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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
323/546

4-2-48(第322話) 黄の国での決闘~その5~

「さて、いよいよか」

 ついに俺の出番が来た。本当は俺の出番が来ず、先に3勝出来れば良かったのだが、仕方がないだろう。

(それにしてもあいつ、何者だ?)

 決闘前に俺、ルリ、クロミルに宣戦布告じみたことをしやがって。

「よぉ」

 話しかけた相手は、剣を携えていた。その剣は、刃先がとても分厚く、棘?のようなものが幾重にもついていた。あれで切りつけられたら痛そうだな。それにあの剣、重そうだな。

「お前が相手か。なるほど」

 なんか、査定されているかのように見られている気がする。いい気はしないな。

「俺が勝ったら、あいつらをどうするかは自由だよな?」

 と、男は・・・誰だ?誰だかは分からんが、ヤヤ達を見ていた。ということは、ヤヤ達の誰かを指し示しているのだろう。

「自由なわけあるか」

 まったく。ヤヤ達が何をしようとヤヤ達の勝手なはずだ。

「なら、殺してもいいはずだよな?」

「!?」

 そう言いながら、男は剣の棟の部分を自身の肩に何度も当てる。

「てめぇ!」

 俺は、この男を精いっぱい睨みつける。

「てめぇこそふざけんなよ?そんなに家族がいて、それでいて幸せそうで、本当に!」

「?」

 俺は、この男が何故逆切れに近い感情を抱いているのかは謎だが、先ほどの言葉を忘れない。

「お前こそ、俺の大事な人を殺そうとして、ただで済むと思うなよ?」

 俺は魔銀製の剣をアイテムブレスレットから取り出す。

「ほぉ。やはり魔法鞄持ちだったか。俺も持っているがな」

 と、男は自慢げに鞄を見せてきた。いや、鞄をこれ見よがしに自慢されても困るのだが。俺、鞄の良し悪し分からねぇし。

「名乗るのが遅れたな。【雷砕のザッハ】、と言えば伝わるよな?」

「?ら・・・ざ・・・?」

 今こいつ、なんて言った?俺の耳がおかしくなければ、らいさいのざっは?みたいなことを言っていた気がする。どこまでが性でどこまでが名前なのだろうか。

「まさか、知らないのか?」

「知らん」

 俺がそう言った瞬間、男は呆れ顔を俺に見せた。俺、何か不味いことを言ったのか?

「改めて名乗ってやる。俺は雷砕のザッハ。黒ランク冒険者だ」

「黒ランク・・・」

 確か、その言葉に覚えがある。そのランクが示す意味。それは・・・、

「そう。俺は冒険者の中でも最強、だということだ」

 そう言いながら、雷砕のザッハと名乗った男は剣を構える。

「さぁ、殺し合いといこうぜ?お互いの全てを、大切なものをかけて」

「ああ」

 俺とザッハが構えあったところで、

「これから、ザッハ殿とアヤト殿の決闘を始める」

「「・・・」」

 お互い、初動を見逃さぬよう相手の全てを見続ける。

「始め!!」

「「!!??」」

 審判の言葉が言い終えた直後、お互い、正面にいる者に向けて走り出す。そして、剣をぶつけ合う。

 これから、決闘第5回戦が始まる。


「ほぉ?やはり俺の初撃を防ぐか」

「当、然!」

 俺はザッハの剣を押し、のけ反らせる。のけ反った隙にザッハを切りつけようとしたが、ザッハはのけぞったふりをしていたらしく、すぐに反応して俺の剣を受け流す。

「その程度なら、すぐに殺す!」

「!?」

 俺は、防御だと間に合わないと直感し、後退した。直撃は免れたものの、上半身に切り傷が出来てしまう。

「ち」

 ザッハは舌打ちをし、構え直した。俺も態勢を立て直し、攻撃に転ずる準備をする。

(しかし、強いな)

 この一連のやりとりで、なんとなく強さが把握できた気がする。もちろん、これがあいつ、ザッハの全力とは思わないが。油断していなかったとはいえ、今の俺じゃあどっこいどっこいだな。

「こんなものか?こんなものじゃあ、」

「!?」

 ザッハは言い終える前に、俺の目と鼻の先へ移動する。

「護れねぇぞ!」

 ザッハは俺の脳天めがけて思いっきり剣を振り下ろす。その行動に対して俺は、咄嗟に剣を構え、ザッハの剣から俺の脳を守ろうとする。瞬間、剣同士がぶつかり合い、金属音が響く。

(!?)

 慣れない金属音に少し嫌悪感を覚えたが、そんなことは関係なしに金属音が耳の中を縦横無尽に伝播していく。

「これでも、か!」

 俺は少し後退し、意図的に相手を優勢にする。そして、

(今だ!)

 相手の態勢がほんの僅かにぶれた瞬間を見極め、剣でザッハに切りかかる。

 だが、

「!?ち!」

 俺の手は見通されていたらしく、空振りに終わった。

「さっきから何度も言っているだろう?その程度では、この俺、雷砕のザッハに勝てないと!貴様の思考は全てばれているんだよ!」

 まさか、今のやりとりで俺の思考、戦闘スタイルが全て理解できたというのか?さすがは黒ランク冒険者だな。

「俺の思考を掌握済み、か」

 俺がひっそりと呟く。その呟きを聞いていたのか、俺がつぶやいた後、ザッハはニタニタ笑いながら、

「そうだ。お前の行動は全てお見通しだ。何をしようと無駄なんだよ」

 そう言いながら、再び剣の棟の部分をザッハ本人の肩に何度か当て、余裕を露出させる。

「なら、俺以外の行動ならどうだ?」

「は?」

俺は構えを変える。さきほどまで俺は刀身部分をザッハに向けていたのだが、刀身を真下に向け、切っ先をザッハに向ける。体の向きも、先ほどまではザッハと向かい合うようにしていたが、今は体をやや斜めに向ける。そして、少し腕を伸ばす。

(こんな感じか)

 俺はこの戦い方をしていた女性、リーフの事を思い出しながら構える。

「何だお前?その程度のことで、俺に勝てると思っているのか?」

「ああ」

 俺は断言する。何せ俺は、何度もリーフに追い詰められたのだから。だから、リーフの戦い方を体に染みついていたし、体も適応できているし、違和感もない。

「なら、死ね!」

 ザッハは相変わらずの早さで一瞬の事のように、俺とザッハとの距離を埋める。

(ここだな)

 そこから攻撃に転じたザッハに臆することなく、俺は魔銀製の剣の剣先で、ザッハの剣を受け流す。

「な!?」

 そしてそのままザッハを突く。

「ぐ!」

 致命傷には至らなかったみたいだが、それなりに効いたらしい。

「そんな子供の真似事で上手くいくと思うなよ!」

 ザッハの口調は怒りを体現していたが、姿勢は前のめりになっておらず、攻撃の糸口をなかなか見つけられない。

 そんな攻防戦を続けていると、

「はぁ!」

「ち!」

 俺の攻撃、防御、移動のパターンを見切ることに成功したのか、俺の動きを先読みし、俺の体にザッハの剣がかすり始める。

「こんなんじゃあ、お前の大切な家族が、みんな死んじまうぞ!?」

「!?」

 家族。

 確かに、家族は大切だ。俺はその家族に数えきれない回数救われてきた。その家族という存在が俺の身近にいなければ、今頃あの世で恨み辛み吐いていたことだろう。そんな俺を、何度も救ってくれた存在を、やつは殺そうというのか?

 もちろん、地球で俺を大切に育ててくれた親はいない。

 けど、ここまで俺と共に来てくれた大切な人は今、俺の後ろにいる。

 そして、俺の勝利を信じて、見守ってくれている。

 だから、

(絶対に負けねぇ!)

 俺は大切な人を、家族を失わないために、

「な!?なんだ、その腕は!?」

 俺はこいつに勝つ!

「なら、身をもって知りな!」

 俺は、魔力で形成した腕を背中から無数に生やし、ザッハとザッハ周辺の地面を無作為に殴り始める。

「ち!面倒な!」

 ザッハは俺の攻撃を初見にも関わらず躱したようだが、いくらかもらったようだ。当たった感覚に少し嬉しくなりつつ、油断せずに殴り続ける。

(今のうちに、と。【魔力感知】)

 俺はザッハの魔力を常に追えるよう、【魔力感知】でザッハの魔力を、ザッハの位置を把握しておく。そんな事をしながらも、俺はザッハに向けて無数の拳で殴り続ける。もうザッハを殴っているのか地面を殴っているのか分からなくなるくらいに殴って、殴って、殴った。

(あ)

 俺が【魔力感知】しながらザッハ周辺の地面を殴り続ける事1分未満。ザッハの魔力の位置に変化があった。これはもしかして・・・?

(俺の背後にまわっているな)

 ザッハの魔力が俺の後ろに位置しているな。俺の死角から攻撃すれば勝てる、なんて思っているのか?

(その程度で負けるわけがねぇ!)

 俺は、ザッハがいた地面周辺を殴りながら、拳に魔力を溜め始める。

「・・・」

 その途中、背後から変な気配を感じた。その気配は、ルリ達の気配の中に目立つ歪な気配。

「!?」

 その気配が、俺に向けて斬りかかろうとしていることを感じた。直接後ろを見ていないので分からないが、その気配の正体はザッハだろう。

 俺は無言でザッハの斬撃を躱す。

「!?」

 おれが避けた直後、僅かに空気が微妙に動いた。

「!」

 俺は無言で拳を握り、

(【炎拳】!)

「ぐ!?」

 クリムの力を借りるかのように、【炎拳】をザッハの腹めがけて力の限り殴打した。相手にとって考えてもなかった事態だったのか、無防備だったため、さっきより結構な距離飛んだ気がする。

「てめぇ!謀ったな!?」

「謀った?一体何の事やら?」

 俺は分からないふりをする。

 おそらく、ザッハは俺の背後から攻撃すれば気付かない、なんて思っていたのだろう。そして、攻撃する直前に俺を見て、俺に気付いていないことを確認し、攻撃した。だが実際、俺は気づいていたんだけどな。

「くそが!なん・・・!?」

 ザッハが吹っ飛んだ隙に、地面に手をつき、あるものに力を貸してもらえるよう魔力を譲渡する。

「!?どうして動かな・・・な!?」

 ザッハが自身の体の違和感に気付き、自身の体の違和感を探っていたところ、自身の足に植物が絡まっていることに気付く。モミジのおかげで得た力である。

「これもまさか貴様が!?」

 ザッハが何か言いたそうにしているが、俺は構わずザッハに向けて走る。

「こんなもので俺の足・・・!?」

 だが、ザッハの足に更なる何かが絡みつく。その何かとは、氷である。

 俺は植物を絡ませることでザッハの動きをある程度制限させた。その上に氷で植物ごとザッハの足をこおらせたのである。さきほどのルリのように。ザッハは足の氷も俺の仕業だと悟り、再び俺を睨んでくるが、そんな睨み程度で俺は屈しない。

「ぐ!」

 ザッハが植物と氷を足から無理矢理引きはがして自由になる。だが、その時間に何もしないほど俺の頭は残念でない。

「死ね!」

 ザッハが剣を俺に向けて振ってきたが、今までのザッハの攻撃とは思えないほど雑な振りであった。

(こんな攻撃、躱すなんて余裕だな)

 俺はザッハの攻撃を躱し、

(【蜂牛突き】!)

 クロミルの【蜂牛突き】を模し、ザッハに突きを繰り出そうとする。ザッハは俺の攻撃に合わせ、防御の姿勢をとっているが、そんな姿勢は無駄だ。

(奴の鎧の隙間を狙うように、確実に!)

 俺はザッハの鎧の小さな隙間を突くように【蜂牛突き】を繰り出した。

「はが!?」

 感触としては、良好だ。ザッハに有効打を与えたと思うのだが、どうなのだろうか?そんなことを考えながら、俺はザッハの体を突き押す。このまま決闘場の壁にぶち当たってくれればよかったのだが、上手くいかなかったか。

「くそ・・・くそ!」

 ザッハは・・・え?何故自分の顔を殴ったんだ?

「・・・もう失敗しねぇ」

 ・・・どうやら、これで下手な小細工が通じなくなったわけか。

 さっきのはおそらく、自分への戒めを込めて、自分で自分を殴ったのだろう。厄介な事。

「てめぇはいいよなぁ?」

「は?」

 一体何の事を言っているんだ?そういえばさっきも言っていたような・・・。

「てめぇは俺に持っていない家族を持っている。そしてその家族は、人じゃない」

 そう言い、ザッハはルリとクロミルを見ていた。なるほど。それで決闘が始まる前、俺だけでなくルリとクロミルを見ていたのか。あれ?となるとモミジは?モミジも魔獣なのだと思うのだが、違う分類なのか?

「だから、俺がこの決闘に勝ったら、少なくともそいつらは殺す」

「!?ふざけんなよ?」

 ザッハの言葉に、俺の拳はさらに固くなる。

「そんなこと、させるわけねぇだろうが!」

 俺から家族を、大切な人を奪うだと!?

「いいや。てめぇにはもう負けの一手しかないんだよ!」

 そう言い、ザッハはさきほどとは異なる構えをし始める。どうやら何か始めるらしい。

「この魔法で、お前に家族の喪失感を思い知らせてやる!」

 ・・・なんか、ザッハから多くの魔力を感じる。さっき以上に警戒する必要があるな。

「【雷・・・、」

 ザッハが何か言った瞬間、ザッハが消えた!?いや、

(高速で移動したのか)

 俺がそんな思考を一瞬で行う。

「・・・砕】!」

 俺の目の前に一瞬で現れ、持っていた剣を俺めがけて大きく振り下ろされる。

(やべ!)

 間一髪避けられたが、風圧まで考慮していなかったのか、態勢がずれ、土煙に目を一時的にやられた。

(それ、でも!)

 目の痛みに目をおさえたくなるが、意地で我慢し、目を開ける。土煙が晴れ、ザッハを見てみた。

(あれ、やばいやつだ)

 剣が振り下ろされた地面が、大きくえぐられていた。あのスピードからあの威力、それも俺の位置を正確におさえての攻撃、か。

 さっすが、冒険者最高ランクである黒ランク冒険者だな。敵なのにあっぱれ気分になってしまう。

「この技に貴様は、なす術もなく敗れるだろう」

 あの技をくらうのはマズそうだな。となると、徹底的に回避するしかなさそうだ。そして、相手の体力切れを狙う。今はこんなところか。

「【雷、砕】!」

「!?」

 あいつの技に俺は、回避の選択しかとることが出来ずにいた。

 それにしても、ザッハのあの目、どこかで見たような気がするけど、気のせいかなぁ。


 ザッハが【雷砕】を発動させてから、俺はずっと回避の選択をとり続けていた。つまり今の俺は防戦一方ということである。何か対策を考えないとな。

 そして、この俺の心境を知ってか知らずか、ザッハの口が達者になり始めた。

「お前はいいよなぁ!家族が近くにいて、今もこうして応援されて!」

「!?」

 俺はザッハの【雷砕】を避けるのに必死で、ザッハの言葉を聞くことだけしか出来ない。

「それに対して俺は、独りで頑張ってきた!ずっと、ずっと!!」

「!!?」

 なんだ?こいつは本当に何を言っているんだ?

「俺は15歳の頃、俺の父親は魔獣共に殺された!母親と妹達は消息不明になった!あの出来事が無ければ、俺もお前みたいに・・・、」

「・・・」

「家族団欒が出来、幸せだった!」

 ザッハの剣が地面にぶち当たり、騒音に近い爆音が鳴り響く。

「てめぇは俺にない家族の温もりを知っている。だが、家族を失う孤独感を知らないはずだ!」

 ザッハの動きが少し止まった。

「・・・だから、俺の大切な家族を殺そうと?」

「ああ!俺の力は、家族を失って得た力だ!貴様に俺の気持ちが分かるか!?」

 ザッハの剣が確実に動きを止めた。だが、俺はこのザッハの隙をつき、攻撃することはしなかった。今はザッハの話を聞くべきだと、直感で判断した。

「その力を得て、お前は一体何をしようと?」

 俺は警戒しつつ、質問する。

「決まっている!俺の家族を離散させた魔獣共全員を殺す!これが俺なりの親父の弔いだ!」

「・・・お前、父親以外にも家族がいるんじゃないのか?」

「俺がそんな幻想をいつまでも持っていると思うなよ?」

 ザッハが分かりやすく憎しみの目を向けてくる。今の発言は俺のミスだな。軽率過ぎたのだろうな。

「悪かった。お前なりに熟考し、判断したんだ。家族の有無については何も言わねぇ」

「そうだ!俺はいつだって独りだ!俺は独りでも・・・!」

「独りなわけねぇだろ!」

 俺はこいつに現実を教えるために、言葉をザッハに当てていく。

「独りじゃないだと?天涯孤独の俺が・・・、」

「それじゃあ自称天涯孤独のお前が、どうして赤の他人達から多大な信頼を寄せているんだ?」

「…どういうことだ?」

「マーハン側の冒険者達はみんな、お前の勝利を信じて疑っていなさそうだぞ?」

「それは、俺の力だけを信じて・・・、」

「お前の力は、お前のたゆまぬ努力の末に得たものじゃないのか?その努力は、お前の強い心の上で成り立っているんじゃないのか?」

 俺の場合、たまたま全色魔法に適性があったおかげでまだましな方だと思う。それでも俺は日夜、出来る限り努力してきた。俺の努力も、地球にいたころ以上に頑張ってきたが、ザッハの努力はきっと俺以上なのだろう。

「・・・何が言いたい?」

「つまり、お前の気持ちが血のつながり関係なく信頼を築いていける事を証明しているんじゃないか?」

 こんなのは単なる詭弁だ、なんていわれてしまえばこれまでだ。

 だけど、周囲の冒険者の信頼が、ザッハが独りではない事を証明していると思う。

「てめぇに家族を失った気持ちなんて分かってたまるか!?」

 ザッハが急に動き出す。少しの間立ち尽くしていたためか、すぐ動きに転ずることが出来ず、魔銀製の剣でザッハの剣を受け止める。

「分かるさ」

「ふざけるな!それじゃあてめぇの後ろにいる女共は何だ!?」

「・・・あいつらは、ここまで一緒に来てくれた旅の仲間だ」

 将来、家族になるかもしれないけどな。

「けど、あそこにいる全員、俺と血縁関係はない。死んだからな」

「!?」

 ザッハは俺の言葉に少し驚く。

 ちなみに、発言の流れから俺の両親が死んだように聞こえるが、実際に死んだのは俺である。死んでこの世界に来ました、なんて話は信じないだろう。相手も俺の両親が死んだと誤解しているみたいだし。

「それに、俺には兄弟はいない。俺こそ天涯孤独さ」

 俺は一人っ子で独りっ子だったからな。両親は地球でのんびりしているかもしれないが、この世界にはいないだろう。

「俺は・・・俺はたった独りでここまで、」

「独りなんかじゃねぇだろうが!!」

 俺はザッハの剣を力ずくでおし通し、俺とザッハに距離を作る。

「例え身内がいなくなったとしても、今のお前には、今のお前を信じてくれる冒険者がいるはずだ!そして、今もこの場でお前を応援している!」

「!?」

 戦闘中に声援をしっかり聞くことなんてそうそう出来ないが、今はルリ達の声をしっかり聴くことができる。その声は、俺の気持ちを昂らせ、戦う意志を強固にする。

「聞こえたか?それが、この声が独りじゃない証拠だ」

「・・・」

「確かに、お前達家族は不幸に見舞われたのかもしれない。けど、お前だけじゃない」

「・・・うるせぇ」

「俺にはもう家族といえる存在はいない。兄と妹を殺された人もいる。いじめを受け続けた人もいる。貞操をふざけた理由で奪われた人達もいる。命を失いかけ、この世から消えかけた人もいる。そんな奴らの前で・・・、」

 瞬間、ザッハの剣が俺の目と鼻の先に出現する。俺はすかさず魔銀製の剣でザッハの剣を受け止める。

「うるせぇっていってんだろ!!」

 ザッハは俺の言葉を聞こうとしなかったが、俺は続ける。

「そいつらの前で、同じことが言えるのか?俺は不幸だと。俺は・・・!?」

 俺の言葉の途中、ザッハは【雷砕】を俺めがけてうってくる。思わず俺の足が動かなくなってしまい、咄嗟に剣の側面を剣でふれ、軌道を逸らした。

「!?」

 俺は衝撃で吹っ飛ぶ。

「そんなの分かっているんだよ!この世界、俺だけが不幸じゃねぇ。俺だけが独りじゃねぇってことはよ!!でもな、そう考えなきゃ、俺は生きていけなかったんだ!仕方ねぇだろうが!!!」

(いってぇ)

 ザッハが何か叫んでいた。ザッハの叫びが俺の耳に入る。そして、俺の全身に痛み胃が全身に入ってくる。

(あ~あ)

 さっきザッハの剣を受け止めた魔銀製の剣がボロボロになっていた。剣先が欠け、全体的にヒビが入っていた。魔銀製の剣でもここまでボロボロにするなんてな。

「なら、その考えをぶっ殺して教えてやるよ」

 俺が地球にいた時、ずっと独りだったからこそ言える。こいつは絶対に、

「お前が独りじゃないことを、な」

「そのボロボロの剣で何が出来る!?その上で、お前にこの魔法を見せてやる!」

 どうやらザッハは何かするつもりのようだ。

「この魔法で、俺の絶対的力に、俺のすべてにひれ伏し、後悔しろ!!」

「!?」

 一瞬。俺の見間違いかもしれないが、ザッハの目の色が変わった。目の色が変わるという事は、まさか・・・まさか!?

(あいつ以外にも使える奴がいるというのか!?)

 正直、信じたくない。嘘だと思いたい。あの魔法を使うのに、どれほどの苦労をしてきたのか。俺だって使えるようになるまで文字通り血反吐を吐いたんだぞ!?その努力をこいつもしてきたというのか!?

「・・・【色気】、か」

「そうだ!使えば死ぬと言われる【色気】を習得したのさ!これも、俺の孤独な覚悟故に習得出来たんだ!」

 そうザッハは言い、眼の黄色の光をさらに強める。

「これも、一生孤独に生き続けると決めた覚悟故に出来たことだ!この俺の覚悟を、意志を否定させてたまるか!!」

 ザッハは顎に力を入れる。

「そうか」

 ザッハの言葉に対し、俺は短く返事することしか出来なかった。

(思い出した)

 ただ、思い出したことがあった。それはイブの兄、ペルセウスのことだ。ペルセウスと初めて会った時の目と全く同じ目をザッハはしていた。

 あいつにもイブの他にもう一人の妹、アイがいたはずだ。ペルセウスも妹のアイを殺され、狂っていたんだっけか。その狂った目と同じ目をしているな。

(あいつと同じ、か)

 ・・・。

 確かに、否定されることは辛い。

 俺も地球では、俺の個性という個性を全て否定され、いじめられてきたからな。唯一の心の拠り所が親だった。だから、身内の失った時はさぞ悲しかろう。ま、何度も寝る直前に想像してしまっただけなんだが。それでも辛かった。何せ、地球にいた時の唯一の理解者だったから。

「死ね!!!」

「!!??」

 しまった!?つい思いふけってしまった・・・!?

「【雷砕】!!」

 俺はボロボロになっている魔銀製の剣で、ザッハの【雷砕】を受け流そうとした。だが、受け流しきれなかった。

「!!??」

 ザッハの【雷砕】が、俺の両腕ごと、魔銀製の剣ごと切断した。俺の腕は切断された。

 その痛みが、俺の肉体、心に染みていく。

 何度もうけてきたこの痛み。気が狂いそうになる。だが、脳裏にある人達が浮かぶ。

 イブ、クリム、リーフ。

 ルリ、クロミル、モミジ。

 ファーリ、レンカ。

 ヤヤ、ユユ、ヨヨ。

 こいつらのために、今後も幸せで居続けるために!

「うおおおぉぉぉ!!」

 俺は声を張り上げ、気合いを入れ直す。

「もうお前の負けなんだよ!諦めて全てを失う覚悟でもしろよ!」

「あああぁぁぁ!」

 ひとしきり叫び終えた後、俺は冷静になり、ザッハを見つめる。

「俺も昔はずっと独りだった。けど、あそこにいるみんながいてくれたおかげで今、俺がここにいる。その証拠が、」

 俺は自身の体を白魔法で腕の治療を行う。それだけでなく、植物を体に生やし、腕の再生速度の向上を図る。

「!?」

 ザッハは俺の尋常でない状態に目をひんむく。それもそのはず。普通の人間は体から植物が生えるはずなんてないのだから。

「貴様、それは一体!?」

「俺が今もこうして生きていることが、俺が独りでない証拠だ」

 俺は両腕を完治させる。色も形も切断前の腕となった。精密検査されたら、普通の腕じゃないことがばれるだろうな。

「お前はさっきこう言ったよな?」

“一生孤独に生き続けると決めた覚悟故に出来たことだ!この俺の覚悟を、意志を否定させてたまるか!!”

「なら俺のこの力は、これ以上大切な仲間を、家族を傷つけさせないと決めた覚悟故に出来たことだ!俺はこの力で、お前を打ち破る!」

 俺は全身に力を入れ直し、ある魔法を発動させる。その魔法の発動に、ザッハは驚いた。何せ俺は今、ザッハと同じ魔法を発動させているのだから。

「まさか、お前も【色気】を使えるというのか!!??」

「ああ。それも【黄色気】だ」

「!?俺と同じ、だと!?」

「ああ。これで対等だろう?」

 まぁ正確には6種類の色魔法に適性があるんだけどな。となると、俺の方が有利かもしれないな。今は言わないけど。

「さぁ、いくぞ」

 俺は拳を構え、ザッハを睨みつける。

「これに勝って、俺の覚悟を示してやる!孤独の上で成り立っている力をな!!」

 そして、ザッハの剣と俺の拳がぶつかり合う。


 ザッハの剣を拳で受け続ける事・・・どれくらいたっただろうか?そんな僅かな時の経過すら覚えていられないくらい、俺はひたすらザッハの剣をいなし、攻撃し続ける。俺が攻撃に転じようとすると、ザッハは【雷砕】の攻撃直前に行われる超速移動を使って俺との距離をとり、俺の攻撃を避ける。このままだと消耗戦になり、俺の体力切れで負けそうだと判断した。

 でもどうする?

 相手は【黄色気】で身体能力を向上させている上、【雷砕】の高速移動と攻撃力もその分が加算されている。

 厄介過ぎる。こんな奴にどうやって攻撃を・・・?

(!?)

 俺はこの時、ある者の顔が浮かぶ。

 それは、メイキンジャー・ヌル。あの超速移動を見ていると、メイキンジャー・ヌルの面影が俺の脳内に映ってしまう。

(あいつに比べれば・・・!)

 あいつのでたらめな強さに比べれば、こいつの強さなんて可愛いものだ。本当に理不尽な強さを体感したからこそ、このザッハの強さに圧倒しつつも屈さない。何せ、勝つ方法が見えたのだから。

(覚悟を決めるか)

 メイキンジャー・ヌルよりザッハの方が弱いと思うが、だからといって、ザッハが弱いわけではない。だから、この勝つ方法を試すにも勇気がいる。その勝つ方法というのは、

(まずは・・・、)

 相手の攻撃をわざと受け、その直後にザッハを拘束。拘束直後に、渾身の一撃を放つというものだ。

 これなら、相手の移動速度なんて関係ないからな。その代わり、体の痛みは覚悟しなければならないのだがな。痛みに関しては・・・まあ、大丈夫だろう。

(後は覚悟だけ、か)

 俺は絞り出した可能性に縋り、賭けに移行する。

 俺はわざと移動速度を遅くし、無防備なふりをする。

「隙だらけだぞ!!」

 俺の思った通り、ザッハは俺の隙を見逃さず、俺に攻撃してくる。

「【雷砕】!」

 ザッハの【雷砕】が俺めがけて発動する。

(よし)

 俺はザッハの【雷砕】を右手で受け止める。

(がぁ!?)

 瞬間、覚悟していた痛み以上の痛みが俺の右手を襲う。想像以上の痛みだ。さすが、魔銀製の剣をボロボロにしただけのことはあるな。【雷砕】、恐るべき魔法だ。

 だが、俺も【黄色気】のおかげで身体能力が向上しているからな。そう簡単にやられるか!それに何より、

(捕まえた!)

 俺はザッハの剣を強く握り、ザッハを逃がさないようにする。ザッハは自身の剣を動かそうとするが、俺が力を入れているせいで動けずにいた。

「!?まさかお前、」

「気づくのが遅えんだよ」

(みんなの想いを教えてやる!)

 俺は今まで俺と一緒に旅をしてくれたみんなのことを思う。

 イブ、クリム、リーフ、ルリ、クロミル、モミジ、ファーリ、レンカ、ヤヤ、ユユ、ヨヨ。

 少なくとも俺は今、こいつらの想いを背負っているんだ。出会って長い時を過ごしていれば、出会って間もない奴もいる。けど、全員守りたい。守りたいんだ!

 俺はザッハの腹に向けて、空いている左手で思いっきり腹部を狙って拳を突き出す。

(くたばれ!)

 俺は全身全霊、今までの気持ちを込める。その気持ちの中にはもちろん、みんなを守りたい意志が含まれている。だがその他にも、お前は絶対に孤独じゃないという思いも込めていた。

「ぐ!?」

 ザッハは俺の拳に少し吹っ飛ぶ。・・・やっぱ、ザッハの鎧の上から殴った事が失敗だったかね。

 だが、俺の攻撃はこれで終わり、というわけではない。ザッハが俺の攻撃にひるんでいる間に近づく。

「お前の負けだ、ザッハ!」

 俺は、さきほどザッハの剣を受け止めていた右手で拳を作り、先ほど左手で窪みをつけた箇所に重なるよう、俺は思いっきりぶつける。

「はぐ!?」

 鎧が窪んでいたおかげで、思ったよりザッハにダメージを与えられたようだ。さっきより痛そうにしていた。そしてザッハは、俺の左の拳により吹っ飛び、壁に激突した。

(ふぅ)

 俺は油断することなく構え、ザッハが起き上がる可能性を踏まえ、警戒し続ける。

 土煙が晴れ、ザッハが壁に少しめりこんでいた。

「この俺が?あ、ありえねぇ・・・」

 ザッハが何か一言言っていたかと思ったら、気絶した。気絶した、よな?俺は警戒しながら近づき、ザッハの意識の有無を確認する。

「気絶、しているな」

 声がだんだん高くなっているのが自分でも分かる。ザッハが今気絶している。つまり、ザッハは戦闘不能で、俺の勝ちになる、ということだ。俺は無言で審判を見る。

「・・・」

 どうやら審判は固まっているみたいだ。そういえばこいつ、冒険者最高ランク、クランク冒険者なんだよな。そんな奴がよく分からん奴にやられたんだ。驚くのも無理ないかもしれない。

「審判、判定」

 俺が短く言葉を言うと、審判は正気に戻ったのか、間抜けな顔から真面目な顔へとシフトチェンジする。

「は!?しょ、勝者、アヤト殿!」

(よっしゃ!)

 俺はボロボロのまま、顔を少し緩める。

「ということは、5回行われた決闘のうち、勝った回数は3回だから・・・、」

「…私達の勝ち」

「やりましたね、ヤヤちゃん、ユユちゃん、ヨヨちゃん!」

「「「うん!!!」」」

「さっすが、お兄ちゃんだよね~」

「ご主人様の戦い方は、いつも目を見張るものがございます」

「あ!?アヤトさん大丈夫ですか!?今すぐ治療を!」

 こうして、俺達とマーハン達との決闘が終わった。その結果、3対2で俺達の勝ちとなった。

「・・・認めない。認めないぞ」

 周りの冒険者たちはザッハの敗北に驚いていたが、マーハンだけは怒りを露わにしていた。

(こうなったら・・・!)

 マーハンはポケットにしまっていた小瓶を手にかけながら、決闘場中央へ向かう。

 この決闘を本当の意味で終わらせるために。

次回予告

『4-2-49(第323話) 黄の国での決闘~その6~』

 決闘の結果、彩人達側の勝利となった。彩人達側は喜んでいるのに対し、マーハン側は驚いていた。特にザッハを知っている冒険者は、ザッハの敗北に驚愕する。マーハンはザッハの敗北、自身の敗北を認めず、行動に移す。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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