4-3-25(第355話) 忘却を庇う三色の色
時は、彩人とルリ達が分かれた時まで遡る。
ルリ達は彩人と別れてから、森の奥から逃げるように首都に戻るよう歩みを進める。そして、森に少し日が差し込み、光で照らされて周囲の様子がはっきり見える場所で止まる。止まった場所は、首都と森の奥の洞窟のおよそ中間地点であった。
「ねぇ?やっぱりルリ達も、」
「それはなりません」
ルリの言葉を、クロミルは即座に否定する。
「なんで!?お兄ちゃんが今も独りで戦っているんだよ!?」
「私やルリ様が行ったところで迷惑になってしまうだけです。緑の国で痛感したはずです」
「う!で、でも・・・!」
ルリはどうしても彩人を助けたかったのだが、クロミルに反論出来なかった。だが、どうしても彩人を助けたいのか、何度も森の奥を見る。
「なぁ?本当にそのヌル一族っているのは強いのか?」
そのザッハの問いに、
「ええ。それはもう、私とルリ様が瞬殺されるほどに、です」
「!?」
クロミルは冷静に答えた。回答内容にザッハは驚きを隠せない。
「そんなに、強い奴が・・・。それなのに俺は・・・!」
ザッハは強く地面を殴りつける。
「「「・・・」」」
ザッハの様子に、皆が賛同していた。何せ、自分が弱いばかりに、彩人独りに戦いを任せ、この場まで逃げてしまったからである。逃げることも作戦の一つかもしれないが、そんなことを冷静に落ち着いて断言出来るほど、ここにいる全員の精神状態は安定しておらず、気づきもしない。
「…やっぱり助けに・・・!?」
イブは助けに行こうと、森の奥に視線を送り、立ち上がる。
だが、その行為に対し、2名が止めた。
「それは駄目」
「今の私達だと、足枷になってしまいます」
「…で!?」
イブは反論しようとした。今のイブに考えられる理由をこの瞬間まで熟考し、言葉にしようと喉まで持ってきていた。
だが、出来なかった。
それはクリムとリーフが、今も苦しい顔をして引き止めているからであった。イブは、自分だけでなくクリム、リーフも苦しんでいるのだと知り、自身の言葉を胸にしまったのである。
「「「・・・」」」
そして、全員黙り、空気が動かなくなり、石像以上に重くなる。
「・・・あの、ちょっといいですか?」
空気の沈黙を破ったのは、モミジだった。モミジの一声で全員モミジを見る。モミジは大勢の視線に晒され、情緒が不安定になるが、
「何だ?」
ザッハの言葉に精神を安定させ、発したい内容を言葉で表す。
「もしかしたら、私達に出来る事があるかもしれないです」
「「「!!!???」」」
モミジの言葉の内容に、モミジ以外が全員驚きを隠せずにいた。
「そうなの!?モミジお姉ちゃん、早く教えて!」
ルリは食い気味に聞く。
「えっと・・・まずアヤトさんが無理だと言ったのは、そのヌル一族と真っ向から戦うのは無理、だという事だと思います」
モミジの言葉に、
「確かに。私とルリ様が一瞬でやられてしまいましたし、モミジ様の言っていることは当たっているかと」
「うん。あの時、ルリ達はお兄ちゃんの役に立てなかった」
クロミルとルリは緑の国での出来事を思い出し、凹みながらも納得する。
「だから、真っ向から戦わなければいいと思うんです」
「?真っ向から戦わなければいい?モミジお姉ちゃん、どういうこと?」
モミジの提案に、ルリは質問する。
「真っ向から・・・そうか!!」
モミジの提案に、ザッハはモミジの意図に気付く。ザッハの様子に、モミジは頷いた。
「それなら・・・確かにいける可能性はあるな」
「?えっと~、どういうこと?」
クリムは、モミジとザッハのやりとりに疑問を抱き、聞いてくる。
「おそらくだが、真っ向から戦わず、奇襲を仕掛け、そのまま逃げればいい。そういうことだろう?」
ザッハはクリムの質問に答えつつ、モミジと答え合わせをする。
「なるほど。それならヌル一族にも一撃をくらわせられる可能性はありそうですし、そのまま逃げれば追撃をもらうこともない。考えましたね、モミジちゃん」
「…お手柄」
「え!?えっと・・・ありがとう、ございます」
モミジは周囲の人々の称賛に対し、感謝の言葉と誠意を見せる。
「そうなると、次は人選か」
「はい。この作戦を実行するには、機動力や攻撃力は必須ですね」
「…そう考えると、ルリ、クロミル、そして・・・、」
イブは言葉の途中でザッハを見る。ザッハはイブの視線と意図に気付く。
「俺、か」
「ちょっと待ってください!私だって十分行けるはずです!」
ここでクリムは自ら名乗りをあげた。その名乗りの不満を、イブは解消させる。
「…今回行う奇襲は、出来るだけ少人数で行う必要がある。それにクリム、あなたはザッハに勝てる?」
「う!?そ、それは・・・」
クリムはイブに核心を突かれたのか、大人しくなった。
「…だから、ルリ、クロミル、ザッハの3人で奇襲を行う。これが言いたいことは以上?」
イブは作戦の確認の為、モミジに
「はい。私もその御三方にお願いするつもりです。残った私達は万一に備え、森を出て警戒していった方がいいかな、なんて考えているのですが、どうでしょうか?」
言い終えた後、「は!?私みたいな人が一意見を述べるなんて調子にのっているなんて思われてしまうかも!?調子にのってごめんなさい!」と、謝罪の言葉を述べていた。
「モミジちゃんの考えが最適だと私は思うのですが、みなさんはどうでしょう?」
リーフはモミジの意見に賛同した。そして、他の人達はモミジの考えをどう思っているのか質問する。
「…問題ないと思う」
「私もそう思います。」
イブ、クリムはモミジの意見に賛同する。
「それじゃあルリ、お兄ちゃんを助けるために頑張るよー」
「ご主人様の為、この身を捨ててでもお助けします」
「俺の力であいつを助けられるなら」
ルリ、クロミル、ザッハは今回の奇襲に参加する気満々であった。
「それじゃあみなさん、提案した私が言うのもなんなんですけど、どうかお気をつけて下さい」
「大丈夫だよ、モミジお姉ちゃん!」
モミジが深々と頭を下げる中、ルリはモミジに励ましの言葉をかける。
「ルリが絶対、お兄ちゃんを助けるから!ね、クロミルお姉ちゃん?」
「ええ。そのつもりです」
そして、ルリ、クロミル、ザッハの3人は、森の奥まで戻り、彩人達に合流しようと動き始めた。
3人は彩人目前のところで一時停止する。
「それで、どう行く?」
ザッハは他の2匹に今後の動き方について質問する。
「…これはあくまで提案なのですが、ザッハ様は【雷砕】で素早く移動して攻撃する強力な技を使い、敵の懐まで接近し、奇襲を仕掛けて下さい」
「・・・そのまま【雷砕】でケリをつけるのは駄目なのか?」
「【雷砕】で攻撃するのは不味いのか?」
「敵とご主人様が密接しているのであれば、ザッハ様が【雷砕】を発動させて攻撃した時、ご主人様にも【雷砕】をくらってしまう恐れがあります。なのでザッハ様は【雷砕】で移動し、ご主人様を敵の手からお守りください」
「分かった」
「ねぇねぇ、ルリは―?」
「ルリ様は敵とアヤト様の間に氷を張ってください。出来るだけ分厚く、そう簡単に壊されないような強固で透明な氷をお願いします」
「分かったー」
「最後に私が敵を封印出来るかどうかしてみますので、少しの間、敵から距離を置き、様子を見ていてください」
「分かった」
「敵を封印、か。出来るのか?」
「牛術の一つに、敵を封印する術があります。それで敵が封印出来るかどうかは不明ですが、少なくとも足止めくらいにはなるかと」
「そうか」
簡単な作戦会議が終わり、
「それじゃあまずは俺か」
ザッハは、自身の剣を構え、魔力を込め始める。
「【黄色気】」
ザッハの目が黄色になり、
「それじゃあ、行ってくる」
ザッハは【雷砕】で高速移動をし、彩人と敵、ゴーレムとのあいだに入り、攻撃を防ぐ。
「まったく。こいつをこんなボロボロにするとか、世界にはどれだけ上がいるんだよ」
ザッハは彩人の様子を見て、そんなことを愚痴にしてしまう。
「お前ら、なんで?」
彩人は驚いていた。無理もないだろう。何せ、絶対に来ることが無いと思っていた人物が今目の前に来て、自身が助けられているのだから。
「ご主人様!もう大丈夫です!」
「クロミル、だと!?」
「ルリ達が助けに来たよ!」
「ルリも、だと!?なんで助けに来たんだ!?」
彩人は、どうしてここに3人もいるのか分からなかった。
だが、3人は、答えに迷わなかった。まるで、一桁の足し算を出題された大人のように淡々と、当たり前のように答えた。
「「「助けたいから」」」
ある者は、自身を妹と言ってくれる大切な兄のため。
ある者は、操られた同胞を助けられたため。
ある者は、大切な妹達を助けられたため。
理由は様々だが、彩人を助けたいという想いは変わらず、この場に現れた。
「それじゃあいくぞ!」
このザッハの言葉を皮切りに、彩人達の反撃が始まる。
次回予告
『4-3-26(第356話) レンカと彩人の翼』
彩人、レンカ、ルリ、クロミル、ザッハの5人で、デベロッパー作の魔道具に立ち向かう。彩人は先ほどの戦いでかなり疲弊しているなか、レンカが彩人の翼となり、力を貸す。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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