5-1-1(第360話) 会話を盗み聴く者
白の国のとある町。否、かつては町だったと言うべきだろう。建物がやっと建っている状態であった。町の中には畑や水田があったのだが、以前みたいに実りが豊かとはとても言えなく、地面をむき出しにしたまま幾千もの月日の経過を感じる。人っ子一人住んでいないように見えたのだが、人型の影が複数見える。
「親分!僅かですが、複数の話す声を確認しました!」
親分と言った者は、親分という者に報告する。親分と呼ばれた者は呼ばれた声に反応する。双方とも外套を身に着けており、フードを深く被っているせいか、顔の特徴が詳細に拝見出来ない状態となっている。
「それで?」
「あまりにも遠いので分かりませんが、白の国に向かってくるかと推測します」
「そうか。もしかしたらこの町の近くを通るかもしれないな」
「後、一人だけですが、人の名前っぽい単語が聞こえました」
「人の名前?なって言っていた?」
「確か・・・、」
親分と呼んだ者は自分の耳と記憶を探り、聞いた人の名前っぽい単語を口にする
「アヤト、だったかと」
「アヤト、か。覚えておくとしよう」
「・・・」
「他に何かあったのか?」
「い、いえ!何でも!」
この時、親分と呼んだ者は嘘をついた。
本当は他にも単語を聞いていた。だが、ここでは言わなかった。というより、聞いた単語の意味を理解出来ず、報告出来なかった。
(ホットケーキ、美味しい~♪なんて言っていたから、ホットケーキと言うのは食べ物だろうが、どんな食べ物なんだ?)
それは、彩人達が食事している最中、よく食べているメニューの事である。
きっとどこかの大食い王女と大食い魔獣娘が、
「…今日もホットケーキ、ウマウマ♪」
「やっぱりホットケーキは最高だよ~♪」
と、語らいながら食していたのだろう。その会話の断片を聞いたと思われる。
「それでアヤト、という奴らは当たりなのか?」
ここで親分と呼ばれた者は、親分と呼んだ者に質問する。
「当たり、みたいです」
質問に対し、親分と呼んだ者は肯定した。
この2人が言う当たりとは、食料を保有しているかどうかである。つまりこの2人の会話で、彩人達が食料を保有している、という情報を共有したことになる。
(ホットケーキだけでなくカレー?という食べ物?について話していたし、多分持っているはず)
ただ、親分と呼んだ者は、聴力に自信はあったものの、今まで聞いたことが無い料理名だったので、心の中の不安が徐々に増大していたのだが、本人にしか知りえない信条である。
「そうか」
親分と呼ばれた者は短く返事をし、立ち上がる。
「同胞に連絡を入れてくれ」
「同胞に?ということは、やるのですか?」
「ああ」
親分と呼ばれた者は、町の外を見据え、
「アヤトとかいう奴らの食料を奪う」
高らかに宣言した。
宣言直後、向かい風が吹く。向かい風によって、親分と呼ばれた者の外套がめくれる。めくれた中には、人間とは思えないほど太い強靭な腕が一瞬露出した。
次回予告
『5-1-2(第361話) ファーリを黄の国に置いていった理由』
白の国に向かう途中、イブは彩人に、ファーリを黄の国に置いていった理由を聞く。だがイブは、その理由を分かっていた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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