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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-12(第286話) 夜中の食事

「・・・ふんが?」

 なんか、急に目が覚めたな。確か俺は・・・そうか。宿の一人部屋で寝ていたんだったな。それにしてもいい目覚めだ。眠気もないし、寝起きなのに意識がはっきりとしている。今の俺なら何でも出来る気がする。例えば、寝ているリーフ達を襲う事もな!・・・それは絶対にしないとして、さてどうするか。

「まずは外に出てみるとするか」

 せっかくだし、早朝の街の散歩でもしてみるか。必要な道具を持って、と。

「あ」

 一応書き置きもしておくか。俺が出かけている間にルリ達の誰かが起き、俺の部屋に行ったらもぬけの殻で大パニック、なんて避けたいからな。

「散歩してきます。これでいいか」

 手紙に書いた内容を確認し、ミスのないように注意し、

「さて、ちょっと早いが、外に繰り出すとするか」

 俺は再びワクワクしながら、宿の外に出た。

「失敗した…」

 結果、すぐに後悔した。なにせ、

「まだ日も登ってないじゃないかよ・・・」

 俺はてっきり朝か早朝なのかと思っていたのだが、まだ夜中であった。起きた時、外に出るまで外の様子を確認しなかった俺も阿保だけど。

「でも、それでも活気はあるな」

 俺は、夜中でも必死に作業している人を見て、そう思った。きっと、品を仕入れるために動いているのだろう。日中は商品を売り、夜中に商品を仕入れる。商品の仕入れ先がご近所ならともかく、遠方の地だったら、仕入れるのも大変だろうな。

「ま、とりあえず見てまわるか」

 夜中のはずなのに、周囲の街灯のおかげか、夜道が明るい。そんな夜道の中を俺は歩く。

「やっぱり昼より活気はないけど、結構店はやっているんだな」

 夜中でほとんど人がいないと思ったのだが、そんなことはなかった。確かに夜道を歩く人はかなり少ないが、店内はかなりにぎわっているらしく、多くの人が店内にいる。

「それに、宿の中では匂っていなかったが、一歩外に出てみると、かなり良い匂いが周辺に充満しているな」

 もしかしたら、この街中に匂いが充満しているのかも?それくらい濃く、実に美味しそうな香りであった。まだ起きたばかりでろくに食べられないと思ったのだが、これは強制的に食欲を刺激されているな。夜中に食べると眠れなくなるから出来るだけ抑えておくか。

「それにしても、どういう類の店をやっているんだ?」

 これほどいい匂いが漂っているんだ。きっと飲食関連のお店が多く出ている事だろう。さきほど、夜中に食うと~なんて考えていたが、こう食欲を刺激されると、どうしても食べたくなってしまう。

「俺もどこかの店に入ってみるか」

 せっかく外に出たんだ。何か堪能しておきたいな。そう思い、俺はよさそうな店を探す。店を探していると、屋台の店もあり、今まで訪れたどの国とも違う風景だ。

「よし。ここにするか」

 俺が選んだ店は、とある屋台。この屋台からは美味しい匂いがたちこめ、お腹が空いてしまう。これは食いしん坊でなくても、お腹が自然と減るな。

「すいません。今やっていますか?」

 俺が店の従業員っぽい人に聞く。

「おう。もしかしなくとも、ここで食っていくつもりかい?」

「あ、ああ。何か問題でもあったのか?」

 まさか、事前に店員と話をするのはNG、とか?そんな店が存在するのか?

「いや。むしろ大歓迎だ」

 そう言うと、店員は椅子を指差し、

「そこに座ってくれ。うめぇもんを食わせてやる」

「お、おう」

 こういう雰囲気初めてだから、何だか緊張するな。こういう雰囲気、仕事帰りに飲みに向かうサラリーマンは慣れていそうだな。俺は店員の指示に従い、席に座る。

「じゃ、ここにあるもんが俺の店の自慢の料理だ。後の料理は屋台の壁にかいてあるから、それを見て注文してくれ」

「お、おう。分かった」

 席に座り、目の前を見ると、そこには、様々な食材が、ある液体に浸かっている場面を目撃した。

(なんか、屋台のおでんを見ているみたいだ)

 この液体は、何かの出汁、なのだろうか。それに浸かっている食材達は、様々な種類がある。肉、野菜、・・・。もちろん、肉といっても豚っぽい肉、牛っぽい肉、それと・・・何の肉だろう?よく分からない肉があるな。野菜も、大根っぽい野菜、ニンジンっぽい野菜、後はコンニャクっぽい野菜・・・野菜?コンニャクはそもそも野菜じゃないな。本当に様々だ。

「ん?」

 よく見てると、下の方にも何かあるみたいだな。この出汁、結構透明度が高いから、底まで見えるぞ。えっと・・・底にあったのはなんか、軽く結んであった、昆布?みたいなやつだった。あれで出汁をとっているのだろうか。

「おい。まずは何を食べるんだ?」

「あ」

 さっきからこのおでんモドキに夢中になっていて、何を食べるか考えていなかったか。取り敢えず無難に大根っぽい奴は食べるとしよう。後は…まぁ、ランダムでいいか。

「これと・・・これとこれ、ください」

「はいよ」

 店員が俺の指差してきた食材達をよそい、俺の前に差し出してくれた。ちなみに選んだのは、大根っぽい野菜と、ニンジンっぽい野菜と、コンニャクっぽい何かだ。

(美味そう)

 俺は近くにいる客の真似をし、近くのフォークっぽい木製道具を手に取り、そのまま口に運ぶ。

(うま♪)

 これ、結構出汁の味が効いている気がする。後味もさっぱりで、なんだか柑橘系の果物を彷彿とさせてくれる。野菜も柔らかいものの、野菜本来の食感も程よく残っていて、実に食べ応えがある。ニンジンっぽい野菜は、このほどよく柔らかくなったシャキシャキ感がたまらない。味も出汁の味しかしない、なんてことはなく、野菜本来の味も相まって、味に層ができている気がする。このコンニャクっぽい何かはモチモチしていて弾力がある。

「次は・・・これとこれを頼む」

「はいよ」

 こうして俺は、そのまま食べ続けた。

「ふぅ」

 食べ終えると、俺は席を立ち、今まで食べた分の代金を支払い、店を出る。

「ありがとーございましたー」

 深夜の風が心地よく、今この瞬間も多くの成人男性が忙しなく動いている。その手には大きな荷物を抱えている。今日売る商品が入っているのだろうか。

(見てみたいなぁ)

 だが、どの人も今は商品の搬送中。つまりは仕事をしているのだ。そんなところに訳も分からないボッチが話しかけたら殴りかかってくることだろう。・・・ボッチって、一目で分かるのかな。ボッチの身体的特徴なんてないと思うのだが。て、自分で考えたことに疑問を持ってどうするのやら。

「仕事をしている人もそうだが、酔っぱらいも結構いるな」

 仕事をしている人間も数多くいるが、仕事をせずに夜歩きしている成人も結構いた。男性がほとんどだが、中には酔い潰れていないが今も飲んでいる成人女性もいる。

「お持ちかえ・・・、」

 おっと。つい直感的におもってしまったことを口に出してしまう所だった。口や言葉は災いのもとだからな。下手に言葉にすると近くの警察が俺を逮捕するかも!・・・ところで、この世界にも警察みたいな機関はあるのだろうか。あるとは思うが、警察という名前なのだろうか。今度、調べる気になったら調べよう。

「さて、」

 帰ろうとも思ったが、このまま帰って寝ようにも、食べたばかりで眠れないだろうし。どうするか。・・・。

「そうだ」

 せっかくだ。今日会った子、ヤヤの仕事でも調べておくか。

「それと、」

 もしもの時の用意でもしておくか。あの家だと、必要になるかもしれないしな。俺は夜の街から外に出て、森の中に入る。

「さて、やるか」

 俺は木を何本か切り始め、木材を確保していった。もしもの時のために。


 数時間経過。

「・・・俺、一体何しているの?」

 夜が白み始め、黒が青になり始めていく空にようやく気付いた俺は、今の作業状況にも気付き、独りで愚痴る。何故夜中から土木関連の作業をしているのやら。

「こんなに泥まみれになってまぁ」

 自身の体を見てみると、それはもう汚れまみれ。手に土はもちろんのこと、足にはどこでつけたのか分からない擦り傷が多々あった。心なしか、あの夏に出る忌むべきうるさい虫に刺されたような痒みもある。まるで夏の土木作業を行ったような辛さだ。あ、肝心の高温による辛さを体感していないからまだましか。

「そろそろ宿に戻って休むか」

 もう疲れたし。今なら横になった瞬間、眠れそうな気がする。俺、どうして夜明け前にあんな重労働をしていたのか不思議だが、どうでもいいや。

 俺は宿に戻り、目を瞑ると、

「おっはよー、お兄ちゃん♪」

 うるさい侵入者、ルリが突入してきた。俺、今すごく眠いんだけど。ま、自分のせいなんですけど。

「ああ。それじゃあお休み」

 俺は簡素な挨拶をルリにし、ルリとは反対側に寝返りをうち、寝ようとする。

「もう朝だよ。起きてー♪」

 ルリが俺の体を揺らしてくる。ああ、三半規管が~。

「・・・それで何だ?」

 俺は揺らされながらも口を動かし、ルリが俺の体を出来るだけ動かさないようにする。体を揺らされると眠ることが出来ないんだよな。

「朝になったから、早く朝ごはん食べよ~♪」

「俺、そこまでお腹空いていないから、ルリ達だけで先に食べていいぞ。それじゃあお休み」

 俺、変な時間帯に食ったせいでお腹にまだ食べ物が残っているんだよな。あの美味しいおでんみたいな料理、また食べたいな。今はいらないけど。

「・・・分かった。それじゃあ食べ終わったらまた来るね~♪」

「おう」

 ルリが出ていったことを確認し、俺は安眠につく。


 俺はしばらく寝ていた。寝て、寝て、寝て。それはもう、十年近く寝て、このまま成人し、三十路近くになってしまうのではないか。そして、

「う、アイスの食い過ぎで腹が・・・!」

 て、

「死んでたまるか!!??」

「「「「「「「!!!!!!!???????」」」」」」」

 まったく!なんでまたアイスの食い過ぎで死ななくちゃいけないんだ!て、

「なんだ、夢かよ」

 夢にでるまで俺、あの死亡原因がトラウマなのか?俺自身、アイスは嫌いじゃなかったんだが。そうだ。今度、アイスを作ってみようかな。簡単に作るとなると、まずは液体を凍らせて・・・、

「何が夢なのですか?」

「!!??て、みんなか」

 というか、なんでみんな、俺の部屋に集合しているの?そして、いつの間に俺の部屋に集まっていたの?

「…やっと起きた?」

「美味しい朝ご飯でしたよ」

 と、クリムはお腹を撫でる。どうでもいいけど、女性がお腹を撫でると、妊婦を想像してしまうのは俺だけだろうな。

「アヤトさんは本当に食べなくてよかったのですか?」

「ああ」

 昨日、というか夜明け前に結構食ったからな。その後土木作業をし、青魔法で汚れを落としていたら、食欲より睡眠欲が勝っていたわ。今はちょっとお腹が空いているが、今更お腹空いた、なんて言えないよな。

「それでご主人様、今日は如何なさいますか?」

「う~ん・・・。それなんだけど、午後から俺に付き合ってくれないか?」

「?それはもちろんいいけど、お兄ちゃん、午後から一体何をするの?」

「う~ん・・・、」

 さすがに午前訪問は迷惑かと思い、午後から先日言ったヤヤ達の手伝いでもしようと思っていたのだが、どう説明するか。

 素直に、

“先日、娼館前で会った女性のとこに行くんだ”

 これを言われて疑問に思わない人はいないだろう。それじゃあお前は何故、娼館の前にいたのかと。そう言われたら、俺はバレバレの嘘をつくしかなくなり、イブ達から質問の嵐をくらうことだろう。

 それじゃあ、

“先日お友達になった女の子の家に付いてきてくれ”

 これなら、特に思わないことは・・・ないな。その女の子はどうしてあなたに、先日知り合ったばかりの人に家の場所を教えているの、と。これを聞かれたら、やっぱりバレバレの嘘しかつけず、質問の連打をいただいてしまう事だろう。

 後は・・・特に案が思い浮かばん。こういう時は、変な嘘をつかないで話した方がいいかも。ついて話すと、すぐに俺の嘘がばれるからな。

「実は昨日、知り合った人と会う約束をしたんだ。その人達にお前らを紹介したくてな」

 俺の事の一言で、イブ、クリム、リーフの顔つきが鋭くなる。

「…その人、もしかして、女性?」

 ・・・ねぇ?どうして俺が嘘をつかず、曖昧にしていた部分を明確にしようとするのかね。せっかく俺が嘘をつかずに上手く話せたと思っていたのに!

「あぁ、うん。ちょっと道を教えてもらってな」

 俺は話しながら嘘を言う。こんな嘘、すぐにばれると思うが、この隙に別の言い訳でも考えるとするか。

「…そう」

 あれ?なんか、思っていた反応と違うんだけど?

「ま、午後に会えるらしいので、その人がどんな人なのか楽しみですね」

 クリムはさきほど鋭利な目で俺を見ていたのだが、今では柔らかい表情へと変わっている。

「私達も先日、ある女の子に道を教えてもらったんですよ。偶然ですね」

 なん、だと!?嘘から出た誠ってわけか。俺、嘘の出会いをでっち上げた訳だが、その嘘の出会いを経験しているとは。たまには嘘も役に立つものだ。

「へ、へぇ。それはすごい偶然だな」

 俺はもちろん、この嘘の波に乗らせてもらう。

「うん!実はルリ達もなんだ!だよね、クロミルお姉ちゃん♪」

「はい。この街には親切な方がいて良かったです」

 どうやらリーフ達だけでなく、ルリ達も同じような経験をしている、ということか。ここに来てもボッチの弊害か。みんな、そんなにコミュニケーション能力高いの?どして?

「それじゃあ午前は自由行動で、お昼はこの宿に集合。午後から向かう、ということで」

「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」

 こうして俺達は、午前中を各自の自由行動とし、午後はみんなでヤヤの家に向かうことになった。さて、変な事態にならなければいいけど。

次回予告

『4-2-13(第287話) それぞれの再会』

 夜中に消費した体力を回復させた彩人は午後、みんなを連れて再びヤヤ達の家へと向かう。対面するヤヤ達とイブ達。彩人は初対面だと思っていたのだが、初対面ではなかったらしい。、


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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