4-2-31(第305話) キハダへの入国
牛車を進める事数時間。正確な時間は時計を見ていないので分からないが、昼は近いと思う。何せ、我慢できているとはいえ、お腹が空いてきたからな。それに、道っぽい道の先に、なんだか縦に長い何かがある。あれが何なのかは分からないが、門かそれに近い何かだろうと推測できる。つまり、黄の国の首都、キハダは目と鼻の先という事だ。俺はキハダに未知な期待を持ち、気持ち進みを加速させていった。
門の前にて、俺達は一度止まる。きっとビルの受付みたいな事務的作業でもするのだろうと思っていたら、
「通るよ」
「「は!!ご苦労様です!!」」
この二言三言で終わってしまった。顔パス、なのかもしれないな。それほど、先導している男がこの国、この街で有名なのか?他所の国どころか別世界から来た俺には分からないのだが。そして、
(ああ。いよいよこれから商王とやらに会うのか)
相手は一応王らしいから、それなりに正装とかしなくちゃいけないのだろうか。正装とか重苦しくて苦手なんだよな。同様の考え方で、俺はフォーマルな装い、礼服等の着用も苦手だ。俺はもっとラフに生きていきたい。と、今は俺のライフスタイルとかはどうでもいいか。そんなことを考えていたら、
「さて、今日はお疲れ様でした。私はこれから商王様のところに報告してまいります。明日、再びあなた様方をお迎えにあがりたいと思っていますので、今日はお休みくださいませ。明日は万全の態勢で、商王様とご対面してくださいませ」
そう畏まりながら言われた後、「オススメの宿の候補はこちらに記載していますので、後でご確認してくださいませ」と言われた後、どっか行ってしまった。この街のオススメ観光スポットとか教えてくれないのだろうか。とんだけちんぼだ。と思っていたら、さきほど渡された紙っぽい裏に、何か細かく書かれていた。
(ん?)
その細かい何かを凝視し、解読してみる。
(こ、これは!!??)
場所についての説明と、この街からその場所への行き方が記されているではないか!?しかも複数ときたものだ!ごめんなさい、さっきの男の人。俺は心の中で謝っておいた。
(複数書いてあるから、どこに行こうか迷うな)
滝、沼、大きな樹、不思議な岩。どれもこれも自然の産物だと思われるが、その自然の産物付近にはそれぞれある食物が自生しているらしい。ここまで解読出来たのだが、
(後は・・・なんて書いてあるんだ?)
解読不能であった。文字が小さ過ぎてこれ以上正確に読みほどくのは無理そうだ。これ書いたやつ、実は小人というオチでもついているのではなかろうか。そんな起承転結の結の部分を考えさせられてしまった。
「「・・・」」
俺が殴り書きのように書かれているメモを見ながら考えていると、リーフとイブが何やら話していた。今まで気づかなかったが、何を話しているのだろう。
「みなさん、どこの宿に泊まりたいとか、希望はありますか?」
そうリーフが俺を含めたみんなに聞いてきた。…そのみんなの中に俺って含まれているよな?大丈夫だよな?
「「「「「「「「・・・」」」」」」」」
様子を見てみると、俺を含め、リーフとイブ以外、特に要望は無いらしい。俺も特にこれといった要望はないな。宿は最悪、安心して寝る環境が整っていればいいしな。食事も俺達が自力で作ればいいし、入浴も青魔法で水を出し、赤魔法で水を適温のお湯に変温させれば問題ないし。後は・・・ないな。
「…だったら、ここはどう?」
イブが指差したのは、目の前にある宿だ。オンボロではないが綺麗、と言えるほどでもない。小綺麗くらいか。地球の高級ホテルとかスイートルーム等の綺麗さはなく、どちらかというと観光都市の民宿みたいな、そんな綺麗さかね。つい地球にいた時の基準で考えていたのだが、この世界の基準で考えるとどうなのだろうか。実は外がちょっとだけ汚く見えていても、中はとても綺麗とか?ありえるな。
・・・ま、これも旅の醍醐味か。よほどおかしな宿じゃなければいいか。少し宿のクオリティについて考えてしまったが、野宿するよりはマシになるだろうな。
そんなことを考えながら、俺はみんなの後をついていき、宿の中に入る。宿の中は綺麗だった。受付は民宿というよりビジネスホテルみたいなたたずまいをしている気がするな。でも、民宿のぬくもりを残している気がするから、民宿とビジネスホテルのハイブリッドだな。
「この宿、大部屋はありますか?」
「はい、最大9人まで泊ることの出来る大部屋ならございます」
「「「「「「「「「・・・え??????????」」」」」」」」」」
ちなみに俺達は今、ファーリを除いて十人である。聞き間違いで無ければ、さきほどの受付の人の人数と俺達の人数が合っていなかった気がする。
「もう一度伺っても?」
「はい。この宿には最大9人まで泊めることのできる大部屋がございます」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
この中で一人、完全にあぶられる人がいるらしい。なんとも悲しきことか。
「それじゃあその部屋と、角犬も一緒に泊まれる部屋をお願い出来ないか?」
リーフが聞いているのに、俺は横やりを入れる。なんか受付の人を惑わせているような気がするが、仕事だと思って諦めてくれ。
「少々お待ちください。・・・はい。まだ空きはあります」
「それじゃあその二部屋を使いたい」
「かしこまりました」
そう言い、受付の人は奥へと行った。多分、部屋の鍵でも取りに行っているな。
「アヤト?」
「大丈夫。みんなはそっちの大部屋に泊まってくれ」
「「「「「「「「「!!!!!!!!!?????????」」」」」」」」」
?何故みんなは驚いているんだ?9人までしか泊まれず、今俺達は10人。であれば、1人は大部屋に泊まれないことになる。となれば、その1人は誰になるかの話になるか、そんな話は不要である。それは何故か?その理由は簡単。
俺がその1人だからだ。だから俺は一人、独りで泊まればいいんだ。幸い、角犬のファーリも一緒にいるから、人肌恋しい現状の打破に繋がるかもしれない。ファーリは角犬なのでイヌ肌なのだが。そんなことはどうでもいいか。
「で、でも!きちんとみんなで話し合って・・・!」
「いや、これが最善だろう?女みんなで大部屋を使い、男独りの俺は、こいつと共に個室で泊まる」
何も問題ないはずだ。正直なところ、女の園に生まれた姿のまま突撃したい気持ちはない、ことはない。だが、今はそんなことをしている場合ではないことくらい把握している。そんな間違いを犯すリスクを少しでも減らすため、俺は独り、孤独に泊るのさ。あ、ファーリがいるから独りじゃないか。
「…なるほど」
イブは何を納得したのか、クリムとリーフに何か耳打ちを始めた。
「「「「「「・・・??????」」」」」」
((??))
なんかあの3人、急に顔を赤くしたな。どうして?それと、なんかチラチラと俺の方を向いている気がする。俺の気のせいか?ボッチな俺の自意識過剰か?
「そういうことなのね」
「であれば納得です」
そうクリムとリーフが言った後、イブを含めた3人はまた俺を見た。
(?本当に何なんだ?)
「え~?ルリ、お兄ちゃんと一緒に寝たいよ~」
「「「それは駄目」」」
「え~?」
何故ルリの提案をイブ、クリム、リーフの三人が断るんだ?普通、俺が断るんじゃないか?ま、俺が断る手間を省けたのでよしとするか。
「「「「「・・・」」」」」
なんか、他にも視線が・・・。
でも俺は気にしない。ボッチは刺さるような視線を無視できるのだ!これはボッチ関係ないな。
「それじゃあ・・・、」
「?…アヤト、どうかした?」
「これから、どうする?」
そういえば、今日一日はフリーなんだよな。
今後の予定、考えていなかったわ。
次回予告
『4-2-32(第306話) いざ滝へ』
1日予定が空いてしまった彩人達はみんなで相談した結果、首都を出て滝へ向かう事になった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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