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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-44(第318話) 黄の国での決闘~その1~

「お?やっと来た・・・お、女!?」

 どうやら相手は既に到着していたらしい。相手を待たせてしまったが、申し訳ない気持ちはない。なんて言ったって、時間まで指定されていないからな。

 ちなみに、この場にいるのはヤヤ、俺、クロミル、リーフ、ルリの計5人である。ユユ、ヨヨは2回戦目の準備。イブとクリムはその付き添いだとか。モミジは回復、ファーリは警戒をそれぞれしてもらうために残ってもらっている。したがって、俺を含めた5人がここにいるわけなのである。決して、役立たずだから控え室の外に出された、というわけではない。断じて、そんなことはない!

 話が逸れた。

「おいおい。本当にこの俺様に勝つつもりなのか?」

 目の前の冒険者がヤヤに問いかける。

「そうヤよ」

 そう言い、簡単に剣を振り、構える。

「ち。ちったぁ雑談でもして時間を潰そうかと思ったが、仕方がねぇな」

 そう言い、冒険者の男は剣と盾を構える。この冒険者も片手剣と盾を併用するのか。今のヤヤと同じ戦闘スタイルなのか。

「それではこれから、ヤヤ殿とオッサム殿の決闘を開始いたします」

 ヤヤとオッサムと呼ばれた冒険者はそれぞれ武器を構える。あの冒険者、オッサムという名前だったのか。

「始め!」

 こうして、ヤヤとオッサムとの決闘が始まった。


(あの攻撃捌き、すごいな)

 オッサムがヤヤめがけて剣をふろ下した際、ヤヤは剣を盾で受けるのではなく、盾で衝撃を受け流した。その後、ヤヤはオッサムの胸めがけて剣を突き刺そうとしていたのだが、オッサムの盾でがっちり防がれてしまった。その後、すぐにヤヤは距離を取り、互いに探り合いを始めていた。

(やっぱ力の差があるか)

 おそらくだが、あのオッサムの方が力も技術も上なのだろう。ヤヤが盾でオッサムの攻撃を受け流したことに対し、オッサムはヤヤの攻撃を真正面から受けたにも関わらず、微動していなかった。

 ヤヤが本気を出していない、という可能性もあるが、この場で手を抜く、なんてことはないだろう。それに対し、あのオッサムにはまだ余力があるように見て取れる。確かにこの状況でヤヤがオッサムに勝つのは難しそうだ。

 だが、これはあくまで俺目線。もしかしたら、俺の見知らぬ点がヤヤにあり、その点でヤヤがオッサムに勝つかもしれないな。

「リーフ、この決闘、どうなると思う?」

 俺はリーフに聞いてみた。今も懸命にヤヤはオッサムの攻撃を受け流しているが、余力が感じられない。

「・・・このままですと、ヤヤちゃんがあの冒険者に勝つのは無理です」

 リーフはそうハッキリと答えた。

「・・・そうか」

 俺はリーフの言葉にただ返事をし、再びヤヤの戦いを見る。

 確かに、このままヤヤがオッサムの攻撃を受け続ければ、ヤヤの負けは色濃くなるだろう。

 だがきっと、ヤヤには何かある。その何かは分からないが、その何かがきっと、ヤヤの勝敗を左右してくれるものなのだろう。俺はヤヤの何かに期待し、決闘を見守っていく。


 決闘が始まってから、結構時間が経過した。

 最初、ヤヤはオッサムに攻撃をしていたのだが、今では防戦一方で、攻撃していない。

「おいおい。お前、本当に勝つ気あるのか?」

 そう言いながら、オッサムはヤヤめがけて剣を振り下ろす。

「・・・」

 その言葉に対し、ヤヤは何も言わずに、ただ盾を使ってオッサムの攻撃を受け流す。

「!?」

 だが、ずっと攻撃を受け流し続けていたためか、次第に受け流しきれないようになり、体にダメージが蓄積しているように見える。ダメージの蓄積が額の汗として出現しているあたり、ヤヤは今、窮地に立たされていると考えていいだろう。そろそろ何か手を打ち、この状況を打開させないとやばそうだ。

「頑張れ、ヤヤお姉ちゃん!」

 ルリの応援に、

「行け、ヤヤ!」

「そこです、ヤヤちゃん!」

「ヤヤ様、今です!」

 みんなの応援が会場内に響く。

「ありがとう、みなさん」

 なんか今、ヤヤが笑ったように見えた気がする。こんな状況なのにな。もしかしたら俺の気のせい、か?気のせいか。こんな状況で笑うなんてそうそうないか。

「んあ?何を言ってやがるんだ?女のくせに」

 オッサムは剣を思いっきり振り上げ、振り下ろす力を最大限にする。

(今!)

 そして、その隙をヤヤは見逃さなかった。ヤヤは足に力を溜め、

「!?こいつ!」

 ヤヤはオッサムの攻撃を受け流すのではなく、躱す。

 そして、

「【空気の斬撃(エアスラッシュ)】!」

 ヤヤは自身の剣に空気を纏わせ、斬撃を放つ。その斬撃は、今までのヤヤのどの攻撃よりも強力で、

「ぐっ!」

 オッサムを後退させた。あんな見た目少女のヤヤがいかつい成人男性を後退させるとか、地球だったら凄いことだよな。この世界では凄いのか凄くないのかは不明だが。

「ちょっとやばいかもしれないですね」

 え?この状況がやばいのか?

 今おしているのはヤヤの方だと思うのだが?

「どうしてなの、リーフお姉ちゃん?」

 俺の代わりに、ルリがリーフに聞いてくれた。俺はありがとう、と心の中で言い、リーフの話に耳を傾ける。

「今は優勢です。ですが、さっきまであの冒険者は余力を残して戦っているように見られます。なので、さきほどの攻撃であの冒険者が全力でヤヤちゃんを攻撃するようになったら・・・、」

「なったら?」

「・・・今のヤヤちゃんでは、あの冒険者の攻撃を受け流すことは出来なくなるでしょう」

 その言葉の直後、

「ち!俺としたこと・・・、」

 オッサムは後退していた分以上に前進し、ヤヤに近づく。

「!?」

 ヤヤは先ほどと同じように、オッサムの攻撃を受け流す構えをとった。

「が!!」

 だが、オッサムの方が一足早かった。ヤヤが完全に構える前にオッサムの攻撃がヤヤに直撃する。

「ヤヤちゃん!」

「!?きゃあ!!??」

 リーフの声の直後、ヤヤはオッサムの攻撃を受け、吹っ飛んでいった。受け流す構えをしていたものの、完全に受け流しきれなかったらしい。

(まさか!?)

 さっきのヤヤの攻撃で、オッサムが全力を出したという事なのか?そして、オッサムが全力を出せば、ヤヤなんかあっという間に倒すことができた、ということだったのか?

「ち。もっとぶん殴ってやりたかったのに、思わず力んじまった」

(!?)

 瞬間、俺の拳が固くなる。あいつ・・・!とにかく今はヤヤだ!ヤヤは一体・・・いた!

「ヤヤお姉ちゃん!」

 ルリの視線の先には、体の一部が壁にめり込んでしまったヤヤがいた。あの様子だと、完全に気絶しているな。体が動いていないどころか、呼吸をしているのかどうかすら怪しい。

「勝者、オッサム殿!」

 そんな中、審判の判断が下された。

 確かにこの状況でヤヤの勝利、なんてことはないだろう。相手が何か反則でもしていればいいが、そんな様子はなかったし。

(息は・・・あるみたいだ。よかった)

 俺達はすぐにヤヤの元へ駆け寄り、呼吸の有無を確認した。結果、ヤヤは死んでいないことが分かった。

(あの野郎!)

 ヤヤをこんな風にした冒険者、オッサムに何も思わないことはない。それどころか、ぶん殴りたいと思っている。

 だがこれは決闘。力の優劣で勝敗が決まる。今回、ヤヤがオッサムより弱かった。だから負けた。だから仕方がないのだと思っていても、どこか腑におちないし、あのオッサムに危害を加えようものなら、何かしらのペナルティーを課せられる可能性もある。だから下手に動くことが出来ない。

(ちきしょう!)

 俺はこのやるせない思いを魔法に込め、ヤヤの傷を最低限治す。

「ヤヤ様!」

 白魔法を使えるクロミルもヤヤに回復を施す。

 呼吸は・・・弱いままだが、さっきより安定しているな。この場でヤヤの姿を晒し続けるわけにもいかないし、控え室へ運びだそう。今のヤヤの状態なら、運んでいる最中に死ぬ、なんてことにはならないはずだ。

「クロミル、ヤヤを運ぶぞ」

「は!」

 俺はヤヤの下に空気の層を分厚く形成し、自然な状態にしてから、ヤヤを運び出す。

「ヤヤお姉ちゃん、大丈夫!?」

「ヤヤちゃん!」

 ルリとリーフは心配なのか、ヤヤに声をかけ続ける。

 すると、

「・・・なさい」

 ヤヤが何か発音していることが分かった。

(なんて言っているんだ?)

 俺は詳しく聞き取れなかったので、耳に神経を集中させる。

「負けてしまって、ごめんなさい・・・」

「「「「!!!!????」」」」

 ヤヤの発言にも驚いたが、ヤヤの顔にも驚いた。

 ヤヤは、泣いていたのだ。自身がひどいけがをしているのに、自身が負けたことによる懺悔を始め、謝罪していたのだ。

 俺は最初、ヤヤの言葉を強く否定しようとしたが、ヤヤはひどいけがを負っているので、あまり大きな声を出すのは体に響くかもしれない。なので、

「大丈夫だ。ヤヤは十分に闘ってくれた」

 その言葉を筆頭に、

「そうだよ。ヤヤお姉ちゃんは頑張ったよ」

「ヤヤちゃんは私の期待以上に抗戦していました。さすがです」

「ヤヤ様の闘いは決して、恥じるものではないかと」

 ルリ、リーフ、クロミルそれぞれがヤヤのフォローをしてくれていた。

「みなさん・・・。それでも私のせいで、ほんとうに・・・、」

 言葉の途中で、ヤヤは意識を失った。どうやら、話している最中に気絶したらしい。

 無理もない。俺とクロミルがその場で応急処置程度の回復をしたとしても、ヤヤは相当な怪我をしていたのだ。その痛みが今も体中に残り、ヤヤの意識を奪ったのだろう。

「リーフとルリはこの場に残って、ユユとヨヨの闘いを見届けてくれ。俺とクロミルはモミジの協力を得ながら、ヤヤを回復させる」

「そんなの、ルリだって一緒に・・・!」

「ルリ、お前は白魔法を使えるのか?」

 俺がこういうと、ルリは黙ってしまった。ちょっと言い方が悪いけど、こればかりは、な。

「ルリとリーフには、次出るユユとヨヨを元気づけて欲しいんだ。ヤヤは立派に闘った、そう伝えて激励してやってほしい」

 俺は二人にお願い事をした。俺とクロミルでは出来ないからな。何せ、ヤヤの治療に集中したいし。

「・・・分かり、ました」

 リーフはしぶしぶ、という感じではあったが、承諾してくれた。

「でもルリは・・・、」

 ルリもどこか納得していない様子である。ま、無理もないか。大怪我している友人を気にしない、なんてことは普通出来ないのだろう。俺、家族以外に友人、親しい人なんていなかったけど。

「ルリちゃん。アヤトとクロミルチャンなら、必ずヤヤちゃんを治せますから、モミジちゃんを入れた3人に任せよう、ね?」

 リーフにも思うところがあるのに、リーフはルリを説得してくれた。ありがとう、リーフ。後で美味しい料理を作り、食べさせてあげよう。

「クロミル、行くぞ」

「かしこまりました」

 俺は、今もヤヤを回復しているクロミルに声をかけ、この場を後にする。

「クロミルお姉ちゃん、お兄ちゃん!」

 ルリが俺とクロミルを引き止めた。まだ何か言いたいことがあるのか?早くヤヤの回復を控え室で行いたいのだが・・・。

「なんだ?」

「絶対、ヤヤお姉ちゃんを元気にしてね」

「ああ」

「この命に代えましても、必ず遂行してみせますので、ご安心を」

 ルリの目は、いつになく真剣だった。

 俺だって、ヤヤを目の前で死なせたくない。だから全力で回復させるし、元気にしてみせるさ。俺はルリの言葉に返事をした後、無言でモミジが待つ控え室へと向かった。


 控え室に向かう道中、イブ達と鉢合うことがなかった。同じ道を通ったつもりだったのだが、どこか道を間違えたのか?だが、クロミルは何も言ってこなかったし・・・。もしかして、イブ達が気をきかせて俺達と鉢合わないようにしてくれたのか。それはありがたいな。決闘直前に重傷な身内なんて見せたくないしな。心配させてしまうし、決闘に対し、トラウマに近い何かを植え付けてしまう可能性もあるし。その事を考慮してくれたのだろう。おそらくイブが提案してくれたのだろう。ありがとう、イブ。

 控え室に着くと、

「おかえりな・・・!?」

「ニャ!?」

 モミジは俺の近くにいたヤヤを見て、

「今、治療します!お願い、みんな!」

 このモミジの声に、モミジの周囲に植物達が生い茂り始める。そして、ヤヤを優しく包み、ヤヤを移動させる。その移動先は、モミジがいつの間にか作っていた植物性のベッドであった。モミジ、一体いつの間に作っていたんだ?

「それじゃあいきます!【養分譲渡】!」

 モミジと周囲の植物達が光る。そして、モミジとヤヤ、周囲の植物達とヤヤがそれぞれ蔦で繋がれた。繋がれたかと思うと、モミジと周囲の植物達からヤヤへ、何かが流れ込み始めている。

「ご主人様、私達も」

「あ、ああ」

 そうだな。モミジばかりに負担をかけるわけにはいかないだろう。

 そして俺、クロミル、モミジの3人でヤヤの治療を始めた。

(ユユ、ヨヨ。姉の仇をとってくれ)

(お二方、どうかお気をつけて)

(ユユさんヨヨさん、無事でいてくださいね)

 それぞれ、今後闘う二人の事を思いながら。

次回予告

『4-2-45(第319話) 黄の国での決闘~その2~』

 決闘第1回戦はマーハン側の勝利となった。決闘第2回戦の対戦カードは、ユユ、ヨヨとグンドー、アドレである。ヤヤと同じく、戦闘経験なんて無いに等しかったユユとヨヨが冒険者に挑む。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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