4-2-45(第319話) 黄の国での決闘~その2~
彩人、クロミル、モミジの3人がヤヤの治療をしている頃。
「次はユユちゃんヨヨちゃんの番ですね!」
「…決闘、期待している」
ユユ、ヨヨ、クリム、イブは控え室から出て、決闘場到着目前であった。
「もちろん、勝つつもりでユ」
「ユユお姉ちゃん、一緒に勝とうね!」
ユユ、ヨヨはこれから行われる決闘の勝利を渇望する。
そして4人は決闘場に到着する。決闘場で待っていたのは、
「来たみたいですね」
「ユユちゃんヨヨちゃん、頑張ってー」
リーフとルリである。ユユ、ヨヨ、クリム、イブの4人は周囲を見渡し、他の知り合いがいないか確認する。そして、いなかった。
「あの、ヤヤちゃんは?」
そうクリムが言うと、リーフとルリの顔色があからさまに優れなくなる。
「はっはっは!そいつはさっき負けたよ!それも、無様にな!!」
「左様。あの負け姿は滑稽と言えよう」
クリムの質問に答えたのは、ユユとヨヨの決闘相手である。その冒険者はさきほど闘った少女、ヤヤの事を罵る。それも、ルリ達の前で。
「!?」
ルリは、その冒険者の言葉を聞き、今さっき懸命に闘ったヤヤのことを無下に扱われたように感じた。そして、その冒険者に一矢報いるため、拳を握り、周囲に冷気を纏わせ始める。
「ルリちゃん!」
暴走しそうなルリを止めたのはリーフであった。
「何?ルリ、あいつをぶん殴りたいんだけど、駄目なの?」
ルリの目は、今までの純粋な目とは異なり、怒りの色に染まった目をしていた。元々純粋だったからか、怒りの色が鮮明に反映されている。
「ダメだよ。その拳は、次の次、ルリちゃん達の決闘までとっておいて?」
「でもあいつらは・・・!?」
ルリの発言が終わる前に、ルリの肩から痛みが生じる。その元凶は、リーフの手である。
「ご、ごめん!私も、抑えられなくなっちゃって」
リーフは慌ててルリの肩から手を離す。
(リーフお姉ちゃん・・・)
ルリは、自分だけでなく、自身の姉もさきほどの発言を看過できていないのだと理解出来た。自身と同じような感情を抱いていると分かり、ルリも少しずつ感情を抑えていく。
「ルリちゃんは次の次の決闘で、ヤヤちゃんのために、勝利を届けてあげようか、ね?」
そんなリーフの言葉に、
「うん…うん」
ルリは自身に納得させるように二度頷く。
「…ユユ、ヨヨ。準備して」
そしてイブは、二回戦目の準備をするよう、二人に促す。
「「はい」」
まもなく、決闘第二回戦目が始まる。
「それでは第二回戦、ユユ殿とヨヨ殿、グンドー殿とアドレ殿の決闘を始めます」
時刻は少し進み、ユユとヨヨが戦闘態勢に入る。そして、その二人に向かい合うように二人の冒険者、グンドーとアドレが立ちふさがる。
「ヨヨ、頑張ろう」
「うん、ヨヨお姉ちゃん!」
ヨヨは拳を構えていることに対し、ユユは弓と矢を準備し、照準を目視で確認している。
「はっはっは!お前ごとき、武器をつけなくてもこの拳だけで十分だ!」
「助太刀はいるか?」
「はん!いらねぇよ!」
「承知」
グンドーは自身の拳同士を見つけ、やる気をアピールする。一方、アドレは刀の鞘に手をかけたものの、抜くことなくグンドーの後ろに下がる。
「それでは、始め!」
審判の合図で、一番に動き始めたのは、
「やぁー!!」
ヨヨである。ユユはグンドーにヒットし、ヨヨに当たらないよう矢の道を確保しながら弓を引き、射抜く準備を始める。
「いいねぇ!俺に真っ向勝負とか、おもしれねぇな、お前!」
グンドーはヨヨに視線を向け、拳を構える。
「うおおおぉぉぉーーー!」
「やあああぁぁぁーーー!」
グンドーとヨヨの拳が真っ向から激突する。拳の押し合いに勝利したのは、
「きゃあぁ!?」
グンドーである。
ヨヨは数メートル吹っ飛び、背中が地面に接触する。
「!?ちぃ!」
グンドーは拳のぶつかり合いを制したのだが、喜ぶ時間は無かった。
「あいつか」
ユユは呼吸をする暇すらないよう、間髪入れずに弓を発射したのである。
「次はおめぇだ!」
グンドーは吹っ飛ばしたヨヨのことを気にせずユユに突っ込む。
「ヨヨを吹っ飛ばしたお返し」
ユユは矢の発射速度を上げ、グンドーを追いつめようと狙いを定め続ける。
「そんな矢じゃあ、俺に当てる事なんか出来ねぇぞ、おい!」
グンドーはユユの放った矢を全て躱し、ユユに急接近する。
「もっともっと、俺を楽しませろぉ!」
グンドーは拳を振り上げ、ユユめがけて拳を振り下ろす。
「私を舐め過ぎ」
ユユはグンドーの拳を見切り、確実に躱す。イブとの訓練で、動体視力も上げていたため、グンドーの拳をはっきり捉える事が可能となっていたのだ。そして、グンドーの攻撃を躱しながら、矢の準備をし、躱し終えたころには、いつでも発射出来る状態にまで持っていき、矢を放つ。
「ぐ!」
グンドーはユユの矢に反応は出来たものの、躱すことまでは出来ず、腕で矢を受け、ダメージを最小限にとどめようとした。
「こんのぉ!調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
グンドーは怪我していない方の腕を使い、ユユめがけて拳を振り下ろす。
「!?」
ユユは再び矢を発射させようと準備していたのだが、矢が手から零れ落ちてしまう。拾おうにも、その時間の間にユユはグンドーから拳をもらってしまうだろう。そのわずかな隙間時間に、
「ユユお姉ちゃんをいじめるなー!」
吹っ飛ばされていたヨヨが姉、ユユのピンチに駆けつける。
「!?き、貴様!その拳に見える火は!?」
拳に火を纏わせて、
「ヤ―!!」
ヨヨはグンドーの怪我している腕めがけて、思いっきり殴りつける。
「!!??」
ただでさえいきなり飛び出してきたヨヨに驚いたのに、ヨヨが拳を火に纏わせてきたのだ。その上、さきほどのユユの攻撃で負傷してきた箇所を狙って拳を振り下ろしてきたのだ。感情が揺れ動くのも無理はないだろう。
「くそが!」
グンドーは、度重なる腕の負傷により、少し後退し、態勢を立て直そうとする。
(逃がさない)
ユユの目はもう狩人と化し、グンドーの扱いは狩られる獣である。ユユは既にグンドーに狙いを定め、弓を射抜き始める。そして、矢を発射させた。
だがその矢が、グンドーに届くことはなかった。
「・・・ち。助けなんて呼んだ覚えねぇぞ」
「気にするでない。我の単なる気まぐれである」
ついにアドレも決闘に参戦することになる。
「では我は、あの弓を持つ少女を担おう」
「じゃあ俺は、さっき殴ってきた小娘にするか」
アドレはユユ、グンドーはヨヨに向かって接近する。
「狙い撃ユ!」
ユユはさきほどより弓を強くひき、勢いを増させて矢を発射させる。
「そのような飛び道具で拙者に勝とうなど、笑止!」
アドレは、飛んでくる矢を切り落とす。
「まだ!」
ユユもアドレを射抜くべく、飛ばす矢の本数を増やし、一気に発射させる。
「数が増えたところで同じことである!」
アドレは全て矢を切り落とし、さらに接近する。
「・・・」
「矢が切れれば何も出来ぬ、か」
ユユが所有していた矢が全て切れ、ユユの手には弓しかなかった。
「これで殺せば目覚めが悪かろう。だから、」
「!?」
アドレはユユにミネウチを繰り出す。死なない一撃だったが、気絶するには大き過ぎる痛みであった。
「その場で倒れるといい。目覚める頃には、お主の敗北が確定している事だろう」
アドレはさきほどまで携えていた刀を鞘にしまい、ユユに背を向ける。
「・・・ま、だ」
ユユは気を落としそうになりつつもヨヨを見る。
「!?…!…!?」
「オラオラオラあぁ!さっきまでの威勢はどこにいったんだよ、あぁん!?」
時にグンドーの攻撃を紙一重で躱し、時にグンドーの攻撃をくらってしまうヨヨの姿が見えた。
「よ、よ・・・」
ユユはヨヨを助けようと、無意識で弓を引っ張る。だがユユの手に矢は存在していない。存在していないはずだったが、
「よ・・・よ!」
ユユは意識が遠のいていく中、矢を自身の魔力で形成していく。そして、
「たす、けて」
矢に自身の願いを込めて、渾身の矢を、雷を纏った矢を放った。その矢は、今までユユが放ったどの矢より貫通力があり、ヨヨとグンドーの間を作るかのように走り去っていった。
「!?ち!」
グンドーは警戒のため、ユユを見たものの、ユユは既に倒れ、意識がなくなっていた。
「亡霊みたいに固執しやがって」
グンドーがそう吐き捨て、再びヨヨに目をやる。
「ゆゆ、おねえちゃん。ありが、とう」
ヨヨも今まで殴られて限界だったのか、さきほどの矢の到来でユユの温もりを感じとり、お礼の言葉をしゃべりながら前のめりになり、うつ伏せで倒れていく。
「「・・・」」
グンドーとアドレは審判の顔を見続け、判定を急がせる。
「しょ、勝者、グンドー殿とアドレ殿!」
こうして、2回戦目が終わった。今回の決闘もマーハン側が勝利し、相手側は早くもリーチをかける。
「あーあ。つまんねぇ試合だったわ」
「片腕怪我しておいてそのような戯言を吐くとは」
「うっせ!」
そう言いながら、グンドーとアドレは決闘場を後にする。
「「「「ユユちゃん!ヨヨちゃん!」」」」
決闘場にいたリーフ、クリム、イブ、ルリは一斉に二人に近づく。
「みんなで控え室に運びましょう!」
そのリーフの提案に、
「「「はい!!!」」」
乗らない者はいなかった。4人は協力してユユ、ヨヨを運んでいく。
「ユユ!?ヨヨ!?ど、どうしたの!?」
途中、ヤヤも合流し、控え室に向かう。
「ん?ヤヤ、やけに戻ってくるのが・・・モミジ」
「はい!」
控え室に入り、彩人とモミジは早急に治療の準備を始める。
「ルリもやる!」
「却下」
ルリも二人を回復させようと申し出たのだが、彩人に断られる。
「…だけど、ヨヨの目が覚めた時、お前がいてくれた方がいいかもしれないから、一緒にいて励ましてやってくれ」
彩人はルリに提案をする。
「うん!」
ルリはヨヨとユユの手を優しく握り、励まし始める。彩人とクロミル、モミジは二人の治療を始める。ファーリも警戒を怠らない。
「・・・行きましょうか」
そんなピリつき始めた空気の中、リーフは二人の様子をひとしきり見た後席を立ち、クリムとイブに声をかける。
「え!?ど、どうして!?二人のことが心配じゃないの!?」
クリムはユユとヨヨのことが心配で、一緒についていたかった。
「…今の私達に出来る事は、次の決闘で勝つこと」
イブのこの発言で、
「!?」
クリムは核心を突かれたように体を動かし、黙ったまま数秒。リーフとイブだけでなく、クリムも立ち上がる。
「アヤト、クロミルちゃん、モミジちゃん。二人を引き続きお願いしますね」
「ああ、任せとけ」
「お任せを」
「絶対、元気にさせてみせますから!」
彩人、クロミル、モミジの頼もしい返事を聞いた後、
「…頼んだ」
「お願いしますからね?絶対、ですからね!」
イブ、クリムはリーフの後に続き、控え室を後にする。
「・・・ファーリ、3人の応援、頼めるか?」
彩人はファーリに3人、リーフ、クリム、イブの応援を頼む。
「にゃ!」
角犬は快く返事をし、3人の後を追う。
「それじゃあやるぞ」
「「「「はい!!」」」」
彩人、クロミル、モミジはユユとヨヨの治療を続け、ルリとヤヤは2人に心を届ける。
未だにユユとヨヨは目を覚まさないが、じきに目を覚ますだろう。
何せ、こんなにも2人の事を大切に思ってくれる人物がいるのだから。
次回予告
『4-2-46(第320話) 黄の国での決闘~その3~』
決闘第1回戦2回戦共にマーハン側の勝利となった。彩人達側にはもう後がない中、決闘第3回戦の対戦カードは、クリム、イブ、リーフとフラッタ、リンドム、デコーダである。ヤヤ姉妹の思いを受け継いだクリム達は、冒険者達との戦いに臨む。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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