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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-55(第329話) 黄の国での決闘後~その3~

 4人が抱き、泣き始めてから俺は静かに、それはもう空気の如く静けさで移動し、病室を退室した。

「!?」

 退室した扉の先には、

「うぅ。よ、よかったです~・・・」

 モミジが静かに泣いていた。もしかして、俺達の話を聞いていたのか?だとすれば、今も泣いていることに納得がいくな。

「俺達も、家族を大事にしていこうな?」

 俺は、モミジが話を聞いている前提でモミジに話かける。これで、「え?何の事ですか?ちょっと何言っているのか分からない」とか言われたら黒歴史ものだ。

「は、はいぃ~」

 顔をくしゃくしゃにしながら言った。俺はそんなモミジの背中を優しく撫で、落ち着くまで待った。

 モミジが落ち着き始め、立ち続ける事に疲れた俺は座り、この後どうするか考えていると、病室の扉が開いた。

「あ!いた!!」

 ヨヨが俺のもとへ・・・、

「モミジお姉ちゃ~ん!」

 ではなく、モミジのところへダイブしていった。俺のこの腕、一体どうすればよいのだろうか。無難に自分の体でも触っているか。虚しい。

「ヨ、ヨヨさん」

「えへへ~♪」

「アヤトお兄ちゃん、ザッハ・・・兄さんから伝言です」

「ザッハから?」

 何だろうか。

「ん。二人だけで話したい事がある、だって」

「分かった」

 何を話したいのかは分からないが、重要な話かもしれないな。

「それじゃあモミジは、ヤヤ達について行ってくれるか?」

「お任せください!」

 そう言い、モミジは3人を連れて去って行った。

「なんか、本当の姉妹みたい、だよなぁ」

 まぁ4人の内3人は本当の姉妹なんだけど。あの中にモミジを入れて4姉妹と断言しても違和感を覚えないな。仲良くなっていることは素晴らしいことだ。俺にもあんな友人、いたらよかったなぁ。

「・・・」

 ・・・もしも、昔の俺に、モミジみたいな人格者がいてくれたら、少しは俺の人生も違っていたのかね。そんな例え話をしたところで俺の過去は決して変わらないのだが。その後俺は、ザッハの病室へ戻っていった。

「よぉ」

「あぁ」

 男同士だからなのか、短い返事だけで会話が終了してしまった。まさかこれが話したい事、じゃないよな?俺はさっきまで寝ていた病室のベッドに腰を下ろす。

「さて、どこから話そうか」

 ザッハは少し悩んでから、

「お前には、俺の妹達、ヤヤ達に関する話を聞いてほしい。聞いてくれるか?」

 これが二人だけで話したい事か。単なる妹自慢、というわけではなさそうだ。真剣な雰囲気がザッハから感じられた。

「分かった」

 俺は深く座り直し、ザッハの話を注意深く聞くことにした。


「まず初めに、俺の妹達はヤヤ、ユユ、ヨヨという名前ではない」

「・・・は?」

 こいつは一体何を言っているのだろうか?

「だってさっき、魔紋を調べて家族だってことが証明されただろう?」

「ああ」

「じゃあなんでそんなことを言うんだ?」

「ヤヤ、ユユ、ヨヨという名は愛称であり、本当の名前は別にある」

「本当の名前?本人はずっと自分の名前だと認知していたが?」

「無理もない。小さな時からずっと愛称で呼ばれてきていたからな」

「へぇ」

 そんな話、ヤヤ達から一切聞かされていないのだが、年上の兄だからこそ覚えていたのだろう。

「それで、ヤヤ、ユユ、ヨヨという名が愛称なら、本当の名前は一体何なんだ?」

「本当の名前は、ヤキヤ、ユキユ、ヨキヨだ」

「・・・全員、愛称の真ん中にキが入るんだな」

「そうだ。だから三人とも、真ん中のキを抜き、愛称で呼んでいたんだ。いちいち真ん中のキを挟んで呼ぶのは面倒くさかったらしい」

「ふ~ん」

 自分で名前をつけといてフルネームで呼ぶのは面倒くさいってか。だったら最初から愛称を名前にしておけばよかったのに。

「お前は昔、どう呼んでいたんだ?」

「俺はちゃんと省略せず、ヤキヤ、ユキユ、ヨキヨと呼んでいたぞ?面倒くさがっていたのは・・・、」

「なるほど、分かった」

 このザッハの反応から、おそらく面倒くさくて省略していたのはザッハの母、マーハンだろう。本当にあいつは自分の子供を何だと思っているのだろうか。死人のことを悪く言うのは良くないかもしれないが、今ぐらいは許してくほしい。

「あいつらの名前はヤヤ、ユユ、ヨヨではなくヤキヤ、ユキユ、ヨキヨでいいんだな?」

 俺のこの言葉に、ザッハは肯定した。

「なるほど、納得した」

 これがザッハの言っていた二人だけで話したい事、か。確かにヤヤ達3人にとっては重要なことであり、簡単に聞かせたくないな。何せ、自分の名前が一字違いとはいえ、自分の名前が違っていたのだ。色々と周知させる必要もあるかもしれないからな。

 でも、この話を俺だけにしているところから推測するに、周囲の人間に周知させる気はないのか?もう少し話を聞いてみるか。

「それと、話にはまだ続きがある」

「なんだ?」

「苗字に関しては、俺らの母が商王、王族だったから、この国の首都が苗字になるんだ」

「へぇ」

 そんな決まりでも存在しているのか?俺にはよくわからないが、そういうものだと理解しておこう。

「となると、3人の本当の名はヤキヤ・キハダ、ユキユ・キハダ、ヨキヨ・キハダ、ということか?」

 俺がヤヤ達の本当の名を若干どや顔で言い、ザッハに確認をとる。

「いや、違う」

「え?違うの?」

「ああ」

 合っていると思って若干どや顔で言った自分が恥ずかしいじゃないか!?なんて心境はばれないようにしつつ、ザッハ本人に聞いてみるとしよう。

「三人にはそれぞれ隠し名が存在する」

「隠し名?」

 何それ?中二な男にだけ存在する架空の名前か?・・・そんなわけないか。

「ああ。今じゃあ俺だけしか知らない」

「へぇ。隠し名について聞いてもいいか?」

「もちろんだ。だがその前に、父親の趣味から話す必要があるな」

「父親の趣味?」

 どういうことなのだろうか。

「俺の父親、ザーガは、古い文献を漁るのが趣味でな。その趣味のさい、ある名前のことに関し、深く調べていたんだ」

「ある名前?その名前って何だ?」

 俺がそう聞くと、ザッハは俺に掌を見せてきた。暗に聞くな、ということなのだろうか。

「その名前がそれぞれヤヤ、ユユ、ヨヨの隠し名になっているんだ」

「はぁ」

 その名前を凄く聞きたい。いいから早く言ってほしい。

「それで、本当のヤヤ達の名前って何だ?」

 俺がそう聞くと、ザッハは軽く呼吸を整える。それほど長い名前なのだろうか。

「ヤキヤ・カラト・キハダ。ユキユ・ムーア・キハダ。ヨキヨ・ムーガ・キハダ。これがヤヤ達の本当の名前だ」

「・・・」

 ヤキヤ・カラト・キハダ。

 ユキユ・ムーア・キハダ。

 ヨキヨ・ムーガ・キハダ。

 これらがあの3人の本当の名前、か。正直、本当の名前を聞いて驚きはしたが、それまでだ。名前を聞いたところでヤヤ達はヤヤ達だ。名前が変わったところで性格まで変わるわけではないからな。・・・ないよな?

「つまり・・・?」

「ああ。昔の文献で出てきたカラト、ムーア、ムーガ。この3つの単語を俺の父、ザーガはとても気に入っていた」

「娘の名前にいれるくらいにか?」

「ああ。父曰く、古い文献によると、その3つの言葉はとても神聖なものだったらしい」

「なんでだ?」

「さぁな?俺もそこまでは知らない。父も詳細な事は知らなかったはず」

「ふ~ん」

「そしてもう一つ、父は別の言葉を言っていた」

「別の言葉?」

「ああ。お前もよく知っている言葉だ」

「俺もよく知っている、だと?」

 俺がよく知っている言葉、か。

 ボッチか?孤独か?それとも、いじめか!?・・・こんな言葉しか思いつかないな。

「神色剣」

「!?神色剣って、あの神色剣か!?」

「ああ」

 といっても、俺は神色剣以外の同音異義語を知らないのだが。浸食県のことについて行っているわけでもなさそうだし。

「俺の名前もその神色剣からとり、ザッハ・シンショク・キハダという名前だ」

「・・・」

 まさか、昔の文献に神色剣が登場してくるなんてな。

「お前、俺の母と戦っていた時、神色剣を使っていただろう?」

「ああ」

 神色剣を神色盾に変形させて使おうと思っていたのだが間に合わず、マーハンの攻撃をくらっちまったんだけどな。あの時は痛かったわ。

「だからお前には知ってもらおうと思ってな」

「そうか」

 確かに驚いたな。それにしても神色剣とカラト、ムーア、ムーガとの繋がりは一体何なのだろうか?

「その繋がりについて知っているのか?」

「悪い。俺どころか父も知らないと思う。一生懸命調べていたそうだが、その前に死んだ」

「そうか」

 肝心の繋がりは知らずに終わったか。

 それにしても、まさかヤヤ達があの商王、マーハンの娘だったとはな。マーハンの、娘?

「なぁ?」

「なんだ?」

「お前はマーハンの息子、でいいのか?」

「ああ」

「お前はそのことをどうやって知ったんだ?」

「どうやってって、本人から直接?」

「だよな?」

 俺もその話を聞いていたからな。だけど、

「その話を鵜呑みにしているのか?」

 鵜呑みにしている理由が分からん。もしかしたらマーハンが嘘を言っている可能性も完全否定出来ないからな。

「聞いた当初、信じる気はなかった。だが、嘘だと断定する理由もなかった」

「確かにな」

 マーハンから話を聞いた直後、本当と言い切る証拠も、嘘と言い切る証拠存在していない。

「だが、あの場で嘘をつく理由が分からず、今の今まで信じることしかしていなかった。嘘だと、微塵も思わなくなった。そしたら、急に怖くなった」

「怖くなった?どういうことだ?」

 こいつは一体、何を恐れていたんだ?

「だって俺は知らなかったとはいえ、実の妹を死しか待っていない人生へ導こうとしていたんだぞ?今からでも絶縁した方が・・・、」

「はぁ~」

 まったく。これだから自分勝手なボッチは嫌いなんだ。だから俺は俺のことが嫌い。…急に自己嫌悪に陥ってしまった。これもふざけたことを言ったザッハのせいだろう。恨めしや。

「お前がヤヤ達と絶縁することを、ヤヤ達は望んでいるのか?」

「ヤヤ達は望んでいない。俺が望んでいるんだ!」

「それは望んでやることじゃない。引け目を感じて逃げるための言い訳だ」

「!?てめぇ!だったら俺はどうすればいいのか分かるのかよ!!??」

「ああ」

 ルリやクロミル、モミジ達のことを考えればすぐに分かるさ。

「なんなんだよ、その方法は!!??」

「一緒にいてやることだよ。それこそ、当たり前のように」

 俺はこの当たり前な感覚に救われてきた。

 昔、俺が学校でいじめられ、泣いて帰ってきたときも、俺の両親はいつもどおり接してくれた。同情なんて感情は無く、日常を俺にみせてくれた。もちろん、俺に無関心ではなかったと思う。けど、俺の前では平気なふりをしてくれていた。だから、俺も出来るだけ親の前では元気でいようと、明るく振舞おうと、また頑張れた。後日、親が無理をしていたことを知ったのだが、もう後戻りは出来ず、そのまま知らないふりをし続けた。それはそれで辛かったけど、親の優しさに甘えていた自分もいたな。

 だから今度は、お前の番だ。

「一度掴んだ巡りあわせなんだ。この巡りあわせを二度と失わないよう、きちんと家族で話し合え。もちろん、絶縁なんかするんじゃねぇぞ?」

 もう俺は、二度と自身の両親に会えないのだから。

 そう思ってザッハを見ると、

「お前も両親を・・・」

 どうやら俺の気持ちが声になって漏れていたらしい。常に独り言を言う癖がここで運悪く出ちまったかもな。今更嘘だと言い張るのも面倒くさいから放置でいいや。

「だからお前・・・」

 そしてザッハは、なにをどう考えているのかは不明だが、俺の顔を見てくる。・・・もしかして、俺に惚れたか?嘘です、すいません。そんなわけないですよね。そうやって変なところで自意識過剰だったり勘違いを起こしたりするからいじめの対象になるんだよな。本当、自分が嫌になる。

「なるほど」

 ひょんなことから自己嫌悪していた時、ザッハはなにやら納得したようだった。何に納得したかは分からん。

「分かった。俺も出来るだけ向き合うとするよ」

「そうか」

 ザッハはこれから、家族と向き合うのだろう。探し続けても見つからなかった家族と、絆を育むために。言い合いや喧嘩になるかもしれないが、決して殴り合いはしないでほしいな。本気で殴り合いをすれば、間違いなくザッハの楽勝だし、死人が出るだろうからな。

「ところで、一つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

 好きな性癖について語り合いたくはないぞ?・・・て、そんな話題になるわけないか。

「お前、あいつと戦っていた時、【色気】を使っていたな?」

「ああ」

 確かに使ったな。

「お前はそれを、どうやって体得したんだ?」

次回予告

『4-2-56(第330話) 黄の国での決闘後~その4~』

 決闘が終わり、彩人達側の勝利となった。決闘時にできた傷を癒しているなか、ザッハは彩人に、どうやって【色気】が使えるようになったのか質問する。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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