4-3-26(第356話) レンカと彩人の翼
「さて、と。離れたか?…離れたようだな」
お、ザッハは俺に顔を向けながら言ってきた。自問自答するなら俺に質問を投げないで欲しい。俺に話しかけたのだと誤解してしまうじゃないか。
「なら、ちょっと派手にいくぞ!」
ザッハに魔力が集中していく。
「【雷砕】!」
ザッハは【雷砕】を発動させた。振り下ろした刃に電気が纏っていて、その剣を振り下ろすと、何かがゴーレムめがけて飛んでいった。見たところ、【空気の刃(エアカッタ―)】の電気版っぽいな。名前を付けるとしたら【電気の刃】てところか。俺との戦いでも【雷砕】を使っていたが、こんな【雷砕】は見たことなかったな。ザッハの奥の手か?
「【雷砕】にはこんな使い方もあるんだ!」
俺が感心していると、ゴーレム達はザッハの【雷砕】をくらった。すぐに動くのかと思ったが動かなかった。よく見てみると、ゴーレムの体に電気の様なものが走っていた。もしかして、あの攻撃をくらうと痺れてしばらく動けなくなるのか?
「後は頼んだぞ!」
「うん!」
ザッハの声掛けにルリが答えた。そして、ゴーレム達周辺に魔力が集中していく。
「氷れ」
ルリは、ゴーレムの両腕と下半身を氷らせ、ゴーレム達を動かせなくした。ゴーレム達が自身の形状を変えようにも、ルリがその上から氷らせていくため、ゴーレムの形状変更が上手く出来ていない。
「クロミルお姉ちゃん!お願い!!」
「かしこまりました」
ルリがクロミルに言うと、クロミルは合掌した後、何か・・・印?のような何かを結び始めた。
「牛術が一つ。【牛封・午麟結界】!」
何か魔法名を言ったかと思ったら、ゴーレム達の周囲に【結界】っぽい四角い何かが発生した。その【結界】に・・・何だ、あれ?牛と・・・麒麟?を混ぜたような動物が描かれているな。今目の前にある【結界】にどんな効果があるのか不明だが、ゴーレム達がまったく動かないな。
「これでしばらく動けないはずです」
クロミルは俺達に報告してきた。これでこのゴーレム達を倒した、のか?
「もう動かないってことなのか?」
俺は確認でクロミルに聞く。
「しばらくは動かないはずです」
「ほ」
俺はホッと一息つく。その一息の後、ルリとザッハの顔に笑顔が見え始める。
が、その後のクロミルの発言で、その笑顔が凍りつくことになる。
「ですが、元を絶たない限り、このゴーレム達は再びご主人様を殺そうと動き出すことでしょう」
「「「!!!???」」」
元、だと!?このゴーレム、どこからか魔力を供給しているというのか!?それにしてもどこから・・・ん?そういえばゴーレム達から透明で細い何かが伸びているように見えるな。このコードみたいなものはどこから・・・。
「あそこじゃないか?」
俺が何を見ているのか分かっているのか、ザッハは洞窟の奥にある魔道具っぽい何かを指差す。確かにあの魔道具からゴーレム達に繋がっているみたいだな。透明度は高いし、俺達が踏んだり切ったりしてもなんともなかったようだし、この細いコードみたいなものは一体・・・?て、今はいいか。
「あれを壊せば、ゴーレムは止まるってことか!?」
なら、さっさと行動に移すの、み!?
(!?)
くそ!尋常じゃない量の魔力や体力が減っているからか、体が思うように動かねぇ!?
「!?【牛封・午麟結界】が破られます!」
「「!!??」」
クロミルの発言に、ザッハとルリが身構える。
(くそ!体が!)
俺はと言うと、まだ体に痺れみたいな感覚が全身に襲い掛かり、いつも通りに体を動かせないでいた。
「おい!まだ動けるか!?」
これは、もしかしなくとも俺に聞いているのだろう。
「ああ」
俺は虚勢を張る。
「なら、こいつらは俺達に任せろ」
ゴーレム達の内の一匹は、俺めがけて殴ろうとする。そのゴーレムを、ザッハは剣で受け止めた。
「遠くからお兄ちゃんを狙って殺す気?そんなこと、させない!」
遠距離で狙っているゴーレムを、ルリは氷で未然に防ぐ。
「ご主人様に近づけさせません!【牛象槌】!」
近づいてきたゴーレムを、クロミルはけん制する。
(今なら行けるのに・・・くそ!!)
俺の体が言う事を聞いてくれないせいで、みんなが作ってくれたこのチャンスを活かせない!このままじゃあ、みんなの想いを無駄にさせてしまう!
「!?」
俺が悔しがっていると、何かが俺を包み込んでくれた。
「アルジン、私にも手伝わせてください」
「レンカ、か」
この何か、レンカだったのか。
「さきほど虚勢を張られていたので、私もアルジンを助けたいのです」
虚勢を張っていたって気付いていたのか。それにしても、このタイミングでレンカが協力してくれるのはありがたい。
「それじゃあ、とても有能で俺達を大切に思ってくれる優秀な道具であるレンカ、俺に力を貸してくれるか?」
「はい!」
レンカは俺の体全身に纏いつく。
(すごい)
全身、高性能なサポーターを身に着けているかのように、体を動かすのがとても楽になっている。それに、この背中の感覚。レンカが翼を生やしてくれたんだな。
「これでどうですか、アルジン?」
「ああ。最高だ。流石、有能な道具で、俺達の大切な仲間だ」
俺は剣を握り直す。
「レンカ、行くぞ!」
「はい!」
俺とレンカは、目的のブツに向けて、背中に生えた翼を羽ばたかせて距離を縮める。
途中、ゴーレム達が俺に接近したり、狙い撃ちしようと構えていたりしていたのだが、
「お前の相手は、俺だ!」
「お兄ちゃんの邪魔は、させない!」
「ご主人様が通る道、空けさせてもらいます!」
ザッハ、ルリ、クロミルが道を空けてくれた。
「今だ!」
「はい!」
俺はレンカの力を借り、速度を上げる。上げたことで、急激に目的のブツとの距離が縮まる。
そして、
「終わりだ!」
俺は目的のブツに向けて、思いっきり神色剣を振り下ろす。金属同士がぶつかったようなかん高い音が洞窟内に響き渡る。
(くそ!)
そして俺は、現状に激しく苛ついていた。
原因は俺自身だ。今の消耗し切った俺の力では、この魔道具を切ることが、壊すことが出来ないのだ。
「!!??」
今の俺の全力じゃあ、この魔道具は壊せない!もっと俺に力があれば・・・くそ!
「アルジン、私も手伝います!」
瞬間、力が急に増えた。これは間違いなく俺の力ではない。俺と、レンカの力だ。
(これなら、いける!)
目的のブツに少しずつヒビが入る。
(レンカ、ありがとな)
「うおおおぉぉぉ!!!」
ヒビが魔道具全体に行き渡り、バラバラになった。コードみたいな透明な何かは消え、
「「「!!!???」」」
ゴーレム達は消えた。おそらく、あの魔道具がゴーレム達に魔力を供給し続けていたのだろう。供給する魔力をどこから確保していたのかはこの際どうでもいいか。
(さて、と)
周囲を改めてみて、脅威がなくなったか確認する。
(これでデベロッパーが出てきたら最悪だな)
なんてことも考えたが、時間が経過しても、デベロッパーが現れたり、トラップが発動したりする等のギミックはないらしい。
「俺達、やった、のか?」
「周囲に敵の気配を感じませんので、おそらく」
「やったー♪」
ルリが喜んだことで、俺達の空気が軽くなる。
「良かった・・・」
やっとこの事態を終息出来たことに安堵したのか、脱力し過ぎてしまい、立てなくなってしまう。
「お、おい!?大丈夫か!!??」
「ご、ご主人様!!??」
「お兄ちゃん!!??」
やば。安堵したら一気に力が抜けちまった力を入れようにも、力が入らない。
「アルジン!!??」
れ、レンカか。一言声をかけたいのだが、なかなか声が出せない。
「おまえが、なかまで、よか、た」
言いたいことを終えて満足した俺は、そのまま力尽きた。
次回予告
『4-3-27(第357話) 魔道具の件とこれから』
彩人はデベロッパーとの戦いの後、眠っていた。彩人は起きた後、魔道具に関して考える。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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