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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
301/546

4-2-26(第300話) 十数年前の生命降誕

ついに『色を司りし者』が300話に突入しました。

まだまだ話は続きますが、300話記念として、あとがきに短編をつけさせていただきます。

後書きも気楽に読んでみてください。

 十数年前のある日。

 その日に、ある一つの生命が誕生した。

「元気な女の子ですね」

 それはある女性、マーハンから誕生した新生児である。マーハンは自身から生まれた新生児の性別を聞き、

(女じゃだめだわ)

 生まれたばかりの子を既に見限っていた。何故なら、マーハンは自身の子供に、自身の店を受け継いでほしいと考えていたからである。

 そもそも、今のマーハンは妊娠し、お腹の中に新たな命を宿していたにも関わらず、常に自身が経営している店の事ばかりを考えていた。そして、その店の現在はもちろんのこと、未来のことも見据えていたのだ。

(私のこの店が未来永劫、繁盛するためには・・・)

 こうしてマーハンが考えた結果、自身の考えと酷似した人がこの店を継ぎ、経営していくことである。

 では、どのようにして、自身の考えと酷似している人を探していくか。どのように、この店を継いでくれる人を探すか。

 最初、マーハンは色々伝手を使い、あらゆる人をみてきた。その人の性格、金遣い、生活風景。あらゆるモノを判断材料にし、識別していった。だが、マーハンと酷似した思考、価値観を持つ者は誰一人としていなかった。

 なら、マーハンはどうしたか?

 その答えは、生命をお腹の中で育める女性だからこそできる考えだった。

(そうよ。自分で産めばいいんじゃない)

 それからのマーハンは、自身の商売をしながら、自身の子供を孕む為、様々な男性と子を作り始める。男性の遺伝子はどうでもよかった。ただ、自身の思考を、価値観と類似した人間がこの世界に生誕し、自身の店を継いでほしい。ただそれだけのために、子供を何人も作っていった。そして、何人か産んだ後、気づいた。

(やっぱり、産んで継承者を育てるより、継承者を探した方が効率的だわ)

 それは、子供を何年、十何年かけて育てるより、自身の店を継いでくれる人を探した方が効率的だと。そう気づいたマーハンは、

「こんな子達なんて要らないわ」

 子供達を、捨てた。

 親としての感情なんて、一切なかった。ただ、自身の店に、将来に不必要だと判断し、その場で自身の子供を切り捨てたのだ。

 その後、マーハンは子供を数人産むのにかかった数年を取り戻すように商業に勤しんでいった。


 捨てられた子供のうち、自立可能な子供は自立していったが、中には生まれたばかりの子供も厳存する。自立可能な子供は一時期母の行動に悲しみ続けたのだが、自身の生活のため、立ち上がった子供がいた。だが、立ち上がろうとしても、

「「・・・」」

 目の前で何が起きたのか分からない子供もいた。それくらい年が経過しておらず、母親に捨てられた現実さえ理解できていない。

(この子達を守らなきゃ)

 自立しようと離れていく子供達の内の一人は、幼い子供に手を伸ばす。

「きょ、今日から私が、あなた達のお姉ちゃんヤよ?」

 その子供は、自身より幼い子供に手を差し出す。さながら、救助しにきた救急隊員が、要救助者を救おうと手を差しのべているようだ。

「お、お姉ちゃん?」

「そうヤよ。今日から私があなた達のお姉ちゃん♪」

 その少女も、本当は誰かに助けてもらいたかった。だが、だからといって、目の前で何もできぬまま、死にそうな子供を見捨てるわけにはいかなかった。自身の今後すらろくに見通しがついていないのに、その少女は手を差しのべる。

 その後、女の子2人と、赤子1人の計3人は、共同生活を始めた。

 だが、無理はすぐに来る。

(やっぱり、私じゃあこの子達の面倒を見る事なんて・・・、)

 金銭面もそうだが、赤子の世話を子供がするのには、負担が大きすぎたのだろう。それだけでなく、赤子ではないとはいえ、自分より幼い子供の世話がもう一人分追加されている。その二人の世話を子供がするのには、すぐに限界が来てしまった。

(私、見捨てるべきヤったんかな)

 そう考え、知らぬうちに見知らぬ土地に足を踏み入れる。

 そこは、栄えている表通りとは裏腹に、閑散とし、建物が汚い裏通りのある一角。

「・・・おや?どうしたんだい、お嬢さん?」

 そこには、少し薄汚れた老人が子供に話かける。

「…何でもないんヤよ」

 そうアッサリと言い、少女はその老人の前を通り過ぎようとする。

「待ちな」

 だが、その老人はその少女の手を取る。

 これが、その老人マルメと少女、後のヤヤとの出会いであった。


 その後、マルメは3人の子供を自宅に招き入れる。

「汚いところだけど、我慢してね?」

 それは、本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるくらいボロく、老朽化が進んでいた。それでも、3人にとっては救済であった。

「あの、本当に私達が住んでもいいの?」

 少女はマルメに聞く。

「ええ。子供は宝よ。だから、あんな場所で死んでいったら、宝を腐らせることと同義なのよ♪」

 マルメはお茶目な少女風に言う。

「!?」

 少女は、さきほどまで考えていたことを明確に言われ、思わず目を正円にしてしまう。

「だから、こんなおばさんでも出来る事をしてあげたいの。駄目?」

 マルメが差し出した手は、ひどく痩せこけていた。それもそのはず。マルメ自身、十分な栄養を補給出来ていないのだから。自身の身の清潔さにも気を付ける余裕がないほど困窮しているのだ。それでもマルメはまだ知らぬ少女に声をかける。

「お、お願いするんヤよ」

 少女はマルメの提案を受け入れ、マルメとオンボロな家で共同生活することになった。

 最初、マルメは少女達の名前を聞いてみたのだが、

「私、自分の名前なんて気にしたことが無いんヤよ」

 少女は毎日、生きていくだけでも精いっぱいどころか満足に出来ておらず、少しずつ死への道を進んでいたのだ。自身の名前の有無を気にする余裕なんてなかったのだ。それをかわいそうに思ったのか、マルメは3人の名前を付けた。その名とは、

「それぞれヤヤちゃん、ユユちゃん、ヨヨちゃん。これでどう?」

 そう言われた少女達、特にヤヤと名付けを提案された少女は、

「私にこんな素敵な名前を・・・。あり、ありがとう、マルメおばちゃん」

 ヤヤは嬉しさのあまり、涙をこぼし、マルメに飛びつく。

 それから、マルメ達4人は貧乏ながらも過ごしていった。


 マルメとヤヤ達が一つの家で過ごし始めて数年。ヨヨはようやく人と話すことが出来るようになり、ユユは家事を率先して手伝うようになった。ヤヤとマルメは四人の食い扶持を確保するため、働きに出ていた。給料が十分ではないものの、空気が数年前より暖かくなっていた。

 そんな時、マルメの様子に異変が訪れる。

「マルメおばちゃん!」

 それは、マルメの突拍子のない卒倒である。ヤヤはマルメを休める場所に運び、看病をする。ユユ、ヨヨも心配なのか、マルメのために何か出来ないか模索し、

「私、ご飯を用意してくユ」

 ユユは病人でも食べられるような食事を作り始め、

「ヨヨ、汗拭く布持ってくるヨ!」

 ヨヨはマルメの体を拭ける布を用意し始める。それぞれ行動を起こし、マルメの看病を始めた。

 看病を始めてから数日。三人は交代で看病し続けた。特にヤヤは、食い扶持確保のため、外に出て働いた後、マルメの看病も率先して行った。ユユとヨヨは仕事と看病を掛け持ちしているヤヤの体調を気にし、率先してマルメの看病に名乗りを挙げた。三人の決死の看病もむなしく、マルメの体力は少しずつ無くなっていく。

「「「マルメおばちゃん!!!」」」

 そんなヤヤ達の叫びは、マルメに届いたものの、マルメにはもう、その言葉に対し、正常な言葉を出すことすらままならない。

「や、ゆ、よ・・・、」

 マルメは自身の声をかすれながらも、自身の孫のような想いを乗せて、三人の頬を撫でるように触る。

「わたしは、ずっと、しあわせ、だった。だか、ら!?」

 急にマルメがせき込む。その様子に三人は慌て、何をどうすればいいか迷う。

「わたしの、いとしいいとしい、」

 まご。その言葉を、口を動かし無音で発した後、マルメの目は完全に閉ざされ、完全なる静となった。もうマルメの体は何一つ動かなくなった。顔も、体も、髪の毛も、臓器も。

「「「!!!???」」」

 三人は、完全に目覚めることのない老体を目の当たりにし、声にならない声を発した。八つ当たりできず、目の前の現実を受け入れるのに、少なからず時間はかかった。

 ひとしきり時間が経ち、泣き疲れ、現実をようやく少しずつ受け入れられるようになる。

「ユユ、ヨヨ」

 涙を完全に拭えず、目も腫れがほとんど引いていない中、ヤヤは二人に話かける。二人はヤヤの声掛けに反応し、ヤヤの方を向く。

「「!!??」」

 ヤヤは、ユユとヨヨがこちらを向いたことを視認すると、互いの体を接着させるように手繰り寄せる。

「マルメおばちゃんの分も、みんなで生きよう」

 そう語り掛けると、三人はさらに涙を流し、止められなくなる。

「「うん」」

 ユユとヨヨは、ヤヤの行為を受け入れ、強めに抱きつく。

 こうして三人は、これまで慕っていたマルメという存在を失いつつも、三人で生きていこうと強く、深く誓う。


 その後の三人、特にヤヤに影響があった。

 ヤヤはより稼げるよう、自身の体を売り始めた。肉体労働ではなく、自身の女の体を利用した商売に足を突っ込み、食い扶持を繋いでいく。そこには、女性の貞操観念、憧れは一切捨てていた。

 ユユは、家事の大半をこなすようになり、家計を担うようになった。

 そしてヨヨは、ユユの手伝いを今まで以上に率先して行うようになった。ヨヨは、自分のやるべきことに集中し、周りの事を見ていなかった。だがユユは、ヤヤが自分たちの食い扶持まで確保してくれている事に感謝し、

(ほんと、嫌になユ)

 自分で自分の事を嫌悪した。

 そしてヤヤ、ユユ、ヨヨはマルメの事を胸に秘めながらも、今を生きようと決め、生き続けていった。

次回予告

『4-2-27(第301話) 首都、キハダに向かう準備』

 彩人達は黄の国の首都、キハダに向かうため、色々な準備を済ませていく。


今回の登場人物

ア=彩人

ヤ=ヤヤ

異世界版ことわざ(慣用句)

~隣の花は赤いについて~

ヤ「いいなぁ」

ア「ん?ヤヤ、どうしたんだ?」

ヤ「なんだか、何でも出来るアヤトお兄ちゃんが羨ましくて。隣の花は黒いって言うけど本当ヤな~って」

ア「隣の花は黒い?どういうことだ?」

ヤ「羨ましいってことヤよ。確か、黒魔法に適性を持つ人がとても少ないことが語源、だったかな?」

ア「へぇ~(俺、黒魔法に適性があるんだけど、言わないでおくか)」

ヤ「ヤヤも魔法を使いたいな」

ア「使えるようになるさ、きっと」


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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