4-3-20(第350話) 2匹からの提案
(やっぱりこいつらだったか)
あのやばい殺気、ザッハ以上に強いとは思っていたが、当たってしまうとはな。俺の嫌な予感はつくづく当たるな。
(まさか、こいつらがあの国から物を盗んでいるのか?)
そうだとすれば最悪だ。こいつら二人が俺の言う事を素直に聞くなんて思えない。
“お前ら!あの国から物を盗むのを辞めろ!”
“分かった。もう盗みなんてしない”
なんてことにならないだろうか。ならないだろうな。おそらく、戦うことになるだろう。ただでさえ一人でも勝てないのに、それが二人。もうね、泣きたいですよ。今すぐ逃げたいし、戦いたくない。
けど、今俺がこいつら二人から逃げたら、間違いなく黄の国にいくだろう。何をするかは分からないが、首都内で暴れられたらと思うと・・・考えたくもない。
(虚勢だけでも張ってやるさ!)
俺はメイキンジャーとパラサイダーに剣を向け、出来るだけ上から話すよう心掛ける。
「それで、こんな森の奥に一体何の用だ?」
「・・・ふむ。人族と言うのは、話をするときは相手に武器を向け、獣が威嚇をするかのように話すのか?」
「お前らがいつ、どんな行動に出るか分からないから警戒しているだけだ。文句あっか?」
「つまり、パラ達がお前を殺そうと動いてもなんら問題がないということパラか?」
「安心しろ。殺そうとするなら、俺は精いっぱい殺し返してやるとするさ」
本当は無理だけどな。殺されるのは確実に俺の方だと理解しているものの、この姿勢を崩すわけにはいかない。舐められないように、不意打ちをくらわないように、と。
「・・・はぁ。その様子では、話し合いに応じる気はなさそうですね」
「そうパラね。常に剣を向けているようでは。せっかくの機会だというのにパラ?」
「何の話をしている?」
「せっかくあなたにとっても、そして私達にとってもうまみのある話しがあるというのに」
そのメイキンジャーの言葉に俺は引っかかる。
「どういうことだ?」
俺は警戒し続けながらもメイキンジャーに質問する。
「その前に、少しは剣を下ろして欲しいパラ。じゃないと、すぐに殺してしまいそうパラ」
俺はパラサイダーの言葉に、氷がさらに凍てつきそうな言葉に自身の筋を曲げ、
「分かった」
俺も妥協し、剣を下ろすことにした。だが、いつでも抜けるよう、剣に手をかけている状態を維持している。
「まぁ、今はそれでいいでしょう。それでは話を始めますか。ねぇ?」
「・・・だな」
俺はこの相槌をうつだけで、ものすごく神経を使う事となった。
何せ、相手は俺より強い強者。そんな強者が半ば強引に肯定を促す様な質問をしてきたのだ。下手な返事をすれば、俺はこの場で首を切断されていたかもしれない。そう考えると、今までの判断が過ちだったんじゃないかと思ってしまう。後悔はしないが。
「それじゃあ交渉を始めるパラ」
こうして、俺とメイキンジャー、パラサイダーとの話が始まる。こういう時って胃が痛くなるんだよ。胃薬欲しい。
「それで、交渉ってなんだ?」
俺は二人に交渉内容を質問する。
「簡単な事です。今から私達のやることに協力してほしいのです」
「もちろん、協力するパラよね?」
「・・・内容によっては、な」
俺にだって意志はある。こいつらの言う事をただ聞くだけの木偶人形でないことを懸命にアピールする。
「・・・まぁいいパラ。今からパラ達がやることは、ある者の捜索、及び拘束です」
「それを俺に手伝えと?」
「ええ。おそらく、あなたの力があった方が、後々便利かと思いましてね」
(驚きだな)
こいつらがこんな提案をしてくるとはな。こいつら二人ならどんなことでも出来そうなのにな。
ん?待てよ?今さっき、メイキンジャーは便利、って言ったよな?つまり、俺の力を借りなくても出来るには出来るということなのか?それじゃあ何故、俺の力を借りようとする?
(俺の力を借りた方が効率的だから、か?)
借りなくても出来る分には出来るが、後々悪影響が出るとか、そんなところか?聞いてみたいが、あまり深入りすると殺されそうだな。
「それで、ある者って誰だ?それくらいは教えてくれるよな?」
俺は今思っている疑問を胸の内にしまい、別の疑問を質問にして二人にぶつける。
「その者の名は【デベロッパー・ヌル】。我が同胞です」
俺の質問に、メイキンジャーは静かに答えた。
「で、【デベロッパー・ヌル】?」
そういえば、リーフからデベロッパーという言葉を聞いた気がする。確か、魔道具を作ることが出来る魔獣だった気がする。
そして、
(ヌル、か)
メイキンジャーが言う我が同胞という言葉。おそらく、メイキンジャーやパラサイダーと同族なのだろう。そいつもデタラメな力を持っている可能性大だな。
(そいつを捜索というのは分かるが、拘束はなんでなんだ?)
拘束する理由が分からん。こいつら二人がデベロッパーを探しているのは分かったが、見つけるだけじゃないのか?見つけた後に拘束して何をするつもりなのだろうか。
(聞きたいが、下手に聞かない方が良さそうだ)
ただでさえ不遜な態度をとりまくって相手のヘイトが上昇しているからな。下手な態度をとると八つ当たりで殺されそうだ。
「それで、そいつを捕まえることで、俺に何の利がある?」
さっきから話を聞いていると、そのデベロッパーを捕まえることで2人に利がある、ということは分かってきた。
だが、俺の利がないように聞こえるのは気のせいか?最も、俺の利についてまだ話していない、という可能性もあるのだが。
「・・・最近、あの町で盗難が多発しているようですね」
「!?それとお前らの話に何の関係がある?」
何故こいつらが黄の国の首都で起きている盗難事件について知っているんだ!?こいつら、もしかしなくても、黄の国に潜り込んでいたな!
(そういえば、)
デベロッパー・ヌルを探している、みたいなことを言っていたな。その一環で首都に潜入したのかも。
「その盗難の犯人、実はデベロッパーなのですよ」
メイキンジャーは、俺に驚きを隠せなくするような情報をもたらしやがった。
「な、なんだと!?」
つまり・・・どういうことだ?
俺達が追っているのは、黄の国の首都、キハダで盗みを働いている輩だ。
それに対し、メイキンジャーとパラサイダーが追っているのは、デベロッパー・ヌルという魔獣。
そして、デベロッパー・ヌルはこいつら二匹の情報によると、黄の国で盗みを働いていたのはデベロッパー・ヌルだという。
つまり、俺とこいつら二匹が追っているのは同一人物である、ということか。
(だが、本当に信じていいのか?)
こいつらの情報を鵜呑みにしてもいいのだろうか?もしかしたら、こいつらが俺に協力させたくて嘘をついている可能性も否めない。
(だが、信じなきゃいけないか)
嘘をついたにしても、そこまで俺に協力させたい理由が分からない。以前、俺とこいつらは敵対し、戦ったのだから、お互い好印象を抱いていないはずだ。だから、嘘をついていまで一緒にいたい、なんて恋人みたいな理由はないはず。
だから、信じる。ちょっと後ろ向きに考えている気がするけど、仕方ないか。
「それで、俺は何をすればいい?」
俺は協力することを肯定し、これからどう行動すればいいのか指示を待つ。
「・・・ふむ。随分聞きわけがよろしいですね。こちらとしては助かるのですが」
「なんだか不気味パラ」
(こっちだって聞きたいことが山ほどあるんだよ!)
と、心の中で二匹をタコ殴りにしながら指示を待つ。
「まぁいいでしょう。それでまず、あなたに協力してほしいことは、この【条件結界】です」
と、メイキンジャーは森の奥を指差した。
・・・え?何も見えないんだが?
(・・・ん?)
よく目を凝らして見ると、なにやら透明の何かが張られているな。これ、もしかしなくとも、以前洞窟で見た【条件結界】とよく似ている。まぁ同じ【条件結界】なのだから当然といえば当然か。
「それで、この【条件結界】に定められた条件って何だ?」
俺が聞くと、
「「・・・」」
二匹は少し互いの顔を見合わせた後、条件の内容を言った。
「・・・適性があれば開くパラ」
適性、だと?一体何の適性だ?
「一体何の適性・・・!?」
俺は聞こうとしたが、二匹の目が尋常じゃない狂気を帯びていた。まるで、
“これ以上聞くな”
とでもいいたげな、そんな狂気を目に込めて、俺に送られてくる。
「・・・その適性が俺にあれば、この【条件結界】を破ることが出来るんだな?」
「ええ。私達3人で同時に触り、あなたに適性があれば、この【条件結界】を破り、この森の奥に進むことが出来ます」
「そしてその奥に、俺達が探し求めているデベロッパー・ヌルがいる、と」
「そうパラ」
「分かった」
俺は覚悟を決める。
「それでは、私が合図を出しますので、それに合わせて【条件結界】に触れて下さい」
「ああ」
「パラ」
そして、俺達はゆっくり【条件結界】に近づく。
「今です」
メイキンジャーの合図を聞いた俺は、二匹に合わせて【条件結界】に触れた。
すると、
「「!!??」」
「割れ、たな」
【条件結界】が粉々に散った。洞窟で見た時と酷似しているな。それにしても、
(なんでそんなに驚いているんだ?)
おそらく、メイキンジャーとパラサイダーの二匹で割ることが出来ず、俺がいたからこの【条件結界】を割ることが出来たのだろう。そのことに喜び、驚くのは分かる。けど、それにしても驚き過ぎな気がする。俺の気のせいか?
「やはり、我が主と同じ力を・・・!?」
「にわかに信じられないパラが、認めるしかないパラね」
「???」
何のことを言っているのかは分からないが、今は触れないでおくか。
「この奥にいるってことでいいんだよな?」
俺は確認のため、二匹に聞く。
「え、ええ」
「そうパラ。この奥にいるはずパラ」
「そうか」
「それでは、行くとしますか」
「パラ」
「分かった」
俺はメイキンジャーの指示の元、森の奥へ入っていくのだった。
俺達はさらに森の奥に入っていった。その森の奥に、一つの洞穴?洞窟か。洞窟みたいなどでかい穴があった。今までほとんど一本道だったし、この奥にいる確率が高いだろう。俺達は迷うことなく洞窟の中に入っていった。その道中、俺は周囲の警戒を怠ることなく質問をした。
その質問は、どうしてデベロッパー・ヌルがキハダで盗みをしていると断定出来たのか、である。その質問をしたところ、
「この森周囲を調査したところ、あの町からひっそりとでてくる魔道具を見かけたんですよ。その魔道具の質から、我が同胞であるデベロッパー・ヌルが作成したのだと断言しました」
「あいつは、ゴーレム型の魔道具をよく作っているパラ。なんでも、使い勝手がいいとかなんとか」
使い勝手、か。どこをどう見て使い勝手の良し悪しを判断したかは分からない。けど、キハダで盗みを働いていたのはデベロッパー・ヌルである、という線は濃厚そうだ。証拠となりそうな物は、おそらくデベロッパー・ヌルの住処に行けば何かしらあるだろう。例えば、盗みに使っていたゴーレム型の魔道具とか。それらが証拠になるだろう。
「そろそろ、気を張っておきなさい」
「そうパラね。おそらく、戦闘になるパラ」
戦闘、か。こいつら二匹が味方ならとても心強いが、メイキンジャーやパラサイダー並に強い奴と戦わないとか。
(ん?)
ちょっと待てよ?
俺がいなくても、メイキンジャーとパラサイダーの2匹が協力すれば、デベロッパーを拘束出来るんじゃないのか?おそらく、メイキンジャー、パラサイダー、デベロッパーの強さは同格。なら、2対1でこっちが優勢なんじゃないのか?俺が2匹にそんなところを聞いたところ、
「奴もそれは理解している。だからこそ、他で補おうとするだろう」
「他?他ってなんだ?」
「魔道具パラ」
「なるほど」
つまり奴は、俺達と戦う時、魔道具を戦力として数えているという事か。
(もしかしてそのことを見越して、俺に協力を提案してきたのか?)
デベロッパーが繰り出す魔道具の強さが不明だから、確実性を重視して俺に協力を、ということかもしれない。
「ということは、お前らがデベロッパーを拘束するまでの間、俺は魔道具の相手をすればいい、ということか?」
「その通りです」
「理解が早くて助かるパラ」
どうやら俺の役割はこうだ。
メイキンジャーとパラサイダーの二匹がデベロッパーを拘束しようと動く。拘束しきるまでの間、俺が魔道具を足止めする。
(これでキハダから犯罪が一つ消えるなら、やるとするか)
どの世界でも、きっと犯罪が完全にない世界なんてないと思う。だが、犯罪を減らす事は出来る。こうやって犯罪を無くす努力、減らす努力をすれば、どんな世界も犯罪が0に収束していくことだろう。
(ま、犯罪を犯罪と定義しなければいいんだけどな)
そうすれば犯罪は消える。その代わり、何でもありの地獄見たいな世界となるだろうな。・・・少し考えが逸れたな。今は目の前のことに集中しよう。
(ん?)
なんか、少し洞窟が明るくなってきてないか?心なしか、洞窟が広くなってきているような気がする。俺の単なる気のせい、という可能性もあるけど。
「今一度、気を引き締め直しなさい」
「いるパラね」
「!?ああ!」
俺は剣を引き抜き、臨戦態勢をとる。臨戦態勢を取りながら少し移動すると、奥に影が見えた。
「ふむ。ここにいるということは、我が主もここに来たという事だな」
その声は、長年時を過ごし、貫禄がある老人のような声で、とても重みを感じた。もしかしなくとも、この後ろ姿が、俺達の探し人なのだろう。
「ん?この気配・・・まさか!?」
影は急に俺達の方を向いた。そして、とても驚いた顔を初見で見せてくれた。
「我が主じゃない、だと!?ど、どういうことだ!!??」
「さて、それではあなたを我が主の元へ連れて行きます」
「ご自慢の屁理屈なんて言わせないパラよ」
これが、俺とデベロッパーとの初対面となった。
次回予告
『4-3-21(第351話) デベロッパー・ヌル』
彩人はメイキンジャーとパラサイダー協力の元、【条件結界】を突破し、デベロッパーに遭遇する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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