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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 赤青交わる戦争
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1-2-10(第36話) 彩人の罪と報告

 俺は今、膝を抱えて部屋の隅で体育座りをして、落ち込んでいた。みんなにあんな姿を見られたためである。もうお嫁さんもらえない。


「さてと、アヤトのお仕置きも済んだし、そろそろ始めるか」


 ギルドマスターが、俺に上着をかけながら、みんなに言った。


「何を始めるのですか?」

「それはもちろん」


 ギルドマスターは、大きく息を吸った後、


「戦争の対策をこれから練るのだよ。そのためにきたのだから」


 と、はっきりと言い放った。

 


 ここは、重要会議室の中。今いるのは、俺、ヒュドラ、リーフさん、クリム王女、イブ、スレッド国王、そして、ギルドマスターの計七名だ。


「ではこれから、青の国との戦争対策を練るための会議を始める」


 まず、スレッド国王が言い始める。だが、その言葉を聞いた途端、一人の者が手を挙げ、発言を求めていた。


「国王様、発言よろしいでしょうか?」

「どうした、クリム?」


 スレッド国王が発言を許可すると、クリム王女は大きく息を吸い込み、


「何故、貴族の方々が来ていないんですの?」


 と、はっきりとわずかに怒気を込め、言い放った。


「あー、そのことなんだがな。実は…」


 事の発端は、俺が青の国のスパイだから、一緒に作戦会議する意味がないとか、重要な会議をすっぽかす奴は同じ国民じゃないのなどの理由をつけられ、貴族全員が参加を拒否したと言う。

そいつら全員この国から追い出せよ。まぁ、全部俺が関わっていることだから、言葉には出せんが。


「あぁわかったよ。つまり俺のせいでこんな事態に陥ったのだな」

「いや、元々あいつらは全員自分が一番なだけなのだ」

「まぁ、貴族なんか頼る気なかったし、別にいいけど。俺一人でやるつもりだし」

「「「「「「アヤト一人!!?」」」」」」


 あれ?なんかおかしなこと言ったかな。…ないな。


「そうだ。なんせ俺のせいで戦争が起きたっぽいし。なぁに、事前に対策は考えているから大丈夫だ。後はそれらを実行するための準備をするぐらいだから、気にしないでくれ」

「「「「「「………」」」」」」


 俺以外の全員が黙ってしまった。何故だろう?もしかして、対策を具体的に言ってないからか。確かに、事前に知らないと後でパニックになってしまう恐れがあるからな。


「ああ、対策のほうだけど、相手国の進軍先に底なし沼を設置して足止めを食らっている間に俺がとどめをさすような感じなのだけど、どうかな?」

「「「「「「………」」」」」」

「なら、相手が毒沼で足止めを食らっている間に、俺が作る魔道具で相手を殲滅するのはどうだ?」

「「「「「「………」」」」」」


 おかしい。俺が話せば話すほど、みんなの空気が悪くなっている気がする。

 そんな重苦しい空気の中、立ち上がった者がいた。


「ねぇお兄ちゃん。どうして一人でやろうしているの?」


 その言葉を聞いたとき、重要会議室にいた五人は確信し、恐怖した。アヤトを「お兄ちゃん」と呼ぶこの少女はまぎれもなくヒュドラであり、この少女を敵に回すのは命を自ら捨てることがどれほど幸せなのか感じられるほどの恐怖だった。周りの人はその少女が放つ怒気だけでこんなにも恐怖してしまうのだから、その怒気を直接くらっている人はどれほど恐怖しているのだろうか。周りの五人は想像しようとしただけで、首筋にナイフを突き立てられるような寒気が全身に走った。その後、五人は、あの少女(かいぶつ)と少年の話し合いをただ見ることしかできなかった。


「ねぇお兄ちゃん。どうして一人でやろうしているの?」

 

 俺がその言葉を聞いたとき、全身が震えた。自分の生存本能を拒否されたかのように、息がほとんどできずにいた。そんな状態の俺を気にすることもなく、ヒュドラはゆっくりと、自分の居場所を主張するかのように近づいていく。


「もしかして私のこと、忘れていたの?」


 その言葉を言い終えた瞬間、ヒュドラは俺を中心に威圧してくる。だが、その行動とは裏腹に、少女らしい一面も同時に出ていた。


 「私のこと、たよってよぉ、ばかぁ」


 そう言い終えると、すぐに威圧が解かれ、泣き崩れてしまった。俺としては、頼ってしまっていいのだろうかと考えてしまったのだが、


「その戦争に参加してもいいのか?」

「その大きさだと大変だから、小っちゃくなったらいいよ」


 不意に、俺とヒュドラの会話を思い出す。そうだ!おれはあのとき、ヒュドラに戦争に参加してもいいという約束をしたのじゃないか!それを俺は…くそったれが!


「悪かったよヒュドラ。俺もまだまだガキだったんだ。ごめん」

「ぐす。分かったよ。でもその代わり」


 ヒュドラは自分の言葉を言い切る前に、俺に向かって腹パンを繰り出す。まさか腹パンされるとは思わなかったため、アヤトはその一撃を、


「なにぐほぉ」


 もろに食らってしまった。さすが、一匹でいくつもの街を滅ぼしただけあって、攻撃力は抜群だ。


「これで許してあげるよ、お兄ちゃん♪」


 ヒュドラはいつもの調子に戻ると、自分が座っていた席に戻った。


「「「「「………」」」」」


 ただ座って様子を見ていた五人は、以心伝心したかのように、一斉に椅子から立ち上がり、アヤトのもとへ向かっていく。

 一方、未だ腹を抑え、うずくまっていたアヤトは不意に、五つの影に気づく。


「えっと、ごめんね?」


 アヤトはこの五人が何をしようとしているのかわからなかった。だが一つ、わかっていることがある。

 これは俺が何かやらかしたのだと。だから原因の俺が謝っておけばいいのではないかと。あまりの腹痛で、このぐらいしか考えられなかったのだ。だからこそ最初に謝罪の言葉が出てきたのだ。だがそれは無意味だとすぐにわかった。


「「「「「うん。許さない」」」」」


 この言葉によって。

 その後、アヤトは全員からお仕置き(ハラパン)された。その後、アヤトは重要会議室の床でしばらく倒れていた。アヤトが起きたころにはもう日が暮れ、結局会議は全然進まなかった。



 その夜、自分の寝室で悩んでいる者がいた。


「この情報は信用できるが、本当に事実なのか?だとしたらこの国は滅びの一手しかないぞ」


 その者は、自分の部下に調べさせた調査書を見て、その情報に驚愕していた。


「どうすればいい?このままだと滅ぶしか」


 不意に、ある少年のことが頭の中をよぎった。

 その少年はとても奇妙だった。ギルドに冒険者登録をした日に、大量のゴブリンを倒しただけでなく、黄ランクの冒険者パーティーが複数で挑んでようやく倒せるブラックゴブリンキングを単独で討伐したというのだ。その次の日には、各国でも指名手配されている殺人鬼「ペルセウス」を追い払ったという。もはやアヤトが神によってつかわされた使徒と言われても疑われないほどのことをしているのだ。さらに信じられないことに、戦争の会議中に、

「俺一人でやるつもりだし」

 と言ったのだ。つまり、国と一人との戦争をする気だったのだ。あんな見た目少年の者を戦争に出したら、恐らく死ぬだろう。誰かを護るために。そんなことはさせない。いや、させたくないのだ。自分の娘が連れてきた大事な人だから。だが、その考えは目の前の紙によって絶望へと変わっていく。


「もう、この国は終わりなのか?」


 誰に聞かせたいわけでもなく、ただただ漏れ出た質問に対する返答は静けさだけだった。

 これ以上ない知恵を絞っても仕方ないと感じたその者は、ベッドで横になり、眠った。だが、これからの事が夢にもでて、安眠とまではいかなかった。



~~~調査結果~~~

 ・東西南北それぞれの方向から、「青の国」の兵士と思われる集団がこっちに向かって進軍してきている。数はそれぞれおよそ五千の模様。計二万の軍勢がこの「赤の国」に向かっている。尚、南の方角からは、多くの魔獣を確認。恐らく、魔獣使いが使役していると思われる。その魔獣の討伐推奨ランクは最低でも「白」とのこと。以上の事を以て、報告を終了する。

~~~調査結果報告 終了~~~

すいません。今回は多めです。

ですが、楽しく読んでもらえるとありがたいです。

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