4-2-38(第312話) 理不尽に決まってしまった決闘内容
翌日。
俺達はこの王都のある宿の一室で、決闘の内容が記載されている紙を受け取り、みんなでみている最中であった。
「は!?こ、こんなのあり得ないですよ!?」
その内容を見て、クリムは憤慨していた。その憤慨は俺も分かる。
「なんでヤヤちゃんだけでなく、ユユちゃんとヨヨちゃんまで決闘に参加させなくてはならないのですか!?」
そう。決闘の内容の一つに、ヤヤ達3人も決闘を強要されていたのだ。
そもそも、今回行われる決闘は全部で5試合。
1回戦戦は1対1。
2回戦は2対2。
3回戦は3対3。
4回戦は2対2。
5回戦は1対1。
このような形式で行われる。と、紙に記載してあった。ただ、それだけではなかった。なんと、人の指定まで記載していあったのだ。
まずヤヤは初戦に強制出場。
次にユユ、ヨヨは2回戦に強制出場。と、このように記載してあった。最初、ヤヤ達の実力について聞いてみたのだが、
「戦闘経験?そんなのないんヤよ・・・」
と、ヤヤは気まずそうに答えた。その答えに呼応するかのように、ユユとヨヨも申し訳なさそうにしていた。ま、そこは別にいい。だが、そんな戦闘経験皆無な人を決闘に強制出場させる点が許せない。絶対、マーハン側が有利になるように仕組んだのだろうな。ヤヤ達が戦闘経験皆無な事もおそらく調査して把握済みだったことだろう。事前に話し合いが出来ればこういう事態もなかったかもしれないな。そう考えると、クリムのあの行為のおかげで、俺達の勝率は結構下がっちまったんだな。
「…本当に反省しているの?」
「ほら。みんなにきちんと頭を下げて反省の意志を伝えなさい」
「ひぃ!?み、みなさん!今回、このような事態になって大変!大変申し訳ありませんでしたー!」
まるで不倫をしてしまい、愛想を付かれてしまったものの、再構築を望んでいる自業自得な愚か者のようだ。
(・・・ま、仕方がないか)
もしかしたら、話をしても変更出来なかったかもしれないしな。ここはもう変更不可箇所のようだし、別のところを見てみるとしよう。
決闘に必要な人数はヤヤ達3人を除くと6人。
(あれ?)
今、俺達は何人いるんだっけか?
俺、リーフ、イブ、クリム、ルリ、クロミル、モミジ、ファーリ。計8人か。となると、2人余るな。
(となると、誰を戦わせないか、か)
ルリとクロミルが出れば、間違いなく勝てるから出場してもらうとして、残りの枠は4つ。俺も出るべきだろうから、残り3つ。
(いや、誰が出るかだけしか考えないのはよくないな)
どこに出るかも考えなくてはならないだろう。
ルリとクロミルの二人が組めば、そうそう負けることはないから、4回戦目にでてもらうとするか。俺は基本1人だから、最後の5回戦目に出るとしよう。…俺って基本、戦いの連携とかあまり出来ないからな。なんて言ったってボッチだから、人に自身の意見をなかなか伝える行為が難しく感じてしまうんだよな。こんなんで大丈夫か、なんて自分でも思うくらいだから、常々克服しようとは思っているのだがなかなかどうして難しい・・・。
(と、今は俺のボッチ談はどうでもいいな)
そんなことより残った3回戦に誰が出場するかだ。
確か3回戦目は3対3の決闘だったはずだ。そして残った人達はイブ、クリム、リーフ、モミジ、ファーリの5人。
・・・。
この中で最も連携が取れ、勝率の高い組み合わせは・・・あの3人か。
「なぁ、少しいいか?」
俺の掛け声に、全員が俺の方を向く。急に多くの視線が突き刺さり、ちょっと戸惑ってしまう。ボッチの俺に、この視線の数は辛い・・・。
「なぁに、お兄ちゃん?」
「ちょっと考えてみたんだけど、いいか?」
「…ん、分かった。聞いてみる」
「ああ」
俺はこの決闘で誰が戦うか、どの順番で出るかを話す。
「3回戦目はイブ、クリム、イブ。4回戦目はルリ、クロミル。5回戦目は俺、ということでどうだろう?」
この提案に、
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
俺以外の人はただ黙っていた。おそらく俺の案に対して思考しているのだろうが、この沈黙の時間がきつい。もしこの時間の間に俺への罵倒を考えていたとしたら・・・辛い。想像するだけで泣けてきちゃう。そんな俺の想いが数秒続いた後、
「…いいと思う」
イブ、否、イブ様が俺の意見に賛成して下さった。この沈黙の空気を破ってくれてありがとうございます!
そして、そのイブの言葉を機に、
「そうですね。この中で3人と言ったら私達が適任ですね」
「私、例え1人だろうと2人だろうと頑張っちゃいますよ!」
リーフ、クリムも賛成のようだ。ほんと、良かった。思わず泣いちゃいそう。
「クロミルお姉ちゃん、一緒に頑張ろうね♪」
「はい。ルリ様と共に全力でやらせていただきます」
これで4回戦も大丈夫だな。後は俺か。
(まぁ、大丈夫か)
たとえ相手が誰であろうと勝つために戦うだけだ。どんな相手かは不明だが、まぁ当日になれば分かることだし、今は自身の調整に努めるとしよう。
「さて、これで戦う順番を決めたことだし、後は・・・、」
自身を鍛えようとしたところで、あることに気付いた。
(そういえば、ヤヤ達はどうすればいいのだろうか?)
ヤヤ達も1回戦、2回戦と戦うのだ。即座に負けても俺達が3回戦、4回戦、5回戦と勝っていけば問題ないが、最悪の事態も考えると、ヤヤ達も頑張ってもらう必要があるのではないだろうか?
だが、ヤヤ達は戦いを知らぬ村娘・・・じゃないか。町娘だ。そんな町娘に一から戦い方を七日近くで習得し、勝つことができるのか。見たところ、魔力量が突出して多い、なんてことは確認できないし。もしかしたら類まれない闘いの才能があるかもしれないが、そんなものがあるかどうかなんて分からない。
(結局、本人達のやる気次第、ということになるんだよな)
もちろん、ヤヤ達は勝つ気持ちでいるだろう。そういう気持ちを大切にしていってほしい。そんな気持ちがあれば、きっとボッチになっても強く生きていける事だろう。過去の俺は負けて、家族に依存していたようなものだったけどな!
・・・。
そ、それに、ヤヤ達は1人じゃない。きっと大丈夫だ。
「後は、各自で決闘に向けて体を調整していってくれ」
「あ、あの!」
「ん?」
ここでモミジとファーリが俺を見てくる。どうしたのだろうか。
「私達をどうして外したのですか?」
「え?」
単に適材適所で決闘に出場できる人を埋めていったら余っただけなんだけど。なんて言ったらモミジ達は悲しむだろう。私達、余りものなんですね、と。俺もそう言われた時の気持ちは分かるからな。なんとかその言葉を言わないよう、即席で理由を考えないと・・・そうだ!
「り、リーフは回復薬、ファーリは何か相手の動きに警戒しておいてほしい。そのために今回、この決闘から外れてもらったんだ」
うん、我ながら即席でよくここまで話せたものだ。嘘ではないが、俺のごまかし能力も向上していっているようだ。
「わ、分かりました。全力でみなさんを回復し、支援させていただきますね」
「ニャン♪」
「『分かりました』だって」
よし。これで惨めな思いをさせなくて済みそうだ。自分が余りものだと分かってしまったあの気持ちなんて味合わせたくないからな。ま、俺は経験済みだけどな!それも何度も!!・・・少し思い出しただけで人肌が恋しくなる。
「それじゃあこれから決闘までの間、この宿で朝食と夕食時に集合して、簡単な報告をお互いにする。こんなところか?」
俺は確認を取る意味で、イブとリーフに視線をおくる、
「「・・・」」
二人は無言だったが、首を上下方向に振ってくれた。どうやらOKらしい。
「…ちょっと。どうして私にだけ何もしてくれないのです?ねぇ?」
こういう時、クリムに対して聞こえないふりをしておこう。
「それじゃあ今日は夕飯までかいさ・・・、」
「ま、待ってほしいのヤ!」
ここで俺に待ったをかけてきたのは、
「ヤヤか。どうかしたのか?」
ヤヤであった。必要事項は既に言ったつもりだったのだが?もしかして、重要なことを言い忘れていた、とか?だが、一体何の事なのかは分からない。
「ヤヤ達はどうすればいいのヤ!?」
「あ~・・・頑張ってくれ」
今の俺に言える最上級に気を遣った結果、この言葉が出た。
「それ、ひどくない!?」
確かにひどいと思うが、だとすれば、どのような言葉をかければよかったのだろうか。
おそらく、ヤヤ達が戦闘経験皆無なことは、あの商王、マーハンも調査済みだろう。であれば、1回戦と2回戦に、ヤヤ達では勝てない人達を投入することだろう。そんなやつらに、たった数日で勝てるように稽古しろと?
多分、無理だろう。だから俺は、頑張れと当たり障りのないフンワリとした発言をしたのだ。うん。だから俺は悪くない。悪くない、よな?
「ヤヤ達もその決闘に向けて頑張りたいんヤよ!」
そうヤヤが言う。
(無理じゃね?)
と思ってしまったが、ヤヤの心まで無理と判断し、否定していい理由にはならないだろう。いや、最悪勝てなくても、なにかしら相手を手負いにすればいいんじゃ・・・。
(いっか)
その分俺達が頑張ればいいことだし、ヤヤ達のやる気を結果に結びつけてやりたいし。こういうやる気のあるやつ、俺は嫌いじゃない。熱血過ぎる人は苦手だけど。
そう言えば、俺が小学生の時、熱血教師がいたな。俺がいじめられていたら、いじめを止めるのではなく、いじめに耐えられるような強い肉体にしようとそいつは奮起していたな。当時はあの熱血教師の言いつけに従い、なにかした記憶があるが、今考えると、あの熱血教師、俺の体を鍛えるんじゃなくていじめそのものを止めるよう動けよ。そうツッコみたくなる。もしかしたらその時、親に相談していればいじめは収まっていたのかね。今では分からんが。
(と、考えが逸れた)
考えを戻すか。
とはいえ、この調子だと、ヤヤ達に体力とか技術等、先頭に関する知識、動きを徹底的に教える必要がある。俺は独学なので教えることに抵抗があるな。いや、もしかしたらヤヤ達に戦う力が無くとも、戦うための知識はあるかもしれない。一応聞いてみよう。
「ヤヤ。それじゃあ自分に合う武器とか分かるか?」
「・・・?武器って・・・包丁のこと?」
こんなレベルである。その回答、ゲームを知らない専業主婦が言いそうだ。縦代わりに鍋の蓋とか構えそうだ。
「これは一から教え、鍛える必要がありますね」
とリーフが言い、
「…ん。私も手伝う」
イブが言い、
「2人じゃ足りませんし、私も教えますよ!」
クリムが言う。
(し、心配だ・・・)
リーフとイブなら安心だが、クリムとなると心配だ。
(いや、待てよ?)
戦闘に関してはかなり知識を深めていたし、常日頃体を鍛えていくらいだ。むしろ、イブやリーフより適任だったかもしれないな。
「…いいの?」
ヤヤのやる気に満ちた表情とは引き換えに、ユユは申し訳なさそうにしていた。きっと、イブ達の貴重な時間をヤヤ達に使うからな。その行為に引け目を感じているのかもしれない。
「…ユユの考えていること、分からなくもない。けど、」
イブはユユの方を優しくたたく。
「…私達はあなた達のやる気に答えたいからするだけ。ユユはどうしたい?」
そうイブがユユに質問する。
「ユユだって、アヤトお兄さんの、みなさんの力になりたい!」
「…ん。だから、私もユユの期待に応える」
「ヨヨもやる!ヨヨもユユお姉ちゃんと同じだよ!」
「なら、ヨヨちゃんは私が見ましょう!」
「うん!よろしくね、クリムお姉ちゃん♪」
(やはり心配だ・・・)
まさか、ヨヨにいきなり空気イスとかさせないよな?大丈夫、だよな?
(大丈夫だと信じよう)
俺はもう気にしないことにした。
「それではルリ様、現段階でどこまで出来るのか、軽くお手合わせしてから、どのように戦うか話し合いましょうか?」
「うん!」
なんだかルリとクロミルもいい感じになってきているみたいだし、あの二人なら問題ないだろう。
さて、俺もあの魔道具の件を片付けるため、外に出るとするか。
こうして俺達はそれぞれの方角へ向かい、各自訓練へと励み始めていった。
次回予告
『4-2-39(第313話) 洞窟内で拾った魔道具の解析』
決闘の内容を理解した彩人達は、決闘に向けて動き出す。彩人はまず、先日洞窟内で拾った魔道具、指にはめられそうなリングの解析を行う。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




