4-2-46(第320話) 黄の国での決闘~その3~
時間はほんの少し経過。
「「「・・・」」」
リーフ、クリム、イブの3人はただ黙って歩き、目的地へと向かっている。その表情はとても真剣で、キャットファイトをする雰囲気では到底ない。
そのまま3人は黙々と歩き続け、決闘場からの光が差し込み始める。それは、まもなく決闘場へ到着することを指し示している。
「いいですか二人とも」
リーフは突然、両隣りにいるクリムとイブを見ずに話しかける。
「「・・・」」
二人はただ黙ってリーフの話を聞いている。
「絶対に勝ちましょう」
重みをもたせた言葉に、
「もちろんです!」
「…当然。次の二人に繋げる」
二人も重みをもたせて答える。
まもなく、第3回戦が始まる。
「これから、クリム殿、イブ殿、リーフ殿達と、フラッタ殿、リンドム殿、デコーダ殿達の決闘を始めます」
決闘場に人が集まったため、審判が声を張り始める。
「けっ!また女かよ!」
「こりゃあこいつらも楽勝だな♪」
「そしたらこいつらの全てを堪能できそうだ」
冒険者である男達、フラッタ、リンドム、デコーダはクリム達を凝視しながら言う。特にリーフの上半身、それも2つの双丘を見ていた気もするが、その真偽は、リーフの嫌そうな顔で分かることだろう。
「それにしても、さっきの女ども、まったく役に立たなかったよなぁ?」
ピク。リーフ、クリム、イブの3人の耳が動き、男達の話が否が応でも耳に入ってくる。
「だな。それならさっさと棄権すればよかったのにな」
「初戦で出たやつもそうだが、さっき戦っていたやつらも、無様に足掻いていていやがって。無駄だったってこと、分かんねぇのかね」
「「それな」」
3人は息を合わせてさきほど闘ったヤヤ姉妹3人の闘いを肴に笑いを作り出す。
確かにヤヤ姉妹は決闘に負けた。そもそも、たかが約十日間で、何年も戦い続けてきた冒険者に勝とうだなんて、夢話だったかもしれない。無茶で無謀で無策だったかもしれない。
だがリーフ、クリム、イブは、ヤヤ姉妹の努力を知っている。
この決闘に勝とうという強い意志を知っている。
例え勝つ確率が限りなく0に収束していたとしても、決して諦めなかった心を知っている。
そんな3人の気持ちを、目の前にいる冒険者達は侮蔑し、笑ったのだ。
「あなた達ごときが、ヤヤちゃん達のことを笑わないでください」
「…なんだと?」
リーフの発言に、男達はあからさまに不機嫌化する。
「…ん。凄く不愉快」
「まったく!あの子達がどんな思いで闘ったのか知りもしないで!」
イブ、クリムも、目の前の男達に敵対する様な目で睨みつける。そんな目で見られた男達もいい気分なんてしないだろう。その気分を拡散させるかのように、男の冒険者の内の一人、フラッタが喋り始める。
「はん!結局は結果が全てだ!」
そのフラッタの言葉にリンドム、デコーダも乗り始める。
「そ、そうだ!」
「俺達が数々の闘いに勝って生き残ってきた!その結果、俺達は今ここにいる!」
フラッタ、リンドム、デコーダはリーフ達に刃を向け、戦闘態勢に入る。
「なら、あなた達に思い知らせます。ヤヤちゃん達が私達に何をもたらしたのか」
「…そして、敗北という結果を、」
「その体に叩きつけます!」
リーフ、イブ、クリムも戦闘態勢に入る。
「それでは、始め!」
審判の掛け声とともに、決闘が三度始まる。
「おらぁ!」
初めに声を出し、イブ達に突撃してきたのは、爪を武器としている冒険者、デコーダである。
「てめぇは俺様が相手だ!」
「!?」
デコーダはイブに狙いを定め、急接近してイブめがけて爪を振り下ろす。イブはその攻撃をよく見て躱したが、デコーダは何度も何度も爪を振り続け、イブとの距離を詰める。
「…離れて」
そんなイブの声なんて無視するかのように、デコーダはイブの体めがけて鋭い爪を光らしていく。
「イブ・・・!?」
クリムが応援に行こうとしたが、突然クリムの周辺に何かが落ち、土煙が舞う。
「君は僕の相手をしてほしいかな」
杖を持った冒険者、リンドムはクリムめがけて魔法を放っていた。
「さぁ、次の【氷球】をくらってもらうよ」
「全部殴り落とします!」
クリムは、リンドムが放った【氷球】を殴りつけ、対処を始めていく。
「では、あなたが私の相手ですか」
「そうみたいかな」
大きな盾を構えている冒険者、フラッタが目で睨みつける。
1対1の戦いが3箇所で起き始める。
その戦いを、
「ニャー」
ファーリは応援する。3人の勝利を願って。
「はぁ!」
リーフはフラッタめがけて細剣を突き刺そうと動き、リーフの前後方向に
細剣を動かす。
「ふん!」
その攻撃をフラッタは華麗に受け流した。リーフはカウンターを恐れ、今まで以上に警戒し、何があってもいいように素早く構え直す。
「・・・」
だが、フラッタはリーフに対して何もしてこなかった。
(どういうこと?)
リーフは、さきほどの攻撃でなにかしらフラッタが反撃するものだと考えていた。だが、結果はただ受け流しただけで、攻撃してこなかったのだ。
(確かめてみるとしますか)
リーフはさらに攻める。今度は、自身の身の保証を考えず、相手を倒すことだけを考えて細剣を何度も振り続ける。
(やっぱり!)
この連撃でリーフは確信した。リーフは途中で攻撃の手を緩め、フラッタとの距離を図る。
「どういうこと?」
フラッタはリーフの行動に疑問を持ち、そのまま投げかける。
「どういうこと?それはこちらが言いたいですよ」
リーフは細剣を振るい、自身の現気持ちに整理をつける。
「あなた、この決闘で何を企んでいるのですか?」
そしてリーフは、フラッタの質問に質問で返す。
「企む?それはどういう意味だい?」
フラッタは表情を変えずに問う。
「どういう意味も何もあなた、この決闘に勝つ気などありませんよね?」
「勝つ気がない?そんなことないよ」
「ではさっきから、あなたは何故反撃してこないのですか?」
「ああ、そのことかい」
フラッタは笑いをこぼす。
「…何がおかしいのです?」
「何がおかしいって、分からないの?」
「察しはある程度ついていますが、確認のためです」
「確認、ね。それじゃあ、」
フラッタは左手を挙げる。瞬間、フラッタとリーフの周囲に透明な何かが張られる。
「!?」
リーフは周辺の異変に気付き、細剣を構える。
「一足遅かったね」
「…何をしたのですか?」
「私があなたにそれを言う理由ってあるのかな?」
「ないですね」
「でもまぁ、教えてあげるよ。どうせ分かっているだろうし」
「やはり、あの二人が勝つための時間稼ぎ、ということですか」
そう。
フラッタは、自分が勝つためではなく、仲間が勝つまでの時間を稼ぐために、リーフに攻撃せず、徹底的に自身の身を保持していたのだ。
「ちなみに、その【結界】はある特殊な条件下でしか解けないよう【付与】した特別な代物だからね。無駄に攻撃しない方が賢明だよ」
「・・・本当、みたいですね」
(それにさきほど【付与】と言っていましたね。おそらく彼もアヤトと同じように白魔法に適性があったのですね)
リーフは最初、フラッタの言葉に反して、何度か【結界】に攻撃を試みたのだが、一向に壊れなかった。亀裂が入る様子もない。その様子から、フラッタの言っていることは本当なのだと理解させられた。
「だったでしょう?だからそこで大人しく待っていなよ」
あなたの仲間達が負けるまでね。
そうフラッタは言った。その言葉に対し、リーフは笑った。
「?何をそんなに笑っているのかな?」
フラッタはリーフの様子に心底おかしい人を見るよう目で見る。
「何をって、随分殊勝な心掛けだなと思いまして」
そのリーフの言葉に、フラッタは僅かに眉を動かす。
「どうしてかな」
「その作戦、あの二人がイブ、クリムに勝つこと前提よね?」
「ええ。それが何か?」
「あの子達は簡単に、あいつらに負ける事なんてないわ」
「どうしてかな。わざわざこちらが優勢になるよう、1対1で組んだというのに」
「それでも、あの子達は負けない」
「・・・」
リーフはクリムとイブの勇姿を目視する。フラッタはリーフの様子に疑問を浮かべながらも、時が来るまで待つことにした。
「おらおらおらおらあぁ!!」
「…鬱陶しい」
イブとデコーダの戦いは、デコーダは押しているように見られる。
何せ、デコーダは一方的にイブを攻撃し続けている。それに対し、イブは攻撃の会費を徹底している。どちらが優勢と言えば、みながデコーダ、ということだろう。だが、イブが完全に劣勢というわけではない。何せイブは、デコーダの攻撃を紙一重で避けられるように体を動かし続けているのだから。そんなイブの思考は、相手のデコーダに伝わることなんかなく、
「そんなんじゃあ、一生俺に勝つことなんて出来ねぇぞ!」
デコーダはイブを煽り、攻撃し続ける。
「オラオラオラあぁ!」
「・・・」
イブはさらに距離をとり、態勢を立て直そうとする。
「そんなことさせっかよ!」
「!?」
そんな思惑をぶち壊そうと、デコーダは空いた距離を詰め、爪をイブめがけて振り下ろす。
そして、デコーダの爪が腕をかすり、頬をかすめる。
「さぁて、やっと捉えたぞ」
デコーダはイブに攻撃を当てられたことによる喜びを顔で表現しつつ、両手に力を入れ直す。
「…まったく。これだからクリムみたいな脳筋は困る」
「なんだと!?」
デコーダはイブの言葉に激昂し、両手にいつも以上の力が入る。
「…私はもっと遠距離で動かずに戦いたい。だから、クリムみたいに激しく体を動かすのは苦手」
「だったら、大人しく俺に負けて、退場しやがれ!」
デコーダは急接近し、イブめがけて爪を光らせる。イブはその攻撃を冷静に躱し、言葉を述べ続ける。
「…でも、対策をとっていないわけじゃない。苦手だからこそ、慎重に対策を練ってきた」
「口を動かすより、体を動かしやがれ!」
しゃべり続けるイブの口を塞ごうと、デコーダはさらに攻撃速度を上げようとする。
「…ふん」
「!?ちっ!」
イブは、魔力で形成した腕を思いっきり地面にたたきつけ、土煙を周囲に巻き起こす。デコーダはその土煙に動揺し、攻撃がストップする。
「この程度で俺を足止めできるなんて、思うなぁ!」
デコーダは爪を全力で振り、土煙を晴らす。
「…でも、時間はある程度稼ぐことができる」
「それがどうしたぁ!?」
「…その時間があれば、出来る」
イブは自身の指から糸状に魔力を放出し、自身の関節等いたるところに接着させる。
「…自身の魔力だけで、自身の体を思う存分動かせるように」
やがて土煙が晴れ、デコーダがイブを視認する。その後、すぐにデコーダはイブめがけて突撃する。
「…魔力で腕を形成することを応用させたこの魔法なら、クリムみたいな脳筋でも対等の相手が出来るはず」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」
デコーダはイブに爪を突き刺そうと、突きの構えをとり、イブに狙いを定める。
「…ふん」
イブは自身の指を動かす。すると、その動きに連動するかのようにイブの体が動き、デコーダの攻撃を難なく躱す。
「魔力制御を自分なりに極めた結果がこれ」
「これでもかぁ!」
デコーダは連続で爪を振り下ろしたり、振り上げたりし、イブを仕留めようとする。だが、イブは指先を少し動かし、デコーダの攻撃を無駄なく躱す。
「…無駄。この魔法なら、あなたと互角以上に戦える」
「こんのぉ!」
デコーダは今まで以上に攻撃速度を上げてイブを追い詰めようとするが、イブはそれらの攻撃に対し、涼しい表情で躱し続ける。確かに今のイブの動きは先ほど以上に激しくなっているが、イブは全て対応している。イブの今の動きを可能にしているのは、自身の体のあらゆる箇所に接着している糸状の魔力と、イブの指先。そして、どのように指先を動かせば体がどう動くか把握していること。これらの要素が必須になっている。
指先一つで体を動かすことで、肉体的疲労を抑える事が出来るだろう。
逆に言えば、指先の小さな動きで、体の向き、関節の位置、足を曲げる角度等が全て決まってしまう。肉体より精神にかかる負荷の方が圧倒的に大きいだろう。それを今、イブは指先だけで制御しているのだ。
それはもう、二つの腕を新たに形成し、自由自在に動かすことよりはるかに難しいのである。
「…なんなんだ。お前のそれは一体なんなんだよぉ!」
デコーダは今まで見たことないイブの動きの鋭さに愚痴を殴りつけ始める。
「…この魔法にまだ名前はつけていない。けど、もしつけるとしたら、」
イブなりに魔力制御を極めた結果、魔力と指先だけで体を制御する魔法。その魔法をイブはこう名付ける。
「…【魔力制体】。これがお前を倒す魔法名」
瞬間、イブはこれまで見せたことがないくらいの力で地面をける。イブのこの行動を予測していなかったデコーダは反応に遅れてしまう。
「しま・・・!?」
「…遅い」
イブは出来るだけ近づき、魔力で形成した腕を使い、至近距離でデコーダを殴りつける。
「ぐっ!」
「…これでもう、あなたは私に勝てない」
イブは油断こそしなかったものの、勝利への道が示されたのだと気づくことになる。
時を同じくして、
「ほら~?どんどんいくよ~」
「全部、全部殴り落とします!【炎拳】!」
クリムと杖を持った冒険者、リンドムが戦っていた。リンドムは常に【氷球】を作成し、クリムめがけて発射している。クリムは【炎拳】を発動し、拳に炎を纏わせて【氷球】を殴り、地面にたたき落とす。一つ一つはたいしたことないのだが、無限に近い数を生成し続けており、クリムは【氷球】の対処のせいで、リンドムに近づけないでいた。
「ち!」
クリムは【氷球】の数の多さに舌打ちしつつも、立つことだけにしか使っていない足を使って、なんとかリンドムの元へ行こうと進ませる。
だが、
「近づけさせないよ~?はい!」
リンドムは地面に手を付け、一面に氷を張る。
「!?やばっ!?」
クリムは地面の氷に足を滑らせ、冷たくなった地面との接触面積を広くしてしまう。そしてその隙をリンドムは見逃さない。
「それいけ~」
リンドムは【氷球】をクリムの場所へ集中的に送り込む。
「しま…!?」
無数の【氷球】がクリムめがけて襲っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
クリムは【氷球】をくらってしまい、血を流す。
「あらら。あれだけ当てたのにまだ立っていられるんだね」
リンドムはまた【氷球】を発生させる。
「それじゃあ、もう終わりにしようかな」
リンドムが杖をあげる。すると、球の形をしていた【氷球】が変形していく。
「さぁ。これで串刺しにしてあげるよ」
リンドムが杖を下ろすと、槍の形に変形した【氷球】、【氷槍】がクリムを襲う。
「まったく。らしくないことはするべきではなかったわ」
リンドムに聞こえないクリムの小さな独り言の後、クリムは【氷球】を躱す。そして、手には炎を纏わせていた。
「私がすべきことは、相手をぶん殴る。ただそれだけだったんだから!」
クリムはリンドムめがけて走り出す。
「はっはっは。馬鹿じゃないかな。」
リンドム【氷槍】の数を増やし、逃げ場を減らしていく。
「私の【氷槍】は、そんじょそこらの槍より硬いからね。死んで?」
そう言い、リンドムはクリムめがけて【氷槍】を発射させる。
「だったら、強行突破するまでよ!」
クリムは加速をつけて走り、自身と地面との距離を開ける。
「お願い!力を貸して!」
クリムは、自身が今履いている靴を触り、そう叫ぶ。そして、靴の円筒部から大量の魔力が噴射される。
「その程度で避けられると思わないでよね」
空中に移動したクリムに狙いを再度ロックオンし、【氷槍】を発射させる。
「それでも、行くしかない!行くしか、ないんだ!」
クリムは掌を固い拳に、より炎を燃え上がらせる。
「【炎拳】!」
クリムは【炎拳】を進行方向に向け、靴の円筒から発射させた魔力の推進力でリンドムへ急接近していく。途中、【氷槍】の妨害があったら、全て【炎拳】でぶち壊していく。クリムの拳もただでは済まなかったらしく、炎とは異なる赤色を帯びていく。だが、それでもクリムは進むことをやめない。
「なんで?なんで止まらないのかな!?」
「当たり前です!」
クリムは拳を構え直し、拳に纏っている炎を濃縮させ、炎の温度を上げていく。
「あんた達に勝って、ルリちゃん達に繋げるために・・・!」
クリムはリンドムに向けて拳を振り下ろす。
「絶対に、負けられないんだから!」
「ぐっ!?」
クリムの【炎拳】がリンドムに炸裂する。
「こ、こうなったら、あれで倒すしかないかな!」
リンドムはクリムから距離を取り、フラッタの【結界】を触る。それとほぼ同じタイミングで、デコーダもフラッタの【結界】を触る。すると、フラッタの【結界】が解除される。
「なるほど。仲間の接触が条件で解除される【結界】でしたか」
「そういうこと。」
「すまねぇ。あいつ、思った以上にやりやがるぜ」
「本当だよ。おかげでこちらが協力しないと勝てないことが分かったよ」
「了解した」
フラッタ、デコーダ、リンドムが合流したのと同タイミングで、リーフ、イブ、クリムも合流する。
「もしかしなくとも、相手は何かする気ですね」
「…ん。要注意」
「ですけど、やることは変わりません」
そのクリムの言葉に、リーフとイブは頷く。
「「「絶対に勝つ!!!」」」
クリム、リーフ、イブは意気込みを再確認し、決闘相手を睨むように見て、臨戦態勢をとった。
「それじゃあいくぞ!」
「「おう!!」」
デコーダの掛け声にリンドム、フラッタは返事をした。そのすぐ後、フラッタはデコーダに白魔法をかけ、デコーダを回復させる。その後、リンドムがデコーダの爪に氷を纏わせる。
「おおお!!」
デコーダは大きくジャンプをし、空中へ上昇する。その際、リンドムはデコーダの爪と自身の魔力をくっつける。フラッタはデコーダに向けて大きな盾を構える。その後、デコーダは両手を広げて回転し始める
その速度は徐々に上がり、体の輪郭が見えなくなり始める。そして、デコーダの爪から氷を纏った斬撃が無数に、無作為に飛んでくる。リーフ達に飛んでいくが、リンドム達にも飛んでいく。
「これが、3人が力を合わせた技・・・」
「…そうみたい」
「厄介ですが、全部殴り落としておしまい・・・」
「ダメ!」
クリムが氷の斬撃を殴り落とそうと、氷の斬撃に触れると、クリムの拳に大きな裂傷がつく。
「!?」
「これはおそらく、氷を纏っている斬撃。だから氷を溶かしたとしても、斬撃に拳で落とす、なんて安易な考えは捨てて!」
「ならどうすれば・・・?」
「私が、なんとかする!」
クリムより一歩前に出て、リーフは細剣を振るい、全ての氷の斬撃を防ごうとする。
だが、氷の斬撃は無作為に飛んできていて、且つ斬撃の数が多い。リーフはその斬撃を全てさばききることが出来ず、リーフの体全身に裂傷をうんでしまう。
「くっ!」
リーフはそれでも防ごうと奮闘する。
が、突如、紫色の大きな手にリーフは護られる。
「これは・・・イブ?」
「…ん。これ以上の無茶は辞める」
イブの魔力で形成された大きな腕によって、デコーダの氷の斬撃を防いでいく。
「うおおおぉぉぉ!」
「「いっけえぇ!!デコーダ!!」」
デコーダはさらに回転速度を増していく。そして、回転速度の上昇に比例し、氷の斬撃の数も多くなっていく。
「ぐっ!?」
「「イブ!!??」」
氷の斬撃によって、イブの腕が大きく傷つく。
「ふぅ。こんなものか?これでやつらも・・・ありゃ?」
「まだ生きているみたいだよ」
「だが、相手はかなり疲労しているみたいだ。その点、」
フラッタはデコーダに白魔法をかけ、さきほどの攻撃で消費した体力を回復させる。
「こちらには回復手段があるからね」
「氷の方も充填しておくかな」
リンドムも。デコーダの爪に手を当て、氷を補填する。
「おぉ、サンキュー」
デコーダは二人の支援に感謝の言葉を贈る。
「どうだ!?これ俺達の最強の連携技、【氷斬乱舞】だ!今は運よく行き居残ったみたいだが、次は絶対に上手くいかねぇ!そしてお前らは、次で負けるんだ!」
そうデコーダは宣告する。
「いくぞ!」
デコーダは再び空中へ舞い、回転し始める。
「イブ、次の攻撃を完全に防ぎきることが出来ます?」
「…難しい。出来たとしても、次は再起不能になると思う」
「そう、ですか・・・」
リーフはイブの状況を整理する。
今、目の前の三人の連携技、【氷山乱舞】を防ぐことが出来ない。出来なければ、負けて全てが終わってしまう。この状況で何をどうすればいいのか、リーフは落ち着こうとしながら思考を続けていく。
「私、氷だけならなんとか出来るわ!」
クリムがここで自分の長所を織り込んで発言する。そのクリムの言葉の後に、
「その上、短時間だけなら、どう?」
リーフはイブに問う。
「…時間にもよるけど、多分いける」
そのセリフを待っていたと言わんばかりに、リーフは大きくうなずく。その頷きの後、リーフは二人に問う。
「二人とも、勝つか全て失うかの勝負に出る覚悟はある?」
その言葉に、イブとクリムはこう答える。
「…もちろん」
「だからこそ、この場にいるんですから!」
その言葉を聞いたリーフは、自身がさきまで考えていた作戦を簡単に話す。
「全員、かなり切り傷を負うことになるけど、これでいい?」
「…問題ない」
「怪我に恐れるほど、私は落ちぶれてなどいません!」
「分かりました。それでは、作戦は先ほど伝えたことですし、大丈夫ですよね?」
「多分!」
「「・・・」」
リーフの確認に対し、クリム返答する。その返答は不安を煽るものであったが、いつものクリムであると二人は自身を納得させる。
「じゃあ、行きますよ!」
「「はい!!」」
この瞬間にも、【氷斬乱舞】により発生した氷の斬撃は雨のように降り続ける。
「【炎獄】!」
クリムの作った【炎獄】により、氷の斬撃の氷が溶け、ただの斬撃となる。
「…く」
その斬撃を、イブがみんなを守るように、魔力で形成した腕で包み込む。
「そんなものじゃあ、俺達に勝てやしねぇぞ!!」
デコーダは回転しながらクリム達に叫ぶ。
だが、クリム達は防戦にまわったわけじゃない。
「…リーフ、まだ?」
「もう少し、もう少しです」
リーフは両手に魔力を溜める。今溜められるだけの魔力を両手に溜め込んでいく
「ほら。やっぱりお前らでは勝てないんだよ」
ここぞとばかりに、フラッタはイブ達に強い口調で話をぶつける。
「例え今、まぐれで勝ったとしても、次の決闘はもちろん、最後の決闘でお前らが勝つなんて、どんな奇跡が起きようと不可能かな」
「「「・・・」」」
イブ、クリム、リーフはそれぞれの魔法に集中しているため、話は聞いているが返答せずに集中する。
「だから、ここで楽になって死ね!」
叫ぶかのようにデコーダは死の宣告を三人に下す。
「負けませんよ」
リーフは答える。魔力を乱さぬよう、静かに、冷静に。
「この状況で何を言っているんだ?」
「君は何を言っているのかな」
「てめぇ、今のお前たちを見ても、そう言えるのか?」
フラッタ、リンドム、デコーダはリーフの言葉に反論する。
「例え傷だらけになっても、最後に勝てば、後はルリちゃん達がなんとかしてくれます。今の私達に出来る事は、」
魔力を極限まで高密度にし、
「この決闘に勝つことです!」
リーフは魔法を発動させる。
「【葉吹雪】!!」
リーフは決闘場を覆うかのような大規模で魔法を発動させる。その魔法により、フラッタ、リンドム、デコーダの視界は不鮮明となる。
「おらおらおらあぁ!!」
デコーダは、視界が不鮮明になっても回転し続ける。だが、リンドムとフラッタは違う。二人はより一層警戒し、どこから飛んでくるか分からない攻撃に備える。もちろん、デコーダの巻き添えをくらわないように。
「!?あそこ」
そして【葉吹雪】の中、フラッタは紫色に光る光源を見つける。リンドムもすぐに向き直し、
「【氷球】!!」
【氷球】を無数にぶつけていく。何かにぶつかったのか、二人の視界では判別できないが、【氷球】が何かにぶつかったような音が二人の耳に届く。
「ふっ。とんだ笑い話だ」
「まったく。せっかく視界を奪ったのに、あんな光を晒しちゃ、自分達の居場所を相手に教えるようなものなのにね」
フラッタとリンドムはもう勝った気でいた。
確かに、光源があった場所は【氷球】により無残となっていることだろう。
「はっ!さっき素直に降参していれば、怪我を負うことなく終わっていたのによぉ!」
デコーダも、勝った気でいた。
「確かに、終わっていますね」
「「「!!!???」」」
だが、それは間違いであった。
「ぐっ!?な、なんだ!?」
突然、デコーダの体に衝撃がほとばしる。その衝撃は明らかに人為的であるとデコーダは確信する。
「ここ、かぁ!?」
デコーダは不可視の中、むやみやたらに爪を振り回す。
(ここ!)
リーフは靴の円筒部から魔力を噴射し、自身の位置を移動させ、
「ぐっ!く、くそ!どこだ!どこから攻撃していやがる!」
デコーダは攻撃している者に声を張り上げる。
(今だ!)
リーフは今までで一番力を込め、デコーダを細剣で押すように爪だけを突き刺す。
「ぐっ!お、お前は!?」
「これでやっと、思う存分反撃出来ます」
リーフは再び突きの構えをとる。
「舐めるなぁ!」
デコーダは封じられていない方の爪でリーフを切り裂こうとする。
「舐めてなどいません」
リーフは不安定な視界の中、僅かに見えるデコーダの影から動きを先読みして躱す。
「はぁ!」
切り裂こうと動かしていた爪を突き上げ、隙を作る。その作った隙の間に、リーフは細剣先にあるだけの魔力を込める。
「吹っ飛びなさい!」
その後、リーフはデコーダの体に細剣の剣先を当て、魔力を高密度で噴射させる。その噴射により、デコーダは大きく位置をずらされていき、
「「!!??」」
デコーダは決闘場の壁に激突する。その音は、【葉吹雪】の中にいるリンドム、フラッタにも聞こえた。
(…どうやらリーフは上手くいったみたい)
(次は、私の番です)
イブ、クリムも反撃に出始める。
「!?」
突如、リンドムの視界に揺らめく赤い対象が見えた。その正体にすぐ気づいたリンドムは、
「【氷球】!」
【氷球】を発動させ、赤い対象の正体であると思われる炎に向けて放つ。【氷球】がぶつかったからか、すぐに赤く揺らめく対象から砂埃へと変化した。
「ど、どうした?」
「さっきあそこに炎が見えた。だからあそこにいると判断し、【氷球】を使ったかな」
「そ、そう、か・・・!?」
フラッタはリンドムの行動に納得しようとしたものの、相槌を打っている途中で気づいてしまった。
((よし、かかった!!))
これはイブとクリム、二人の罠であるという事に。リンドムとフラッタは、赤く揺らめく対象があった場所を凝視している。だから、反対側の攻撃に気付くことが遅れてしまった。
イブは、リンドム達を起点とし、炎の反対側にスタンバっていた。そして、
「…【破滅光線】」
破壊をもたらす光線がリンドム、フラッタを襲おうと急接近する。
「!?」
フラッタはすぐに盾を構える。だが、急を要する事態だったので、足腰に十分な力が入っていないまま、イブの【破滅光線】を受ける事になってしまう。
「ぐっ!」
「任せるかな!【氷きゅ】・・・!?」
「させない!」
リンドムはフラッタの援護にまわろうと行動したが、クリムの拳により吹っ飛ばされ、援護は失敗に終わってしまう。
「?」
そして、【破滅光線】の勢いは突然弱くなっていった。フラッタは何故魔法が収まったのか不思議に思っていると、
「!?」
突然、盾に思い重圧がかかる。その圧はさきほどの魔法より狭い範囲ではあるが、確実にさきほどより強力な圧が盾に、フラッタにかかる。
「誰だ!?」
「私です」
盾に攻撃しているのは、クリムであった。
「さぁ、決着をつけましょう」
その一方で、
「ち!」
リンドムは誰かに殴られ、吹っ飛ばされている最中であった。吹っ飛ばされた直後、自身が持っている杖を地面に突き刺し、後退する距離を最小限に抑える。
「だ、誰かな!?」
リンドムは声を荒げて発言する。瞬間、
「!?」
リンドムはこれまで培ってきた冒険者の勘から、この場に留まってはいけないと判断し、その場から離れる。その直後、リンドムがいた場所に拳が降ってきて、地面にコレーターが出来上がる。
「…勘は鋭いみたい」
「お前は・・・!?」
リンドムを攻撃した者は、イブであった。
「…もうあなたの好きにはさせない」
リーフの後に続くかのように、イブもクリムと同じように、リンドムと向かい合う。
決闘は終盤へと差し掛かる。
「【炎拳】!」
クリムは、フラッタの盾めがけて思いっきり【炎拳】を繰り出す。すさまじい勢いだったが、フラッタはクリムの【炎拳】を耐えきる。
「ふん!その程度で勝てると思っていたのか?」
「まだ、だぁ!」
クリムは、靴の円筒部から魔力を噴射させ、勢いを強化させる。それでも、フラッタはクリムの攻撃を耐えきる。
「お前みたいなちんけな女どもに、この私が負けるはずない!」
「例え奇跡で私達に勝てたとしても、次の決闘も、最後の決闘にも勝てやしない!」
「うる、さい!」
クリムは拳を握る力をさらに強める。
「あなた達は私達にも、ルリちゃん達にも、アヤトにも負けるんです!」
クリムは【炎拳】の炎をさらに高熱にし、拳をさらに叩きつける。
「私達がここで!負けるわけには!!」
クリムの靴の円筒部から魔力を噴射させ、推進力をも拳に乗せて【炎拳】を放つ。
「いかない!!!」
クリムは【炎拳】を盾に連打し、フラッタを少しずつ後退させていく。
「ぐっ!?こんな小娘に押されるなど、ありえない!」
フラッタは力を入れ直し、クリムの【炎拳】を耐えきろうと構える。
だが、それでもフラッタは少しずつ後退していく。その上、盾がボロボロに崩れ始めていた。
「はははあああぁぁぁ!!!」
クリムの炎が盾に移り、少しずつ盾が焼けこげ始める。
そして、
「なっ!?」
フラッタの盾がついに壊れる。クリムの前には、無防備な姿のフラッタが現れる。その隙だらけなフラッタに何もしないほど、クリムは間抜けではなかった。クリムはもう一度拳を固くし直す。
「【炎拳】!!」
クリムの【炎拳】がフラッタに直撃し、吹っ飛ぶ。吹っ飛んだ体は、壁に衝突したことで止まった。
「悪いですが、ここで負けるわけにはいかないので」
クリムは【炎拳】を解き、そう呟いた。
一方、
「【氷球】!」
「…無駄」
リンドムとイブとの戦いも決着がつこうとしていた。
リンドムの【氷球】は、イブの魔力によって形成されたに腕によって砕かれていた。
「さっきから全部砕いているようだけど、これはどうかな」
リンドムはさきほどより大きな【氷球】を生成した。その大きさは、赤の国で見た赤魔法、【蒼月】より規模が小さいものの、さきほどまでの【氷球】とは比べものにならないサイズである。
「…それなら、これでやるだけ」
イブは魔力で形成した腕を霧散させ、自身の両手に魔力を集中させる。
「いくかな!」
「…【破滅光線】」
リンドムの【氷球】とイブの【破滅光線】がぶつかり合う。
そして、双方の魔法が散る。どうやら引き分けになったようだ。
「ち」
煙り舞う中、リンドムは再び【氷球】を生成し始める。
それに対し、イブはというと、
(…今)
イブは自身の体を【魔力制体】によって制御し、リンドムの懐へ急接近する。
「な!?」
イブはリンドムの懐まで近づき、思いっきり殴り飛ばそうと拳に力を込める。その光景に、リンドムは笑った。
「そんな速さじゃあ、無駄じゃないかな!」
リンドムはイブの拳を躱した。
だが、イブはリンドムの行動を予測していた。
「…分かっている」
「!?その後ろの手はなんだ!?」
イブはリンドムから見えないよう、魔力で形成した腕を隠していた。その腕には、魔銀製の杖が握られていた。
「…だから、これで終わらせる」
イブは、自身の拳が躱された直後、魔力で形成した腕を使い、杖でとどめをさそうと動かす。リンドムはイブの拳に集中しすぎて、イブのもう一つの腕に気付くのが遅くなった。
「やめ・・・!?」
リンドムが最後まで言葉を言う事は無かった。イブは魔力で形成した手に杖を持たせ、その杖で思いっきりリンドムを殴り飛ばす。その直後、リンドムは吹っ飛び、壁にめり込む。
土煙が完全に晴れ、決闘場には、傷だらけの女性3人。
それに対し、壁には冒険者3人。
勝負の行方はもうついていた。
「勝者、クリム殿、イブ殿、リーフ殿!」
そして、彩人達に白星がついた。
「・・・あれ?もう決着ついちゃったの?」
「そう、みたいだな。せっかくリーフ達の戦う様子を見たかったんだけどなぁ」
「この様子から察するに、どうやらリーフ様は勝利されたみたいです」
「さっすが、リーフお姉ちゃんなんヤよ!」
彩人達が決闘場に到着する。ヤヤ達は治療をほとんど終えたのか、全快に近い状態であった。
「「「アヤト!!!」」」
リーフ達は、彩人達の姿が見えたかと思うと、彩人達にかけよる。
「私達、勝ちましたよ!」
「…勝利♪」
「ま、私にかかれば余裕ですからね」
次はいよいよ、決闘第4回戦である。
次回予告
『4-2-47(第321話) 黄の国での決闘~その4~』
決闘第1回戦2回戦共にマーハン側の勝利だったが、3回戦は彩人達側の勝利となった。決闘第4回戦の対戦カードは、ルリ、クロミルと火炎姉妹ことペラーネ、ペリーネである。魔獣と牛人族が協力し、強力な赤魔法使いに臨む。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




