4-2-51(第325話) 黄の国での決闘~その8~
あれから俺達は、懸命に戦いながらもモミジを守り抜いた。というのも、モミジにはあのマーハンを倒してもらうため、集中してもらっている。俺、ファーリ、レンカはモミジを守りながら、マーハンの隙を細かくつき、時間を稼いでいる。リーフ達の方は大丈夫だろうか。まぁ、リーフ達もかなり強いし、ルリとクロミルもいるんだ。ザッハより強い冒険者でもいない限り、遅れをとることはないだろう。となると、今は目の前にいるマーハンだけに集中すればいいか。
それにしてもこいつ、さっきからずっと自身の拳を腕ごと飛ばしているけど、そのたびに一瞬で再生させやがって。再生力半端ないな。伸びた爪を折っても、足を切断しても、一切顔を歪まさず、涼しい顔をしながら超速で再生させるのは本当にムカつく。ファーリもレンカもさっきからずっと拳を落とし続けていた李、防ぎ続けていたりしてくれているのだが、スタミナ切れでこっちが負けそうだ。何か逆転のきっかけがあればいいのだが・・・。
「!?」
「ニャン!?」
「アルジン!?」
考え事をしていたら、マーハンの無数の拳にやられてしまった。
「アヤトさん!?大丈夫・・・!?」
「大丈夫だ」
俺はモミジの心配に、即答で返事する。
「隙だらけですよ?」
直後、マーハンが俺の目の前に顕現した。そして、拳を構えていた。
「!?」
俺は即座に神色剣を神色盾に変形させようとするが間に合わず、直撃してしまう。
「よくもアヤトさんを!」
モミジはこれまで溜めていた魔力を使い、大きくも鋭い槍状の木の幹を飛ばす。そのモミジの攻撃に、マーハンは身を躱し、拳をぶつけて粉砕する。
「この程度の攻撃で私を殺せる、なんて思っていなかったでしょうね?」
「!?」
モミジはこの時失敗した。何せ彩人が攻撃された時、怒りという感情で今まで溜めていた魔力を消費してしまったのだから。
「ご、ごめんなさい。私、」
モミジは自身の過ちに気付き、3人に謝罪しようとする。
「気にするな。モミジにはモミジにしか出来ないことをしてくれればいいから」
「ニャンニャン」
「モミジ殿は気になさらず。私達が時間を稼ぎますので」
「アヤトさん、ファーリさん、レンカさん・・・」
「まったく。これでは時間がかかりますね」
マーハンのこの発言の後、
「仕方ありません。他の者の手でも借りますか」
マーハンは自身の指を3つちぎった。すぐに再生し、5本の指がそろい、ちぎった3つの指は顕在している。こいつ、一体何をするつもりなんだ?
「さてっと・・・、」
マーハンは余裕なのか、俺達のことなんか視界に入れず、何かを探し始める。
「あいつらにしますか」
そう言い、マーハンはある3人に目をつける。
「さて、くらいなさい」
そしてマーハンは、ある3人の口に向け、自身がちぎった指を投げる。
「「「!!!???」」」
マーハンが目をつけた3人、フラッタ、リンドム、デコーダの口の中にマーハンの指が入る。そして3人は、何がなんだか分からず飲み込んでしまう。
「「「!!!???」」」
3人の心音が急激に大きくなる。その音は本人だけでなく周囲、そして決闘場全域に聞こえていく。
「「「がががあああぁぁぁ!!!???」」」
3人の嘆きのような叫びが決闘場に響き渡る。あまりの叫びの大きさに、3人の近くにいた人は鼓膜が破れ、気絶してしまうほどである。
そして、
「う、嘘だろ!?」
「なんで、なんであいつらが、」
3人の姿が急変した。その姿はマーハンの様に体が黒く、爪が伸び、黒い翼を生やす。マーハンほど威勢はないように見えるが、その姿に全員は驚愕し、多くの者が腰を抜かす。
「【黒い悪魔現象】が再発しているんだよぉ!?」
その言葉の意味を理解し、恐怖した者は決闘場から逃げるべく、出入り口へ目指し、全力で走り始める。
「さぁ、あの愚か者を滅ぼしなさい」
マーハンはそう言い、モミジを指差す。
「「「「!!!!????」」」」
モミジはもちろんのこと、彩人、ファーリ、レンカも驚く。何せ彩人、ファーリ、レンカは既に傷だらけ。満身創痍に近い状態なのである。その上で起きた絶望。もう希望なんてない。
「ファーリ、レンカ。なんとしてでもモミジを守れ」
「アルジンはどうするおつもりなのですか?」
「にゃー?」
「俺は、あの3人を止める」
彩人自身、無茶を言っていることは自覚している。だがそれでも、自分がやるしかないと腹を決め、みんなの前に立つ。
「!?無茶ですよ!アルジン、ボロボロじゃないですか!?」
「ニャンニャン!」
「んなことたぁ分かっているんだよ!でも、」
彩人は正面にマーハン達を見続ける。
「やるしかねぇんだ」
彩人は体に力を入れ直し、魔力を込め始める。
(例えこの後、ぶっ倒れる事になっても!)
彩人は魔力制御に精神を集中させる。その集中ぶりは、【黒い悪魔現象】により変化したフラッタ達の攻撃に気付かないほどである。フラッタの攻撃が彩人の元へ向かい、そして、フラッタの攻撃が消滅した。
「おや?」
その現象をマーハンは不思議に思い、彩人を見る。彩人はただ突っ立っているように見えるが、違った。
「その魔法。あなた、【色気】を使っているのね」
マーハンは、彩人が今【色気】を使っていると推測する。その推測直後、彩人が立っている地面に赤い水だまりが出来る。
「ふ~ん。あなた、まだ【色気】を扱える領域に至っていないのね。その程度で私に敵うとでも思っているのかしら」
「確かにまだ、この【色気】には慣れていなかったから、失敗しちまったかもな」
「負け惜しみを。とどめをさしてやりな」
「「「!!!」」」
リンドム達はマーハンの命令に従い、彩人を仕留めようと動き出す。その動きは3人とも洗練されており、無駄のない動き。その動きは人間とかけ離れているような、機械が動いているようであった。
(いけるか?)
彩人はこの時、体が悲鳴をあげていることを自覚している。そして、これ以上使えば命に危険が訪れるかもしれないとも、なんとなく察していた。だがそれでも、後ろにいるモミジ達を守るため、
「アルジン!?」
「ニャン!?」
彩人は、自身の魔力を最大限行使しようとした。
その時、
「「「!!!???」」」
突如、デコーダ達は何者かによって攻撃を阻まれることになる。
「!?何奴!?」
マーハンもこの事態は予想外だったのか、動揺が露出する。
「まったく。お兄ちゃんだけで戦おうとするなんて~」
「ご主人様、このクロミルめが助力するため、はせ参じました」
その者とは、ルリとクロミルであった。ルリとクロミルはきちんとフラッタ、リンドム、デコーダの3人を押さえつける。
「それで、あいつをぶっ倒せばいいのね?」
ルリはマーハンを見る。その口調はとても穏やかではあるが、目は穏やかとは縁遠くなっていた。
「・・・」
クロミルはただ何も言わず周囲の状況を確認する。
「私とルリ様はこの者達をなんとかいたしますので、ご主人様方はあの者を」
そう言うなり、クロミルは【黒い悪魔現象】の影響を受けたリンドムを吹っ飛ばす。クロミルは何かルリに耳打ちした後、ルリは何かに納得したのか、首を縦に振る。
「モミジお姉ちゃんなら、必ず倒せるよ。だから安心してね?」
そう言うなり、ルリはリンドムと同じ【黒い悪魔現象】の影響を受けているデコーダとフラッタを吹っ飛ばす。そしてルリとクロミルは、彩人達の前からリンドム、デコーダ、フラッタを除外する。二人の活躍により、彩人達は再びマーハンに集中することができるようになった。
「私なら、必ず・・・」
モミジはルリの言葉を繰り返し、どういう意味か考える。
「あらあら。あの2人であれらを相手に出来るのでしょうかね~?」
マーハンは嬉々として彩人達に話かける。その理由は、リンドム達3人の勝利を確信しているからである。
何せ、マーハンサイドは【黒い悪魔現象】で強くなったリンドム、デコーダ、フラッタの3人。それに対し、彩人サイドはルリ、クロミルの2人。人数的に不利である。その上、マーハンはルリとクロミルは少し強い人間、という勘違いをしていた。だから【黒い悪魔現象】で強くなった3人には敵わないと確信していたのである。
「ああ。あの二人なら大丈夫だ」
それに対し、彩人は勝てると確信している。
何せ彩人はルリとクロミルの強さに尊敬に近い信頼をしている。その強さは、自身がタイマンで戦いたくないほど厄介で、勝つ未来が見えないほどである。だからこそ、あの2人なら問題ないと確信している。
「そう。その信頼も家族だから?」
「ああ」
「なら、その信頼を全て、壊してあげる」
マーハンの笑顔は色濃くなり、自身を強く見せ始める。
「金で得たこの力こそ、金こそが唯一信頼できるものであると、証明してあげる」
「ならこっちは、家族の力を見せてやるよ」
彩人はマーハンを挑発し、攻撃対象を自身に集中させる。
まだまだ戦いは終わらない。
次回予告
『4-2-52(第326話) 黄の国での決闘~その9~』
マーハンは、これまで稼いできたお金を使って彩人達を殺そうと動く。それに対し、彩人達は家族の力を借りて、マーハンを倒そうとする。金の力と家族の力が激突し、決闘の勝敗が決まる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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