5-1-4(第363話) 視線を向けた者
「何だ、あれ?」
見たところ、コウモリっぽいな。黒いし、羽が生えているし、空を飛んでいるし。目が赤いように見える。何か口を動かしているみたいだが、何も聞こえないな。口を動かしているのに喋らないとか、ちょっとした嫌がらせか。
(そういえば)
口パクで俺、悪口を言われたことがあったなぁ。俺が嫌だって言っても、
「俺は何も言ってましぇ~ん。被害妄想が過ぎるんじゃないですかぁ~?」
て、馬鹿にされたなぁ。・・・なんか嫌な記憶を思い出してしまった。あのコウモリに八つ当たりでもしようかな。いや、これは八つ当たりではない。目の前の魔獣を屠るだけだ。断じて八つ当たりではない!
「ん?」
なんかあのコウモリ、大口を開けているな。本当にさっきから何をしているんだ?
「あ」
そういえば、この【結界】には【防臭】だけでなく【防音】も付与していたんだったな。となると、あいつは口パクしているのではなく、何か叫んでいるのか?
「う~ん・・・」
こちらに実害は一切ないのだが、あっちは既に何かしているみたいだし、反撃してもいいよな?ちょっと罪悪感があるようなないような・・・感じたら負けだと思うようにするか。
(頼むぞ)
俺は地面に手を当て、植物達に拘束してもらうよう魔力を注ぎ始める。
「・・・よし」
コウモリは植物達に捕らえられ、身動き取れない様子みたいだ。コウモリはジタバタ動き、拘束を解こうとしているみたいだが、無駄だ。俺がそんなドジを踏むわけがない。
「【結界】」
俺はコウモリの周囲に【結界】を展開する。その後、展開した【結界】に【反射】を付与しておいた。これでコウモリの攻撃が反射して自滅する・・・はず。外側からの攻撃は実験したが、内側からの攻撃に関してはまだ実験してないんだよな。
「念のために、と」
俺はコウモリを【結界】ごと檻に閉じ込めた。檻というのは植物で頑丈にしたお手製の檻である。これで万が一にも抜け出せない事だろう。
「ん?」
なんか、最初はジタバタと足掻いていた様子だったのだが、だんだん大人しくなってきたな。もしかして、自分の攻撃でもくらったのか?それとも叫び疲れた、とか?分からん。
「そういえば」
どこかのアニメで、コウモリがヴァンパイアに変身するシーンとかあったな。どのアニメかは忘れたが。このコウモリもヴァンパイアに変身するのだろうか。そもそもこの魔獣、一体何が目的だったんだ?こいつに聞いてみたいが、なんか弱っているみたいだし、もう少し時間が経ってからでいいか。それにしても、どうして俺はこの魔獣をすぐに殺さなかったのだろうか?
コウモリの肉が食べられないからか?
ルリやモミジに重ねたからか?
いずれにしても、魔獣と相手する時はもっと非情にならないとな。じゃないと、油断して俺が殺されちまう。
「一瞬の油断で人は簡単に死ぬんだ」
俺はヌル一族との戦いを思い出す。
メイキンジャー・ヌル。パラサイダー・ヌル。デベロッパー・ヌル。いずれの相手も、俺以上に強かった。そんな相手に油断なんてしたら、一瞬で死んでしまっていただろう。瞬きしている間に、とかな。
「もっと鍛える必要があるな」
自分の手の動作を確認しながら、今後やるべき課題を己ではっしんする。
「あ」
そういえば今、おでんを作っている最中だったな。どれどれ様子はっと・・・。
「うん」
いい感じに煮込まれているな。串でも刺して柔らかさの確認をしよう。・・・うむ。問題ないな。これなら口で噛んだ時、硬さを感じる事はないだろう。
「ふふふ♪」
みんなが美味しい!と言う姿が目に浮かぶな。
「ちょっと寒いな」
少し寒いこの頃。このおでんがさらに美味しく感じる。
「コタツが欲しいな」
コタツでぬくぬくしながらおでんを食べ、デザートにミカンを・・・なんと最高の贅沢だろうか!
「絶対に成し遂げてみせる!」
・・・俺は一体、真夜中に何を宣言しているのだろうか?だが、後悔はしない!何せ、誰も聞いていないからな!
「あ」
そういえば、見ている魔獣は一匹いるな。だがまぁ大丈夫だろう。こいつ、喋れないみたいだし、どこかに話すことなんてしないだろう。これで俺の恥が周知される可能性は無いな。引き続きおでんを見てみるか。そういえば、あまり煮込み過ぎると煮崩れするかもしれないな。これくらいで煮るのは終わりにするか。
「さて、と」
少し暇になったな。何しようかな。
そして少し考えた結果、俺は腕に搭載している検索機能で料理について調べ、時間を潰すことにした。俺、まだ唐揚げとかハンバーグとかスパゲティとか、色々作っていなかったな。この際、色々な料理にチャレンジするとしよう。時間はたっぷりあるしな!
「ふふふ♪」
これでしばらく、食に困る生活はないだろう。食料が不足することはないだろうし、俺の食生活も安泰だな。
「今から楽しみだ」
と、今後の食生活を想像していたら、夜が明け始めた。
「さて、クロミルやモミジがそろそろ起きてきそうだし、朝食の準備でもするとしよう」
ふっふっふ。今の俺は食にうるさいからな。ちょっと凝った料理を作ってやる!
例えば、ホットケーキ、とかな!
・・・凝った料理が咄嗟に思いつかず、ホットケーキと考えてしまった。これではいつも通りではないか!?何か今すぐ出来て、簡単で、とても美味しい料理は一体・・・?
「ホットケーキでサンドイッチでも作るか」
ホットケーキを半分に切り、ホットケーキの間に何か挟む。凝った料理とは言えないかもしれないが、美味しそうだから別にいいか。もう凝った料理とか面倒くさくなってきた。少し前の自身の決意を無下にするとか、俺って本当に駄目だな。強い意志がまるでない。
「まぁいいけど」
今はそれでいいや。みんなの喜ぶ顔を見るためなら、俺は何度でも意見を変えるとしよう。
俺は、クロミルやモミジの寝起き顔を見た後、朝食の準備を始めた。
次回予告
『5-1-5(第364話) コウモリでの観察』
彩人が旅をしている道中、その度を観察している生物がいる。その生物は、ある者の眷属だった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




