4-2-52(第326話) 黄の国での決闘~その9~
「それにしてもこの人達、前にどこかで見たことあるような~ないような~?」
「おそらく、青の国で見た者と酷似しています。【黒い悪魔現象】はそう何度も起きないものなのですが」
「へぇ~。それにしても、前見た奴より弱く見えるのは気のせい?」
「いえ、ルリ様の眼は確かかと。おそらくですが、今ご主人様と戦っている者が【黒い悪魔現象】の影響を強く受けているのかと推測します。他の者達も影響を受けて強くなったようですが、あの者ほどではないようです」
「へぇ~」
ルリはクロミルの話を軽く聞き流す。
「それでは私が2人を相手いたしますので、ルリ様は1人をお願いいたします」
「分かった~、よ!」
ルリはそう言いながら、近づいてきた男、フラッタを吹っ飛ばす。フラッタも今は【黒い悪魔現象】の影響を受けており、体に翼が生えて、黒く変色している。
「ん~?やっぱ前の時と比べて弱いかな」
ルリにとってどうやら、青の国で【黒い悪魔現象】を引き起こしたカオーガより弱く感じるらしい。ルリは殴った時の感触で判断する。
「だからといって油断なさらぬようお気をつけください」
クロミルも【黒い悪魔現象】の影響で強くなったリンドム、デコーダの攻撃を躱し、決闘場の壁に叩きつける。
「「・・・」」
だが、クロミルの攻撃を受けていなかったかのように、リンドムとデコーダは立ち上がる。
「この者達も、どうやら一筋縄ではいかないみたいですので」
リンドムとデコーダにフラッタが近づき、3人が集合する。その集合に呼応するかのように、クロミルとルリも集合する。
「みたいだね」
ルリ達とフラッタ達との戦いはまだ続いていく。
一方、リンドム、デコーダ、フラッタの3人が【黒い悪魔現象】の影響を受けた直後、決闘場からマーハンが差し向けた冒険者はほとんどいなくなっていた。その理由は、ただでさえマーハンが【黒い悪魔現象】を引きおこし、強くなったというのに、その他に3人も【黒い悪魔現象】を引き起こしたのだ。たった一人で街一つ滅ぼすと言われている存在が一気に4人に増えたのだ。強い意志を持たず、自身の命を第一に考えるのであれば真っ先に逃げをチョイスするだろう。
逃げる冒険者達とは違い、リーフ、クリム、イブは決闘場に残っていた。ヤヤ、ユユ、ヨヨを冒険者達から護ろうとしていたのだが、相手の冒険者達が逃げてしまったため、手が空いてしまったのであった。
「それにしてもあれ・・・何でしたっけ?」
「…【黒い悪魔現象】。まったくこのお馬鹿は」
「二人とも、油断は駄目ですよ。油断せず、ね?」
「でも・・・、」
「…ん。冒険者、逃げた」
3人は冒険者達がいなくなったことにより閑散とした決闘場を見る。その決闘場で彩人やルリ達が戦っている。
「ですが、もしかしたら冒険者達による奇襲があるかもしれません。気を張り続けていきましょう」
「はい」
「…ん」
そう言い、3人は再び警戒心を強める。
「「「・・・」」」
リーフ、クリム、イブの3人が警戒していることに対し、ヤヤ、ユユ、ヨヨの3人はある人物を見ていた。
「・・・」
その人物とは、モミジである。モミジは今、打倒マーハンのため、魔力を溜めている最中である。
だが、モミジの顔は浮かなかった。3人は何故モミジの顔が優れているのかは分からないが、放っておくことが出来なかった。
「やっぱり・・・、」
「ユ」
「それがいいヨ!」
3人は話し合いをする。そして3人はモミジのところへ向かう。
「!?ちょっとヤヤちゃん、どこ行くの!?」
「…勝手に移動するの、危険」
「危ない・・・のかな?」
リーフ、イブ、クリムはヤヤ、ユユ、ヨヨの3人を追いかける。クリムは、冒険者達がいなくなったことで決闘場内を移動することが危険なのかどうか考える。
確かに冒険者達はいなくなったが、冒険者達の移動の元凶となったマーハン達は未だ決闘場内に位置している。そのマーハン達をなんとかするため、モミジ達はいまも頑張っている。ヤヤ、ユユ、ヨヨは、今も頑張っているモミジ達を支えようと動く。
(私が本当にあれを倒すことが出来るのでしょうか?)
モミジは独り、自身の力に疑惑を抱いていた。
さきほど怒りに身を任せて発動させた魔法は、全力ではなかったもの、7割近くの魔力を溜め、込めて発動させたのである。それ故、自身の全力が目の前の者、マーハンに通じるのか不安になっていた。
(私独りじゃあ。でも、)
モミジの目の前で今も頑張っている彩人達のためにも、モミジは何とかしてマーハンを倒そうと根強く思考し続受ける。だが、考えれば考えるほど、自身一人ではマーハンを倒すことが出来ないと悟ってしまう。
(うう)
自身の無力さに打ちひしがれ、心が挫けそうになる。そして、自然と力が制限されていく。
(アヤトさんには申し訳ないですけど、私なんかじゃあ・・・、)
モミジは自身を悲観し、視線を地面に映し始める。
そんな精神状態のモミジに、
「「「モミジお姉ちゃん!!!」」」
ヤヤ、ユユ、ヨヨは近づき、話かける。
「え?」
モミジは3人の登場に声を出せずにいる。
「どうしてヤヤさん達が・・・?」
「モミジちゃん、私達も手伝うんヤよ!」
ヤヤの発言に対し、
「ユユも手伝ユ」
「ヨヨも何かやるヨ!」
ユユ、ヨヨも協力を宣言する。
「で、でも・・・、」
モミジは、手伝ってほしくなかった。その上、ここから早く逃げて欲しいと考えている。
今はモミジのところに攻撃は来ていないが、それは彩人達がマーハンの攻撃を防いでいるからである。彩人達の活躍あってこそ、モミジが魔法に集中することができるのである。
「私達に何が出来るか分からないけど、モミジお姉ちゃんを支える事は出来るんヤよ!」
そう言い、ヤヤはモミジの体を支えるように、モミジの背中に両手を当てる。
「モミジお姉ちゃんだけが悩む必要なんてないユ」
ユユもモミジの体を支え始める。
「だって、モミジお姉ちゃんは私達の家族、だからね」
ヨヨも、モミジの体にかかっている負担の一部を肩代わりする。
「かぞく・・・」
ヨヨの一言で、モミジは改めて周囲を見る。
「レンカ!そっちいったぞ!」
「承知!」
「ファーリ!」
「ニャン!」
「【反射障壁】!」
モミジのために、今もマーハンから飛んでくる無数の拳を防いでくれている。
「氷れ」
「・・・」
「ち。やっぱり避けられちゃう、か!」
「【牛象槌】!」
「「・・・」」
「やはり、大ぶりな牛術ですと躱されてしまいますか」
ルリとクロミルは【黒い悪魔現象】の影響を受けたリンドム、フラッタ、デコーダの相手をしている。
(みなさん・・・)
モミジはより、彩人達の声を聴こうと、耳に神経を集中させる。
(モミジなら出来る!だから今は、俺達が守らないと!)
(モミジ殿のためにこのレンカ、体を使って全力でお守りします!)
(私達角犬を救ってくれた方々のため、今まで受けた恩の一部、ここで返させていただきます!)
(モミジお姉ちゃんのためにも、こいつはルリがやらないとね!)
(モミジ様が力を発揮できるよう、この者達は私が力を尽くし、足止めさせていただきます!)
みんな、モミジのことを思い、今も戦っていた。
モミジの考えすぎかもしれない。
妄想だったかもしれない。
けど、みんなの戦う姿が、モミジのある想いに結びつく。
(私だって、みなさんを守りたいんだ!)
家族のために!
そう結論付けた時、モミジの中の不安、迷いが晴れる。
「・・・みなさん、手伝ってくれませんか?」
モミジはさきほどより爽快な顔をしながらヤヤ達にお願いする。爽快な顔と言ってもこの状況を楽観視しているわけではない。確固たる決意、周囲に家族がいるという安心感や安堵感。マーハンが攻撃している状況は変わらないのだが、心にゆとりが生まれる。
「「「うん!!!」」」
そしてモミジはヤヤ、ユユ、ヨヨの3人の支えを得て、魔力を込め始める。
モミジは3人のもと、魔力を溜め始める。魔力の質は2種類に分けられる。
1つは、ヤヤと同じ緑魔法の魔力。その魔力は槍状の木に巻き付くかのように風が発生し、木の葉が舞う。
もう1つは、ヨヨと同じ赤魔法の魔力。その魔力は槍状の木に巻き付くかのように火が発生する。そして、今まで先端が2つに分かれていた槍状の木が3つに分かれる。
「・・・ふむ、いい加減、死んでくれないですかねぇ」
モミジが魔力を溜めこんでいる間、マーハンの動きに変化が訪れる。マーハンは自身の拳を斜め上に掲げ、自身の拳を無数に発射させる。その拳は一時的に宙を舞い、空に打ち上げられる。
「レンカ!ファーリ!守りを固めろ!」
「はい!」
「ニャン!」
「【反射障壁】!」
彩人達は、斜め上から降ってくる拳の雨に耐えるため、彩人は防御手段を選択する。
「ここから先は通しません!」
レンカは自身の体を大きくし、守りの構えをとる。
「ニャー!」
ファーリは角に魔力を溜め、【魔力障壁】を発生させる。
それぞれの防御手段によって、モミジからマーハンの攻撃を防いでいく。防ぎ続けようとするが、
「「「!!!???」」」
彩人達が展開した防御手段をかいくぐり、モミジ達に急接近していく。
(やべぇ!)
彩人達はモミジを守るために行動を起こすが、間に合わない。レンカ、ファーリも移動し始めているものの、間に合わない。3人がもう駄目だと思ってしまったが、モミジにマーハンの攻撃が届くことはなかった。
「まったく、ヤヤちゃんは。勝手に私達から離れるなんて。」
「…ん。でも今は、離れてもらって良かったと思う」
「ですね。これでモミジちゃんを守れたのですから!」
ヤヤ、ユユ、ヨヨを護っていたリーフ、イブ、クリムがマーハンの拳を物理的に落とし、無力化させたのである。
「リーフ、イブ、クリム。ありがと…、」
「アヤト、それは後!今は防御に集中してください!」
「お、おう」
こうして彩人、レンカ、ファーリだけでなく、リーフ、イブ、クリムの3人も加わり、計6人でモミジとヤヤ達3人を守ることになる。
「小賢しい。金の前に全てが無力がと教えてあげましょう」
まだまだ、マーハンの攻撃のラッシュは終わらない。
(私が今、こうして集中できているのは、みなさんのおかげ。私は今、家族に守られているんだ。だから、みなさんの期待に応えるたい!)
モミジは今も多くの人達に守られ、支えられている。
モミジ達が今も傷一つついていないのは、彩人達がモミジ達を守っているから。
モミジが今も集中して魔力を溜めていられるのは、ヤヤ達が精神的支柱を作り上げ、その支柱に頼っているから。
だからこそ、モミジは今も守られている人達、頼っている人達の期待に応えるため、さきほどとは比べものにならないくらい魔力を溜めて、溜めて、溜める。
その想いが、元々モミジに眠っていた力を覚醒させる。
その力は雷となり、3つに分かれた槍状の木に巻き付くかのように発生する。
「「「!!!???」」」
モミジ達を守っているリーフ達はモミジを見て驚くが、それは一瞬だけ。すぐにマーハンの攻撃からモミジ達を守るために集中し直す。
(私の、私達の家族を守るため!)
モミジは、今まで護ってくれた大切な人達の期待に応えるため。
(この魔法で、決着をつける!)
三つ又に分かれた槍状の木は少しずつ形を変え、槍状から爪状へと変化していく。その爪はまるで、モミジの体の一部のよう。
「みなさん!少しの間、あいつを動けないようにしてください!」
モミジはそう叫ぶ。
「「「「「はい!!!!!」」」」」
「ニャン!」
その言葉に彩人、レンカ、ファーリ、リーフ、イブ、クリムは反応する。その直後、6人はアイコンタクトをとり、動き始める。
「ふむ。あれは面倒くさそうだな」
マーハンはそう言い、モミジに向けて集中的に拳を放つ。
その攻撃に対し、モミジとマーハンの間にクリムが立ちはだかる。
「【炎壁】!!」
拳の威力を弱めるため、クリムはクリムとマーハンの間に【炎壁】を発生させる。
「【炎拳!】」
そして、【炎壁】を突き破って飛び出してくるマーハンの拳を片っ端から殴り、モミジに攻撃が届かないようにする。
「【葉吹雪】!」
その傍らで、リーフは【葉吹雪】でマーハンの視界を不安定にさせる。
「この程度の魔法で私が負けるとでも思っているのですか?甚だ遺憾です」
「遺憾でも結構です!」
マーハンは油断していた。たかが視界を不安定にしたくらいで勝機を得た。そう考えた彩人達を哀れにとらえていた。
だからこそ、後ろに詰め寄っていた者の存在に気付くことが遅くなる。
「!?」
気づいた時には、既に両手両腕を拘束され、身動き一つとれないようになっていた。自身の現状に驚いたマーハンは元凶を探し、元凶に怒りを視線に変えて貫く。
「貴様!!」
「私みたいな道具は、持ち主の意図を汲み取り、適切に動くものです」
それは、魔力によって体の構成を変えていたレンカである。
「ふん!こんな拘束ごとき、私の力で、」
「させると思うか?」
誰かの言葉の後、マーハンを拘束する力が強固になる。
「!?」
マーハンは、何故拘束力が強化されたのか分かった。それは、地面から生命を出現させた植物達であった。
「これはまさか・・・あの魔獣が!?」
瞬間、マーハンはモミジを睨もうとするが、その睨みの対象はすぐに変わる。
「いいや、俺だ」
「!?お前か!?」
植物達を発現させたのはモミジではなく、彩人である。体の一部が植物だからこそ、植物から力を借りるのも普通の人間より容易だったのかもしれない。
「ファーリ!」
彩人の叫びにより、ファーリはマーハンに急接近し、自身の5つの角でマーハンの顎を突き上げる。
「!?」
マーハンの顎を貫けなかったが、それでもマーハンは一瞬、顔を上に向けた。その瞬間を彩人は逃がさない。
「【空縛】!」
彩人は【空縛】を発動させ、マーハンが完全に動けないようにする。その上に、大きな手がマーハンの四股を握りつぶすかのように握る。
「イブ、か」
その大きな手を発動させていたのは、イブである。
「…ここで何もしないほど、私は脳なしじゃない」
イブもマーハンを動かさないため、必死にマーハンの動きを封じようと力む。
「今だ!モミジ!!」
彩人は目いっぱい声をあげる。
「はい!」
モミジは自身の魔法を発動させようと動き始める。
だが、その動きは中断される。
「アヤトお兄ちゃん!」
「変!」
ヤヤとユユの言葉で、彩人は再びマーハンを見る。マーハンの両腕が紫色に光だしていた。その様子から、彩人達はなにかよからぬことが起きるのだと、さっき以上に警戒を強める。
いつのまにか口の拘束を解いていたマーハンから言葉を発せられる。
「ふっふっふ。こうなったら、あいつらの力を私のものにしてあげるわ」
「「「!!!???」」」
マーハンから驚きの言葉を聞いたかと思うと、
「ああ!?」
「!?」
ルリとクロミルが驚く。何せ、ルリとクロミルがさきほどまで戦っていたリンドム、フラッタ、デコーダの3人が急に移動し始めたのだ。その移動先は、マーハンの両手。
(や、やべぇ!?)
彩人は、何がやばいのかまったくわからなかった。だが、このままマーハンの思い通りに事が運んだら、間違いなく事態は急速に悪化することだろう。そう考えた彩人は、リンドム達をマーハンに近づけさせないため、複数の魔法を講じる。
「【緑壁】!【空縛】!【緑壁】!!【空縛】!!」
いくつもの【緑壁】、【空縛】を展開させるが、それでもリンドム達の進行は止まらない。
「ぐぅ!?」
さっきからずっと魔法を行使し続けているためか、マーハンを拘束している魔法の拘束力が弱まり、マーハンの抵抗が強くなる。かといって、マーハンを動けなくするために魔法を強めたら、リンドム達とマーハンが接触してしまう。
(ファール、クリムでも駄目、か・・・)
ファーリ、クリムも懸命にリンドム達を蹴ったり殴ったりしているが、リンドム達の進行はそれでも止まらない。
「ニャア!ニャー!!」
「【炎拳】!【炎拳】!!【炎拳】!!!」
ファーリとクリムも、心の中で懸命に想い、願っていた。
止まって、と。それでもリンドム達の進行は止まらない。
(駄目、か)
彩人だけでなく、誰もが諦め始めていたその時、
「「「!!!???」」」
一瞬、何が起きたか分からない。だが、リンドム達周辺に突然、大きな砂煙が巻き上がった事だけが分かっていた。事実、目の前に起きている現象なのだから。
「まったく。ルリ達が戦っていたのに勝手に逃げるなんて」
「おそらく、あの者が指示をだしていたのでしょう。あの者の両手に誘導されているかのような動きでした」
土煙を起こした正体は、ルリとクロミルである。ルリとクロミルは、リンドム達の上に乗り、動きを封じている。リンドム達はマーハンの両手へ辿り着こうとするが、
「動かない、で!」
「大人しくしなさい」
ルリとクロミルの攻撃により鎮圧される。
「ニャア♪」
「ルリちゃん!クロミルちゃん!」
ルリとクロミルの登場により、事態は好転し始める。誰もが、マーハンがこれ以上強くなるものだと最悪の想定をしていた。だが、その想定はルリとクロミルのふたりによって崩れ去り、勝機が再び見え始める。この二人の行動で、怒り狂おうとしている者がいる。その者はマーハンである。
「貴様らみたいな魔獣風情が・・・私の遂行な作戦の邪魔をするな!!」
激昂する言葉に対し、
「「・・・」」
ルリとクロミルは何も言わなかった。
「何か言ったらどうだ?家族もお金も持たぬ魔獣共」
そうマーハンが言うと、ルリとクロミルが反応する。
「家族がいない?今までお前は何を見ていたの?」
「まったく。私達の相手はどうやら盲目のようですね」
二人は言葉を言った後、少し短めのため息をつく。そのため息の後、二人を言葉を繋げる。
「家族なら、お前の目の前にいるだろうが」
ルリがそう言った後、
「まったく。それだからお金にしか目がいっていないのです」
クロミルはマーハンに対し、憐れみの感情で見ていた。
マーハンはルリとクロミル二人の視線に、激しい怒りを噴出させる。マーハンは、二人に下に見られたような感覚に陥ったからである。
「オマエラミタイナマジュウガカゾクダト!!??ワラワセルナ!!」
マーハンの怒りが強まる。
「私達魔獣に家族がいて悪いんですか!?私達にだって大切なもの、家族がいるんです!」
「フザケルナ!コノテイドデワタシガマケルトオモウナ!!!」
瞬間、マーハンの口から膨大な魔力が集約され、放出される。
「モミジ!!」
彩人の叫びの後、みんな揃ってある者の名を叫ぶ。
その名は、モミジ。
「私だって負けない!」
マーハンに対し、今まで溜め込んできた魔力をある魔法に変換し、マーハンに向けて発射させる。その魔法は、3種類の色魔法を爪状の木の先に発生させている。
「【三樹爪撃】!」
その魔法、【三樹爪撃】とマーハンの攻撃が激突する。
「「!!??」」
少しの間、互いの魔法が拮抗しているように見えた。だが、徐々にモミジが劣勢になりはじめる。
「嘘!?なんで!!??」
モミジは懸命に抗う。それでも、マーハンが優勢のまま時が進む。
「コノテイドデカトウダトオモウナ、マジュウフゼイガ!!」
マーハンの勢いがさらに強まる。それに対し、モミジの勢いが弱まっていることが目に見え始める。その裏には、
(やっぱり、私なんかに出来るわけないんだ・・・)
自分にはあまりにも重荷過ぎで、出来るはずのないことだったのだと。
その悲壮な背中には、とてつもない不安、後悔が見受けられた。
「「「・・・」」」
その背中を間近で見ていたヤヤ、ユユ、ヨヨの3人は、その背中に手を当て、力を込める。
「みな、さん。私はもう・・・、」
と、モミジはもう諦めの声質を纏わせて発言する。その声を最後まで言わせることなくヤヤは喝を入れる。
「大丈夫!私がいる!」
ヤヤはそう言った後、モミジの背中を強く押す。
「モミジお姉ちゃんが一人で出来ないのなら、私達が支えて協力するんヤよ!」
「そうユ。私達家族はいつだって支えて、支えもらう存在」
ユユもヤヤにならい、モミジの背中を支える。
「ヨヨも頑張るヨ!」
ヨヨもモミジの心を支える。
「みなさん・・・」
その直後、新たな3人がモミジを支えるかのように背中を押す。
「私もモミジちゃんを支えます!」
「なんていったって、私達は家族ですから」
「…ん。家族を馬鹿にするやつなんかに負けたくない」
リーフ、クリム、イブはである。イブに至っては、マーハンの拘束を維持しながらもう一本腕を魔力で形成してモミジを支える器用な真似をしている。それも、モミジを支えるためである。
「モミジお姉ちゃんなら大丈夫!ルリ達がいるよ!」
「いつでも助力する覚悟でいます」
「ニャー♪」
「モミジ殿の力、今こそお見せください」
「ルリさん、クロミルさん、ファーリさん、レンカさん、」
背中に手を当てられないが、応援してくれる者もいる。
今まで、モミジの背中には数多くの傷が生まれていた。その傷は、緑の国で過ごしていた際、かつてのフォレード達から暴力を受けて出来た傷である。
ある時は、魔力をある限り吸われた。
ある時は、動けない状態で拘束され、力の限り殴られた時もあった。
そして殴られる際、モミジはダメージを最小限に抑えるため、自身のせなかを縦代わりに使った。その結果、背中に大怪我を負ってしまったが、肉体的ダメージは最小限に抑える事が出来たのである。そして、当時にできた傷は今も消えていない。
だが今は、その背中を優しく押してくれる大切な人達が周囲にいる。その優しさはモミジにとってとても暖かく、心休まるものとなっていた。その優しさが今、モミジの背中を押してくれている。共に歩もうと言葉を羅列し、協力してくれている。
(これが、家族・・・)
彩人達と出会った当初のモミジは確かに孤独で、誰の助けもなく、ただひたすらに耐えるだけだった。
だが、今は違う。
自身のことを家族と呼んでくれている大切な人達のために、この力を奮う。
(ありがとうございます)
さっきまで現実を突きつけられ諦めていた人と同一人物とは思えないくらい顔立ちが異なっていた。
その固まった決意は、魔法に変化を顕現させる。
「もう諦めない」
モミジの【三樹爪撃】が、モミジの周囲に複数現れ始める。
「私を家族と言ってくれたみなさんのためにも、あなたを倒す!」
そして、複数の【三樹爪撃】がマーハンに襲い掛かる。【三樹爪撃】の数は、彩人達家族の想いを数量では表せないかのように数えきれない。もし例えるなら、無限。無限にも近い数の【三樹爪撃】がマーハンに襲い掛かる。
「いけ、モミジ!」
彩人の掛け声に呼応するかのように、
「これが私達家族の魔法、【三樹爪無限撃】です!」
無限にも近い数の【三樹爪撃】、【三樹爪無限撃】でマーハンに対抗する。
「「「はあああ!!!」」」
それだけではない。モミジの後ろに6人も背中を押して支えてくれる素晴らしい家族がついてくれる。これでもう、モミジに敗北の影はない。
先ほどとはうって変わり、マーハンが劣勢になり始めていく。
「ナゼダ!?ナゼコノワタシガオサレテイル!!??」
マーハンは自身が押されている理由を問う。その問いに答えたのはモミジである。
「そんなの、決まっています!」
過去のモミジになくて、今のモミジにあるもの。そして、現在のマーハンにないもの。
「私には家族がいるからです!」
モミジの言葉をきっかけに、モミジとマーハンの勝負はついに決着が見え始める。
「バカナ!?アリエナイ、アリエナイアリエナイアリエナイ!!!???」
狂ったように同じ言葉を言い続け、そのままモミジの【三樹爪無限撃】をくらう。
「ガッ…」
マーハンは土煙の中で沈んだ。
「「「・・・」」」
その土煙を俺達は黙って見つめ続ける。
そして数秒。
(やった、のか?)
全員が勝利していたのか確認し始める。その確認に要した時間は1分足らず。
「「「やったーーー!!!」」」
最初に喜んだのはヤヤ、ユユ、ヨヨの3人である。
「やったよ、モミジお姉ちゃん!」
「すごい、すごい!」
「さっすが~♪」
3人は代わる代わるモミジを褒めて、褒めて倒して、褒めちぎる。
「そ、そんな。私が勝てたのはみなさん方家族のおかげで私なんて・・・、」
モミジは3人の称賛に落ち着きを失い、慌てふためいている。
(本当にやった、のか?)
そんななか、彩人はまだ勝利の感覚を味わっていない。どこかで負けた、なんて考えているのかもしれない。だが事実、土煙は未だ晴れず、影が動いた形跡はない。
(やったん、だよな?)
彩人は何度も土煙を見て、影が動かない様子を確認する。
「やった」
その一言を言い終え、ようやく勝利を感じ始めたその時、
「お兄ちゃん気を付けて!なんか変!」
「!?」
ルリの真剣さ伝わる声に驚き、彩人は再び土煙の方を見る。
相変わらず土煙に映っている影は動いていない。
(ルリは一体何を言っているんだ?)
彩人はルリの言葉に違和感を抱く。彩人はもう勝利を疑っていない。だからこそ、ルリの言葉に違和感を抱いていた。
だがここで彩人は、新たな可能性に気付く。
(だってさっきからあの影は動いていないじゃ・・・え?)
それは、マーハンが意識を失わず、自分の足で立ち続けている事。つまり、まだマーハンの意識があるということ。
(まさか・・・まさか!?)
彩人を含め、誰もが考えたくない事態。あれだけの攻撃でまだ意識を奪えないのかと思うと、どれだけマーハンがタフなのかと小言をこぼしたくなってしまう。
「・・・マダ、ダ」
「「「!!!???」」」
枯れ気味の声を聴いた時、誰もが誰の声なのかを疑問に抱き、すぐに答えを察してしまい、彩人が想定する最悪の事態となってしまう。
まだ、マーハンが生きていたのだと。
「シ、ネ!」
土煙が晴れ、マーハンが出現する。マーハンはボロボロだが、まだ気絶していないことは明白。そのマーハンから両腕と魔力の塊が発射される。その狙いは、いずれもモミジである。
「「「危ない!!!???」」」
その攻撃を危険と判断したリーフ、クリム、イブの3人は、それぞれ体を張ってモミジを守る。
「!?みなさん!!??」
攻撃をくらった3人は決闘場の端まで飛んでいく。
(私のせいでみなさんが・・・!?)
さっきまで勝利の余韻に浸り始めようとした矢先、3人の負傷。これもすべて、自身のせいだとモミジは自分を責め始める。
「キサマダケハ、コノテデコロシテヤル!!!」
そう言い、マーハンは両腕を再生させないまま、モミジに近づく。そして、口を大きく開け、鋭くとがり、液体滴る刃のような歯をモミジに見せつける。
「!?」
モミジは咄嗟に逃げの選択が頭によぎるが、あることに気が付く。
モミジの近くにまだ、ヤヤ、ユユ、ヨヨの3人がいることに。そのことに気付いたモミジは逃げの選択を捨て、マーハンに背中を見せる。
モミジの背中は、数えきれないほどの痛み、苦しみに耐えてきた。何のために耐えているのか分からず、ずっと苦しく、辛かった。
だが、今は目的がある。
その目的は、ヤヤ達家族を守ること。家族を守るためなら、自身が傷ついていても問題ない。その覚悟でモミジは背中を敵に見せる。
「・・・?」
だが、マーハンの牙モミジの背中を貫くことはなかった。ただ、金属同士が激しくぶつかったような音が聞こえた。その音が聞こえたのは、さきほどまでモミジが向いていた方角からであった。背中から頭を覗かせるように振り向くと、
「なんとか間に合った、みたいだな」
「ニャン♪」
「アヤトさん!ファーリさん!」
モミジの危機に駆け付けたのは、【魔力障壁】を展開している彩人とファーリである。
だが、その二人だけではなかった。
「どうしてあなたまで私を、護ってくれたのです?」
「ソウダ!ナゼキサママデワタシノジャマヲスル、ザッハ!?」
その人とは、左腕を失ったザッハである。ザッハも彩人やファーリ同様、【魔力障壁】を展開していた。まるで、後ろにいる者達を守るかのように。
「てめぇこそふざけるなよ?」
ザッハは左腕を失ったにも関わらず、大量の血を流した人間とは思えないほど鋭く眼光を飛ばす。
「俺の、俺達の家族を引き裂いた元凶に対し、俺が何もしないと思ったか?」
その目は、家族をバラバラに引き裂かれた恨み、その元凶は、自身の実の母親であるという心の痛み、叫び。今まで実の妹に何も出来なかった後悔の念が色々含まれている。
いずれにしても、ザッハは今のマーハンに良心など抱いていなかった。抱いているとすれば、憎しみ。金のためだけに家族を引き裂いた実の母親に対する憎しみしかなかった。
「ナラ、キサマラゴトコロシテ・・・!?」
「俺がさせると思うか?」
その時、彩人はある魔法を既に仕込んでいた。【魔力障壁】を展開すると同時に、別の魔法をマーハン周辺に発動させていた。その効果が出始めたと確認した彩人は、マーハンが苦しみ始めるさまを見て、その顔に含みを持たせる。
「キサマ、ナニカシタノカァ!?」
「ああ。無色無味無臭の【毒霧】はどうだ?」
「!?」
彩人は無色で強い麻痺を引き起こす【毒霧】を発生させていた。【毒霧】を体内に取り込んだマーハンの体に強い麻痺が襲い掛かり、体に強い制限がかかる。
「コ、ノ!?」
突如、マーハンが大きくのけ反る。のけ反った原因はファーリである。ファーリはマーハンの顎に思いっきり頭突きを食らわしたのである。角でマーハンの顎を貫けなかったものの、マーハンに大きな隙が生まれる。
そして、その隙をレンカは見逃さない。さきほどはモミジの【三樹爪無限撃】を躱すため、当たる直前に躱したのだが、今回は違う。レンカは自身の体ではなく、腕と足それぞれの部分を巻き付けるように拘束し、完全にマーハンが逃げられないようにする。
「今です、アルジン!」
レンカのお墨付きをもらった彩人は、腰を入れて拳を握る。
本当は拳を握ること自体、とても苦痛で辛く、出来れば握りたくなかった。だが、マーハンがモミジを殺そうとしたことに対し何もしないことの方が彩人にとって耐えられない事態なのである。
その怒りを力に変えて拳を固くする。
「マ、マテ!」
ここでマーハンは今も行進している彩人とザッハに対し、静止するよう呼びかける。だが、今更マーハンの言葉を素直に聞くような二人ではない。彩人とザッハはゆっくり着実にマーハンの元へ歩いていく。
「ワ、ワタシノマケダ!ダカ、ラ!」
マーハンは最後の悪あがきで、口から大きな魔力の塊を彩人達めがけて放出する。
「「・・・」」
マーハンの攻撃を彩人とザッハはいともたやすくはじき返す。
「!?ワ、ワルカッタ!ホントウニワタシノマケデイイ!」
「「・・・」」
「ダカラ、コレイジョウワタシニチカヅクナ!」
「「・・・」」
「ナ、ナニガホシイ?カネカ?カネナライクラデモハラウ!」
マーハンは、彩人とザッハから距離をとりたいのだが、レンカの拘束で動けない。
「ナゼダ!?カネナライクラデモハラウトイッテイルノニ!ナゼ!!??」
マーハンは本気で分からなかった。
何故二人が、交渉に一切応じないのかを。だが、彩人とザッハにとって、この交渉に応じないのは当然で当たり前の事である。
「「家族を殺そうとしたから」」
二人は隠しきれない怒気を含みながら宣告する。
ここで彩人の言う家族とは、モミジである。彩人の視点では、マーハンはモミジを殺そうとした、という風に見えていた。
それに対しザッハの言う家族とは、ヤヤ、ユユ、ヨヨの3人である。ザッハの支店では、マーハンは3人をモミジまとめて噛み殺そうとした、という風に見えていた。
二人の認識に多少語弊があっても、同じ思いを抱いていた。
このままこいつを野放しにしたら、家族を殺される。
その想いは同じとなり、同じ魔法を使う。
「「【黄色気】」」
瞬間、二人の眼が黄色くなる。その目を見て理解したマーハンの顔色は悪くなる。
「ア、アァ、」
マーハンはもう悟ってしまう。自分が生き残れる道はもうないのだと。
「「!!??」」
マーハンの憶測は、彩人の右拳とザッハの左拳によって証明される。
二人の一撃をくらったマーハンにもう息は無い。マーハンだった体は、時間経過により、元の人間らしい体へと戻り始める。その体に話す能力は無く、ただただ遺体として存在しているだけとなっている。
マーハンの亡骸が、今日行われた決闘の結末を熱弁に語ってくれた。
次回予告
『4-2-53(第327話) 黄の国での決闘後~その1~』
決闘が終わり、彩人達側の勝利となった。その後、彩人達は決闘時にできた傷を癒していた。傷がかなり深かった彩人は入院生活を送ることになった。彩人が眠っているベッドの近くには、ある男が眠っていた。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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