4-2-36(第310話) 洞窟の奥へ
あれから俺達はさらに洞窟の奥へと進んでいる。最前には俺、最後にはモミジ、という配置だ。モミジを最後にしたのは、もしもさっきのゴーレムが背後から襲おうと近づいてきたとき、モミジならいち早く気付くことが出来ると思い、最後にしたからである。歩いている間、俺はさっき戦ったゴーレムについて考えていた。
(あいつ、鉄壁の番人というより、不死身の番人じゃね?)
ゴーレムの二つ名について、である。
確かに、ゴーレムの体は強固であった。だが、あのゴーレムの恐ろしいところは、体が強固な部分ではなく、何度でも再生する事が恐ろしく、強みなのではないかと考えている。もしかして、俺がさっき戦ったゴーレムだけ特別製だったとか?そんな特殊仕様、俺は望んでいなかったんだけどな。もしかしたら、長年孤独で居続けたから、あそこまで進化したのか?あのゴーレムが何故あの場にいきなり出てきたのかは分からんが、あのゴーレム、独りだったな。そう考えると、俺も人事に思えなくなってくる。俺もこの世界に来るまで、家族を除いて独りだったからな。
(なんで俺、さっきまで敵対していた魔獣にここまで親近感を覚えているんだろうな)
あいつも、もしかしたら独りで居続けることが辛く、誰かに倒して欲しい。そんな願いを持っていたんじゃないか、そう考えてしまう。その考えと相反し、誰にも倒されるわけにはいかないと、自身を強めていったのだろうか。孤独を紛らわすために。
(ま、真意は分からんがな)
そもそもあいつ、喋らんかったし。戦う時は無口で、というのがあのゴーレムの流儀なのかもしれないが。喋ったところで真意を喋るとも限らないけど。
(それにしても、あいつの再生能力は異常だったな)
あのゴーレムを倒すことが目的であれば、あいつを倒すことは困難であっただろう。どんなに切り刻んでも再生するんだぞ?消し炭にしても再生しそうだし。そもそもあのゴーレム、可燃性だったのかね。今はもう分からんが。他の方法を考えるとなると・・・あ。
(前に思いついたあのブラックホールが役に立ったかも)
随分前、確かこの世界に来て初めての森で何日も籠って生活し、森から出る時、生活の形跡を消すために魔法を組み合わせ、ブラックホールに似た魔法を作ったっけ。その魔法を使えば一発で倒すことが出来たな。今考えると、何故このような手を思いつかなかったのだろうか。ちょっと後悔してしまう。でも、あの魔法でゴーレムを吸い込んだとしても、どこからともなく再生するかもしれない。どのような理屈で再生するかは分からんが、あのゴーレムの再生能力をこの目で視認したんだ。可能性を否定できないな。
「あ。あれじゃないかな?」
おっと。だいぶ考え込んでいたな。ユユの言葉に反応が遅れてしまった。
「あ、あれだよ、きっと!」
そう言い、ヤヤは正面にある何かを指差し、声に喜びの色を追加する。えっと、ヤヤが指差しているものはなんだ?何か箱のような・・・箱!?
てことは、宝箱なんじゃないか!?つまり、宝箱の中には宝がどっさりと・・・。
(ごくり)
いや、油断大敵だ。何が起きるか分かるか分からないからな。慎重に、慎重に行動せねば。
「それで、誰が開けます?」
ヤヤが俺達に聞いてくる。宝箱を見つけて興奮しているご様子だったが、こういう時はどうすればいいのだろうか?
(ふむ)
やはり平等がいいだろう。だが、宝箱は1つしかない。それに対し、俺達は4人。平等にするにはどうしようか。
あ、そうだ。
「みんなで開けよう」
みんなで一緒に開ければ問題ない。そうすれば、みんな同じ体験をすることが出来るだろう。
「「「はい!!!」」」
どうやらみんな賛成のようだ。よかった。
「それじゃあみんな一緒で開けるんヤよ」
「それじゃあ声を合わせユ?」
「はい。そうした方がよろしいかと思います」
「それじゃあいくぞ」
「「「「せーの!!!!」」」」
みんなで一斉に宝箱を開けた。すると、
「「「・・・え???」」」
「は?」
宝箱の中身は…何もなかった。いや、宝箱の隅っこに通貨みたいなものが4枚転がっているようだが、宝箱の中身は他になかった。
「「「「・・・」」」」
・・・い、いや!それもそうか!そもそもこの宝箱がいつ置かれたのかさえ分からない代物。であれば、俺達より早くこの場に来たそいつらが宝を持ち去ったに違いない。つまり、簡単に言うと、
(ここまで来た俺達は骨折り損、というわけか・・・)
「「「「はぁ」」」」
4人のため息がシンクロする。
ま、人生なんてこんなものさ。楽は無いけど苦はある。しかもこのような損もある。まったく。これだから理不尽は。
(ま、こんな時もあるか)
こんな理不尽も時にある。そもそも、この宝箱を見て、中に宝があると錯覚していた俺達が悪いのだろう。となると、あのゴーレムは一体何だ?もしかして、宝を置いていったやつがあのゴーレムを置いていき、そのまま稼働している、とか?何はともあれ、この空気、どうするかね。
「さて、無いものはないし、このまま・・・、」
ふと、周囲を軽く見ていると、何かが目についた。宝箱が置かれてあるこの部屋の隅っこに、小さな箱があった。目の前の大きな宝箱に視線が集中していたため、気付かなかったわ。
「?アヤトさん、どうしたのですか?」
「いや、隅っこに箱が・・・、」
と、モミジの方を振り返ると、反対側の隅っこにも小さな箱があった。
(まさか)
俺はこの部屋の四方を見てみる。やはり、四方の隅それぞれに小さな宝箱が存在した。
もしかして、目の前にある大きな宝箱は見せかけで、本命が四隅にあるあの小さい宝箱、とか?ありそうだ。あのゴーレムももしかしたらこの大きな宝箱ではなく、この小さな宝箱を守っていたのかもしれない。
「隅っこに、ですか?」
「ああ。そこにな」
俺は、小さな宝箱を指差す。
「…あ、本当にありますね」
「ああ。四隅それぞれにあるみたいだ」
「「ほんと!!??」」
「!?あ、ああ」
急に話に割り込んでこないでほしい。ビックリしてしまったじゃないか。
「ほ、ほんとヤ!」
「ちょっと見に行ってくユ!」
そう言い、ヤヤとユユは宝箱の方へ向かっていった。
「それじゃあ私も、こちらの宝箱の方に行かせてもらいます」
「ああ」
そう言い、モミジも宝箱の元へ向かう。
「さて、」
この宝箱の中には一体何が入っているのだろうか。楽しみだな。
それで、宝箱の中身を開けてみると、
「お♪」
中には、小さいが金色に輝く薄い円柱状の物体が一つあった。この形…何かの通貨か?それにしても金色か。この色を見るだけで高級感を覚えるぜ。これを売れば、俺はきっと小金持ちになれるだろう。・・・ちなみにだけど、この金色ってメッキじゃないよな?今見ている限り、塗装の感じはしないが、もし金色のメッキを施した銅の通貨や鉄の通貨だったら泣くぞ。
売ることも考えたが、記念に残しておくこともいいだろう。今のところ、そこまでお金に困っていないからな。食費がそこまでかかっていないからか?ま、倹約家、ということなのだろう。それでも最近は結構お金を使ったけどな。ヤヤ達の家の件で。
「ん?」
なんかもう一個入っているな。これは・・・何?何かの玉?球体みたいだけど、何に使うのだろう?それにこの黄色い球体、なんか見覚えがあるような、ないような?
・・・。
ま、いいか。俺のアイテムブレスレットに入れておこう。もしかしたら何か役に立つかもしれないし。
「アヤトさん、そっちに何が入っていましたか?」
「ん?俺はこれだ」
と言いながら、さっきポケットにしまった金色ピカピカの通貨っぽい何かを見せる。あ、さっきの球体もこの時に出すべきだっただろうが、忘れていたわ。ま、後で言えばいいか。黙っておいても問題はないだろう。
「あ!アヤトさんも同じなんヤ!」
と、ヤヤが見せてきたのは俺と同じの、ピカピカに輝く金色の通貨っぽい何かであった。ヤヤが見せてきたことに共鳴するかのように、ユユとモミジも見せてきた。どうやらユユとモミジが開けた宝箱にも同じ物が入っていたらしい。となると、あの使用用途不明な球体が入っていたのは俺だけ、ということになるのか。これは黙っておいた方が良さそうだな。言い争いになる可能性があるからな。
「それじゃあ他にめぼしいものは無さそうだし、ルリ達のところに戻るか」
「「「はい!!!」」」
こうして俺達は戦利品を得て、この洞窟を後にした。
途中、ゴーレムが出てきた空間に何か落っこちていたり、洞窟から出てきたら、洞窟前で見張ってくれていたルリ達がキノコ鍋をつついていたり、そのつつき合いに俺らも参加したり色々あった。その後、俺達は無事に街に戻り、翌日に向けて英気を蓄えていった。
次回予告
『4-2-37(第311話) 商王、マーハンとの話』
滝から戻ってきた翌日、彩人達は商王、マーハンとの話が始まる。話の内容は、ヤヤ達が臨時休業しているヤユヨカウンセリングに関することであった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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