4-2-47(第321話) 黄の国での決闘~その4~
ユユ、ヨヨの治療を終え、決闘場にみんなで向かい、決闘場に着くと、既に決闘の決着がついていた。結果、リーフ達の勝利であった。だが、リーフ達に多くの傷がついていた。さすがに無傷で勝利、というわけにはいかなかったか。
「み、みなさん!これはひどい!すぐに治療します!」
モミジがリーフ達の様子を見るなり、すぐに3人の元へ駆け寄る。
「モミジ様、私もお手伝いさせていただきます」
クロミルはモミジを手伝おうとしていた。
けど、駄目だ。
「いや、クロミル。お前は次の決闘に備えて、魔力を温存しておけ」
俺の言葉に、クロミルは驚いていた。いや、俺としては当然のことを言ったつもりなのだが・・・。
「ですが、お三方の傷を手当てしないと・・・、」
「その手当は俺がするから、クロミルは次の決闘に集中してくれ」
「・・・」
クロミルは何も言わず、俺を見続ける。まだ他に理由がいるのか?
なら、
「もし、リーフ達を治療し、そのせいで負けた、なんてことになったら後味悪いからな」
そう俺が言うと、
「…かしこまりました。それではリーフ様の治療、お任せしてもよろしいでしょうか?」
何故かクロミルは申し訳なさそうな顔をしながら言った。別にそこまで罪悪感をもたなくてもいいんだがな。
「ああ。クロミル達も決闘、頑張れよ」
「は!」
そう言うと、クロミルは決闘場の中央に向かっていった。
「次はルリ達だね!」
「はい!頑張ってくださいね?怪我したら私が治療しますから」
「うん!」
ルリとモミジがそんなやりとりをした後、
「行ってくるね、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
そうルリが言い、クロミルの後をついていった。
(頑張れ)
俺はそう心の中で呟きながら、リーフ達の治療を再開する。
「「「頑張れー!!!」」」
ヤヤ、ユユ、ヨヨはクロミルとルリの応援をしてくれている。
「頑張って、ルリちゃん」
「…ファイト」
「いっちゃえ、ルリちゃん!」
ルリは多くの掛け声を笑顔で返した。
(まったく)
どいつもこいつも良い人過ぎるな。俺はそう思いながら、モミジと協力して3人の治療を続けた。
「まったく・・・」
第3回戦目の決闘で、商王側が初めて敗北した。このことに商王マーハンは眉を僅かに動かす。
「ですが、次で決着がつくことでしょう。何せ次は、【火炎姉妹】が相手なのですから」
そう言うと、マーハンは勝利を確信したかのように、笑みを見せながら落ち着きを取り戻した。
「それで、あなた達が私達の対戦相手?」
「そうみたいね、ペラーネ」
ペラーネ、と呼ばれた女性と、ペラーネと並んでいる女性はうり二つの見た目であった。
(もしかして姉妹か?)
彩人はこう推測する。
ちなみに彩人達は今、ルリ達の邪魔にならないよう、決闘場の端で観戦している。
「お姉ちゃん達がルリ達と戦うの?」
「そうみたいです」
ルリの問いに、ペラーネの隣にいる女性、ペリーネは答える。
「ですが、あなた達の負けは確定事項です」
ペラーネはそう断言する。
「そうね。私達【火炎姉妹】を相手にして、勝てるものなんてほとんどいないもの」
「いたとしても、【雷砕のザッハ】くらい強くなくちゃね」
「・・・?ねぇ?あの人達は一体何を言っているの?」
ルリはペラーネとペリーネの言っていることが分からず、クロミルに質問する。
「…どうやら、あの二人は火炎姉妹、と呼ばれているようです。雷砕のザッハ、というのも誰かの名前かと」
「ふ~ん・・・。それでさっき、あの二人がルリ達じゃあ勝てないとか言っていたよね?」
「ええ」
「ふ~ん・・・」
ルリは何か言いたそうにしていた。だが、言葉には出さなかった。その様子にいら立ちを覚えたのか、ペラーネはルリを挑発し始める。
「ねぇ?何か言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「別に~?」
「激しく不愉快なんだけど?」
ペラーネの不満に、ペリーネの不満も追加される。
「ん~?クロミルお姉ちゃん、言っていい?」
「どうぞ」
ルリの言葉をクロミルは肯定する。
「お姉ちゃん達、本当にその程度でルリ達に勝つつもりなの?」
そしてルリは、二人に悩んでいたことを質問する。その質問内容に、ペラーネとペリーネは分かりやすく怒気の量を増幅させていく。
「「どういうこと??」」
淡々と聞かないと、二人は質問すら返せそうになかった。
「だってお姉ちゃん達、見たところルリ達より弱いんだもん」
そのルリの言葉に、
「なんでそう言いきれるの?」
「具体的な理由を求めるわ」
ペラーネ、ペリーネは再び質問する。
「・・・勘?」
ルリは少し考えた後、そう答える。ルリは元魔獣。それ故、理由なんて言われても詳細な説明なんて出来やしない。出来るとすれば、本能によるもの。それぐらいしか言えないだろう。その本能を鍛え、時に戦い、時に逃げてきたのだから。そうやって、弱肉強食であるこの世の中を生き抜いてきたのだから。
だが、そんなルリの考えなど知りもしないペラーネ、ペリーネは、
「「ふざけないで!!」」
馬鹿にされたと思い、二人は激昂する。
「本当のことなのにな~」
ルリはそう呟く。
「ルリ様。余計な油断をすると痛い目を見てしまうことになるので、油断なくお願いします」
「うん。分かっているよ、クロミルお姉ちゃん」
そう言い、ルリは油断のない構えをとる。
「それではこれからルリ殿、クロミル殿とペラーネ殿、ペリーネ殿との決闘を始めます」
双方、臨戦態勢に入る。
「始め!」
こうして、4度目の決闘が始まる。
「ペリーネ。先手はもらうわよ」
「いいわよ」
「【灼球】!」
ペラーネは橙色に燃え盛る球体、【灼球】がルリ達を襲う。
その【灼球】に対し、ルリは手をかざし、一言こう言った。
「氷れ」
そのルリの一言後、ペラーネの【灼球】は氷の塊となり、地面に落下する。
「「!!??」」
この光景に、ペラーネとペリーネは驚愕する。
「クロミルお姉ちゃん、ここはルリ一人に任せてくれないかな?」
「それは構いませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫♪油断なんてしないから」
そう言い、ルリはクロミルに対して親指を上げる。
「かしこまりました。ご武運を」
そうクロミルが言い、後ろに数歩下がる。
「舐められたものね」
「ええ。これはもう、手加減なんてしていられないわね」
「「全力で焼き尽くす!!」」
二人は魔法発動に集中する。
「「【灼華】!!」」
二人は花の形をした赤魔法、【灼華】をルリ向けて放つ。さきほど放った【灼球】とは段違いな大きさの魔法であった。
その魔法に対し、
「氷れ」
ルリは再び、この一言を宣告する。すると、二人が放った【灼華】も氷りつく。その様子はアイスフラワーのようである。
「「!!??」」
この様子に、再びペラーネとペリーネは驚く。
「あなた、何者?」
「あなた、ただの子供じゃないわね」
ペラーネとペリーネはルリに向けて質問する。
「別に、ただのお兄ちゃんの妹だけど?」
そう言い、ルリは彩人に視線を送る。
「おにいちゃ~ん♪」
そして、彩人に対して手をふる。
「あいつの、妹?」
「それだけで、これほどの力を?」
ペラーネとペリーネはさきほどのルリの答えにいくつか疑問点を言葉にする。考えを巡らせながら、二人はあることに気付く。
今目の前にいる少女、ルリはお兄ちゃんと呼ばれた人物、彩人に視線を移動させており、隙だらけなのではないか、と。
「「・・・」」
二人は無音で魔法の準備をする。
((【灼槍】!!))
二人は灼熱の槍、【灼槍】をルリめがけて静音状態で放つ。そんな二人に対し、ルリは今もお兄ちゃん、彩人に視線を向けている。
((いけ!!))
後数秒でルリに【灼槍】が当たるはず、だった。
ルリの手が突然【灼槍】に向けられたかと思うと、
「氷れ」
ルリの一言の後、【灼槍】が氷る。
「「!!??」」
【灼槍】がルリに直撃すると思っていたペラーネとペリーネだが、ルリの対応に驚く。
「まったく。この程度で出し抜いた、なんて思っていないよね?」
ルリはペラーネとペリーネ二人の方へ向き、呆れた声質で話しかける。そのルリの言葉に、そのルリの態度に腹が立った二人は、
「いいわ」
「私達の魔法で今度こそ焼き尽くしてあげる!」
ペラーネとペリーネは互いの顔を見て、互いに頷く。そして、それぞれ魔法の発動に集中する。
「【灼槍雨】!」
先に発動させたのはペラーネであった。ペラーネは【灼槍】を雨のように降らせる赤魔法、【灼槍雨】を発動させる。
「挟み込むわ!【灼華乱舞】!」
次にペリーネが魔法を発動させる。その魔法は、【灼華】という花から花びらが舞うように襲い掛かる魔法、【灼華乱舞】を唱えた。
この二人の魔法により、上方向からは【灼槍雨】が、前後左右方向からは【灼華乱舞】が襲い掛かる。普通の人なら、戦闘経験の無い町娘であれば恐怖し、今後のトラウマになること間違いないだろう。何せ、どこにも逃げ場のない灼熱の炎が襲い掛かってきているのだから。
その状況に、
「・・・」
ルリは一切動じていなかった。まるで、何もない野原を歩くかのような雰囲気で二人の行動を見ていたのである。
「ルリ様、私の力、お使いになられますか?」
クロミルはルリに助太刀する必要があるか聞くも、
「ううん、大丈夫。だけど、ルリの近くにいてくれるかな?」
ルリはクロミルの提案を拒否する。
「かしこまりました」
クロミルはルリの言葉を素直に受け取り、再び我関せず状態になる。
「私達を、」
「舐めるなー!!!」
ペラーネとペリーネの叫びと共に、ルリ達に二つの魔法が襲い掛かる。
「!?」
魔法の襲撃に対し、ルリは左手を下から上へと弧を描くように上げる。その後、ルリから見て右側に左手を位置させた後、円を描くように左手を回転させる。
移動させていた左手から氷が発生し、ルリとクロミルの周囲には氷がそびえたつ。
そして、ペラーネペリーネの赤魔法と、ルリの氷が激突する。
激突直後、白い煙が大量発生する。
白い煙が晴れると、ペラーネとペリーネが立っていた。それもそのはず。二人はルリから攻撃されていないのだから。
そして、ペラーネとペリーネの二人の前に、さきほどまであった氷の壁があった。
「「!!??」」
その氷の壁を見た瞬間、二人は憎悪に近い黒い勘が働く。良薬は口に苦いというが、真実もまた、口に苦いのかもしれない。
「ん~。クロミルお姉ちゃんの攻撃の方が危なく感じたかな?」
何せ、これで決着がついたと思っていたのに、実際は相手、ルリ達がむき図だったのだから。
「ルリ様、くれぐれも油断なさらぬようお気を付けください」
「もう~。分かっているよ、クロミルお姉ちゃん」
そんな会話が、クロミルとルリ間で行われた。
「・・・ペリーネ、あれをやるわよ」
「ペラーネ・・・。分かったわ」
二人はついに覚悟を決めた。
次の一撃で全てを、この決闘の勝敗を決めると。そのために、次の魔法に全ての魔力を込める必要があると。
「見せてあげる」
「双子だからこそできる、最強の灼熱赤魔法を!」
二人は共に魔力を一箇所に集中し始める。双子だからか、魔力の性質がよく似ていた。
「・・・ルリ様、ご助力の方、必要ですか?」
クロミルはペラーネとペリーネの様子を見て、さきほどのように上手くいかないと判断する。そのため、ルリが協力を仰ぐかもしれないと推測し、自ら声をかけたのだ。
「いい」
そんなクロミルの心配を、ルリは笑顔で断る。強がりでも虚勢でもなく、本当に要らないとルリは直感で判断したのである。
「かしこまりました。くれぐれも油断なさらぬよう、お気を付けください」
クロミルは何度も釘をさす。
「うん♪」
ルリは笑顔でクロミルに返事をし、ペラーネとペリーネの方を向く。
「この魔法を見れば、」
「あなたのすまし顔も恐怖に焼かれることになるわ」
「「いくわよ!!」」
二人は協力して魔法を発動する。
「「【隕灼槍華】!!」」
二人がその魔法名を唱えた瞬間、二人の後ろに大きな【灼華】が現れる。その【灼華】の中から大きな槍が、さきほどまでの【灼槍】とは比べものにならないほど巨大な槍が出現する。その大きさは、巨人が扱う武器のサイズのようである。
「最後通告するわ」
「このまま負けを認めなさい」
「さもないと、」
「焼死するわよ?」
ペラーネとペリーネが交互に言葉を述べ、降参することをルリに勧める。
「ううん。ルリは負けないから、負けを認めないよ」
その言葉に、感情のブレが一切なかった。
ルリの返事に、ペラーネとペリーネは目を見開く。
「なら死んで、」
「後悔しなさい!!」
巨大な槍がルリめがけて発進する。
「・・・」
マーハン側にいる人物はある人物を除き、全員が勝利を確信していた。
「「「・・・」」」
それに対し、彩人達は何も言わなかった。
(いけ、ルリ!)
彩人の周囲にいる人々は全員、ルリの勝利を確定し、応援していた。
そしてルリは、
「あれを氷らすのはちょっと時間がかかりそうだな」
みんなの期待に応えようと動き出す。
この決闘に勝利するために。
「なら、これで殴って飛ばすか」
ルリは自身の拳を氷らす。
「は!血迷ったか!」
「もう終わりよ!」
ペラーネとペリーネは自身の拳を凍らせたルリの行動を中傷する。
「終わりじゃないよ」
ルリは構える。
「これに勝って、お兄ちゃんに繋げるんだもん。だから、終わらせない」
ルリは二人の赤魔法、【隕灼槍華】に近づく。
そして、
「!?」
ルリの氷った拳と【隕灼槍華】がぶつかる。
「「!!??」」
この行動に、ペラーネとペリーネは驚く。何せ、【隕灼槍華】の表面温度は、決して生身の人間が触れられないほど高温になっている。そんな魔法をルリは、氷っているとはいえ素手で直接触れているのだ。驚きもするだろう。ヤヤ達も心配げに見ていた。
「頑張れー!」
そして、ヨヨの応援が声として現れる
その声を合図とし、
「ルリちゃーん!」
「…頑張れ」
「そのままやっちゃって!」
クリム達も応援し始める。
(ありがとう、お姉ちゃん達)
そんなことを胸の内に秘め、
「はあぁ!」
ルリはさらに力を込める。その拳は、少しずつ【隕灼槍華】を押し始める。
「「なっ!!??」」
この現象に、ペラーネとペリーネは驚きを隠せない。
「おーりゃあ!!」
ルリはさらに氷った拳で【隕灼槍華】を押し、ルリが腕をおもいっきり振る。その時には【隕灼槍華】は完全に氷っており、吹っ飛んだ。遠くでどこか氷が割れたような音が聞こえた気もするが、そんな音はどうでもよかった。ただ目の前の現実、【隕灼槍華】が吹っ飛んだ。それ以上の情報など不要だった。その情報に腰を抜かしているのは、
「うそ・・・」
「あ、ありえない・・・」
ペラーネとペリーネであった。先ほどの魔法は二人の全魔力を込めて放った魔法である。本来、魔力を混ぜ合わせる事はとても難しい行為である。だが、それをこのペラーネ、ペリーネが出来たのは、二人が双子だから、というのも理由の一つなのかもしれない。そんな苦労も含まれていたため、二人は想像以上に驚いていた。
「ふぅ」
ルリは氷っていた拳を自ら溶かす。溶かすと、ルリの拳は露出する。
「・・・よし」
ルリは軽く拳を動かし、いつも通り動かせるか確認する。
「さて、と」
確認が終わると、ルリは二人の方へ向く。
「それで、これで終わり?」
ルリはゆっくりと近づく。
「距離をとらなきゃ!」
「そうね、ペラーネ。距離を・・・、」
「逃がさないよ、【蛇睨み】」
ルリが二人に睨みをきかす。その睨みにより、動かそうとしていた足が動かなくなり、ルリから距離をとることが出来なくなる。
「な、な・・・、」
「なに、これぇ」
ペラーネとペリーネは【蛇睨み】によって動けなくなる。
「それでお姉ちゃん達はどうするの?」
動けなくなった二人に、ルリはゆっくりと近づく。
「負けを認めるの?それとも、まだやる?」
確実に歩みを進ませ、ルリは二人との距離を縮ませていく。
(まだ負けたわけじゃない。そうよね、ペリーネ?)
(まだ勝機はあるわよね、ペラーネ?)
二人は互いに視線を動かし、頷く。二人の考えが一致した。
その考えは、
「【灼槍】!」
「【灼華】!」
「そんなもの、で?」
ペラーネとペリーネの魔法の対象はルリ、ではなかった。何せ、二つの魔法はルリを通り過ぎたのだから。そして、その対象は、
「クロミルお姉ちゃん!」
クロミルであった。
「あなたの仲間を道連れにしてやる!」
「そうすればまだ勝てるわ!」
ペラーネとペリーネはまだ勝つ気でいた。弱いクロミルを倒せば動揺し、その内に倒せれば。そんな考えを二人、ペラーネとペリーネは持っていた。
だが、ペラーネとペリーネの考えは甘かった。
「【牛の亀盾】!」
クロミルは耐える構えをとり、受けた。
((やった!!))
クロミルに二つの魔法が衝突した瞬間、二人の顔に生気を宿す。
だが、二人に待ち受けていたのは、
「やはり、ルリ様の攻撃の方が痛く、厄介ですね」
「「!!??」」
絶望であった。魔法の攻撃対象であったクロミルが無事だったからである。
「ねぇ?今、ルリと決闘しているのに、どうしてクロミルお姉ちゃんに攻撃したの?」
ルリは、何故今まで参戦してこなかったクロミルに攻撃したのか問う。
「「・・・」」
二人は答えなかった。答えようによっては死ぬ。そう本能が警告していたからである。
「そう」
ルリはそう返事をし、
「なら、すぐに終わらせる」
ルリは一瞬でペラーネの元へ移動する。
「!?」
ペラーネは、いきなり目の前に移動してきたルリに驚く。そして、驚いた直後、ルリにぶん殴られ、決闘場の壁をクッション代わりにする。
「!?ペラー・・・!?」
ペリーネはペラーネを心配して声をかけようとしたのだが、ルリがペラーネをぶん殴った直後、ペリーネの元へ一瞬で移動する。その直後、ルリはペリーネを決闘場の壁まで吹っ飛ばす。吹っ飛ばした横にはペラーネがいた。
「ふぅ」
ルリは一息つく。
「まったく。ルリと戦っていたのに、クロミルお姉ちゃんに手を出すなんて!」
ルリは、子供が起こるようにプンスカ怒る。
「そこでしばらく反省!」
その反省は、あまりにも痛々しいものである。
「そちらのお方、ルリ様に勝利の合図を」
クロミルが審判に判決を促す。
「は!?しょ、勝者、ルリ殿、クロミル殿!」
審判の合図が、彩人側を喜ばせる。この審判の声が、次の決闘で全てが決まることを意味している。それとは逆に、マーハン側の人達の顔色がマーハンを筆頭に優れなくなった。
「ルリ様、大変お疲れ様でした」
「えへへ~♪思った以上にたいしたことがなくて拍子抜けだったけどね」
そんな会話をしながら、ルリ達は決闘場中央から離れ、彩人達の元へ歩み始める。
「ルリちゃ~ん!」
ルリに抱きついたのは、ヨヨであった。
「ヨヨちゃん!」
ヨヨの抱きつきにルリは答える。
「ありがと~」
ヨヨは笑顔でお礼を述べる。
「えへへ~♪」
ヨヨの言葉にルリは頬を緩める。
「クロミルちゃんもお疲れ様です」
「特に最後のあれは最高でしたよ!」
「…ご苦労様」
リーフ、クリム、イブもクロミル達を労う。
「いえ。私は本当に何もしていません。全て、ルリ様おひとりであのお二方と戦い、勝利したのですから」
クロミルはそう言い返す。その会話の中に、モミジ、ファーリも加わり、みんなが二人の決闘の勝利を祝う。
「でも、これからだよ」
そうルリは言い、彩人の方を見る。
「そうですね」
クロミルも彩人の方を見る。
「これで4戦2勝2敗となりました。よって、次の決闘で全て決まるという事です」
このクロミルの言葉で、全員彩人を見る。
「ご主人様、出番でございます」
クロミルは彩人に近づき、彩人に白魔法をかけ、減っているかどうか分からない体力を全快にさせる。
「これで問題ないはずです」
「お、おう。回復させなくてもよかったのに。でも、ありがとな、クロミル」
彩人はクロミルにお礼を言う。
「いえ、今の私ではこれぐらいしか出来ませんので」
クロミルは謙虚な姿勢をとり続ける。
「そうか?」
彩人は首をかしげるものの、それ以上首を突っ込んだ発言をしなかった。
「全てはアヤトにかかっていますよ!」
「アヤト、頑張ってください」
「…ん。健闘を祈る」
「「「がんばれー!!!」」」
「あ、アヤトさん。む、無理の無いようにお願いしますね?」
「ニャン!」
他の者達も、彩人を応援する。
「ああ。行ってくる」
その応援の数々に、彩人は短い返事で返す。その返事に今思っている気持ちを込める。そして彩人は、決闘場中央に向けて歩き出す。
彩人が決闘場中央に向かおうとする直前、
「お兄ちゃん!」
「ご主人様!」
ルリとクロミルが彩人にかけよる。
「?どうした?」
彩人は二人のいつも以上に険しい顔に真剣さを感じ、彩人も先ほど以上に気を引き締める。
「多分だけど、お兄ちゃんの対戦相手、あいつじゃない?」
「あいつ?ああ、あいつか」
「おそらく決闘前私達を威嚇してきた者かと」
「・・・ああ」
彩人はさきほどの記憶を辿り、思い出す。そして、決闘場中央には、ある男性が剣を携えて堂々と立っていた。
「あいつ、だな」
「お兄ちゃん、頑張ってね」
「分かっていると思いますが、くれぐれも油断なさらぬようお気を付けください」
「ああ、分かっているさ」
こうして彩人は、決闘直前に二人の忠告を受け、決闘に臨む。
そして、彩人を見送ったクロミル達は、
「それじゃあ今から、出来るだけ小さな声で話しますか」
リーフが話を切り始める。
「え?何を話すの?」
リーフの提案に、ヤヤは質問する。ユユ、ヨヨもヤヤと同じように疑問を浮かべていた。
「そうですよ。一体何を始めようとしているのです?」
クリムのこの質問に、
「…相手も随分、用意周到」
このイブの発言に、リーフ、クロミルは納得していた。
「ねぇ?一体何の話をしているの?」
ルリがクロミルを見て質問する。
「ルリ様は既にお気づきだと思いますが、この決闘場周辺に、武装した方が多数おられます」
「まぁ、そうだね」
クロミルが決闘場周辺の状況について説明する。ルリもどういうわけか、事前に決闘場周辺に武装した人間がいることを把握している。
「で、それがなんなの?」
「…おそらく、マーハンは万が一を考えて行動している」
「万が一?万が一とは何なのですか?」
イブの説明にモミジが質問する。
「…あいつらにとって、私達の勝利が想定外な事。そして、その万が一のことが起きた場合、あいつらはその勝利をなかったことにしようとしている」
「?どうやってって・・・まさか!?」
モミジはある可能性に思いつく。そのモミジの顔を見て、イブは静かに頷く。
「…そう。あいつらはもしもの場合、私達全員を殺し、決闘そのものを無くそうと企んでいる」
「「「!!!???」」」
ヤヤ達はイブの言葉に驚愕する。何せ、負けたら全権利を奪われ、勝ったら殺されるという、最悪な2択しか残っていなかったのだから。
「ですから、そうならないよう策をこれから練るんです。ファーリちゃんもしっかり聞いていてくださいね?」
「ニャン」
彩人の決闘の裏で、リーフ達は行われるかもしれない殺戮劇に対する策を練り始めた。
次回予告
『4-2-48(第322話) 黄の国での決闘~その5~』
決闘第1回戦2回戦共にマーハン側の勝利だったが、3、4回戦共に彩人達側の勝利となり、双方後がなくなった。決闘第5回戦の対戦カードは、彩人と雷砕のザッハことザッハである。お互いの全てを賭けた決闘に臨む。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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