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色を司りし者  作者: 彩 豊
第二章 メイズのような意志を持つ商王と三姉妹
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4-2-11(第285話) ゆとりからくる人助け

(しまった)

 俺はさきほどの言葉を口にしてしまったことに後悔した。確かに、さきほどの言葉は本心から出た言葉だ。だが、相手には軽はずみな言葉に聞こえたことだろう。顔も名前も知らない異性からいきなり手伝おうか、とか言われても反応に困るよな。

 第一、ここは娼館の前だから、何を言ってもいやらしい意味に曲解されてしまわないだろうか心配だ。

「あ、ありがとう。言葉だけでも嬉しいわ」

(嘘だな)

 俺は咄嗟に、目の前にいる女性の嘘を見破った。

 何せ、

(どうしてこう、作り笑顔の構造って似るのかね)

 俺が親に向けていた作り笑いの顔と同じだったからである。あの時浮かべた自信の顔と、今この女性が向けている顔が一致しないでほしい。ちなみに、俺はばれないよう、常日頃から笑顔の練習をしていたため、作り笑いの顔を知っているのだ。断じて、俺の笑顔、美しい!なんて考えて鏡の前に立っていたわけではない。

「いや、言葉だけじゃねぇよ」

 俺は柄にもなく、この女性の作り笑いに対し、反抗的に言葉を投げる。

「で、でも・・・、」

「取り敢えず、話だけでも聞かせてくれねぇか?」

 俺はちょっと強引に話をねじ込む。

「・・・分かり、ました。それでは家に案内します」

 そう言い、女性は俺を家へ案内してくれるようだ。

「その代わり、私の家に来ても、何もしないでくださいね?」

「?分かった」

 どういう意図で言ったかは分からんが、女性の言う事に対して了承し、後について行く。

 あれ?よく考えてみたら、俺の行動って、女性をナンパしているようなものじゃね?・・・ま、気にしないでおこう。今回は善意での人助けなわけだし。

 互いに無言のまま歩いていると、

「着きました」

 ここで女性が止まる。どうやらここが女性の家らしい。

(え?)

 家、は確かに家なのだが、ボロイ。それはもう凄くボロイ。雨や風は凌げそうだが、人が住んでいるとは思えない。

「凄いボロイでしょう?こんなところで私を襲ったり犯したりしないでね?もちろん、そんなことをすればお金が発生するヤよ♪」

 と、諦めのような声質で言われた。別に体目的で恩を売ろうなんて考えていなかったのだが。

「さ、入って」

 女性が案内したので、

「失礼します」

 俺も失礼して中に入る。

「あ、おかえり、ヤヤお姉ちゃん!」

「!!??」

「ただいまヤよ、ヨヨ。今日はお客さんを連れてきたヤよ」

「お客さん?」

 ヨヨと言われた少女はこちらを見る。それにしても、まさか子供がいたとは。え?俺と同年代で子供?年齢的に合わない気が・・・?

「初めまして!ヨヨはヨヨっていうの!お兄ちゃんは?」

「そういえば聞いていませんでしたね。お名前を聞いても?」

「あ、ああ。俺はアヤトって言うんだ」

「アヤトお兄ちゃん。ヨヨ、覚えるヨ!」

 ヨヨと言われた少女は元気な子らしい。

「おかえりなさい、ヤヤお姉ちゃん。今日はなんだかやけに・・・!?」

「!?」

 突如奥から現れた少女に、俺はまた驚き、少女も驚く。え?まだいたの?

「あ~。突然なんだけど、今日はお客さん連れてきたんヤよ。ごめんね、ユユ?」

「別にいいよ、ヤヤお姉ちゃん」

 ユユと呼ばれた少女は、

「・・・」

 俺の方を一度向き、頭を軽く下げるとすぐに戻った。ヨヨとは違い、引っ込み思案なのだろうか。

「なんだかごめんなさいね。うちのユユがとんだ失礼をしてしまいました」

「いや、別に気にしていないから大丈夫だ」

 ぶっちゃけ、俺にも似たようなことをした経験があるからな。

 それは・・・そう!小学生の時、先生が俺の家に家庭訪問してきた時だ。確かあの時・・・、

(て、今はそんなことどうでもいいか)

 俺は思考を放棄し、さきほどヤヤと呼ばれた女性の家に入る。

(本当にボロイな)

 生活圏は出来る限り清潔にしているのかもしれないが、それ以外の箇所はほとんど手入れされている様子もない。というか、手入れを少しでもしたら崩れそうな家だな。

「それで、困っていることについて聞いてもいいか?」

 俺は出された座布団?ぽい何かに座ると、ヤヤも同様に座る。

「それより、あなたは何も気にしないの?」

「は?何をだ?」

「今日初めて会った人を家に連れてきた女の人に何も思わないのですか?」

「・・・いや?特に何も?」

「私、娼婦ヤよ?だからあなたを家に連れ込み、高額なサービスを強要させ、金をせびろうとしているのヤよ」

「え?そうなの!?」

 そんな素敵な・・・ゴホン!罠を張ろうとしていたのか。俺、まったく気づかなかったぞ。

「・・・はぁ。なんか、あなたみたいな人を見ていると、色々考えてた私がバカみたいヤ」

 と、ヤヤにため息をつかれてしまった。俺、そんなに能天気?まぁ、確かに人の家にお邪魔する機会なんてなかったので、こんなもんかと馴染んでいたのだが、これがかえって良くなかったのだろうな。今度からは気をつけるとしよう。

「あなた。本当に善意だけで私を助けようと、本気で思っているの?」

「ああ」

 きっかけは単なる気まぐれだがな。ここまで来たのであれば、俺はできるだけこいつの助けになりたいと思う。初対面の人に言われても困るしかないと思うが。実際、俺も困るし。

「でも、あなたみたいな人って色々助かるのヤよ」

「?どういうことだ?」

「変に知っている人より、何にも知らない人の方が変に気を遣わずに話しやすい、というのがあるからヤよ」

「・・・なるほど」

 俺からすれば、その変に知っている人自体いなかったから比較対象が無いんだよな。

「夕飯が出来るまでの短い間だけど、簡単に話すヤよ」

「お、おう」

 俺は目の前の少女、ヤヤの話を聞くことにした。

「まず私達、あ。私とユユ、ヨヨのことよ。ユユとヨヨはさっき見たヤよね?」

「あ、ああ」

 さっき見たあの二人のことか。

「私達は3姉妹なの」

「え?あ、ああ。そうなんだ」

 な、なるほど。俺はてっきり、ヤヤが母親で、その娘がユユとヨヨなのかと思ったが、姉妹だったのか。これで年齢については解決したわ。

「それで、私は仕事をして私を含めた3人を養っているのヤけど・・・、」

 ヤヤは次第に落ち込み始め、

「もう、こんなことしたくないんヤよ。自身の体をそこらの男どもに好きにされて、もう・・・、」

 ヤヤの体が震え始める。俺もそいつらと同じ男だから、今のタイミングで触れたらパニックを起こすのではないかと考え、ここはあえて傍聴に徹し、物理的接触は避ける。

「あなたも嫌やろ?見知らぬ女に体を好き勝手されるの?」

「・・・ひいぃ!!??」

 俺は思わず、体を押さえて悲鳴を上げてしまう。た、確かに恐ろしい!

「でも私は、仕事だと割り切ってやっているんヤよ。本当はやりたいことがあったのに・・・、」

「やりたいこと?」

 俺はヤヤの言うやりたいことが気になり、話の途中にも関わらず聞く。

「・・・みんなの話を、愚痴や不安を取り除いて元気にさせたいの」

「…なるほど」

 俺は仕事の類に詳しくないが、1つ、ある職業を思い浮かべていた。

 それは、心理カウンセラー。

 確か、相談者の悩みを聞いたり、その悩みを解決したりする、もしくはその糸口を提示したりする、だったか。大雑把な上に間違っているかもしれないが、こんな感じだった気がする。

 ヤヤはそういうことがしたかったのか。

「その仕事って確か大変だったと思うぞ?」

 俺がネットで見た知識を少し思い出しながらそう言うと、

「え!?私がやりたい仕事を知っているのですか!?」

 と、さっきまでやや落ち込み気味だったのだが、急に食いついてきた。もしかして、そういう仕事関連の情報とか、一切仕入れていないのか?無理もないか。この世界にネット、という、お手軽に色々調べられるツールなんてないだろうからな。調べればあるかもしれないが。

「ああ。といっても少しだけどな」

 俺もちょっとは調べたんだよな。主に、職に就きたいのではなく、相談したい方面だったわけなのだが。そういえば、俺も早期に心理カウンセラーの人に相談していれば、何かが変わっていたのかね。今更そんなこと考えていても仕方のないことだ。仕方のないことだと思っていても、ついつい考えてしまうんだよな。

「本当ですか!?少しでもいいので、是非教えてくれませんか!?」

 どうやらヤヤは本当に先ほど言っていた仕事をやりたいのか、急にグイグイ来た。もう少しで胸が接触しそうだ。

「まぁ、俺の知っている範囲で良ければ、だが」

 俺がこう言うと、

「あ、ありがとうございます!」

 ヤヤは思いっきり俺に頭を下げてきた。俺は申し訳なく感じ、

「いや、そこまでしなくていいからな?」

 俺はたしなめるように言葉をかける。

「それで、ものは相談ヤのですが・・・、」

 ここでヤヤの話は中断される。

「ヤヤお姉ちゃん。もうそろそろ夕飯の用意ができユよ」

 さきほど奥に引っ込んだ女性、ユユが話に割り込んできたのだ。そういえば、もうそんな時間か。

「ありヤよ、ユユ。今行くヤよ」

 そう言い、ヤヤは立つ。

「それではアヤトさん、私達はこれから夕飯を食べるのですが、一緒に食べますか?」

「いや、今日はもう帰るよ」

 そういえばヤヤの奴、何で俺の名前を知っているんだ?あ、そうか。さっき自分で名乗ったんだっけ。

「そうですか。それは少し残念です」

 と、ヤヤはあからさまに残念がる。そこまで心理カウンセラーみたいな仕事をしたいのか。

「よければ近いうちにまた来ようか?その時に仕事の話でもしようか」

 と、俺は提案する。すると、ヤヤの目の色はメキメキと変わる。

「本当ですか!?」

 またもヤヤは俺に急接近する。俺のパーソナルスペースにズカズカ入って来るよなぁ。

「あ、ああ。その時は俺の大切な・・・、」

 そういえば、ルリやクロミル達のことをなんて表現すればいいのだろうか。義理の家族?旅仲間?親族?・・・旅仲間でいいか。

「大切な?」

「大切な旅仲間を紹介したいが、それでもいいか?」

「はい!もちろんヤよ!」

「そうか」

 これで、またここに来れる理由ができたな。

「じゃあな」

 俺も席を立ち、この家を出る。

「玄関までお送りします」

 俺の後をヤヤは付いてくる。

「あ」

 そういえば、一応家に入れさせてもらったことだし、何かお礼くらいはしておこうかな。

「?どうしましたか?」

「えっと・・・、」

 お土産か。何にするかね。

 ・・・無難にあれにするか。

「これ、今回家に上げてくれたお礼に受け取ってくれ」

 俺はアイテムブレスレットからホットケーキを3枚取り出す。もちろん、皿とフォーク付きである。

「え?何ですか、これ?」

 そういえば、この世界にホットケーキは無かったんだったな。でも、ホットケーキのことを今から説明するのも面倒くさいしなぁ。

「まぁ、美味しい食べ物だ。みんなで食べてくれ」

 面倒くさい説明を省略し、美味しい食べ物、という呼称にした。ま、今はこれでいいか。

「え!?い、いいのですか!?」

 なんか、俺が目を放したら涎を垂れ流しそうな顔をしているな。

「ああ。それじゃあな」

「はい!また近いうちに!」

「ああ」

 俺はヤヤとまた会う約束をし、ヤヤ達の家を出た。

「さて、戻るか」

 かなり暗くなっているみたいだし、もう戻らないとな。


 俺が待ち合わせ場所に向かうと、既にみんながいた。

「あ、お兄ちゃん!」

 ルリが大きな声で言うと、周囲にいたリーフ達が俺のいる方向を向く。もしやと思い、俺は後ろを向く。後ろには誰もいなかったので、俺を見ていたのだろうな。

「ただいま」

 俺は軽く手をあげ、みんなに再開の挨拶をすると、

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「アヤトさん、おかえりなさいです」

「・・・」

 クロミル、モミジは言葉をかけて出迎えてくれた。卵も何か伝えようとしているのか、体を少し動かしている。

「「「おかえり、アヤト」」」

「おう」

 イブ、クリム、リーフも挨拶してくれたので、俺も挨拶を返す。

「それじゃあ早速、宿に入ってゆっくり休むか」

「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」

「・・・」

「卵ちゃんが『はい』だって」

 こうして俺達は黄の国に属する街の一つ、カンゾウの宿で休息した。

 あ、もちろん、俺は独り部屋で過ごしましたよ?過ごさないとその・・・ね?思春期な男の子、思春期過ぎた男性も察して欲しい。


 一方、

「「「いただきます」」」

 ヤヤ、ユユ、ヨヨは夕飯を食べ始めていた。

「美味しいヨね~♪」

 ヨヨは本日の夕飯に笑顔で答える。

「ありがとう、ヨヨ」

 ユユもヨヨの言葉に笑顔で答える。

「あ、そうヤ」

「?どうしたの、ヤヤお姉ちゃん?」

「さっき来た人、覚えている?」

「うん」

「その人がね、美味しい料理をくれたんヤよ」

 そう言い、ヤヤはさきほど彩人からもらった美味しい料理を取り出す。

「これは?」

 ヨヨは、ヤヤが出した料理を指差し、ヤヤにどういうものなのかを聞く。

「美味しい食べ物ヤって。それじゃあまず私が食べるね」

 そう言い、ヤヤは、彩人が持ってきた美味しい料理を食べる。そして、

「!?」

 ヤヤは目を見開く。その様子にユユとヨヨは戸惑う。

「どうなの?」

 ユユがヤヤに聞くと、ヤヤは笑顔で、

「うん!とっても美味しい食べ物ヤよ♪」

 言った。とても楽しそうに。食事という行為を心から楽しんでいるように。その様子を見たユユとヨヨは、ヤヤの後に続いて美味しい料理を食べ始める。

「「お、美味しい!!??」」

 二人は、さきほど見せたヨヨの笑顔より眩しく、煌びやかな笑顔となった。

(良かった)

 ヤヤは、ユユとヨヨの心からの笑顔を見れて、心底安心する。

 こんな貧しい暮らしをさせている二人に申し訳なかったのだが、ヤヤは改めて、この二人の笑顔を守るために働こうと決意を固めた時である。

「あ!そうだ!ヨヨね、今日はいいことしたんだヨ!」

「へぇ。それはすごいヤね。それで、何をしたの?」

「ふっふーん♪それはね、見知らぬ人に店を教えてあげたんだヨ」

「おー。ヨヨ、偉い偉い」

「えへへー♪」

「道案内なら、私もしたよ?」

「え!?ユユお姉ちゃんも!?」

「そうユ。確か武器屋と防具屋、だったと思ユ」

「なるほどね。二人ともいいことして、お姉ちゃんは嬉しいんヤよ。だから、」

 ヤヤは、今しがた食べていたホットケーキを切り、

「はい、ご褒美」

 自身の分の美味しい食べ物を二人の皿に盛る。

「わーい、やったー♪」

 ヨヨは喜んで食べる。

「…いいの?これ、ヤヤお姉ちゃんの分なんじゃ・・・?」

 そんなユユの不安に、ヤヤはユユの頭に手を乗せ、

「いいのよ。私はユユとヨヨ二人の笑顔が見られるのならそれで」

 ヤヤは笑顔でユユに言う。

「・・・ありがとう、ヤヤお姉ちゃん」

「どういたしまして」

 そうして、ユユは美味しい料理を口に運ぶ。運んだ後の顔は、ヤヤにとって、どんなお宝よりも価値のある、プライスレスなものであった。

次回予告

『4-2-12(第286話) 夜中の食事』

 ヤヤに声をかけた彩人はその後、みんなに合流して眠りにつく。その夜中に彩人は目を覚まし、夜中の町を散策し始める。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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