4-2-53(第327話) 黄の国での決闘後~その1~
急遽6回戦目の決闘を行われることになったのだがなんとか勝利することが出来た。そして、今の彩人達はというと、
「ん?ん、ん~」
病院で彩人ともう一人、
「やけに遅い寝起きだな、お前」
「!?お、起きていたのか!?というかなんでお前がここに!?」
ザッハが入院生活していた。
時は遡る。
決闘直後、まず行われたのは重症者の治療である。
特に重症なのがザッハであった。何せ、ザッハは片腕を失っていた。そのうえ、魔法を行使し、体を酷使し続けた。体に優しくない行動をとりすぎた報いがザッハにきたのか、ザッハの右腕をくっつける事が出来ず、片腕生活を強制される結果となってしまった。
そして、手遅れだったのが4名。
【黒い悪魔現象】の影響を受けたリンドム、フラッタ、デコーダ、そしてマーハンである。マーハンは彩人とザッハが殺したようなものだが、他の3人は違った。マーハンによって【黒い悪魔現象】の影響を受けてしまい、人外な体へと変貌した。この3人もマーハンの被害者と言えるだろう。
リーフやイブ、クリム、ファーリ、モミジは彩人、ザッハに比べると軽傷で、一日あれば完治するような傷の浅さである。念のため数日休んでいたが、二日目からは暇をどう潰すか話し合っていた。
ルリやクロミルも目立つ外傷はなかったものの、魔力の消費量が大きかったのか、二人は倦怠感に襲われていた。そのため、二人は数日の休養だけで完治するとのことだった。
ヤヤ、ユユ、ヨヨは彩人達が精いっぱい守った事により、無傷だった。3人がそれぞれ行った決闘に関する傷は既に完治しており、そのままの状態でマーハンとの戦いを乗り越えていた。
レンカも無事だった。モミジの【三樹爪無限撃】がマーハンと共に直撃したはずなのだが、レンカは無事だった。レンカ曰く、
“体はいくら傷ついていても構わないのですが、アルジンが持っている指輪が破損すると・・・やばいです”
とのことだった。つまり、彩人が身に着けているレンカの指輪が破壊されない限り、レンカの体にいくら傷がついても平気とのこと。
マーハンの指示の元、決闘場で彩人達を襲った冒険者達は、無傷だった。日頃、生き延びるために必死だったためか、死に関する察知能力が高いと推測できる。マーハンと彩人達との決闘後、冒険者達は決闘場から逃げ出そうとしたのだが、
「ちなみに、みなさんの顔は覚えましたので、逃げずに覚悟してくださいね?」
リーフが死の宣告をするかのように、冒険者に告げる。その宣告の意味、宣告を無視した場合の命の有無を考えた冒険者達は、
「「「は、はい・・・」」」
命を優先し、リーフの言い分を素直に理解する。覚悟、という言葉の詳細な意味は理解していなとも、これだけは分かる。
今逃げ出したら、確実に殺される、と。
それはもう、目の前に転がっているマーハンやリンドム達のような二の舞になると。その後、冒険者達は覚悟の時は今か今かと待ち始めた。
そして決闘から数日経過し、今に至る。
「な、なんでお前がここに!?」
「俺も知らん。俺もいまさっき起きたからな」
「・・・」
俺は無言で臨戦態勢をとろうとしたのだが、近くに剣が無い。あ、アイテムブレスレットに収納しているのか。魔力は・・・まだ全快ではないが、ザッハを【空縛】で拘束するくらいの魔力はありそうだ。だが、何もしていない相手を拘束してよいものか・・・。
「別に何もする気はないから安心しろ」
「!?そ、そうか」
俺が臨戦態勢になったことを把握したのか、そんな言葉を投げてきた。そういえば今こいつ、片腕を失っているんだよな。だとすれば、俺の方が優勢なのかもしれないな。腕の本数だけで優劣決まるわけではないけどな。
「「・・・」」
そして、無言の時が少し流れた。
(ど、どうしよう・・・)
こういう時、世のリア充共はこの困難をどのように乗り越えているのだろうか。好きなアニメでも答えておくべきか?・・・そもそも、この世界にアニメなんて放送されていないか。今期のアニメは一体どんなものを放送しているのだろうか。
「・・・今回は、すまなかった」
俺が話題で悩んでいると、ザッハから話しかけてきた。
「すまなかった?」
どういう意味でザッハは言ったのだろうか。
「ああ。俺の妹達と、あの女の件だ」
「・・・」
俺の妹達とあの女、か。
俺の妹達はおそらく、ヤヤ、ユユ、ヨヨのことだろう。
そしてあの女というのは、マーハン。
俺もザッハとマーハンの話を聞いていたからある程度事情は把握している。だから、ザッハとヤヤ達、そしてマーハンが血の繋がった家族であることは承知している。
けど、本当にその5人が家族なのか怪しいんだよな。家族だといえる証拠を見てないし、なにより面影が・・・ないような、あったような?
「マーハンはともかく、ヤヤ達は気にするな」
家族であることを疑ってはいるが、俺はザッハの話に合わせる。
「それでも、俺の家族が迷惑をかけたようで、すまない」
・・・こいつ、本当にあのザッハか?決闘の時とかなり態度が違う気がするのだが?俺の気のせいか?
「あの女の話を真に受けているように見えるが、信頼できる情報なのか?」
俺はさっきから気になっていることを質問する。
「ああ。それに関しては、魔紋を調べれば分かるからな」
そういえば、先日の話にもでてきたな。俺は魔紋を指紋の魔力版、と考えているのだが、そういう見解で合っているのだろうか。聞いてみるか。
「その事なんだが、魔紋について聞いてもいいか?」
「魔紋についてか?いいだろう」
…なんだろう。こいつ、俺が質問した直後、ちょっと上から目線になっている気がする。まぁ俺がザッハに教えを請おうとしているわけだし、いいんだけどな。
「魔紋というのは、魔力の・・・質?いや、型と言うべきか。その魔力の型は人それぞれ異なり、まったく同じの魔紋は存在しないと言われている。だが、血の繋がりがある者達、家族の魔紋は型が似る、ということが分かっている」
「へぇ」
なんだか、遺伝子みたいだな。
「で、その魔紋を調べるにはどうするつもりなんだ?」
「何でも、魔紋を調べる専用の装置があって、その装置を借りるつもりだ。だが・・・」
「?」
「その装置を借りるには諸々の手続きが必要で、最短でも数か月待つ必要がある」
「へぇ」
結構待つんだな。日本ではどうなんだろう。比較的平凡な暮らしをしていた俺に、指紋を調べる機会なんてなかったからな。数か月待つことは当たり前なのかどうか分からん。
「だからいますぐ調べる事は出来ない」
ザッハはそう言うと、少し暗い顔を見せた。
「それに、例え妹達と血の繋がりがあったとしても、俺を家族として扱ってくれないさ」
「どうしてだ?」
「何せ俺は一度お前らと、妹達と敵対したんだ。敵対したやつを身内と認めたくないだろう?」
「・・・」
ザッハの言いたいことは分かった。そして、理解もできた。だからこそ下手に言葉を並べたくなくて、ただ黙るしか出来なかった。
「それにこんな兄、いない方がいいだろう?」
と、ザッハは自身の失った腕を指差す。
・・・片腕を失った兄、か。地球では片腕を失った人は障碍者扱いされる。ザッハはそのことを気にしているのだろう。確かに、両腕がある人より生活がし辛くなるだろう。だけど、そのことをザッハの妹達、ヤヤ達は気にするのだろうか。そんなことを考えている時だった。
「そんなことないんヤよ!」
ヤヤとユユ、そしてヨヨが入室してきた。
次回予告
『4-2-54(第328話) 黄の国での決闘後~その2~』
決闘が終わり、彩人達側の勝利となった。決闘時にできた傷を癒しているなか、ザッハとヤヤ、ユユ、ヨヨの3人との血縁関係に白黒つけることになった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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