1-2-7(第33話) ヒュドラ
俺は光り輝く拳をヒュドラに向かって殴りつけた。
光風波は、俺が森の中で開発した技の一種で、光の速さで左腕をチェーンソーのように振動させ、相手にぶつけることで、相手の体全身も超振動させる技だ。
欠点は、この技を使った後、左腕が使い物にならなくなることだ。
最初、面白半分で使ってみたら、左腕が吹っ飛んだ。もちろん死ぬほど痛かったが、それと同じくらい驚いたのだ。対策として、赤魔法で身体強化をしてからやっても、左腕の骨が粉砕してしまうのだ。だからこの技は、出来れば使いたくないのだ。
「はあああああああ!!」
俺の左腕とヒュドラがものすごい速さで振動している。これでやつも細胞単位でダメになり、死んでいくはずだ。まぁ俺の腕もダメになるのだが。
「しねえええええええええええ!!!」
最後の力を振り絞り、魔力全開で攻撃し続けた。
「ぐ!?ぐぅおお………。」
お。ヒュドラの様子がおかしい。もしかして倒せたのか。
「………ひ……と……よ……。」
何か言いたそうだな。今のうちに白魔法で左腕を治さなくては。
「………わ、れ、は……どうしてこんなところに。何故暴れていたのだ?」
ん?なんか様子がおかしい。敵意が感じなくなったな。穏やかになったというか、丸くなってないか?
「おいヒュドラ。ちょっといいか?」
「む?お前は確か、あのとき我の祠に細工をしていたものか?」
うわ!?急に殺意が俺の体を襲う。この殺意、やはり毒猪とは別格だな。
「ち、違う。俺はお前が暴れていたのを止めに来ただけだ」
「そ、そうか。すまぬ。勘違いだったようだな」
「それより細工ってなんだ?」
「うむ。確か青い服を着た多くの人間がこの我の祠に細工をしていたのだ」
「細工って?」
「おそらく、混乱させたり、無理やり暴れさせたりするようにしたのだろう。現に我がそうなったのだ」
………うむ。ここまでの情報を整理すると、絶対に青の国が絡んでいるよな。
おそらく、ヒュドラに赤の国をぶつけて、壊滅した後に青の国が来て、金品やら貴重品やらをかっぱらうと。まるで墓荒らしだな。はぁ、青の国のやり方に呆れちまうよ。
「あ、そういえば。お前を暴れさせた奴らに心当たりがあるのだけど。」
「何!?それは本当か?」
「あぁ。というか、宣戦布告されたしな。」
「なるほど………」
「それで、おまえはどうする?」
「どうするとは?」
「いや。だって、お前だって立派な被害者じゃん?だったらそいつらに仕返しとかしたいのじゃないかと。」
寝ている途中でいきなり起こされ、自分の寝どころである祠に細工されたのだからな。一番の被害者だろう。
「我がそいつらを殺してもいいのか?」
「別に。戦争ふっかけておいて、今更命乞いしても無駄だしな」
「その戦争に参加してもいいのか?」
「その大きさだと大変だから、小っちゃくなったらいいよ」
冗談交じりに言ってみる。
「祠を治すのを、手伝ってほしいのだが?」
「俺の手伝える範囲でなら、別にいいよ」
俺たち人間のせいで、祠が壊れちゃったしな。
「そうか。言質はとったぞ」
「は?何を言って」
その瞬間、ヒュドラの体が光り、小さくなっていき、一メートルくらいで止まった。
「この姿なら問題ないでしょ!さぁ、まずは祠を直しましょ♪」
「………」
………は?え、なに、何が起きた!???