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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-39(第313話) 洞窟内で拾った魔道具の解析

 俺もまだ見ぬ決闘相手のため、魔力操作の精密さを向上させようと努力・・・していない。もちろん今は、という言葉が前に入る。ではなぜ、今は自身を向上しようと動いていないのか。それは、ある魔道具のせいである。

「さてっと」

 俺はアイテムブレスレットからある魔道具を取り出す。その魔道具とは、

「これがあの洞窟に落ちていた魔道具か・・・」

 俺がモミジ達と入っていった洞窟の帰り道、ゴーレムと戦っていた場所に、指にはめられそうなリングを見つけたのだ。それも、装飾にあのゴーレムの顔が簡易的ではあるが描かれている。

「それにしてもこの魔道具は一体・・・?」

「ニャーン・・・」

「…それにしても、何でモミジとファーリはこっちに来たんだ?」

 俺がみんなから離れ、郊外に行く途中、モミジとファーリが付いてきたのだ。まぁ、この二人だけでどっかいかれるよりましか。この二人なら変な行動をしないと信じることはできるのだが、色々と変な事に巻き込まれそうだからな。

(何せ、赤魔法が使えるドライヤドと角が複数本生えている角犬だからな)

 フィギュア等に例えるならプレミアがついている感じだな。レアな出会いに感謝だ。

「私ですか?私は、みなさんが特訓中ですので、その間に何か出来ないか相談しようかと、」

「ニャニャーン」

 おそらくこの角犬は、“私も同意見です”と言いたいのだろう。多分だけど。ルリ、翻訳してくれないかな。

「と言ってもな~・・・、」

 今のところ、二人にお願いしたいことは特にこれと言って・・・あった。というか見つけた。

「それじゃあ三つ、やってもらいたいことがあるんだ」

「三つ、ですか?」

「にゃん?」

「ああ」

 俺はその三つをどう説明しようか考えながら話を切り出す。

「まずは・・・、」

 こうして俺は、モミジとファーリの二人にお願いしたいことを話した。

 まず1つ目は、ギルドの依頼を一緒にこなしてほしい、ということだ。今俺達は宿に泊まっている。当然、宿代も発生している。まぁお金ならかなり持っているのだが、多く持っておいて損はないだろう。それに、宿代でいくらかお金を消費するので、その分を補填したいのだ。

 2つ目に、俺の訓練に付き合ってほしい、というものだ。ギルドで依頼を終えた後の空き時間に、俺は魔力操作の訓練を行うつもりだった。だからその訓練に付き合ってほしいとお願いしたのだ。

 そして最後の3つ目はというと、

「その魔道具の解析、ですか?」

「にゃん?」

「ああ」

 このゴーレムの顔の装飾が施されているあたり、ゴーレム関連だろう。だが、このゴーレムのリング、ゴーレムリングとでも名付けるか。これにはいったいどんな効果があるのか検証してみたいのだ。

 これら3つのお願いしたいことを確認してみたところ、二人は快く了承してくれた。ファーリに関しては・・・言葉は分からないが、了承した、という顔をしていたっぽいので、そうだと信じたい。

「それでまずは、その指輪?について調べるのですか?」

「ああ」

 まずはこの指輪もとい、ゴーレムリングを様々な角度で見てみるとしよう。何かスイッチっぽい何かがあるかもしれないからな。

 ・・・。

 み、見つからない・・・。

「「・・・」」

 となると、何か衝撃を加えると、何かしらのギミックが発生するのか?であれば、叩いてみたり、息を吹きかけてみたりしてみるか。

 ・・・。

 へ、変化なしか・・・。

「「・・・」」

 次はどうしようか?次は~・・・。あ。何かの言葉に反応する、とかか?であれば、色々な言葉を言ってみるとするか。

「起動!変身!出てこい!合体!登場せよ!出現せよ!影現る!いでよ!ゴーレム!来い!」

「「・・・」」

「いい加減出てこい!バカ!アホ!マヌケ!オタンコナス!お前の母ちゃんで~べそ!」

「アヤトさん、何をしているのですか?」

 モミジが申し訳なさそうに言ってきた。何をって、一つしかないに決まっているじゃないか。

「この魔道具がどうすれば起動するのか色々試していたんだよ」

 起動方法の例として、言葉による起動が色んなアニメで見られている。だから俺もその前例に倣い、色んな言葉をこのゴーレムリングにかけ続けたのだ。それなのに、一切反応を示してくれなかった。こいつ、俺の事が嫌いなのか?

「もしかしてですけどその魔道具、言葉をかけるのではなく魔力を流してみたらいかがですか?」

「魔力を?」

「はい」

 魔力、か。確かにその発想はなかったな。確かに魔道具を起動させる際、魔力を必要とする場面が多いからな。この魔道具も魔力に反応するのかもしれないな。

「分かった。試してみるわ」

 俺はこのゴーレムリングに魔力を通してみる。

「「「!!!???」」」

 すると、このゴーレムリングが光り始める。

「魔力の反応を確認。魔紋を登録するため、もう少し魔力を流し続けて下さい」

 だもん?いや、魔紋、か。魔紋が何を示しているのか分からんが、とりあえずこのまま魔力を流し続けていればいいのか。俺はさきほど流れた・・・流れた!?

(さっきこの魔道具、喋っていなかったか!?)

 今更な驚きをした。そういえばさっき、このゴーレムリングが音を発していたな。ということはこのゴーレムリング、音声機能も備わっているという事か。何気に高機能だ。ま、この音声機能だけしか搭載されていない可能性もあるけどな。そして俺は、さきほど聞いたゴーレムリングの音声に従い、魔力を流し続ける。

 数分流し続けただろうか。いい加減魔力を流し続けることも飽きてきたので辞めようか考えがよぎった時、

「魔紋認証確認。魔紋の登録完了。起動します」

 お。どうやらやっと起動するみたいだ。さっきの行為は所謂初期設定みたいなものだったのかもしれないな。携帯の初期設定より単純だったが、魔力を結構取られた気がする。俺の気のせいかね。

「あ!」

 モミジが声をあげる。それはそうだろう。俺も声をあげたくなったからな。

「なんか、光っているな」

 今俺は、このゴーレムリングに触れて魔力を流し続けているのだが、先ほどの音声を聞き、手を離した。離したところ、このゴーレムリングが光り出したのだ。ファーリはというと、小戸r区というより警戒していた。やはり未知なものにはいつでも警戒心を忘れぬよう接する必要があるのかもな。

 そのゴーレムリングの光が弱まりだしたかと思うと、次はゴーレムと思われる彫刻から何か出てきた。なんだろうか・・・雲?みたいなもくもくしたものが出てきている。このリング、雲を生成する機能でもついているのか?

「呼ばれて飛び出てゴゴゴーン!」

「「「・・・」」」

「アルジンに呼ばれて登場させていただきました」

「「「・・・」」」

「さぁアルジン!何か言いたいことはありますでしょうか?」

「「「・・・」」」

 言いたいこと、か。色々ある。色々あるけど、ひとまずこれは言っておこうかね。

「お前、誰?」

 モミジも同意見であり、ファーリは相変わらず警戒していた。


 もしかしなくとも、こいつはこの前戦った時のゴーレムなのだろう。なんとなく面影はある。面影はあるのだが、対立した時のゴツゴツとした見た目ではなく、今はスラリとした細見で、

(こういうやつが将来イケメンになるんだろうなー)

 みたいな容姿であった。まさかゴーレムに見た目で嫉妬してしまう日がこようとは。

「誰と言われましても、ゴーレムですが何か?」

 と、何故この人は当たり前の事を聞いてくるのでしょうか、と言わんばかりの視線を送られた気がする。そんな視線を送られても困るんだけどな。俺だって目の前にある光景が信じられないんだよ。

 だって、つい先日まで戦っていたやつが変な掛け声でリングから登場してきたんだぜ?自分の視界を疑い、お前は誰だって聞きたくもなるさ。

「え?だ、だって・・・」

 モミジはゴーレムとゴーレムリングを交互に見ている。確かに、高校生の左手人差し指にはめられそうなくらいの大きさから1メートルを超えるゴーレムが出てくるのだろうか。もしかしたらこのゴーレムリングには、俺のアイテムブレスレットと同じ【収納】みたいな効果のあるなにかが付与されているのかもしれないな。

「・・・」

 ファーリは、さきほどからずっとゴーレムに対し警戒を怠ることはなく、今も臨戦態勢をしいている。警戒する気持ちはわかる。このゴーレムには今のところ胡散臭さしか感じていないからな。これで性別が男なら、変なおっさんと俺は呼んでいたところだろう。ゴーレムだから変なゴーレム、なんて呼べばいいのだろうか。

「もう。アルジン達ったらそんな目で私を見ないでください」

 と、ゴーレムが胸の部分を手で隠す。・・・ゴーレムが胸を隠しても何もときめかないな。やはり手で胸を隠すのは女性、それも羞恥の表情を作ってこそ萌える、というものだ。

「はぁ。それでお前は何故ここにいるんだ?」

 俺はゴーレムの行動、言動に呆れつつも本題の話を切り始める。

「何故ってそれは、」

「「それは??」」

「アルジンについて行った方が面白そう、いえ。アルジンの手足となり、道具として使われることが私の宿命なのだと思い、行動しました」

「「「・・・」」」

 いや、最初に本音らしき言葉が漏れていたからな。

 後者の指名ななんやらは全て無視するとして、前者の面白そうって、完全に一個人の感情じゃないか。そんな一時の感情でゴーレムがあの場を離れても良かったのだろうか。俺の思ったことをふざけたやつに聞いてみたところ、

「いいのです。もう守るべき宝は無くなったのですから。後は私のやりたいことをやるだけです」

 と言われた。守るべき宝って、もしかして俺達が持っていったよく分からない金貨のことか?それとも、俺が密かに持ち帰ったあれのことなのだろうか。ま、どっちでもいいか。

「ということは、守るべき宝を引き続き守るためにこうしてここまで来た、という事なのか?」

「いえ」

「は?」

 どういうことだ?

「先ほども言った通り、既に私のやるべき事は終えました」

「そのやるべき事が、これを守ることだった、ということか?」

 俺は先日取ってきた金貨っぽい何かをゴーレム、モミジ、ファーリに見せる。

「はい」

「ということは、次はお前のやりたいことをやる、ということか?」

 俺はゴーレムが先ほど言っていた言葉を思い出しながらゴーレムに問う。

「はい」

「それで、それが俺についてくること?」

「はい」

「・・・」

 途中までは分かった。

 おそらくだが、俺達がこいつの守っていた宝を持っていったせいで、こいつはあそこでやるべきことがなくなり、どういう原理かは分からないが、リングになり、俺が疲労という前提であの場所から離れ、俺達と共についてきたと。俺、道端に落ちているものをむやみやたらに拾う人ではないと思っていたのだが、少なくともこいつには、道に落ちているリングを拾う人間に見えたらしい。俺、そんなにせこい?いや、これはあれだ。せこいとか守銭奴とかそういうのではない。これはきっと、長年ゲームをやってきたことにより培われてきた一種の癖が起きたのかもしれない。

 それは、何か珍しそうなものが落ちていたら拾う、ということだ。

 俺は長年ゲームをやってきた。そのゲームは、道端に結構珍しいものが落ちていたり、特殊な道具を使うことで、道端に落ちている見えない道具も拾ってきていたりしていた。その習性がこの異世界で発動してしまったのかもしれない。

 拾ったものがいいものであればいいのだが、こんな反応に困る物を拾ってしまうとは思わなかったわ。

「それに、ついて行くときは、私以上に強い者じゃないと個人的には嫌でしたので」

「皮肉にも、俺がお前以上に強いと判断出来てしまったと」

「そんな嫌そうに言わないでください。私がアルジンと認めたお方ですよ?」

「・・・なぁ?さっきも言っていたが、その呼び名、もしかしなくとも俺を指していているのか?」

「?もちろんそうですが?」

 なんか、魔法の妖精を彷彿する呼び方だから、なんか歯がゆいんだよな。

「ちなみにその呼び方を変えることは?」

「私を舐めないでいただきたい。私は、私がアルジンと一度決めたら一生変えることはございません!」

 ゴーレムは真剣に俺に向かって言ってきた。

(これは無理だな)

 出来れば俺の呼び方を変えて欲しかったのだが、真剣に無理だと言われてしまったのであれば仕方がない。もう諦めよう。悪口じゃないし、言わせておけばいいか。悪口なら全力で辞めさせようと奮闘するつもりだったが、そこまでしなくてもよさそうだ。

「それで、今後お前はどうするつもりなんだ?」

 さっきから俺をアルジン、とふざけて呼んでいるのだ。嫌な予感しかしない。俺の嫌な予感センサーが鈍っている可能性もあるけど。

「はい。アルジンの旅について行こうかと」

「却下」

 俺は即答する。というか、俺のセンサーは正しかったようだ。まったく、何が悲しくてこいつを連れて行かなくてはならんのだ。

「そ、そんな!?」

 ゴーレムはショックを受けていた。こいつ、もしかして本気でついてこようとしていたのか?だとしたらさきほどの返事は軽はずみで言ってしまったことに申し訳なさを覚えてしまうな。

「そんなに旅がしたいのであれば他のやつとすればいいのではないでしょうか?」

 急にモミジが俺とゴーレムの話に入ってくる。俺とゴーレムがモミジの方を見ると、

「あ、話に割り込んでしまってすみません」

 と、モミジは体と姿勢、態度を小さくしていった。そもそも謝る必要がないと思うのだが、まぁいいか。

「いや、話に割り込むくらいはいいよ。問題はこいつだ」

 と、俺はゴーレムを目視する。

「え?」

 ゴーレムはビックリしていた。いやなんでだよ。

「私を連れていけばいいことがたくさんありますよ!?」

「いいこと?なんだ?」

「・・・何でしょう?」

「いや、俺に聞くなよ。自分に聞けよ」

 少しゴーレムは考えた後、

「!?私、体を変形させることが出来ます!」

「・・・」

「あ、後!魔力さえ供給してくれれば無休で動くことが可能です!」

「・・・その動くことって、どの動きにも対応できるのか?」

 俺の質問に目を輝かせ、

「魔力の消費量は変動しますが、可能です!」

 と、自信満々に言った。

 ・・・。

 なるほど。

「モミジ、ファーリ。ちょっといいか?」

「?はい」

「ニャ?」

 俺はあのゴーレムに聞こえないよう、モミジとファーリにあることを耳打ちする。

「これなら多分、あのゴーレムが役に立つのではないかと思うんだが、どうか?」

 俺はさきほど提案したことに対する意見を求める。

「いいと思います。それならクロミルさんも休めることが出来ると思います」

「にゃにゃん」

 俺がモミジとファーリに提案したのは、クロミルの代わりに牛車を引くことである。

 このゴーレムが馬の形に変形し、随時魔力を供給していけば、クロミルの代わりになるのではないかと提案したのだ。そういえば、別に馬に似せなくてもいいんだよな。この牛車を引っ張ってくれる何かに変形してくれればいいんだからな。例えば・・・車?とかな。そういえば、この世界に来てから車を見たことがないな。車じゃなくてもタイヤみたいな円形に変形させれば同様な事が出来そうだ。牛車を引っ張るタイヤ、か。ちょっとホラーを覚えるな。タイヤに顔がついて、

“周辺に異常がないかしっかり見ていかないとな”

 なんとか言って顔を右往左往させている光景を想像した時、自身の両腕を掴んだ。

「後はイブやルリ達の事だが、説得に協力してくれるか?」

「も、もちろんです!あのゴーレムさんが旅に同行したら、クロミルさんの負担が軽くなるんですよね。私、頑張ってみなさんとお話しします!」

 モミジはやる気に満ちていた。

「ニャン!」

 ファーリも似たような顔をしている。多分だが協力してくれるのだろう。

 さて、クリムやクロミル達の方は後でいいとして、今はこいつの気持ち次第だな。さっきも聞いたけど、もう一度聞いておくとしよう。

「なぁ、ゴーレム?」

「ん?どうしました、アルジン?」

 ・・・さっきも思ったが、俺の事をアルジンって呼ぶのは変わらないのね。まだ慣れないな。

「お前は今後、俺達と共に来るのか?」

「もちろ・・・、」

「返事をする前に一つ、言わせてもらうぞ?」

 俺は、ゴーレムが返事する前に、声を出来る限り低くしてあることを話す。

「俺達の旅に来ることになれば、無傷じゃ済まなくなるぞ?」

「・・・」

 ゴーレムは急に黙り込む。

「俺達はこれまで、幾度となく色々なものと戦ってきた。これから来るという事は、お前も今後、俺達と共に傷を負うことになるわけだが、その覚悟はあるのか?」

「「・・・」」

 俺はこれまでの戦いを思い出す。

 いずれの戦いも、無傷で勝利を収めた、なんて戦いはほとんどなかった。強いて言うなら、ギルドでの依頼で受けた魔獣討伐や雑用の時くらいだ。

 そして、最も傷を負った戦いはおそらく、あの世界樹との戦いだろう。

 あの戦いで、俺はイブ、クリム、リーフを傷ものにし、俺も大きく傷を負った。その傷は、人間としての生活が出来ないくらいに。あの戦いは肉体的にはもちろんのこと、精神的にも辛かったな。

「そんな辛さを味わいたくないのであれば、俺達との旅は遠慮してくれ」

「・・・」

 ゴーレムは少し下を向いた。

(やっぱ無理か)

 そう都合よくはない。誰しも、辛い出来事が待っている事確定の旅についていくなんて嫌だろう。それが人間であろうと、魔獣であろうと。誰しも傷を負いたくないし、辛いことも体験したくないものだ。俺も意図せずボッチ経験したわけだしな。

「・・・私は元々、ある人物に創られた魔道具です」

 ゴーレムは何か話し始めた。

(というかこいつ、魔道具だったの!?)

 少なくとも人間じゃないとは思っていた。だから、俺の予想では、このゴーレムは魔獣だと思っていたのだが、まさか魔道具だったとは。というか、こいつを創ったやつは何者だよ。

「ですが、私を創った創造主は短命で、私に一つ命を下した後、すぐに崩御なさったのです」

「つまりお前はその時からずっと独りで護っていた、ということか?」

 話の途中で申し訳ないが、話に割り込んで質問した。俺の質問に、ゴーレムは無言で頷いた。

(こいつも、長いことボッチだったのか)

 そしてこいつは、俺なりに親近感を抱いた。おそらくこいつもボッチ経験者なのだろう。長い刻をずっと独りで、独りで過ごしていたのだから。俺はまだ家族がいたからよかった方だ。

 だがこいつは、友達や知り合いはおろか、身内も誰もいない中、ずっと独りで過ごしていたのか。おそらく、こいつは俺以上に長い間、独りで過ごしている。そう直感した。

「寂しかったのか?」

「その問いには答えられません。何せ私は魔道具。人やそこにいるモミジ殿みたいな魔獣とは違い、感情や心を持っていないのですから」

「え?そうなの?」

 さっきから結構感情出していると思うんだけど、それは気のせい?それとも木の精?なんちゃって。

 ・・・真面目に話、聞くか。

「ですが、出来れば私はもっとあの方と共にいたかった。もうどのくらい昔なのかは判別できません。ですが、もし可能なら、もっと、もっと・・・、」

「ふ」

 ゴーレムの言葉に思わずため息のような鼻息が漏れてしまった。

「何がおかしいのですか!?」

 瞬間、ゴーレムの叫びが俺に炸裂した。

「別におかしくないし、笑ってもいないさ」

「なら何故、我が創造主と同じ顔をするのですか!?」

 そんなことを言われても俺、お前の言う創造主の顔なんて知らないのだが。

「そんなことはしらねぇよ。ただ、思っただけだよ」

 “どんな奴にも独りになりたいときはある。けど、ずっと独りでいたいわけじゃない”

「それが例え、どんな生物であろうと、物であろうと、だ」

「・・・同じです」

「ん?何がだ?」

 俺は前、家族に言われたことを俺なりに解釈を加えて言っただけなのだが、何が同じだったのだろうか。

「我が創造主と同じ顔、同じ言葉・・・」

 

この時、ゴーレムは思い出していた。

 自分を作り出した者の顔を。

 それはもう嬉しそうで、だが時折哀しそうに笑う姿。そして生前、常にともにいてくれた者の存在を。

 今目の前にいる海原彩人という人物像に重ねていた。だが、かつての主はもういない。いなくなったことを、かつての主と同じ言葉を言った彩人を見て、再度意識してしまっていた。

 そして、そんな哀しみ、現実を少しずつ理解しながらも、今後の自身の行く末もある程度固めていた。


「そうか」

 俺は、こいつの創造主?が誰だかは分からない。だが、俺と似たような境遇なのだと容易に推測出来た。きっと、その創造主は、独りが寂しくてこいつを創ったんだろうな。どうやって創ったのかは不明だが、そいつのセンスはきっと、他の人より何かしら突出していただろうな。

(でも、変な言葉はかけられないな)

 だからといって、むやみやたらに声をかけることはしなかった。

 たかが一回聞いたくらいで、全てわかったような体で言われたくないと、俺なら思ったからだ。かくいう俺も何度かしてしまった経験があるので、お前が言うなよ、なんて突っ込みは受け付けない。俺自身分かっているからな。

「・・・」

(というかこいつ、嘘つきじゃん)

 さっきこいつは、道具には感情が無いと言っていた。だが今のこいつは、哀しみという感情を表に出している。道具にも感情がある、ということなのだろう。もしくは、こいつを創った創造主?が、こいつに何かしらの感情を植え込んだか。だとすれば、こいつが知らなくても仕方ないのか。

 ゴーレムはひとしきり泣いた後、俺に少しずつ近づいてきた。無言のまま近づかれると無意識に身構えてしまうんですけど、仕方がないですよね?

「アルジン。私、決めました」

「お、おう。何をだ?」

 あれだけ感情を表ざたにした後で、一体何を決めたのだろうか。

「やはり私は、アルジンの旅に付いて行きたいと思います」

「・・・理由は?」

 俺だって、別に大層な理由を求めているわけではない。ただ単に聞きたいからである。

「私みたいな道具は、アルジンみたいな人に使われてこそ真価を発揮するのです。それに・・・、」

「それに?」

 何故少し溜めているのだろうか。

「アルジンはどこか、創造主と似ているのです」

「でも俺は、お前の言う創造主とは違うぞ?」

 このゴーレムの言う創造主がどんな人間なのかは知らないが、少なくとも俺みたいな日常的に自虐しまくる人種ではないだろう。多分、だけどな。

「分かっております。アルジンはアルジン。創造主は創造主です。ですがお二人にはある共通点があることを発見しました」

「ある共通点?」

 一体どんな点なのだろうか。

「それは、物を大切にする心を持っている、ということです」

「・・・そう?」

 今までのやりとりでそんなこと分かるとは思えないのだが?こいつは一体どんな受け取り方をしたのだろうか。

「自分で言うのもなんだが、そんなことはないと思うぞ?」

 俺自身、そこまで物を大切に扱おう、なんて意識を常に持っていたことはないんだがな。

「そ、そうですよね!ゴーレムさん、その気持ち、よ~く分かります!」

 と、どこに共感したのかは分からないが、何故かモミジはゴーレムの手を取る。

「分かりますか!?」

「ああ。アヤトさんは道具だけでなく、私達も植物たちもそこら辺の人達以上に大切にしてくれているんです!」

「ニャ!」

「・・・」

 ちょっと?身内ひいきは辞めてくれませんかね。とても恥ずかしいのですが。例えお世辞でも嬉しく感じてしまうのは仕方のないことだろう。

「・・・はぁ」

 まったく。まさかこのゴーレムとモミジがここまで仲良くなるとはな。それにファーリもいつのまにか警戒心が薄くなっている。このことから、このゴーレムはそれなりに信頼できる相手、ということなのだろう。完全に信頼できるかと聞かれれば、答えは否定から入るわけだが。だってこいつ、どこか胡散臭さを感じるんだもの。俺の呼び方だって、どこかのランプの精を彷彿とさせてくるし。俺、何でも願いを叶えてくれる力なんて持っていないからな。

「?どうしたのですか、アヤトさん?」

「いや、なに。これからこいつをどうやってイブ達に紹介しようかなって悩んでいてさ」

「!?それってことはつまり・・・!?」

「ああ。そんなに付いてきたいのであれば、こっちもお願いするさ。馬車馬の如く働かせるからな?覚悟しておけよ?」

 これぐらい言ってもいいだろう。皮肉みたいに言っているものの、奴隷の如く扱うつもりはない。ま、クロミルの代わりにするつもりだがな。

「はい!ありがとうございます、アルジン!」

「…ところで、その呼び方は本当にどうにもならないのか?」

「なりません。アルジンはアルジンです」

「・・・そうか」

 もう諦めよう。最後の悪あがきで聞いてみたが、無駄だったみたいだ。もういいや。

「わ、私もイブさん達の紹介にお手伝いしますよ!」

「ニャ!」

「さんきゅ、モミジ、ファーリ」

 さて、晴れてこいつも旅に連れていくことになったわけだが・・・そういえば、こいつの名前は何なんだ?種族名はゴーレムかもしれないが、名前まで一致しているわけではないはずだ。さらに言えば、こいつは魔獣のゴーレムではなく、ゴーレムに似せた魔道具だしな。名前に何か特別な思いがあるかもしれない。

「で、お前の名前は何だ?」

「名前、ですか?」

 ・・・なんか、よく見覚えのある光景だ。気のせいだと思いたい。

「そう言えば創造主は私の事をゴーレムとしか言っていませんでしたね」

「それってお前の名前なの?」

 どう考えても、こいつの名前を考えるのが面倒くさくて、外見がゴーレムに似ていたからゴーレムと呼んだ、という筋書きしか見えてこないのだが?

「そう言われてみれば・・・」

 と、ゴーレムは考え込み始める。もしかしなくとも気づいていなかったのか。いや、考える事すらしたことなかったのかもしれない。こいつの言う創造主?が、名前なんてどうでもいい、という考え方だったのかもしれないからな。

「では、アルジンが私の名前を考えて下さい」

「・・・」

 もう、なんでこう事あるごとに俺にネーミングの権利を譲渡してくるのだろうか。

「「・・・」」

 そして、どういう心境なのかは不明だが、モミジとファーリは俺の事をじっと見つめて来ている。仲間になりたいのか?なんて勘ぐってしまう。まぁ既に仲間のような扱いだけどな。

 ・・・これでもし、

“は?誰がお前みたいなボッチと仲間になるかよ、ぺ!!!”

 みたいな言葉を吐かれたら、俺は一生世捨て人になり、世間から自身を隔離してしまう自信がある。

(て、今はそんな自虐より、こいつの名前の事だ)

 魔道具のゴーレムだから、アイテムとゴーレムを混ぜて、ゴイテム?・・・ないな。別の名前を考えるとしよう。さて、どんな名前にしたらこいつは喜ぶのだろうか。

(そういえば)

 ゴーレムと聞くと、なんか石造りを彷彿したな。再生するときも、石を積み重ねて、という感じで再生していた気がする。

(四角い石?)

 そういえば、四角い石で、ふと思い出したことがある。

 それはレンガ。

 特に理由はない。おとぎ話の一つにレンガ造りの家が登場したようなしていないような気もするが、そんなことはどうでもいい。もっといえば、横浜の赤い倉庫に使われていたような気もするが、そんなことは忘れた。

(・・・何も思いつかないし、レンガを少しもじればいいか)

 レンガをアレンジして・・・【レンカ】。

 え?濁点取っただけじゃないかって?いいじゃないか、濁点とっただけでも。濁点をとっただけでも意味は大いに変化するものさ。例えば・・・アホがアボ、アポに変化するとかな。アホとアポが同じ意味である、なんてことを言うやつはいないだろう。ちなみに、アボのアをイに変えたらイボになる。本当にどうでもいいな。

「レンカ、とかどうだ?」

「レンカ・・・レンカ」

 まぁ、道具に名称をつけることはよくあることだろうし、この名前はキラキラネーム・・・ではないだろう。多分、うん。

「やっぱりアヤトさんは素敵な感覚をお持ちですね。あんな素敵な名前を思いつくなんて!」

「ニャニャン!」

 そ、そうなのか?俺、結構てきとうに付けた感じがするんだけど。つけられた本人が嬉しそうならいっか。結果オーライだ。

「ではこれから私はレンカ、と名乗らせていただきます」

 そう言い、ゴーレム改めレンカは何故か俺達に向けて一礼する。

「これから、私レンカをよろしくお願いいたします」

 そう言い、レンカは頭を下げる。

「ああ、よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いしますね、レンカさん」

「ニャニャンニャ♪」

 こうして、俺達の仲間がまた一人増えた。

 ちなみに、

「あ。私は普段、アルジンの指に密着する指輪として、アルジンの近くにいる所存であります」

 どうやらレンカは普段、俺の指にフィットするゴーレムリングとして付いてくるらしい。この状態なら、移動の際に消費する魔力を節約できるのだとか。一応、こいつの主である俺を足代わりに使うなんてな。別にいいけど。

次回予告

『4-2-40(第314話) 決闘の準備~ヤヤ~』

 彩人達が先日戦ったゴーレム、レンカと話をしている間、ヤヤは決闘に向けてリーフに戦闘関連の事を教わっていた。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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