんな、コウモリに触れてこないから、俺から話すことを待っているのかもしれないな。
(う~ん・・・)
食事中に話を切り出してもいい。
「えへへ~♪」
「ルリ様。頬にハチミツがついております。今お拭きしますので、動かないでください」
「…相変わらず筋肉馬鹿は辛味好き過ぎて怖い」
「ちょっと!?辛いのが好きなのは怖いことではないわよ!?」
「いや、クリムの辛味好きは異常だと思いますよ?」
「そんなわけありませんよ?きっと他のみんなも私くらい辛いものを食べているはずです。そうですよね?」
「「・・・」」
「何故に無言!?」
「モミジ殿のこのホットケーキサンド、とても趣がありますね」
「あ、ありがとうございます。今日挟んだ木は、噛めば噛むほど旨味が広がる木で、とても噛み応えのある木なのです」
「なるほど。モミジ殿らしいホットケーキサンドの具材ですね」
「褒めてくれてありがとうございます、レンカさん」
だが、こんな微笑ましい会話を遮ってまで、あのコウモリの話を切り出すのはいかがなものだろうか。そんなことを考え始めたら、俺は自然と口を閉め、みんなを見ながら食事を再開していくことにした。
・・・それにしても、これだけ人数がいるというのに、俺はどうして誰とも話していないのだろうか?あれか?俺にはボッチになれる才能が山のようにてんこ盛りなのか!?こんな才能要らないのに!そもそも、ボッチになれる才能ってなんだよ!?そんなの、才能でもなんでもないだろうが!?それじゃあ何かといわれたら・・・何だろう?そういう星のもとに生まれたのかもしれない。生まれつき、ボッチになることを宿命とするボッチ星の住人としては、俺は今日も生き続けている。
(・・・何考えているんだ、俺?)
意味の分からないことを考え過ぎだろ、俺。ボッチ星の住人って何?そもそも俺、地球人じゃないの!?
「はぁ」
自分のことながら、何を考えているのか分からない不鮮明さが恐ろしい。自分のことは自分が一番知っていると言うが、それは嘘なのかもしれない。
「?アルジン、どうされたのですか?」
「ん?」
俺はレンカに話しかけれられたが、即座にすぐ返事を返すことが出来なかった。さっきまで自己嫌悪していて、まだ気分を切り替え出来ていないからである。俺は出来るだけ気分の切り替えを行い、レンカの言葉に反応する。
「いや、何でもない、ですよ?」
「…なら何故、語尾を上げたのです?」
「…さぁ?」
俺も知らん。
「アヤトさんもこのホットケーキサンド、食べてみます?美味しいですよ?」
モミジは自身のホットケーキサンドを俺に向ける。
(た、食べかけ、だと!?)
数口とはいえ、女性が口にしたものを食べていい、だと!?
「・・・アヤトさん?どうして急に周囲の確認をしているのですか?」
「いや、どこかにドッキリのカメラでもあるのかと思ってな」
「ドッキリ?カメラ?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
俺は改めてモミジが差し出したホットケーキサンドを見る。ホットケーキの間に、ハンバーグとは違う長方形みたいな何かが挟んでいた。モミジがさっき言っていた木、なんだろうな。いただくとするか。
「美味いな」
「ですよね?この木には他にも特徴があって・・・、」
そして、俺達の朝食は順調に進んだ。
食事終了後、俺達は食事の際に使用した食器類を洗い、俺のアイテムブレスレットに全て収納した後、昨晩起きた出来事を話した。その際、コウモリを見せながら話を進めた。全員、今朝からいきなり出現した檻に釘付けになっていた。無理もないか。
そして俺は、一通り話を終えた。
「・・・というわけなんだ」
「「「・・・」」」
何故か全員、黙ってしまった。そんなに驚くことなのか?・・・驚くか。
真夜中にコウモリがこっちを見ているって、どんなホラー話だよってことか。料理に夢中で深く考えていなかったかもしれないな。
「それでお兄ちゃん、そのコウモリ、食べるの?」
ルリがそう言った瞬間、拘束されているコウモリの体が一瞬激しく動く。もしかしてあのコウモリ、ルリの言葉を理解して恐怖したのか?それとも、本能的な何かで危機を察知したのか?
「ルリ様。多分コウモリは食べられないかと」
「え?そうなの?」
ルリは拘束されているコウモリを見る。
俺は、コウモリが食べられるかどうかは分からない。そもそも、日本にいた時、コウモリの肉を食す機会なんてなかったからな。コウモリを生で見る機会もなかったし。それに、コウモリが食べられるとしても、どこを食べるんだ?コウモリからとれる肉の量、鶏に比べるとかなり少なそうだ。
「俺は知らんが、クロミルが言うならそうなんじゃないか?」
コウモリの肉が食べられるとしても、それは人間じゃない場合かもしれない。あ。そういえば俺、人間じゃなかったんだった。俺は・・・何だろう?
(ボッチ?)
・・・。いや、違うな。人間と魔獣が混合した・・・魔人?
(なんかかっこいい)
自分で自分の呼称を考えていたら、かっこいい呼称になった。もしかしたら精神病の一種、中二病がまだ治っていないのかもしれない。
「へぇー。そうなんだ」
ルリはそう言うと、コウモリに興味を無くしていた。こいつ、食が絡んでいないと興味がないのか?
「…それで、これからそのコウモリ、どうするの?」
イブが俺に話を振ってきた。
「こいつ、さっきのルリの言葉に反応したんだ。だから、俺達の言葉がある程度理解出来ているんじゃないのか?」
「もしかして、アヤトはその魔獣から情報を引き出そうとしているのですか?」
「ああ」
俺はリーフの言葉に賛成する。
「…確かに、人の言語を理解出来る魔獣は存在する」
そう言いながら、イブはクロミルやモミジ、ルリを見た。
「だからこいつに話を聞こうと思っているんだ」
「ですがこのコウモリ、話せるんですか?さきほどから何も言葉を発していないように見えるんですけど」
「そこなんだよな」
クリムは俺も考えていたことを質問してきた。
「こいつ、多分だけど俺達の言葉を理解は出来る。だが、話すことは出来ないんじゃないかと思っている」
「じゃあどうやって情報を聞き出すんです?」
「俺は、文字を地面に書かせるしかないと思っている」
「…文字が書けなかったら?」
「・・・そこまで考えていなかったわ」
イブの指摘で、俺の思考の浅さが露呈してしまった。
「ひとまず、あのコウモリの様子を見よう。そして、それから考えよう」
「…それってつまり、出たとこ勝負・・・、」
「それは言わない」
俺はイブの指摘を聞かず、檻の中に入っているコウモリに近づく。
「ご主人様。分かっていると思いますが、ご注意を」
「ああ」
ご注意、か。念には念を入れて、俺とコウモリの間に【反射結界】を展開しておこう。これならもしコウモリが俺に襲い掛かってきても対応出来るだろう。
「さて」
俺は拘束をそのまま維持し、檻だけ無くした。檻だけ無くしたことに気付いたコウモリは俺を見る。
(ん?)
コウモリを見ていると、コウモリの目が赤く光り始めた。そして、俺の【反射結界】が何かに反応した。何に反応したのかは不明だが、誰かが何か使ったのか?俺はこの【反射結界】や、目の前にいるコウモリに拘束系の魔法しか使っていない。これらの魔法は【反射結界】との位置関係から反応しないはず。となると、ルリ達の誰かが魔法な何かを使ったのか?
(それとも・・・?)
まさか、このコウモリが使ったのか?しかし、何の魔法を使ったんだ?う~ん、分からん。
「あれ?」
「どうかしましたか、ご主人様?」
「このコウモリ、様子がおかしくないか?」
さっきまで俺の事を見続けていたのに、今はどこか焦点が合っていないような気がする。俺の気のせいか?
「…アヤト、何かした?」
「ご主人様が何かした、としか思えないのですが、違うのですか?」
「俺は何もしていない。というよりさっき、俺がコウモリを見ていた少しの間、誰か魔法を使ったか?」
俺の質問に、誰も答えなかった。ということは、誰も魔法を使っていないということか。それに付け加え、コウモリの様子が急変したことを踏まえると、コウモリが何か仕掛けてきた、と考えるのが濃厚だろう。何の魔法を使ったのかまでは分からないが。
「アルジン。見たところ、この状態ですと、目の前のコウモリから情報を聞き出すのは難しいと思いますよ?」
「やっぱり?」
「はい」
コウモリのこの様子、人間で言うところの錯乱状態?泥酔状態?に近そう。昔、テレビで似たような状態になっていた成人を見たことがある。
(そういえば)
昔、泥酔していた成人と話をしたことがあったなぁ。確かあの時は・・・、
「おいおい。こんなところにガキが独りでいるって、ハブられてんのか?」
「ハブられたなら話がある。ちょっと俺に奢ってくれよ?」
「なぁに?ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ?」
「おい!逃げるんじゃねぇよ!そんなんだから、お前はボッチなんだよ!!」
こんな感じで絡まれたなぁ。記憶が確かなら、平日の夕方の大通りで絡まれた、と記憶している。あの時は色々とショックだったなぁ。まさか酔っぱらいにもボッチと言われるとか思わなかったからなぁ。あの言葉は心にきた。
・・・考えがずれたな。元に戻すか。
「何が起きたか分からんが、ひとまず地中に埋めておくか」
俺はコウモリを窒息死させない程度に埋め、放置することに決めた。
「…それでいいの?」
イブが確認目的なのか、俺に質問してくる。
「ああ。何も被害がなかったからな」
被害がなかったからといって、そのまま放置すると何されるか分からないからな。現に俺、昨晩襲われかけたわけだし。まぁ無傷の上、返り討ちにしたのだが。
「アヤトがそれでいいのなら」
リーフは納得してくれた。その言葉に全員肯定してくれた。
「それじゃあ、ひとまず行くか」
「「「はい」」」
そして俺達は、半分近く埋めたコウモリを後にして出発する準備をした。
「ところでアルジン」
「ん?なんだ?」
「あのコウモリからどんな情報を聞き出そうとしていたのですか?」
「ああ。それはな、白の国で見かける規格外の魔道具に関する情報を聞こうかなと思ってな」
「規格外の魔道具ですか?・・・なるほど、そういうことですか」
「んー?何の話をしているのー?」
「ああ。それはな・・・、」
さて、引き続き白の国に向かうとするか。
一方、
「!?」
「!?どうした!?」
コウモリを眷属にしている者は、急に倒れた。その様子に驚いた者は近づき、声をかけ始める。
「うぅ・・・」
コウモリを眷属にしている者は、何かにうなされているかのように顔色を悪くし、唸り声をあげる。
(何故急に・・・まさか!?)
親分と呼ばれた者は、目の前で倒れている者の症状に心当たりがあった。
それは、魅了という状態。だが、何故急に魅了という状態になっているのか、理解出来なかった。
(おそらくアヤトにかけようとしたのだろうが、何故?)
少し考え、
(考えられることは、アヤトも【魅了の魔眼】、もしくはそれに近い魔法を使ったのか?もしくは、何らかの方法で【魅了の魔眼】の効果を反射させた?)
そんな考察をしながら、親分と呼ばれた者は、今も倒れている者を見る。
「いずれにしても、警戒はするべきだろうな」
親分と呼ばれた者は、町の外を見る。そして、続々と外套を纏った者達が現れる。
「大丈夫だ。お前達の分の食い扶持はすぐに確保出来る」
そう言い、親分と呼ばれた者はある者の頭を優しく撫でる。
(待っていろ、アヤト!!!)
撫でる時の優しさとは違い、その心情は怒りに満ちていた。同胞がやられた恨みを晴らそうとしていた。
次回予告
『5-1-7(第366話) 無魔法』
彩人は、メイキンジャーやパラサイダーが言っていた無魔法について何か知らないかみんなに聞く。ほとんどの者が知らないと答えるが、レンカだけは知っており、知っている範囲で話し始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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