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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-28(第302話) ヤヤとマルメおばちゃん

 あれから十年。俺は必死に牛車を引き続け、ついにはヨボヨボのお爺ちゃんに~、なんてことはない。あの町から首都までは数日くらいだそうだ。明確な数字が判明していないのは、天候によって進む速度が変わるから、だそうだ。確かに雨の日の後のぬかるみは地味に嫌だな。俺も何度か経験しているからな。特に新品の靴をぬかるみにつけてしまい、台無しになってしまった後はなんとも言えない気分になる。誰のせいにしようとしても天気のせいに出来ないし、なんだったらぬかるみにはまってしまった自分が悪い。そう言われてしまえば何も言えなくなるからな。あの時は辛かったな。

 数時間経過し、前方で前に進んでいる馬車が進みを止まらせる。俺も前方に倣い、牛車を止める。

「ホスコーンに少し疲れが見え始めています。念のため休憩させたいのですがよろしいでしょうか?」

「ああ」

 そんな短い返事をすると、男は会釈をし、前方に戻っていった。言われてみれば俺も結構疲れていたんだよな。それにしても、俺ってホスコーン、馬みたいな動物と同等、もしくはそれ以上の体力を持っているという事なのか。俺、競馬に出れば一位になれるんじゃないか?そんなよく分からない自信に満ち溢れ、気分が程よくなった時、

「ニャン」

「!!??」

 俺の牛車の中に魔獣が!?俺は戦闘態勢に入ろうとしたが、見知ったやつであることにすぐ気づいた。

「て、お前か」

「ニャン♪」

 確か、ヤヤ達の家に居座るようになった角犬だな。というか何でここに?確かみんなが牛車に乗り込んだ時、角犬はいなかったような。

「ニャ~ン♪」

 こいつ、どうしてこんなに懐いているのだろうか?俺、地球にいた時は基本、動物に嫌われていたんだけどな。ま、同族である人間にも嫌われていたんですけどね!・・・ちょっと今は疲れているから、そのせいでネガティブ思考になっているのかもしれない。

「?」

 そういえば、やけに牛車内が静かだな。いつも賑やかな気がしたのだが?女子のお喋り力は無限大だからな。ほんと、回送電車のように止まらない。一種の恐怖すら感じる喋りがまったくないのはおかしいと思うのだが、俺の気のせいか?俺の偏見が招いた勘違い、とかか?

「「「「zzz」」」」

 ヤヤ、ユユ、ヨヨ、角犬が寝ていた。

「「「しー」」」

 イブ、クリム、リーフは、三人が寝ているので静かに、という指示を指で示す。

「「「・・・」」」

 ルリ、クロミル、モミジ、は、イブ達の言う通りに従っているのか、静かにしている。というか心なしか、眠そうな気がする。まぶたが閉じている気がするが、俺の気のせい?ま、別に寝ようが起きようがすきにくつろいでくれてかまわないのだが。

「ま、マルメおばちゃん・・・」

「!?」

 牛車内の様子を見終えたので、外に出ようと思ったのだが、ヤヤの寝言が聞こえてしまった。その寝言は、誰かの身内を表すような言葉であった。

(マルメおばちゃん?一体誰の事だ?)

 さっき、俺の耳がおかしくなければ、ヤヤからそう聞こえた。確か・・・まるめおばちゃん?とか言っていたな?ということは、ヤヤ達の祖母にあたる人物なのか?

 そもそも、ヤヤ達は身内の事、ほとんど話してこなかったな。俺が聞かなかったのもあるかもしれんが。俺も話していないし、お互い様か。

「・・・」

「「「・・・」」」

 俺がヤヤの顔を見ながらヤヤの発言について考察していると、ふと三人の視線を感じ、その方角を見る。そこには見知った人達が俺の事を凝視していた。

「少し、外を出ましょうか?」

 リーフが声をかけてくる。

「クリム、イブ。見張り、お願いしていい?」

「ん」

「はい」

「それじゃあアヤト、行きましょうか?」

「あ、ああ」

 勝手に話が進んでいる気がするが、それ以上に先ほどの発言が気になり、それどころではなかった。

 というか、リーフはさきほどヤヤが言っていたマルメ?という人物の事を知っているのか?知っているとすれば、何故知っているのか凄く知りたい。ま、リーフの話を聞けばわかるか。

 牛車から出て、少し離れた場所に俺達二人。

「さきほどの言葉、聞いてしまいましたよね?」

 先ほどの言葉というのは、間違いなくヤヤのマルメおばちゃんの事だろう。

「ああ」

 俺は隠すことなく肯定する。

「そう、ですか・・・」

 何故か凄く戸惑っていた。なんでだ?そんなに言いずらいことなのか?

「さきほどヤヤが言っていたマルメというのは、ヤヤ達の育ての親なのです」

 リーフは先ほど俺が聞いたマルメおばちゃんについて話始める。


「ちょっと待て」

「?どうかしました?」

「どうしてリーフがそのことを知っているんだ?」

 俺、一度もヤヤからそういった話を聞いた覚えがないのだが?

「ええ。ヤヤがポロリとマルメおばちゃんと言葉をこぼしたので、ちょっと聞いてみたら教えてくれたんです」

「あ、そう」

 また俺だけ知らないパターンか。俺はボッチになる宿命でも背負っているのだろうか。

「ちなみに他に知っているのはイブ、クリムの計3人です」

「あの二人、知っていたのか」

「ええ。ですからあの二人もある程度察していたのでしょうね」

 よかった。俺だけ知らなかった、という事実は存在していなかったみたいだ。俺も日々成長しているというわけだ。もちろん、いい意味でな!

「それで、そのマルメおばちゃんという人は一体・・・?」

「はい。その人物は・・・、」

 リーフは、マルメという人物について話してくれた。


 まずマルメという人物は、幼少期のヤヤ達を育ててくれた人物である、ということだ。そして、数年かけてマルメという人物はヤヤ達を育て、逝ってしまったらしい。話してくれた当初、ヤヤはマルメの死因は寿命なのではないか、という予測を付け加えたらしい。

そんなマルメの存在がなければ、今のヤヤ達を作り上げているのだと。

マルメの存在がなければ、ヤヤは生きていられなかったと。

マルメの存在がなければ、ヤヤだけじゃなくユユ、ヨヨも生きていられなかったと。

 それほどまでにマルメを過大評価し、嬉々として説明した後、少し悲しめの表情をしていた。その後、

「もうマルメおばちゃんはいないんヤけどね」

 と言っていたらしい。その後、ヤヤは話を切り上げて終わりにしたらしい。


「ですから、ヤヤ達にとってマルメおばちゃんとは、育ての親であり、恩人なんだと思うんです」

「俺も同感だ」

 もし先ほどの話が本当であれば、マルメおばちゃんが今のヤヤを育て上げたことになるだろう。あの環境下でよくもまぁこんな子が育つこと。地球よりも環境が劣悪化していたと思うのに、あんなにまともな性格をしているとは。そういえば、もしかしたらモミジと境遇が似ている気がする。モミジも独りで孤独に戦っていたからな。いや、そう考えるとヤヤ達の方が恵まれているな。だってヤヤ達は単数ではなく複数なのだから。

(モミジは本当、どれほど辛い環境下におかれていたのだろうな)

 ヤヤ達でも辛いと考えてしまうのだ。それ以上に劣悪だと思われる環境下で育ったモミジの性格は、捻じ曲がることなくとても優しい性格で、魅力的だ。だからこそ守りたいと思うし、守らなくちゃという使命感を持てる。

 と、今はモミジのことは置いておくとするか。

 それにしても、ヤヤ達とマルメおばちゃんの関係ってなんだろうか。いや、育ての親、というのは聴いたから分かるのだが、血縁関係はどうなのだろうか?マルメおばちゃんと言うからには、祖母と孫の関係か?なんて考えたが、それだと少しおかしいことがある。

 それは、マルメおばちゃんが幼少期のヤヤ達を育てた、ということだ。これだけ聞くと何も問題ないように聞こえるが、ひねくれた俺はある考えにいきついた。

(あれ?それじゃあ赤ちゃんの時は?)

 そう。幼少期よりも前、赤ちゃんの時はどうなのか、ということだ。幼少期はということは、乳児の時は違うのか、という考えを行ってしまう。単なる言葉の綾という可能性も十分にあり得るので何とも言えないのだが。憶測で色々考えるのはいいが、断定するにはまだ早いな。これ以上判断材料もないし、乳児だった時は誰が育ててくれたのか、という疑問は後回しだな。

 ということは、俺が初めてヤヤの家を訪れたあの家って、実はかなり思い入れのある家だったんじゃ・・・?でも、躊躇なく壊すことに賛成だった気がする。てことは、ヤヤ達の心の中ですでに整理できている、ということなのだろうか。大切な人を亡くした辛さはいくら時間が経過しても癒せるものじゃないと思うからな。多少治ったのであればよかった。

(でも、きっと・・・)

 ヤヤはさきほど、マルメおばちゃんと呼んでいた時、泣いていた。多少時が傷を癒したとしても、寝ている時とか、無意識に思い出してしまう時があるのだろうな。俺も無意識に辛いことを思い出してしまう事、あるし。こればかりはどうしようもないと思う。手助けは出来るかもしれないが、自身で乗り越えてもらうしかなさそうだ。

「話してくれてありがと」

 俺はリーフの話に感謝し、言葉をリーフに渡す。

「いえ。こういうことは本人から話しづらいですし、アヤトにも知っておいた方がいいと思ったので」

「なんで?」

 俺なんかに知っておいて得することってないと思うのだが?

「理解者は、多くて困ることはない、ということです」

「…分かった。しっかり記憶しておく」

 理解者、か。その言葉を俺は別の言葉に変換していた。

(地球にいた時、俺にもっと理解者、友達がいたらなぁ)

 それは友達。

 何かしら共通の話題があったり、共に行動したりと、人によって意味は様々だ。だが、少なくとも赤の他人より理解しているだろう。だから友達は理解者である。理解者と友達がイコールで繋げられるかと言われればそうじゃないけど、少なくともこういう考えが出来るだろう。ボッチだったから理解者少なくて意見を発した覚えないけど。なんか悲しい。

「あ、前から来ましたよ」

「?ああ、そうみたいだな」

 リーフが誰の事を言っているのか分からなかったが、前を見てみたら分かった。前方で先導している男だ。

「すいません。そろそろ出発したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ。引き続き先導をお願いするよ」

「かしこまりました」

 さて、そろそろ戻るか。

「アヤト」

「ん?何だ?」

「分かっていると思いますが、この事は他言無用でお願いします」

「イブとクリムを除いて、ということだな?」

「はい」

「分かった。俺も人の過去話をむやみに話す男じゃないからな」

 そもそも、話せる人いないし。・・・こういう自虐って、心に来るんだよな。自分でしておいてなんなんだけど。

 だがこの時、俺とリーフは気づいていなかった。

「・・・」

 この場には俺とリーフに加え、もう一人いたことに。その人が、さきほどの会話を聞いていたことに。

次回予告

『4-2-29(第303話) 角犬の名前、決定!』

 彩人達は黄の国の首都、キハダに向かう道中、野宿をすることになった。野宿する準備をして夕飯後、角犬の名前を決めていないことに気付く。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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