4-2-56(第330話) 黄の国での決闘後~その4~
「え?」
まさか、ヤヤ達の名前から【色気】に関する話になるとは思わなかったわ。
「だから、お前はどうやって【色気】を体得したのか聞いてんだよ!」
何故かちょっと切れ気味で言われてしまった。一回聞き逃しただけで逆切れしないでほしい。
「別に?普通に頑張って体得した」
俺は具体的な方法を一切言わず、いかに頑張ったかを言った。
「ふざけんな!普通にとか頑張ってとかで体得できるほどそんな簡単な魔法じゃないことくらい、お前にも分かるだろうが!」
・・・。
確かにザッハの言う通りだ。俺の言い方も少しは悪かっただろう。それを含めても、さっきからザッハの口調が厳し過ぎないか?それとも、俺の気のせい?
「分かるが、なんでそんなに喧嘩腰なんだ?」
俺は直球で聞く。
「う」
ザッハは分かりやすく動揺した。
「言っておくが、俺が【色気】を体得出来たのは、自身の汗水流して努力出来たからだ」
ついでに血も流したがな。どちらかというと、血の方が多く流れていたくらいだ。
「確かに簡単に体得出来ていないが、お前がそこまで喧嘩腰に聞いてくるのには理由があるのか?」
「・・・」
ザッハは黙ってしまった。強く聞いてしまったか?だが、先に強く聞いてきたのはザッハなのだから仕方がないか。
「お前の、師匠について聞きたかった」
「俺の、師匠???」
誰だ、俺の師匠って?俺は周囲を見渡してみる。俺の師匠は・・・もしかして、俺の左手か!?それとも、俺の右手か!?て、そんなわけないか。そんなボケをザッハに言える雰囲気ではないだろうし、こいつは一体何が言いたいんだ?
「師匠って、一体お前は何が言いたい?」
「【色気】なんて失敗すれば死ぬ魔法を単独で体得するわけないだろう?だから普通、師に教えを乞うものだと教わった」
「へぇ。そうなんだ」
資格取得前の勉強みたいなものか。人間誰しも、いきなりノコギリやらショベルカーやら動かせないからな。ザッハの言う師匠や先生に教えてもらう、か。当然と言えば当然かもしれないな。
「だから俺はお前の師の話を聞きたかった」
「・・・」
「お前が一体どんな方法で【色気】を体得したのかと」
今度は静かに、落ち着いた雰囲気で言った。
安全面を出来るだけ考慮するなら、他に【色気】を扱える人を捜し、教えを乞うべきだった。まぁ今更そんなことを言っても遅いのだが。
「・・・それじゃあお前は、【色気】を体得するためにどんな方法を用いたんだ?」
俺は逆に聞いてみた。質問に質問で返してみたが、ザッハは俺の質問に答えてくれるのだろうか。
「…俺が話したら、ちゃんと俺の質問に答えろよ?」
ザッハは俺を睨みながらも、俺の質問に答えてくれた。
「師匠から、どれほど体内に魔力を通しても問題ないか判断し、師匠が見守る中、体内に微量の魔力を全身に通し、【色気】を発動させるんだ」
「・・・なるほど?」
つまり、どういうことだ?全身に微量の魔力を通し、【色気】を発動させるのは分かる。けど、体内に通しても問題ない魔力量ってなんだ?直感で判断していいなら、血管に流せる血液の量、という認識でいいのだろうか?分からん。質問してみるか。
「体内に通しても問題ない魔力量ってどうやって測るんだ?」
俺のこの質問に、ザッハは目を丸くする。
「嘘だろ?お前まさか、全て感覚で【色気】を使っているのか!?」
「!?」
こいつ!声でか!
「だとしたらなんだよ?」
「そんなことを続けていたら、いずれ死ぬかもしれないんだぞ?分かっているのか!?」
「!?」
俺はザッハの死という単語に驚く。
「どういうことだ?」
「分からないのか!?一度でも魔力量を間違えれば、体が破裂するかもしれないんだぞ!?そうでなくとも、体内から血が噴き出るなんて話も!」
「あー。そうなんだー」
まぁ、実際に体内から血、噴き出たけどね。死にかけもした。というか死んだ。いや、死んではいないか。あの時のモミジの助けがあったからこそ、今俺はこうして生きていられるんだもんな。
「…お前、ふざけているのか?」
「別にふざけてはいない」
もう既に体験しているから今更、という感じがする。緑の国で世界樹と戦った時の感じだと思う。
「ならどうしてそこまで他人事なんだ?」
「どうしても何も、実際体験したからな」
「体験、だと?お前、まさか!?」
あ。これでザッハに、俺が【色気】を発動する際、失敗したことがばれたかもしれないな。まぁ隠したい事でもないから別にいいけど。
「・・・はぁ。なるほど。だからお前は、師がいなくても【色気】を死なずに発動させることができるのか」
こりゃあ完全にばれたな。
「・・・なぁ」
「なんだ?」
「俺はお前にお礼がしたい」
「それはどうしてだ?」
「俺の妹を、ここまで安全に連れて来てくれた事。俺との決闘に勝利し、ヤヤ達の身を危険から守ってくれた事。マーハンとの戦いの時、マーハンからヤヤ達を守ってくれた事。これらが理由だ」
「・・・」
俺はザッハの言葉に、肯定も否定もせず、話を聞いていく。
「お礼をどうするか考えていたのだが、俺から一つ、提案がある」
「提案?」
話を聞くことに徹していた俺だったが、ザッハの提案という言葉に質問する。
「ああ。俺がお前に【色気】の使い方を教える。これがお前に出来るお礼だ。受け取ってくれるか?」
ザッハは真剣な眼差しで俺を見る。その真剣さに、俺は目を逸らしてしまいそうになる。
【色気】の使い方、か。ザッハの言う通り、【色気】の使い方を教われば、今まで以上に上手く【色気】を扱えるようになれるな。あくまで可能性の話なのだが。独りでやるには限界があったからな。ここはひとまず、ザッハという師を持つべきなのかもしれない。
ん?師?
そういえば、こいつの師って誰なのだろうか。確かこいつ、冒険者の中で最も高ランクの冒険者だったはず。そんな冒険者に手ほどきするとか、どれだけ強いんだよ。
「また聞いてもいいか?」
「またか?お前、まだ俺の提案に乗るか乗らないか答えてないのだが?」
「う。まぁそれはおいおい答える。それより気になることがある」
「なんだ?」
「お前の師って誰なんだ?」
「俺の師、か?」
「ああ」
「・・・そうだな。少し話すか。といっても、俺も詳細は知らないんだ。それでもか?」
「ああ。ぜひ聞かせてくれ」
「分かった」
こうして俺は、ザッハの師について話を聞くことにした。
だが、ザッハは本当に己の師について詳細を知らなかったらしく、
「簡単に言えば、男女2人組だった」
この一文だけを聞いた時、こいつはふざけているのかと思ったのだが、その後も話し続けた。
「その2人は珍しく、2人とも黒魔法に適性があったらしく、その黒魔法を使って魔獣討伐していた」
(へぇ。黒魔法に適性あり、か)
あまり聞かないな。
「そういえば、冗談口調で、俺達は王族で、将来国王になる、とか言っていたな」
と、言いだした。
冒険者をやっているのに王族だと?そんなやつ、いるわけないじゃない・・・な。イブやクリムも王女なのに冒険者やっているもんな。そういう人がいてもおかしくないな。
「後、同じ食い物ばかり食っていた」
「同じ食い物ばかり?どういうことだ?」
「俺も聞いたんだが、「腹を満たせればそれでいいだろう?」と言って、いつも同じものばかり食っていた記憶がある」
「へぇ。それって女の方もそうだったのか?」
「ああ。なんか気に入らなさそうに食っていたけど」
男の方はかなり自分にストイックだったんだな。女の方は…食うものに困っていて仕方なく、という感じがする。
「女性の方は時々、「もっと美味しいものが食べたい」て、ぼやいていたな」
「・・・」
もしかしてその二人は、一番美味いものをずっと食い続けていたのか?それか、二人とも食生活をストイックにし、貯金していた、とかか?
「どれくらい強かったんだ?」
「当時の俺が手も足も出ないほどだ。今ではどのくらい強くなっていることやら」
「そいつらの所在とか気にならないのか?」
「まったく。その後、俺も色々忙しかったから、それどころではなかったしな」
「なん、で・・・」
そうか。おそらく、その二人組の冒険者がザッハの元から去った後に、マーハンが行動を起こし、兄妹がばらばらになったんだな。
「そういうことだ」
・・・ねぇ?口にだしていないのに、どうして俺の考えていることが分かるの?そんな疑問を口に出さず、
「そ、そうか」
俺は返答する。この返答で話が通じているのだろうか。
「あ」
「?どうした?」
「一つ、食い物繋がりで思い出したことがある」
「なんだ?」
「いつか、美味しいものがたくさんある国にしていきたい。そんなことを言っていた」
「美味しいもの、ねぇ」
カレーとかオムライスとかハンバーグとか、そんな料理がはびこる素敵な国にするっていうのかね。自分で言うのもなんだが、好きな味の傾向が子供じみている気がする。この際だから、もっと大人な味を楽しもうかね。例えば・・・コーヒー、とか?大人な食べ物のイメージがコーヒーしかないとか、俺の頭が残念過ぎる。
(なんか、イブやルリが願いそうだな)
あの二人、常に美味しい食べ物があれば幸せそうだもんな。・・・イブ繋がりで何か思い出しそうな気がしたのだが、なんだろうか?
・・・。
駄目だ、思い出せん。思い出せないという事は大したことないのだろう。
「?どうかしたのか?」
「いや、別に。ただ、あれを作ろうかなと思ってな」
「?あれって何だ?」
「ああ。あれっていうのは・・・、」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「?なんだ?」
「先にお前の返事を聞かせてほしい」
「返事?・・・あぁ、返事か」
ザッハの言う返事とは、俺がザッハに【色気】の教えを乞うかどうか、の返事だろう。ただで教えてくれるのであれば、断らなくてもいいか。
「【色気】の教え、よろしく頼む」
俺はザッハに【色気】を教えてもらうよう頼む。
「ああ。任せろ」
ザッハはその一言二言で終わる。
「それでさっき、あれを作ると言っていたが、何を作るつもりなんだ?」
「ああ。ホットケーキを作ろうかと思ってな」
「ホットケーキ?なんだそれは?」
「ホットケーキっていうのは・・・、」
こうして俺は、ザッハにホットケーキという料理について説明する。説明をひとしきり終えた後、「…後で俺にも作ってくれないか?」という言葉をもらったが、当然そのつもりだ。そのつもりでさきほど言葉にだしたのだから。
さて、ザッハにホットケーキを作るためにも、早く怪我を完治出来るよう努めないとな。
「・・・ふむ」
黄の国にある森の奥の隠れ家に、魔獣が一匹住み着いていた。その魔獣は、無数の道具に囲まれながら唸る。
「この構造だと魔力を一定量注入するのに不都合な構造となってしまうな。もう少し簡易的に構造を見直すべきか?いや、そうなると魔道具の耐久力が降下してしまう。どうしたものか・・・」
自身の製造物に納得できないのか、独り言を呟き続ける。そして、自分なりの答えを見つけ出し、また作業を続行する。
そんなことを続けていき、
「む?」
魔獣はある場所に手を伸ばす。その場所には普段、大量の素材が無造作に置かれているのだが、今はその素材の山が存在していない。どうやら、この魔獣がさきほどの作業で全て使い果たしたようだ。
「素材が切れてしまったな」
魔獣はその現状を打破するため、素材を確保するためにとる行動は、
「仕方ない。【チビG】!」
魔獣がチビGと叫ぶと、小さなゴーレムが複数、魔獣の元へ集合する。
「素材が無くなってしまったから、素材を採ってきてくれ。後飯も」
そう魔獣が言うと、チビGと呼ばれた小さなゴーレム達は一礼の後、魔獣が住んでいる住処を後にする。
「さて、今の内に休養をとるとしよう」
魔獣は目を瞑り、横になる。
しばらく時刻は経過。
「・・・む?」
チビG達が戻ってき、素材を住処の中に置き始める。その音で魔獣は目を覚ましたのである。
「戻って来たのか。ごくろう。戻っていいぞ」
そう魔獣が言うと、チビG達はどこかに行ってしまった。チビG達がどこかに行ってしまったのを確認した後、魔獣は数度背伸びをする。背伸びをしたことにより、体を起こし、目を少しずつ覚ましていく。
「さて、休養もとれたことだし、やるとしよう」
そして、その魔獣は後にこう発言する。
「全ては我が主のために」
と。
一方、黄の国のなかにあるとある森。その森の入り口に二匹の魔獣が出現する。
「さて、極秘に集めた情報によると、この森の奥の隠れ家に住んでいる、ということを掴みました」
「そうパラか。周辺の魔獣に【寄生】し、聞いてみたパラ」
「それで、どうでしたか?」
「いずれの魔獣も、この森の奥に一匹だけ、おかしな行動をしている魔獣がいると聞いたパラ」
「なるほど」
その二匹の魔獣は、軽く情報を共有してから、森の中に入っていく。
「さぁ。我が主の命は絶対遵守するため、行くとしますか」
「そうパラ。我が主の命により、あの屁理屈猿を捕まえるパラ」
「ええ」
そう言い、二匹の魔獣、メイキンジャー・ヌルとパラサイダー・ヌルは森の中へ入っていく。
次回予告
『4-3-1(第331話) 黄の国での決闘報酬』
決闘が終わり、彩人達側の勝利となった。決闘時にできた傷も完治し、彩人達は戦利品を獲得するため、マーハンの所有物を探し始める。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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